知的障害児童・生徒の発育に関する検討

石井好二郎

学校保健研究 Jpn J School Health 42:2000;304-311


発表者:瀧澤透(臨床心理学教室)
発表日:平成13年7月12日

選定理由

 知的障害者に関わっていた経験が少しあるが、利用者の健康管理は援助の中心の一つであった。

 わけても肥満については体を動かす機会に乏しいだけに注意が払われていた。学校保健学的にどのような

 研究がなされているか知りたく本論文を選定した。尚、障害の呼称は原文のままとする。

先行研究レヴュー :

 1、研究史としては1926、本多、今井〔国民衛生3〕があるようだが未見。1956年に小林提樹は第53回日本精神神経学会において1000名の精神薄弱者の身体を計測し健常者と比べている。〔精神神経誌58(3)〕。また、1964年に江草らは勤務する施設の精神薄弱児126名の身体を11年間追跡測定し、普通時と比較をしている。〔小児の精神と神経3(4)〕。それによると、身長/体重とも精薄児は普通児に劣り、成長のピークも1〜4年送れているとしている。

 

2、1970年末から富山大の横山が精神発達遅滞児の肥満について横断、縦断研究をし、また体脂肪などについての考察をしている。

その成果は『精神遅滞児の身体発育』(風間書房1996)に結実をしている。

 

3、本学においては教育学部の財部が1986年に126名(男87女37)の精神遅滞児(者)の食習慣と肥満について研究をしており 

肥満は20.1%、肥満傾向は19.4%、男<女としている。

また、富永は『精神遅滞児の身体発育及び肥満に関する一考察』(平成8年)という修士論文を提出している。

 

要約:

 T、はじめに(目的)

    知的障害(MR)者は肥満の弊害を理解しにくく、また、小児期の肥満は健常児に比べ高い。

    研究の目的は、最近のMR児の体格を明らかにし、BMI(body mass index―体重÷身長(m)―)に基づき小児肥満を判定し、最後に肥満予防指導に適した時期について検討をする。

 

U、対象と方法

    養護学校、特殊学級、高等部に通学する小T〜高3のMR児童、生徒2229名(男子1405名女子

    824名)、コントロール群として大阪と広島の小T〜高3の健常児、生徒1803名(男子842名女子

    961名)。MR児は平成8年度春季、健常児は平成9年春季の健康診断の測定結果を用いた。

     BMIによる肥満の判定基準は旧基準BMI≧26.4と新基準BMI≧25の両者を用いて高3生

    を比較した。2群間の検定はF検定で有意水準は5%とした

 

V、結果

    1、身長、体重、BMIの両群(MR児群、コントロール群)比較

      男子―身長  各学年MR児が有意に低い。

         体重  小1〜小3、中2〜高1はMR児が有意に低い

         BMI  高3のMR児が有意に高い 

      女子―身長  各学年MR児が有意に低い。

         体重  小1〜中1はMR児が有意に低い

         BMI  中3〜高3のMR児が有意に高い 

 

   2、MR児群の各学年毎のBMIのヒストグラム

      ・学年が進むにつれて分布が広がる。MR児の体格は著しい個人差有り。男子は低学年から既に肥満や発育不全がみられる。

      ・高3生のBMIによる肥満測定

         男子―旧 13.8%(31名/224名) 新 20.1%(45名/224名)

         女子―旧 18.2%(25名/137名) 新 26.3%(36名/137名)

 

W、考察

   ・先行研究と同様の結果が得られた。男女ともMR児は健常児と身長は有意に低いにも関わらす体重

    は同程度の集団であることを示した。男女とも早期に食習慣、生活習慣、運動習慣の教育が

    必要で、加えて女子は二次性徴に肥満予防対策を嵩じることが重要である。

   ・BMI値による肥満。施設入所者(18歳〜)では旧基準で男12.1% 女27.4%が肥満と判断されている データがある。女子は加齢と共に肥満が増えると考えられる。

   ・MR児の障害(中枢性、内分泌性、遺伝性)や薬の副作用による肥満も考えられるが、やはり

    食習慣、生活習慣、行動量の影響が大。

   ・施設入所のMR児の死因は1位心疾患、2位癌。ダウン症は40%が先天性心疾患があり また肥満に成りやすい 。

 

X、結語

    MR児は健常児とくらべて身長は低いが体重は変わらない学年がある。また、BMIは旧基準で 

    男13.8%、女18.2%、新基準で男20.1%、女26.3%であった。以上よりMR児の肥満予防指導は

    早期から食習慣と生活習慣、運動習慣を教育し 女子は二次性徴期に肥満対策が必要である。

 

 

長所:小1〜高3 2229名のMR児の身体発育についての報告は近年のMR者のデータを示しており価値が

   ある。また、BMIも新基準を用いている。

 

短所:MR児はダウン症、自閉症、てんかんなどで身体発達が大いに異なる。また、小1〜高3を等しく B

   MI≧25(26.4)で肥満を考察したのも疑問である。そして、なぜBMIの健常児高3生の数値を

   併記しないのか。保健学的観点は肥満から生じる肝機能、糖尿病、高脂血症などの疾患の状況や生活

   習慣病の予防についての言及が欲しくなる. 本論文の肥満予防教育の議論は稚拙である。

 

学校保健学への寄与:学校保健学が養護学校に通学する障害児の健康に関して、今後も積極的に研究をしていかなければならないが 本研究は数少ない障害児保健の論文である。

 

私見:本研究は心理学、福祉学、教育学のMR研究者や福祉施設職員/教育現場の従事者、そして障害児の

   母親達に 有益で貴重な情報を提供している。