学齢期における動脈硬化危険因子の軽減・是正の可能性について

黒川修行・小宮秀明・宇佐見隆廣・佐伯圭一郎

(学校保健研究41;2000;533-543)


発表者: 玉城智美(成人看護学教室)
発表日:2000/6/15
 
<選定理由>
 三大死因である脳血管障害・心疾患のリスクファクターとして、動脈硬化が問題となっている現在、そのような生活習慣病の危険性が児の及んでいる実態とその原因、今後の課題を把握することで、家族単位での高血圧や肥満、高脂血症の予防の視点ががみえてくるのではと考え、本文献を選択した。
 

<先行研究レビュー>
・小児における成人病危険因子のスクリーニングの試みが欧米を中心になされてきている。
・小児肥満は、放置した場合、80%が成人肥満へ移行するという報告もある。
・動脈硬化の促進因子保有の早発現象・若年化傾向に家族性素因とともに日頃の食生活の簡便化や運動不足が密に関わっているという報告がある。
・現在の研究はスクリーニングからの危険因子の示唆にとどまっており、事後指導介入を行ったことでの追跡調査については、少ないのが現状です。
 

<要約>
1、目的
 動脈硬化の発症基盤である肥満、高血圧、高脂血症や高血糖などの所見が学齢期にある児童・生徒にも認められることが明らかになってきており、Tracking現象の観点からも早期対応の重要性が論じられている。
 本研究では、危険因子を保有する児(要管理児)を選択し、自主的な行動変容による日常生活の適正化に力点をおいた事後指導を展開し、危険因子を軽減・是正する諸要因を探索することにより生活習慣病に対する早期方策について検討した。

2、対策と方法
 1)対象地域および対象者
  平成4年4月から平成7年3月の3年間にわたって栃木県真岡市大内地区(平地農村に在籍する3小学校、1中学の小学校4年生から中学3年生を対象に実施した。
  3年間に受診した児童・生徒は延べ1978人であった。本研究では、3年間継続して受診した412人(男子211人、女子201人)を対象とした。
 2)調査・測定項目とその実施方法について 
  各年度とも4月下旬から5月上旬に形態計測(身長と体重)、血圧、血液生化学検査(総コレステロール、高比重リポ蛋白コレステロール、それらより動脈硬化指数を算出と日常生活状況調査(日頃の食事状況、運動習慣及び生活習慣など26設問)についてアンケート調査を行い、6月から7月に体力測定を実施した。
 3)統計処理について
  初年度から次年度の管理スコアの推移により危険因子継続保有児(継続群n=52)と危険因子改善児(改善群n=42)の2群を選択した。この2群を外的基準とし、体力など17要因を説明変数として林数量化理論U類を用いて多変量解析を行い、危険因子保有の継続と改善の判別に寄与する要因ウエイトの検討を実施した。

3、結果
 1)各検査値及び測定値の経年変化について(表1・2)
  ・肥満度は男女とも初年度に比し次年度、3年度に減少がみられた。
  ・血圧は、収縮期血圧について小学4年生に有意な低値を示した。
  ・血清脂質については、男女ともに経年的に上昇傾向がみられたが、小学5年女子・小学6年男子で低下が認められた。
  ・H-DLCは6年生を除く学年で次年度に増加がみられた。
  ・AIの推移は、3年間ほぼ一定であり、男子は上昇がみられた。また、小学6年の男女ともに有為な増加が認められた。
 2)要管理児の出現頻度とその推移(表3)
  3年間継続して危険因子を保有意していた児は44人(10.7%)、管理不要児は251人(60.9%)であった。
 3)汎用基準値からみた異常出現頻度(表4)
  肥満度の出現率は12〜13%であった。
 4)要管理児の管理スコアについて(図1・2)
  定期観察群が59人(62.8%)と多かった。初年度の管理スコアを基に経年変化をみると、平均点に減少がみられた。
 5)体力について
  男女とも経年的に有意な増加が認められた。(p<0.05〜0.01)初年度に比し次年度、3年度に有意な増加が認められたが、次年度から3年度にかけては増加の鈍化傾向が  観察された。
 6)要管理児の危険因子の改善・継続の判別要因ウエイトについて(図3・4)
  危険因子の改善の有無と生活状況要因との関連性について、林数量化理論U類を適応した。相関比は0.454で、判別点は0.104、的中率は76.9%であった。
  上位5要因は「体力」、「油を使う料理の回数」、「夜食の摂取状況」、「食生活の評価」が抽出された。

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4、考察 
 1)初年度の要管理児出現頻度及び諸検査値・測定値からみた該集団の特徴について
  肥満度は、全国平均を上回る傾向がみられたが、ほぼ平均の出現率であったと考えられる。AIに異常値を示す児が多くみられたが、軽度異常であり、また、危険因子の保有項目も低く、成人期と異なり危険度は軽度である。
 2)異常出現頻度と諸検査・測定値の年次推移及び危険因子の改善・是正について
  肥満度の減少は発育に伴う生理的現象と集団的接近による支援活動の効果がもたらしたものであろう。
  体力の増強が危険因子の増悪を防ぐことが示唆され、運動習慣を定着させることが生涯保健の視点からも強調されなければならないと考えた。
  また、個々に応じた段階的支援活動(危険因子の改善〜三次予防)の必要性があると考えられた。
  成長期にある児の食に対する質的・量的バランス、食に対する健康教育の必要性が示唆された。
 動脈硬化危険因子の軽減・是正には積極的な身体活動の実施と自己創成リスクの排除が良好な傾向をもたらし、また継続的な観察と指導の必要性とともに要管理児自身の行動変容とその支援活動の重要性が示唆された。
 

<研究の長所・短所>
・各々のデータについて適切な統計処理ができていたと思う。
・危険要因に家族性素因や家族性の環境要因が組み込まれていたら、今後の生活行動変容を促す介入の方向性が提示できたのではないか。

 
<学校保健への寄与>
 学齢期の動脈硬化の危険因子および保健活動の重要性について打ち出せたことは今後の指標になると思われる。今後、行動変容を促す介入についての研究が期待される。

<私見>  
 3年間の要管理児の追跡調査を行った意味では、興味深いものであったが、危険因子を軽減・是正するための日常生活の適正化の事後指導の内容への考察がなかった。問題となっている児の日常生活行動には、親の価値観が影響を与えている。小子化・受験戦争といった現在の児をとりまく環境を考慮にいれた、児の生活行動変容を促すための親へ保健教育の必要性を感じました。
 

<学校保健への寄与>
 学齢期の動脈硬化の危険因子および保健指導活動の重要性について打ち出せたことは今後の参考になると思われる。しかし、スクリーニングにとどまらず、保健行動の介入内容については、今後も研究の必要性があると思われる。

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