The Extent of Drug Therapy for
Attention Deficit-Hyperactivity Disorder Among Children in Public Schools
Gretchen B. LeFever, PhD, Keila V. Dawson, MEd, and
Ardythe L. Morrow, PhD
American Journal of Public Health. 1999 ;89:1359-1364
発表者:藤原 仁(小児保健学教室)
発表日:2000.6.1(木)
【選定理由】
数年前、注意欠陥多動障害(ADHD)に関するテレビ番組を見たということがある。アメリカの学校での話であったが、ADHDの少年も他の学生と共に授業を受けていた。この時、日本でこの少年は普通学級に受け入れてもらえないのではないかと感じた。そこで、障害児の受け入れでは日本より進んでいるアメリカでは、どのような研究がなされているか興味を持った。この研究では、ADHDの治療薬を受け取っている学生の割合を、性別、人種別などで調査してある。この研究自体はアメリカのある地域の調査でもあるし、学校保健と直接結びつくものではないかもしれない。しかし、日本でもADHDと診断される学生が増加していくかもしれないし、ADHDの子供だけでなく他の障害をもつ子供が普通学級に受け入れられるための基礎研究として、こういった研究が日本でも今後必要になってくるのではないかと思い、選定した。
【先行研究】
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ADHDと診断されたり治療をうけた子供の割合の全国的な研究はないが、いろいろな研究により、ADHD
の推定罹患率はl%〜26%と推定されている。推定罹患率は、最も慎重な見積りでは1%〜5%で、最も高い見積りでは16%〜26%である。
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専門家の意見では、アメリカの罹患率は3%〜5%で、3%以下の学童期の子供が薬物療法を受けている。
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罹患率は、少年が少女の2倍である。
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ボルチモア学区データとメリーランド医療扶助規定データに関係する一連の研究では、学童期のメチルフェニデートの使用が1971年と80年代半ばの間は4年ごとに2倍になり1990から1995まで2倍以上になっている。
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Saferらは、1995のアメリカの学童のADHD罹患率は5%以下にとどまると報告した。
【要約】
【目的】
南東バージニアでのADHD治療薬の使用状況をみる。
【対象と方法】
バージニアの二つの市の公立小学校に通う2〜5年生
A市5767人
B市23967人
学区のデータより学生の個々の学生の識別番号、人種、性別、学年、特別な教育状態、生年月日の情報を得て、看護婦の投薬記録から投薬情報を得た。また国勢調査から、中間世帯収入や単親世帯の比率、および公的扶助の受け取り、少なくとも8年間の教育、最低12年間の教育、軍隊経歴(男性のみ)の特徴を持つおとなの比率の情報を得た。
B市のみ軍人家庭の情報を得た。
これらの情報からχ2分析、回帰分析を行い、オッズ比を求めた。
【結果】
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各市は、大きさ、人種の構成、中間世帯収入、および貧困者の割合において異なっている。
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ADHDのため学校で治療薬を受け取る子供の90%は、メチルフェニデートを与えられ、5%は他の薬と併用、10%は別のADHD治療薬を処方されていた。
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ADHD治療薬を受け取る学生の割合は、学年によって増大した。2年から5年の増加は、都市Aで7%から9%、都市Bで7%から10%となった。
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学校でADHD治療薬を受け取る2年から5年までの学生全体の割合は、都市Aで8%および都市Bで10%であった。割合は人種と性別について2市がほぼ同じで、17%の白人少年、9%の黒人少年、7%の白人少女、および3%の黒人少女であった。
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都市Bでは、子供の32%は軍人世帯からであり、軍人の子供は、民間人の子供より、ADHD投薬が有意に高かった(10%vs
9%、P<0.02)。
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ADHD治療薬使用は、都市A(p=0.001)と都市B(P<0.001)の学年分類で有意に変わった。(χ2分析)。
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都市Aでは、12/295人 (3.7%)の年齢より低い学年の学生がADHD治療薬を使い、29/234人
(12.4%)の年齢より高い学年の学生がADHD治療薬を使った。都市Bでは、これとは逆に483/770人
(62.7%)の年齢より低い学年の学生がADHD治療薬を使い、89/878人 (10.1%)の年齢より高い学年の学生がADHD治療薬を使った。
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性別と人種は、両方の都市で同様に治療薬使用と関連があった。少年は少女の約3倍で、白人学生は、黒人学生の約2倍であった。
【考察】
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追跡研究では、発達的に適切である不注意、衝動、多動、学校の準備方針、学力が進んだ学生や早熟な才能を向上させる薬物療法について専門家が正しい認識ができるようにする必要がある。
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今後のADHDの薬物療法の研究は、フルオキセチン塩酸(プロザック)および他のセロトニン阻害剤(すなわち抗鬱病剤)など他の薬物が考慮されるべきである。
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これからの研究は、長期のADHD薬物療法での社会的、心理学的、生物学結果を明確にすることや、多様なADHD治療の普及を決定すること、および非薬理学的処置と興奮剤療法の適切な使用を確実にする教育プログラムの計画と実行のために枠組みを提供することが必要となる。
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【私見】
(長所)
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一方を対照として比較することで調査結果の信頼性がある。
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この地域のADHDの現状の把握のよい指標になると思われる
(短所)
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分析結果への考察がほとんどない。
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ADHDの診断基準ははまだ医師によって違うと思われるが、それについてこの研究では言及されていない。
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1地域の調査であるので、この結果を他の地域に当てはめることは難しい。
(学校保健に対する寄与)
・ADHDの罹患率は人種や環境により違うと考えられるので、この研究をそのまま日本の学校保健に持ち込むことは出来ないと思われるが、今後行動障害をもつ学童は日本でも増加していくと思われるので、その現状の把握のための研究としてはよい指標になると思われる。
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