Tobacco Smoking and Depressed
Mood in Late Childhood and Early Adolescence
児童期後期と思春期初期における喫煙と憂うつ気分について
Li-Tzy Wu, ScD,and James C. Anthony
担当：竹田恵（母子保健学教室）
＜選定理由＞
世界では、現在10億人を超える喫煙者がおり、世界保健機構（WHO）では、喫煙で死亡している人々は年間400万人、1日1万1千人に上ると推定している。また、2020年代または2030年代初頭には、喫煙による年間死亡者は、世界で1000万人に達し、疾病の主な原因になると予測している。
こうしたなか、WHOは、1998年7月に「タバコのない世界構想」というプロジェクトを創設し、その活動の一環として1999年11月「タバコと健康に関するWHO神戸国際会議」が開催され、得に女性と青少年に焦点を当て様々な視点からの発表や討議が活発に行われた。
このように、世界的にタバコと健康について感心が高まっている中、青少年が喫煙を開始する要因や、喫煙による様々な身体的・精神的障害について興味を持った。特に喫煙による憂うつ気分（抑うつ症状）の因果関係について調査されたこの論文に、興味を持った。
＜先行研究レビュー＞
・Pattonらが1996年に、10代における喫煙の憂うつの関係を横断的に調査した記事が議会日誌に記された。
・喫煙と憂うつのについて、遺伝的、社会的、心理的なものを好む人々をもとに調査され、1冊の本になっている。
・ChenLSらが1999年に、憂うつ気分とは、いつも又はほとんどの時間気分が悪い、悲しい気持ちになる、不機嫌になる、泣きたくなるという症状がそれらの症状のうち1つかそれ以上少なくとも2週間続いたときと定義づけた。
・1993年Glassmanによると、喫煙と精神医学的疾患の関係についての研究は、通常の頭脳の機能と精神病理学的経過について調べた。
＜要約＞
1目的：青年期中期から成人期において、憂うつ気分になった人や喫煙をした人の成長具合について、Pattonらが1996年に、10代における喫煙と憂うつとの関係を、横断的に調査した記事が議会日誌に記された１。。このレポートにおいて我々は、この話題について将来役に立つ証拠を集めよう試みた。児童期後期から青年期中期までのデータや生存分析法を用い、我々は喫煙がどれだけ影響を与えているのかを見積もった。又、別に我々は憂うつ気分が喫煙開始の時期をどれだけ早めるのかについて調査した2-5。
青年期早期の喫煙と憂うつ気分の関連の出現は、若い頃の喫煙が憂うつ気分の開始を早めること、若い頃の憂うつ気分が喫煙の開始を早めること、又は、両方ともありえ、このうちどれなのかを明らかにさせる必要がある。
２対象と方法：
調査期間----1989年から1994年まで
対象者-----・大西洋中央の大都市の公立学校に通う青年（8～9歳から13～14歳）
・1985年と1986年に研究のために、19の小学校、43の教室から2つの連続した群が募集された（2311人）
・1989年から1994年までの調査期間で、最初2150人の参加学生が評価さ最低２回連続的な機会に参加した若者だけを含む1731人を対象とした
・男女比はほぼ等しい
・アフリカ系アメリカ人 約75％
非ヒスパニック白人 約24％
ヒスパニックアメリカインディアン 約１％
・最低2回評価された若者と、1回だけ評価された若者との間には、性、年齢、種/民族的特性に統計的な重要な違いはまったく見られなかった。
・喫煙の関係を評価するために、8～9歳までと13～14歳までの年齢範囲をカバーしているデータを使い、憂うつ気分と連続して起こる喫煙着手との関連を評価するため、9～10歳までと13～14歳までの年齢範囲をカバーしているデータを使った。
方法------
データは個々の学生との統一された面接法で、私的なインタビューによって収集された。会見者は年齢20歳から30歳で、インタビューを実施する前に、1週間教育プログラムを終了した。ここのインタビューの前に、個々の参加学生から、言葉による同意を得られた。各自の解答のうち全てが秘密にしておかれ、彼らがどの質問に答えるか、又はインタビューをいつ終了するかを決めることができることを、個々の学生に説明した。親の同意は以前に得られていた19。
憂うつ気分を評価するために、憂うつスクリーニング質問を用いた；抑圧的な無秩序の存在は評価されなかった
統計分析----
憂うつと喫煙の両方の時間的な連鎖による関係を評価するために、生存分析を用いた。
第1に憂うつ気分の発生(at time t)は結果とみなされ、先行する喫煙の状態(at time t-1)は共分散していた。第2に喫煙開始(at time t)は結果とみなされ、先行する憂うつ気分の状態(at time t-1)は共分散していた。
先行する喫煙から、後で起こる憂うつ気分までの時間的配列のテストについて、観察の年まで憂うつ気分が主に続いている全てのケースはサンプルから除外した；残りの危険傾向の若者は憂うつ気分の新しいケースを識別する為に追跡された。
この分析において、興味の「曝露」は、憂うつ気分の始まる前に1年間隔で喫煙したものである(又は、1年間隔で憂うつ気分のリスクを残した非対象群を比較できるもので)。等間隔の観察の間、合計598人の学生が、この研究で明らかにされ、標準化された憂うつ気分を発見された。
さらに、喫煙に続いて起こる憂うつ気分の分析の為、観察の年までに喫煙を始めたケースは除外された。残りのat-risk(危険傾向？)の若者は、喫煙の新しいケースと見極める為に追跡された。at-riskの若者の中で、喫煙開始の危険は、喫煙開始の前に1年間隔で、憂うつ気分との関係を更に研究した(at-riskの非対象群の為に、1年間隔で比較できるもので)。合計206人の学生は観察期間中に喫煙を始めた。
SPSS生存分析の手段は、最大限見込みのある物を評価する為にコックス比例危険モデルが使われた。このモデルは将来の研究要素に重要である。―若者は8歳から13～14歳まで経過していた―そして、興味のある説明に役立つ変数で、超過時間を変えることに適応される（特に、先行する憂うつ気分と先行する喫煙について）。
性、人種/民族、アルコール体験は、評価協会の関係に混乱させる影響を及ぼす可能性があるとのことで、束縛（抑制）する為に、変数をコントロールして紹介された。
３結果：
・児童期後期と思春期初期において、喫煙から憂うつ気分につながる原因となることに矛盾しない。しかし、逆は成り立たない。
・表１は、8～9歳から13～14歳までを通して、憂うつ気分の起こる相対危険の評価を要約した。喫煙は、憂うつ気分の開始の適度に増加するリスクと関連づけられた（未調整の相対危険=1.73；信頼区間95％［95％CI］=1.35、2.21；P<.001）。女性と男性に関しては、憂うつ気分を体験しった増加リスクと関連づけられなかった。一方、非白人は非ヒスパニック系白人と関連し、憂うつ気分の過剰なリスクとやや関連づけられた（未調整の相対危険＝1.35；95％CI＝1.10，1.66；P=.004）。アルコール使用暦は憂うつ気分の危険の増加についての関連はない（調整された相対危険＝1.19；95％CI＝0.99,1.42；Ｐ＝.059）。
・統計上の修正の妥当性をチェックするため、我々はサブグループの変化を調査し、調査の管理をした。しかし、産物項目では、モデルの適合を改善すべき点を発見することはなかった。
・表２は、先行する憂うつ気分は、喫煙に続いて起こるものと関連がなく、又、関連は、見積もり点と信頼区間に示されるように、ゼロに近かった（未調整の相対危険＝1.07；95％ＣＩ＝0.76、1.52；Ｐ＝.690）。さらに、性は、この年齢集団における喫煙の開始に関連はなかったが非白人集団は非ヒスパニック白人と比較すると、喫煙の低いリスクに関連があった（未調整危険因子.＝0.68；95％ＣＩ＝0.50、0.94；Ｐ＝.019）。
・アルコール使用暦は、喫煙の開始の増加因子と関連があった（未調整の相対危険＝2.60；95％ＣＩ＝1.96、3.47；Ｐ＜.001）、他の共分散のための統計上の調整でさえもそうであった。サブグループの変化に伴う性と予防試験グループの割り当ては、以前に論説で報告された介入効果分析と一致していることが分かった19。
４考察
８～9歳、13～14歳の青年期を対象にしたこの論文で一番言いたいことは、喫煙暦のある者は憂うつを引き起こす危険因子を増加させていたということであり、憂うつが喫煙を誘発させていたのではないということだ。この研究サンプルは、青年期の喫煙が憂うつより時期的に前であり、後ろではないという一方向性の関係を証明するのに役立っている。
この因果関係を議論する前に4原則を述べなければならない。第1に、この研究サンプルは、合衆国の大西洋中央の大都市からのものである；ゆえに、このサンプルは無視したどこかほかの地域の一般的なものが必要である。第2に、この研究と成人の研究との直接の比較対象物は、早期の憂うつと早期の喫煙開始に焦点を集めることにより制限される。比較すると、成人の研究の大部分は、主な抑うつ症状とニコチン依存、又は、日々の喫煙進行について調査されている。憂うつ気分と喫煙の開始における因果関係は、毎日の喫煙とニコチン依存と主な抑うつ症状との関連とは異なる可能性がある。今後この可能性について詳しく調べる必要がある。
第3に、このデータは若者自身のレポートに基づくものから使われた。自己レポートは潜在的な誤差の影響を受け、不良の偏りが生じることもあるが、このようなそれぞれの年を評価した長期的な変化を扱った膨大な疫学サンプルでは、別の方法では実現不可能である。我々は子供間の憂うつ気分の評価が依然として議論の余地があると特に言及している。しかし、この調査設計の本質は、喫煙と憂うつとの関係の評価に先入観を抱くべきではない。
第4に、先行研究に記載のとおり,17-19 この研究開始にあたって、研究に適している若者の大多数は、研究に参加することを同意した。しかしながら、数年かけて、徐々に対象人数が低下してきた（主に、公立学校のシステムによる学生の外部への移動による）。それゆえに、この結果の評価（見積もり）は、都会の公立学校のシステムにおいて、成長し、学校に通っていた未処置の若者のためのものである。喫煙暦と憂うつ暦を注意して、参加者と非参加者との間の相違点の調査は、19～20歳で追跡調査の一部は始まっている。しかし、このデータの収集は2年では終わらないだろう。
これらの制限にもかかわらずこの調査は、賞賛に値する効果を得ている。第1に予想されたこの研究の特性は、時間の流れを考慮に入れ、横断的な関連性を与えた。第2に、児童期後期と思春期初期の焦点には、いくつかの長所があった：これらのライフステージで、観察された変数を明らかにするたくさんの交絡変数の制限があった。結果として、この研究は、成人の喫煙のthe natural history(自然暦？)の特性をよく示している中止や再発のパターンのような因子を除外した。例えば、喫煙暦や憂うつ暦のある成人は抑うつ症状も含め、しばしば中止したり再発したりを繰り返した経験をもつようなものである。その上、多くの成人喫煙者は、喫煙によるニコチンや他の構成要素により、主要な神経系がさらされている。この研究は喫煙を持続することについての仮説を評価することはできないのだが、それは喫煙と憂うつの関係が今まで思っていたものよりもっと動的なものである可能性がある。開始、恒常的な使用、ニコチン依存や中止は、すべてが憂うつと関連しているとは限らないかもしれない。明確に、追加として、予想される疫学研究は、薬理学的神経科学研究の基本と同様に、喫煙と憂うつとの関係の観察を明らかにしようと試み続けることで、正当な理由となっている。
全体で、我々の発見は、思春期初期の間中、喫煙により憂うつがあとで導かれるという一方向の関係を示している。しかし逆は成り立たない。これらの結果は、もしこの共通因子モデルが、喫煙から憂うつまでに続発するものを説明するために念入りに作られているものならば、成人で毎日喫煙している人や、ニコチン依存の人に焦点を合わせるほかの介入で示したような、単純な「共通因子」仮説を立証したわけではない（しかし、憂うつから喫煙までは連続していない）2,8－9,12,14。自己治療仮説、もし憂うつ気分が喫煙の早期開始に導くのであれば、これらの研究データにより立証されない。それでもなお、自己治療の間は、喫煙の開始を導くことはないだろうし、それは日々多くの喫煙と習慣的な喫煙を導くことがあるかもしれない8－11,21。
我々の観察は、ニコチンにさらされることやタバコの他の構成成分が憂うつに影響すると主張されている仮説と最も一致している（例えば、憂うつ気分の発生における役割を担っている中枢神経作用や甲状腺機能による27-30）。このような神経薬理学的仮説もまた、禁煙と憂うつの資料と一致している13，30，32。さらに我々は、Breslauらにより著している（後に成人について研究している）主な憂うつは、成人の喫煙に共通して毎日喫煙しており、成人の非喫煙者に共通して喫煙の開始はなかったと予測した説がある12。
たとえアルコールの使用がこの研究の主な興味深いものでなかったとしても、アルコール使用と喫煙および憂うつとの間にある関係は、資料やいくつかの新しい調査に密接な関係があり、矛盾していなかった30。新しい調査の試みは、精神医学的疾患において、ニコチンとアルコールの神経薬理学的効果について詳しく調べる必要がある。Glassmanによるによると30、喫煙と精神医学的疾患の関係についての研究は、通常の頭脳の機能と精神病理学的経過の両方について我々の理解を増す機会となった。
結論として、この研究で言いたいことは、児童期後期と青年期早期の喫煙は憂うつ気分開始の重要な危険因子であるということだ。このような経験に基づいた結果から振り返ってみると、喫煙と憂うつ気分との因果関係の概念上のモデルは何が喫煙のそれぞれの段階（着手・開始段階、前進段階、依存段階、中止段階）に関わりを持っているのかということだけではなく、何が早期喫煙着手させ、何が喫煙を遅らせているのかということの解決には至っていない。
もし、喫煙と早期憂うつ気分の絶対的因果関係が与えられたのならば、この2つの関連性で注目すべきところは、児童期のすごし方にある。将来の研究においては、青年期の喫煙着手防止に有効な策を確認する必要がある。もし我々が、どのような青年期に喫煙をし、しないのかという実験的制御を得られるのならば、喫煙と憂うつ気分の関係に新しい解決の光が与えられ、将来に実験的調査に役立つであろう。これらの将来の実験は、喫煙が青年期の憂うつ気分の原因であるという上の最も信頼性の高い証拠という我々の方針を明らかなものにするであろう。
＜研究の長所・短所＞
長所
・対象の背景が明確に記されている。
・面接法が統一されており（会見者は、インタビューゐ実施する前に１週間の研修を受けている）、インタビューの前に、本人、その保護者から同意を得ている。
・喫煙と憂うつの関係について焦点が絞られており、調査分析過程でも、不良の隔たりを生じるような因子が除外されている。
・結論が明確である。
・データ結果について考察がなされており、本研究の短所・長所ともに、自己分析し、それについても考察している。
短所
・インタビュー内容が明記されていない。
・大都市からの研究サンプルであり、一般的ではない（地域での情報、データ収集が必要）。
・この研究の対象者は、児童期後期および思春期初期であるが、対象として用いた先行研究は成人期のものだった。成人期の研究の大部分は、毎日の喫煙とニコチン依存および主な憂うつ症状について調査されており、この研究対象の喫煙と憂うつの関係とは異なる可能性がある。
・このデータは対象者自身のレポートに基づくもので、不良の隔たりが生じやすい（しかし、長期的な膨大な量のサンプルでは.、他の方法では困難）。
・長期調査の中で、公立学校を卒業したり、その他の理由で移動したものもおり、徐々に対象が減っていった。
＜学校保健への寄与＞
今回の研究では、喫煙と憂うつの関係について、喫煙により憂うつ気分が誘発されることが予想された。本研究の目的が、喫煙と憂うつ気分の関連を調べることであり、学校保健に直接関連するような、喫煙の健康に対する影響について言及したものではない。今後、調査を進め、早期喫煙開始の原因なのかを予想できたら、本研究の結果が、青年期の喫煙着手防止に役立つだろう。
＜私見＞
近年、愛煙家にとっては住みにくい世の中になってきている。分煙対策により、喫煙する場も限られてきているし、タバコの税金は高くなるし、広告規制はあるしで、タバコ業界もかわいそうである。このような世の中でも、日本は他の先進国に比べて喫煙率は高率である。しかも若年者の喫煙は徐々に増加している。タバコによる健康障害については厚生省の取り組みもあり、学校教育の場でビデオや講義で健康教育が実施されているにもかかわらず、反応が鈍い。タバコの害について理解しているが喫煙に着手してしまう原因は何であるか興味がある。この論文では、喫煙が憂うつを誘発することを言及しているが、この結果が直接若年者の喫煙開始を予防することには役立たないので、残念である。