〈 先行研究レビュー 〉
[Fingerhut L.A.,Warner M.,1997]
1995年の殺人、傷害致死、傷害について
・15-19歳の殺人率は、10-14歳の9倍の率である。
・15-24歳の殺人死亡率は、10万人あたり20人。
・殺人は若いアフリカ系アメリカ人の死因の首位を示す。
・小火器による傷害が傷害致死の37%と、若者の全死因の第2位であった。
・胎児傷害は15-19歳における傷害致死の27%を占める。殺人の第2位。
・小火器に関連した傷害については10万人あたり27人であった。
[US Dept. of Justice,1997]
The National Crime Victimization Study(全国犯罪犠牲者に関する研究)
・ティーンエージャーは深刻な暴力犯罪の犠牲として上位にある。例えば、12-24歳のティーンエージャーは、人口の22%でしかないが、殺人犠牲者の35%、またレイプや性的暴行、強盗、加重暴行、殺人を含む深刻な暴力犯罪犠牲者の49%を占める。
・レイプ・性的暴行犠牲者の半数以上(52%)が25歳以下の若い女性である。
・1992年から1994年の加重暴行率は、12-21歳のティーンエージャーの1,000人に26人。
[Kann L.,Warner C.W.,Harris W.A.,et al.,1995]
Youth Risk Behavior Survey(YRBS)(若者のリスク行動調査)
・全国で5人に1人の生徒(20%)が調査前30日の間に銃やナイフなどの凶器を所持したことがあるとし、8%近くの生徒が銃を所持したことがあるとしている。これは調査前30日間に、100人の生徒に81.3回の銃所持が発生しているという見積もりになる。生徒の8%が学校内で凶器による脅迫や傷害を受けていた。
・調査前12ヵ月の間には、全国の生徒のおよそ39%がけんかをしたことがあり、4%がけんかによる傷害を被ったとされている。全体で、調査前30日間のけんか事件発生率は100人の生徒につき128回となる。また、生徒の16%が調査前12ヵ月の間に学校内でけんかをしたことがあった。
・調査前30日間に、全国の生徒のおよそ5%が危険を感じて1日中学校に行き損なったことがあるとしている。
・暴力の絡まない犯罪に関して、全国の生徒の3分の1が学校内で個人の物を盗まれたり、故意に破損されたことがあるとした。
[US Dept. of Health and Human Services,1991][Lowry R.,Sleet D.,Duncan C.,Powell K.,Kolbe L.,1995]
・2000年までの全国健康目標は、殺人率と人間関係内暴力が招く傷害、けんか、思春期にある若者の凶器持ち歩きを減少させ、”暴力防止教育と、学校や地域における介入計画の強化 ”を行うことである。
[National Education Goals Panel,1995]
・2000年までに、合衆国の各校に対して、薬物、暴力、未認可の小火器の存在をなくし、学問の助けとなるような統制された環境を提供できるよう要求している。
[US House of Representatives,1994]
・校内暴力に焦点を当てて拡張するよう、the Drug Free School and Community Act(薬物のない学校と地域への活動)が改正された。
[National School Board Association,1993]
全国学校連盟会議によって実施された、全国学区調査
・回答した学区の35%が、過去5年間で生徒間の暴力が著明に増加しているとし、49%が多少増加しているとした。
[Ross J.G.,Einhaus E.K.,Hohenemser L.K.,Kann L.,Gold R.S.,1995]
CDCのSchool Health Policies and Programs Study(SHPPS)(学校保健方針とプログラムに関する研究)
・全国の学区の87%が、けんかに関して記した方針を持ち、80%が凶器保持に関する方針を持つ。
[Price J.H.,Everett S.A.,1997]
暴力防止における学校保健教育の役割について述べた。
・全国的の中等学校長の1/3以上が暴力防止プログラムを実施していると述べた。
〈 要約 〉
目的:フロリダの67公立学区における暴力防止、コントロールの方針と教育プログラム特性の評価
方法:対象者:フロリダ67全公立学区のキーインフォーマント(各区に1人、計67人)
各学区事務所の職員に、暴力防止活動でどのような責務を負っているかを尋ね、また、警察署長と接触した。また、人物を特定するための氏名、住所と電話番号をデータベースに入れた。それらの情報から暴力防止とコントロールにもっとも見識のある人物を特定してキーインフォーマントとした。
手段:the Florida School Violence Policies and Programs Questionnaire(FSVPPQ)
CDCのSchool Health Policies and Programs Study(SHPPS)をもとに発展させたもの。項目は、喫煙、アルコールと薬物使用、一般的な暴力の文献など、関連する学校方針研究に関する文献に基づいて選択した。一定の書式とデザイン特性によって生じる各項目の説明不足と、予期される回答の変則性を補うため、オプション回答項目が作成された。最終的には、35項目の質問で、8頁の小冊子形式で構成された。
手続き:1996年春、キーインフォーマントに質問紙パッケージを郵送。使用説明書をつけ、対象者が直接 質問紙に記入した。3週間後に返答のない場合には、remind letterを送った。
結果:回答率:67学区中55学区が完全回答を返し、回答率は82%。
回答者:警察署長ランク、区の行政官や長官、教育専門家、学校長、”Safe & Drug Free Schools(安全で薬物のない学校を)”のコーディネーターなどの職員が含まれていた。参加した学区は、公立学区の全生徒員の96%を包含する西、北、中央、南フロリダを地理的に均等に区分されていた。
質問紙は、生徒数が最も多いとされる25学区全てから回収された。それらのうち9区(16%)の回答者が、その区を都市区とし、6区(29%)が都市近郊区、30区(55%)が田舎であるとした。
方針のコーディネートについて
・生徒による暴力が過去5年間に変化したかという質問への回答:62%がわずかに増加、18%が実質的に増加、7%が減少あるいは維持。
・暴力に対する方針:方針の存在は31%。
・方針へ向けての助言協議会:28%(n=53)に存在。暴力防止助言協議会を持つ学区と暴力防止教育の方針を持つ学区との間には、統計的に有意な関連が見られた[ x2(df),4=20.928,P=.0003 ]。協議会のメンバーは、教師(100%)、親(94.1%)、行政官(94.1%)、法律執行官(76.0%)、ビジネス共同体のメンバー(76.5%)、カウンセラー(70.6%)、生徒(64.7%)、児童裁判所判事(58.8%)、公衆衛生官(58.8%)、地域共同体の代表者(52.9%)、学校評議会のメンバー(47.1%)、教会その他の宗教組識(41.2%)、医療ケア共同体のメンバー(35.3%)、スクールナース(養護教諭に相当)(35.3%)と給食スタッフ(5.9%)。その他、4/3以上(78.1%、n=43)の区が他の保健組識や部局とともに、暴力防止計画を調整している。
・暴力防止教育の管理・調整者:ほとんど半数(49.1%)の区に、区レベルでの暴力防止教育の管理・調整員がいるが、暴力防止の専門家を雇っていたのは、たった20%の区でしかない。暴力防止管理者やコーディネーターがいる区では、これら人員の96.2%が、健康教育(46.2%)、学校保健サービス(38.5%)、体育や社会的・心理的サービス(26.9%)やドライバー教育(11.5%)などの調整といった他の責務も負っていた。
暴力防止教育のカリキュラムについて
・州全体で10.9%の区が暴力防止教育を要求し、65.5%(n=51)が勧奨している。
・暴力防止教育の独立:小学校レベルで2学区、中学校レベルで1学区、高等学校レベルで1学区が暴力防止教育を1つの独立した教科として提供されるべきとした。
・教授方法:最もよくある教授方法として、学校のカリキュラムの一部としての授業の中に含まれていた。(表1)
・文章化された暴力防止教育カリキュラム:30%の学区が、暴力防止教育に対して記述されたカリキュラム、ガイドライン、枠組みを持っていると報告。これらの区では、小学校レベルで81.3%、中学校レベルで73.3%、高等学校レベルでは53.3%が一定の様式での記述されたガイダンス(手引書)を持っていた。そのほとんどが、手段(100%)、習得活動(92.9%)、目標、目的あるいは結論(85.7%)、主題の内容(85.7%)、授業計画(78.6%)、その領域や順序を示した図(57.1%)、生徒アセスメント案(50.0%)とカリキュラム評価案(35.7%)から構成された。記述されたガイダンスのある各区の36%にモニター校が存在した。
現職教育について
・現職教育の提供:過去2年間に、フロリダ学区の91%が、教員への暴力防止教育現職教育を提供した。半数以上(58.2%)の区が、けんかや凶器所持に関する現職教育を提供していた。
・現職教育の内容:最もよくあるトピックとしては、conflict resolution(葛藤の解決)(95.9%)、仲裁の技能(65.3%)、妊娠・子育てに関する技能(61.2%)、ストレスマネージメント(61.2%)、怒りのマネージメント(59.2%)など。 (表2)
環境的擁護戦略について
・保安基準について: 80%の区が、特定の保安基準を実行している。例えば、65.5%の区が、closed campusを強制し、54.5%が校庭にフェンスを張り巡らし、52.7%がかばん、机、ロッカーのチェックを行い、41.8%が生徒にギャングカラーを身につけることを禁じ、およそ1/3(32.7%)が警備員を雇っている。(表5)暴力の防止と減少のためにフロリダ学区が使用している基準としては、捜索や逮捕活動(70.9%)、薬物捜索犬の起用(63.6%)、衣服の規制(52.7%)、多文化的感覚を養うトレーニング(50.9%)、教室に電話を設置する(30.9%)、生徒写真による身元確認システムの作動(21.8%)などがある。(表6)
考察:
・制約:@SHPPSと比較するには、粗の比較の方法しか取れなかった。Aサンプルには公立学区しか含まれておらず、一般化するには制約がある。Bキーインフォーマントを選んで接触するための手続きは、必ずしも最も見識のある者を被調査者にできたと保証するものではない。学校管理者は、暴力行為や暴力関連行為を報告したがらないかもしれない。Cメディアが、社会に望ましいような回答にする刺激となっていたかもしれない。
・生徒間暴力の増加傾向は、全国の若者間暴力傾向の研究と矛盾していない。更に、NSBAが実施した全国学区調査と矛盾していない。
・統計上有意ではなかったが、ある全国学校区の調査データと比較して、フロリダの学区の多くがけんかや凶器所持への方針を報告している。
・ほとんどの区(91%)で、暴力防止教育に関連した現職教育を提供していることを示している。しかし、1/3以下の区しか、暴力防止教育に関わる記述された方針を持っていなかった。暴力防止教育は、2/3近くの区で推薦されているが、実際に暴力防止教育の実施を命じているのは10%であった。ほとんどの区では、暴力防止教育を学校のカリキュラムの中で提供するよう命じられている。約3分の1の区では、暴力防止教育に対する記述されたカリキュラム、ガイドラインや枠組みを持つとし、記述された指導手引書のある区の中で、1/3以上にモニター校があるとした。しかし、立証をしないことには、これらの調査結果は単に推測の域にとどまる。さらに調査を進めることで、暴力防止教育のアプローチを教室レベルで行うことが効果的であるか否かを考察できるだろう。
・データは、各学区が、教育的戦略よりも環境による擁護戦略(保安など)に多くの注意を向けていたことを示唆した。ほとんどの区が生徒間のけんかと凶器使用に対する記述された方針を持っていた。フロリダでは、全国の学区よりさらに多くの学区が、SHPPSで証明された暴力を減少させるための保安基準を設置するよう命じている。これに対して行える1つの解説として、行政官が彼らの区における暴力の情勢をどのように認知しているか、があるだろう。他の解説としては、フロリダの各区が、一般的に暴力や不品行の防止に対してより積極的に取り組んでいることが挙げられる。しかし、各学区がcatch‐as‐catch‐canアプローチを使用して、学校と若者間の暴力を抑制しようとしていることは、当座しのぎの便法であるという以外何ものでもない。
・ほとんどの学区が、ある種の暴力減少戦略に取り組んでいることが報告された。しかし、実際に戦略を実行しているかどうかは証拠がない。それでも、これらの結果は、PriceとEverettによる見解と矛盾していない。
・PriceとEverettが述べたように、学区が行う種々の教育的・非教育的介入は、暴力防止とは別の目的のために始められたと言えよう。もっともな例として、closed campusや服装規制などの基準は、特に昼食時間における、アルコール・薬物使用をコントロールするため、あるいは服装規制については、生徒の秩序を維持するために始められたものである。
・3/4以上の区が暴力防止プログラムを他の保健組識や機関と調整しているのに対して、わずか28%の区しか助言組識を持たない。さらに、コーディネーターがいる学区のわずか1/5しか暴力防止の専門家を雇っておらず、ほとんど全てのコーディネーターが他の専門的責務を負っている。これらの結果は、注目すべきものである。なぜなら、長引く教育プログラムを支えるには、有能な基盤(助言組識や専門家)が必要となるからである。
・質問紙に関して:暴力教育の話題からなる項目は、修正されるべきである。・調査に関して:フロリダは、生徒間・若者間の暴力行為と被害のパターンをモニターするためのサーベイランスシステムを構築するべきである。
・実施について:フロリダ州の機関が、特に方針の構築、実行、執行、評価に関連する暴力関連専門援助を学区に提供し続けるべきである、と言うことを提言する。
・方針が存在するだけでは、暴力の減少は保証できない。この研究では、方針の執行に関するデータについては考察されなかった。
・暴力防止教育戦略は、統合された学校保健プログラムの一部として提供されるべきである(本調査では未だそのアプローチの効力を確認できていないが)。それゆえ、各研究では統合された学校保健プログラムが、このような教育のためのカリキュラムの中で適切な位置にあるかを考察しなくてはならない。実在する区や学校の方針と矛盾のない暴力防止教育プログラムを使う努力が為されなくてはならない。
・暴力防止が効果的に行われるためには、包括的で統合された公衆衛生と家族、地域、政府、宗教組識、犯罪司法システム、メディアなどを含む社会のアプローチから構成されていなくてはならない。
・合理的で実用的な方針やプログラムの計画には、州や政府のしかるべき機関がリーダーシップを取って専門的意見を述べ続けて行かなくてはならない。学校を基盤とした戦略は、地域における暴力を減らす介入の重大な要素とされており、学区は、暴力防止活動を統合し、教育プログラムを実行できるようなフルタイムの健康教育コーディネーターを雇うなど、道理に合った初歩的な暴力防止の努力について考えるべきである。
〈 研究の長所・短所 〉
・結果に基づいた考察が述べられている。
・対象の背景、研究方法、特に質問に関する情報が記載されておらず、よく想像できない。
・デザインされた質問紙や調査の実施方法の信頼性、妥当性が疑われる。
・実施されている暴力防止教育の内容をもう少し詳細に知りたかった。
〈 学校保健への寄与、私見 〉
この論文では、暴力防止教育の方針について調査されていた。著者の述べるように、保安基準等で取り押さえるだけでは当座しのぎの対症療法でしかなく、若者の犯罪を根本から防止するためには、やはり社会・心理的教育アプローチが重要な意義を持つだろう。若者の凶悪事件が相次ぐ近頃、次代を担う子ども達への暴力防止教育はより必要で、学校保健に携わる者はその内容も知っておく必要があるかと考えた。また、対象が環境による影響を受けやすい子どもであるという特性から、社会で種々の選択を行う技能を養わせることは非常に重要で、学校保健における健康教育が担う領域はとても広く深いものだと感じた。