学校事故に対する救急体制の現状に関する研究
向井田 紀子 小林 正子 田中 哲郎 学校保健研究42、2000:105-116
発表者:竹田 幸江(母性看護・助産学教室)
【選定理由】
私が中学生の時、隣クラスの友人が授業中にてんかん発作を起こしたことがあった。授業の担当教師が対応し無事だったのだが、それを聞いてから、「他の先生達も救急時は対応できるのだろうか」という疑問が残っていた。今回、その解答が得られそうな当文献にであったため、選定した。
【先行研究レビュー】
・厚生省人口動態統計では、5〜19歳の死因の第一位は「不慮の事故」であり、全死因に対し3割以上を占める。特に交通事故による死亡者数および負傷者数が多く、溺水も多い。
・国際比較では、5〜14歳の事故による死亡率は先進15カ国中3番目(1995年)に低いものの、死に至らなくても重大な後遺症が残り心身の発達に支障をきたす場合もあることから、子供の生命と成長にとって最大の敵は事故であり、学校保健および小児医療関係者にとって事故への対策を充実させることは重要な課題である。しかしながら、上岡・衛藤によると、1998〜1998年の最近5年間における我が国の小児事故に関する研究は必ずしも多いとは言えない状況にある。また、従来なされてきた学校事故および学校安全の研究は事故の発生状況や要因など一次予防に関わるものがほとんどであり、学校の救急体制の整備に関する研究はほとんど行われていない。
【要約】
〈目的〉
学童期から青年期の子どもが活動時間の大半を過ごす学校現場における救命救急体制の整備が重要であるとの認識から、現在の状況および学校規模別に明らかにすることにより、今後のあり方を検討することを目的とする。
〈対象〉
全国から無作為抽出した国公私立の小学校600校(抽出率2.5%)、中学校300校(2.7%)、高等学校200校(3.6%)、合計1100校(2.7%)の養護教諭。
〈方法〉
・1998年6月に無記名の質問紙郵送調査法で実施。調査用紙は各校の養護教諭宛に送付し回答を求めた。
・質問紙の内容は、(1)地域、(2)校種、(3)規模(児童生徒数、学級数、教員数)、(4)救急車要請時の到着までの時間、(5)養護教諭の総経験年数、(6)養護教諭不在時の救急体制、(7)養護教諭以外の一時救命処置可能者(有無及び人数、必要性及び希望割合)、救命救急マニュアル(有無、種類、内容、保管場所)とし、回答方法は他肢選択あるいは数値記入とした。
・学校事故に対する体制の各々の特徴を考え、小中高の「校種別」、さらに校種と学校規模を組み合わせた「校種別・学校規模別」にも集計を行った。
・集計にはパソコンを用い、校種や学校規模による比較はx二乗検定を用いた。
〈結果〉
・回収率:回答のあった学校は、しょう学校269校(回収率44.8%)、宙学校138校(46.0%)、高等学校73校(36.5%)、小中併置校5校、中高併置校4校の計489校で、全体の回収率は44.5%であった。
1.養護教諭不在時の救急体制:全体の3分の1以上の学校は養護教諭不在の場合の救急体制が明確になっていなかった。
2.養護教諭以外の一次救命処置可能者:
・全体の8割の学校が「いる」と回答し、教職員数で分布をみると、「〜24.9%」が最も多かった(図2)。検定の結果、「いる」との回答は中学校と高校で多く、小学校で少なかった(表3)。
・必要性及び希望する割合では、校内の半数以上が一次救命処置ができるよう望んでいた。しかし、現状の割合は希望の割合を大きく下回り、特に中学校と高等学校で差が大きかった。
3.救命救急マニュアル:
・有する学校は全体の85%で、そのうち内容としては、「処置の流れ図」が最も多かった。検定の結果、「小児の心配蘇生法」は小学校で、「診療科目別休診日」と「内科的救急法」は中学校と高校に多かった。
・保管場所としては、全体的に「保健室」が最も多く、「分かりにくい場所」に保管していると答えた学校が多かった。
4.「校種別・学校規模別」:小学校において、救命救急マニュアルの保管場所の分類で学校規模間の傾向に違いがあった。
【考察】
統計資料からみても、事故に対する認識を深め十分な対策を講じる必要性があるが、本研究の結果からは、事故への認識や救命救急体制がまだ十分でない学校が多いことが示された。
養護教諭不在時の救急体制は、3割強の学校で明確になっておらず、新しい保健的知識や技術を吸収するために養護教諭が外部研修に参加することもままならない状況である。全ての学校において養護教諭不在時の体制を整備する必要性が強く感じられた。養護教諭以外の一次救命救急可能者が「いる」とした学校は8割と多いが、実際できる教師の割合は多いとは言えない。小学校では、学級担任が全ての科目を指導するかたわら、救命処置の必要性を身近に感じ、全校で研修に取り組む学校が比較的多いと思われる。今後、学校間の格差が広がることも考えられるため、全ての学校における救命救急体制を早急に整備する必要性がある。そのためには、全職員の救命救急体制整備に対する共通理解を図り、個々の学校にあった体制作りを進めていくことと、教員養成過程においても心肺蘇生法などの救命救急処置を必修とするなどの取り組みが必要と思われる。
【長所・短所・疑問】
・豊富に表や図が載っており見やすいのだが、スライド発表ではなく紙面発表なので、もっと要点を絞って載せてもいいのでは(例えば表1は省いても良いと思う)?
・カイ二乗検定でしか検定を行っていない。
・表3・4で、構成割合は計算できなかったものを除くとあるが、どう言う意味だろう?
・救急車到着時間と地域との比較はしないのか(救命度なども含めて)?
・よく考察してある。
【学校保健への寄与】
私が前々から疑問に思っていた、養護教諭以外の一次救命救急可能者の存在について、本研究は明確な回答が得られていると思う。しかし、否定的な結果であり、著者の言うように、全教師の救急時技能研修受講は必須であろう。また、心肺蘇生は決して難しいものではなく、小学校3年生以上であれば1〜2時間の指導で修得可能であるとのことだが、子どもの発達上、どうしても注意力が低かったり、判断力にかける。その場合、頼りはやはり、学校内の身近な大人である教師だ。子供達に教育を行う立場であると言うだけでなく、社会人としての常識としても、技術を身に付けるべきだろう。救命救急処置の研修で認定証を発行し、少なくとも3年毎に更新するなどの新しい取り決めが必要かも知れない。そして、事故に対して的確に対応すること自体が、それを見ている子供達への教育に繋がることも考え、養護教諭を中心に、真剣に取り組むべきだと感じた。