中学生における対人的な攻撃行動パターンに関する研究

−性差と小学校高学年時の遊び方との関連−

朝倉 隆司

学校保健研究 Jpn J School Health 42;2000123-141


発表者:長谷川 珠代

1,選定理由
ここ数年青少年の犯罪が、若年化かつ凶悪化していることが社会的な問題となって連日のようにマスメデ イアを騒がせており、「学級崩壊」や「いじめ」といった言葉が学校という小さな社会の中でもほぼ当たり前のように聞かれるようになった。実際に中・高校生と接していると、彼らの乱暴な言葉遣いや攻撃的な態度に驚くことがある。昔から確かに「いじめ」と言われる現象はあり、全く新しいこととは言えないが、いつ頃からか、それが悪質なものになってしまっていると思う。
このように日頃から興味があり疑問に思っていることを解決できる糸口になれば・・・とこの文献を選定した。

2,先行レビュー
1)「いじめる」1;(弱い者を)わざと苦しめ困らせる

「からかう」1;たわむれる、なぶってもてあそぶ 2;押したり返したりして争う

「なぶる」 1;もてあそんで困らせる、いじめひやかす、ばかにする
(広辞林 三省堂より)

2)いじめエピソードのうち85%で子ども達は様々ないじめに関わる役割を取っていた。すなわちエピソードの32%で積極的にいじめに参加する者、すなわち加害者の役割が認められ、52%には共同でいじめる者(加担者)の役割が認められた。
(1998:Atlas, R.S., and Pepler 他)
3)いじめの集団構造を被害者(12.0%)と被害・加害者(13.7%)、加害者(19.3%)、観衆(10.8%)、傍観者(38.8%)の順に内側から外側に向かう4層構造として描き、仲裁者は1番外の傍観者と同じ層に位置付けている。
1994:森田洋司, 清水賢二ら)

3,要約
<目的>
典型的な役割行動といじめやからかいの場面を設定し、それらへの反応から各役割に潜在している行動パターンを探索的に明らかにする。また、得られた行動パターンをもとに性差を検討する。さらに小学校高学年時の友達との遊び体験と役割行動における回の行動類型との関連を検討する。

<対象>
協力の得られた都内の公立中学校4校の第1学年から第3学年までの生徒1371人

<方法>
自己式質問票を用い、授業中に回答を得た(有効回答率99.6%)。

質問紙は、生徒の行動を4つの役割行動(_加害者行動_加担者行動_傍観者行動_注意・仲裁者行動)に分け、それぞれの役割で5つの状況設定をした。状況設定は大きく個人場面と数人の集団場面に分け、さらに個人では言語的・物的・身体的の3場面、集団では言語的と社会関係を通して行なう関係性攻撃行動または身体的の2場面を設定している。これらの項目に対し「ある」から「全くない」までの4選択肢を設けている。
また、遊びについては6つの遊びの場面を設定し、「あった」「少しあった」「あまりなかった」「なかった」の4選択とした。
分析方法はそれぞれの役割行動における潜在的な行動パターンを探索するために、クラスター分析を用いて回答パターンが類似する者をまとめる方略をとった。さらに得られたクラスター構造が存在する可能性がより高いことを示すためにCross Validationの検討も行ない、各クラスター分析で類型化された群が独立であることの確認も行なった。
また、統計的な検定としてカイ二乗検定およびMann-Whitney UtestあるいはKruskal-Wallist test を用いている。なお、統計的な分析にはWindows版統計パッケージSAS 6.12を用いている。

<結果>
1)対象者
学年別の男女の偏りをカイ二乗検定で検討した結果、有為差は認められなかった。

2)類型別にみたいじめやからかい行動の出現割合
「加害者行動」「加担者行動」「傍観者行動」では「ある」と肯定している割合が、「個人的な言語による攻撃的行動」→「集団的な関係性攻撃の場面」→「集団的な言語的からかいによる攻撃行動場面」→「個人による所有物への侵害」→「身体的な攻撃行動場面」の順に割合が減少していた。つまり示した順番に対人的な攻撃行動は現れにくくなり、周囲でその行為を傍観する生徒も減少していることが分かった。
「注意・仲裁者行動」では攻撃が個人的状況で行なわれている場合と比べ、集団でいじめやからかいが起きている状況では注意・仲裁者行動の出現割合は若干低かった。

3)クラスター分析によるいじめやからかいに関連した役割行動のパターン化と特徴づけ
1)加害者行動における行動パターン
1;加害傾向タイプ 2;個人的加害傾向タイプ 3;間接手段による加害傾向タイプ 4;非加害者タイプ の4つのクラスターが見い出された。

2)加担者行動における行動パターン
1;加担行動傾向タイプ 2;間接的攻撃への加担傾向タイプ 3;個人的からかいへの加担傾向タイプ 4;非加担者タイプ の4つのクラスターが見い出された。

3)傍観者行動における行動パターン
同じく4つのクラスターが見い出されたが、加害者行動や加担者行動とはやや異なっており、
1;傍観者タイプ 2;傍観傾向タイプ 3;間接的攻撃の傍観タイプ 4;非傍観者傾向タイプである。

4)注意・仲裁者行動における行動パターン
この行動類型においても4つのクラスターが見い出されたが、他の3つと異なり全体的に肯定の程度が強いパターンから全体的に否定の程度が強いパターンへと4段階に分かれていた。つまり
1;注意・仲裁者傾向タイプ 2;からかい場面注意・仲裁傾向タイプ3;注意・仲裁傾向弱いタイプ 4;非注意・仲裁者タイプ の4つである。

5)いじめやからかいの役割行動類型にみられた性差
カイ二乗検定により、加害者行動・加担者行動・傍観者行動では0.1%の有意水準で性差が認められ、性別によりいじめやからかいへの関わり方が異なっていた。注意・仲裁者において有意差は認められなかった。またいずれの行動類型においても間接的な関わり場面において女子の方が高い割合を示した。

6)いじめやからかいの役割行動類型の相互関連
男女とも加害者行動と加担者行動、傍観者行動の間で相互に強い関連性が認められ、役割構造の多重性が示唆された(P<0.001、関連性係数0.4〜0.7)。

7)いじめやからかいに関する行動類型と小学校高学年の遊び体験の関連
1,男子の場合
どの行動類型においても、その行動類型を取りにくい「非○○者タイプ」はポジテイブな遊びを体験することが少なく、また仲間からの裏切りといったネガテイブな体験も少ない。反対にその行動類型を積極的に取るとされるタイプは、両方の遊びの体験をより高率に経験していた。

2,女子の場合
遊びとの関連は乏しかった。しかし男子と異なり「一人で遊ぶこと」との関連がみられた。

<考察>
1)「いじめ」を定義すること自体が難しく、特に日本では「いじめ」が単に強い者が弱い者に対して行なうのではなく、集団の均一性からはずれた者に対して行なわれる傾向がある。

2)いじめやからかいの行動パターンでは、それぞれ今回の分析によりクラスター構造を見い出すことができた。攻撃的な行動が状況や手段で異なるのは中学生の時期における言語の発達に伴って身体的攻撃から言語や間接的な攻撃が主流となることが関連していると考えられる。そして言語や社会関係による間接的な攻撃であれば、自分を危険にさらさずに目的を達せるというRISK/BENEFITの関係を考慮する心理が、攻撃行動の場面や手段選択に影響していると考えられる。

3)学校社会の構造は、いじめやからかいといった対人的な攻撃行動やそれを容認する雰囲気が中学生の時期に広範囲で認められ、生徒はいじめやからかいを促進する役割を多重に担っていると推察された。また一方で抑制的に働く力が弱いことがそれを持続させているのではないかと推察できる。このことを理解して学校と社会の環境を変えるような対策を立てる必要がある。仲裁者的な役割を担ったことのある生徒を勇気づけ、集団場面や身体的攻撃場面でも発言できるようエンパワーメントすることが、問題解決の取っ掛かりになると考えられる。

4)性差については、男子生徒の方が攻撃的な行動をとりやすいことが示唆された。また、女子は間接的手段の場面全体で男子よりも高い割合であり、言語や仲間外れなど関係性攻撃行動という間接的ないじめが女子に多く認められた。この結果は女子の言語発達が早く間接的攻撃が多いことや、社会関係を重視しているため、社会的関係性を通して攻撃的行動を取るという先行研究と一致していた。

5)小学校高学年時の遊びの体験の意味として、遊びには(1)楽しみながら将来の生活に必要なスキルを学んでいくというromantic view と(2)いじめや破壊的な行動を醸成しているかもしれないというproblematic view 見方がある。今回の結果からは、遊び経験がそのまま注意・仲裁者役割を取ることを助長するだけではなく、加害者役割も助長する事が示唆された。友達の裏切りのような遊びを通して生じた対人関係のコンフリクトをどのように解消しているかを明らかにすることが、遊び体験が子供の行動に及ぼす多義的な影響を理解する上で重要となる。また、それぞれの遊び体験の受け止め方が重要であり、子ども同士の間でのいざこざの処理法、その時の自分の感情調整法などについて、何を遊びから体験的に学ぶかが重要である。

4,長所・短所
1)いじめの社会問題化によるマスメデイアの影響を考慮している。
2)いじめの共通認識がされにくい点を考慮し、いじめやからかいの場面設定で行なわれている。
3)行動類型のうち「被害者」役割を除く必要があったのか?「加害者」と「被害者」等役割は固定したものではないと推察していたのであれば、ある場面では「加害者」である生徒も他の場面では「被害者」であることも十分考えられる。そのような事例を見のがしてしまう等の恐れがありると考える。
4)遊びとの関連を見る際、子どもの情緒に影響を与える遊びは小学校高学年時よりむしろ幼児期なのでは?対象が中学生であったのでその時期設定も妥当であったかも知れないが、敢えて遊びとの関連を見るのであれば親への調査を行なうとより面白いと思った。
5)遊びの場面での裏切られ体験は、その程度や頻度も影響が大きいと考える。その影響も考慮するべきではないか?
6)遊びの6つの項目は多少古臭い気がするが・・・。今の子どもの一般的な遊びに基づいた者ものだったのか?

5,所感
『いじめ』は社会的悪と認識されているので、どれだけ実態を正確につかんでその減少へと導くべく研究が進めていけるのか、まだまだ初期段階であるといえる。しかし今回のように対象者の心理面や社会現象を考慮し、慎重に調査を進めていくことでその実態へと近付けるのではないかと思った。単にいじめがあるだけではなく、そのことから自殺などの悲しい結末を迎えてしまう事もあるというのも現実である。いじめは被害者だけが苦しむのではなく、加害者となった人も辛い思いをしていると思うし、今の社会では気付かないうちに加害者や加担者になっていることもある。これは学校社会だけで起こったものではなく、一般社会からの影響は大きいと考える。私達社会人が子供達の手本になることは今後も変わらない。自分の事ばかり考える世の中ではなく、人をもっと思いやって生きていける世の中にして行かなくてはいけないと強く感じた。