David M.Siegel,Debora I.Klein,Klaus
J.Roghmann
(Journal
of Adolescent Health 25;1999;336-343)
発表日:H12.7.6
[選定理由]
現在、日本でもAIDS感染が激増しており、その対策、国民の予防法についての正しい知識や正しい実施について懸念されているという。本研究は、自分に近い大学生について性行動、避妊、危険性について研究されているため興味をもった。
[先行研究レビュー]
・今までは、予想外の妊娠と性行為感染症(STD)が大学生の性行動の重要な問題点としてみられていたが、過去15年からはHIVが主な関心事となっている。
・100万人以上のアメリカ人がHIVに感染していることが推定された。
・AIDSのおよそ60%が25歳から39歳で、そのうちの5人に1人が思春期に感染していることが推定されている。
・大学生間のHIV感染の流行はいくつかの人口統計分野から、0.2%と報告されている。
・大学生のHIV、AIDSについて問題のある知識、態度および関心について報告されている。
・大学生の性行動について、意味深い報告として次のようなものがある。匿名(不明?:anonymous)との性交(7.8%)、肛門性交(anal
intercourse)(11.7%)、複数の相手との性交(30%)、および矛盾しているコンドームの使用(44%)。
・口による性交または唾液によるHIV感染の危険性が提示されている。
要約:
[目的]
この研究の目的は、
@大学生集団の避妊具使用のタイプ、継続、そして頻度について記述すること。
A避妊方法(特にコンドーム)の選択が、性別、学年、早い性体験、関連した態度および自己またはパートナーのHIV検査による違いがあるかどうか決定する。
つまり、大学1年生、2年生、3年生、4年生における避妊選択およびHIV感染の危険性を含む性行動に関する相違および類似を特徴づけることを目的とする。
[方法]
横断(cross−section)調査を行ない、41項目からなるアンケートは筆者らによってつくられた(そのなかから有用なもの)。この調査は人口統計、両親の経済状況、(不特定、軽い、親密の3段階で分けられた交際期間と交際の程度を含めた)交友関係の本質、性的行動、避妊法、HIV検査について行われ、ニューヨーク州の北部地方の約4400人の在校生で在学中の4年間の個人的なことに対して適当な標本として1年生、2年生、3年生、4年生で構成されている。
アンケート項目は、以前作者らが高校生に対して行なった性的な研究において用いた方法と同様に、ForeitとForeitの研究を参考に作られた。
学生は(科学と人文学の両者を含めた)大学のクラスと特別に研究に興味を持っているグループの組み合わせで補足されている。
1994から1995年の間の4ヵ月以上の期間で、819人の学生が参加を依頼され、797人(97%)が同意した。
研究の目的を彼らに説明し、参加は選択できることを言及した。
統計分析はSPSS−PCソフトウェアと一貫した度数分析と分散分析によって行われた。
[結果]
・今回得られたサンプルは、大学の全学生の17%に相当した(N=797)。
・内訳は、女性474人(60%)、男性318人(40%)、1年生359人(45%)、2年生185人(23%)、3年生106人(13%)、4年生138人(17%)。
・人種分布の比較は、白人594人(75%)、アジア人89人(11%)、アフリカ系アメリカ人41人(5%)、スペイン人32人(4%)、その他41人(5%)。
・性交経験のあるのは72%(経膣、anal、経口の性交も含めて)。
・性行為のタイプ別分類は、経膣64%、経口69%、アナル11%。
・anal
sexは少数
女性:1年生13人(16%)、2年生4人(4%)、3年生19人(14%)、4年生19人(24%)
男性:1年生5人(3%)、2年生11人(15%)、3年生7人(18%)、4年生7人(12%)
・初めての性行為の平均年齢は、女性16.8歳、男性16.7歳。
・358人(45%)が現在も性的活動があると回答した。
・異性愛が最も多く(男女とも98%)、2%男性がホモセクシャル、男女とも約1%がバイセクシャルであると報告した。
・性交経験のある(797人中577人)者の2%が性行為感染症(STD)に感染したことがある。
・249人(43%)が3人またはそれ以上の相手と、今までの人生の中性交をもったことがある。
・過去、現在の性行為とも最も一般的にコンドームが避妊法として用いられている。
・経口避妊薬(OCP)の使用は、多くの生徒で始めてまたはかつての性交時の使用(10%)と比べて、現在での性交時の使用(37%)が多い。
・避妊の理由について、妊娠予防なのか、STD予防なのか、または両方なのかという質問に対して、全体の45%が両方であると答えた。妊娠予防のみであると答えたのは28%、疾病予防のみであると答えたのはわずか1%であった。これら割合の学年、性別における意味深い比較は得られなかった。
・パートナーのmonogamous宣言(現在、性交をもつのは一人だけである)の調査から、全体の52%が彼(彼女)らのパートナーの宣言をすっかり信じていることがわかった。この自分のパートナーへの信頼は男女とも1年生から4年生で確実に増加していた。
・性行為を行なったことのある学生のうち133人(23%)がHIV検査を受けたことがあった。その割合は1年生から(16%)、4年生(32%)で増加しており、やや女性に比べ、男性に多かった。
・選択された人口統計変数(性別、学年、親の婚姻状況)による分散分析から、性行為を始める前がより長い期間であるのは、最初のパートナーとの性交前の関係が強いのと同様に男性に対し、女性に見て取れる。
[考察]
本研究の大学生集団の人口構成の特徴は、先行研究と一致していた。クラスが無作為に選ばれてなかったが、その選択の中でより大きい在学生数を持つクラスに対する優位より他の系統的バイアスに気がついていなかった。
性行為をもったことのある学生の割合は、1年生から4年生へと着実に増加していたが、これは4年生が1年生より性行動を持つ機会が多いことから予想される。
誰の研究同様、アナルセックスは少数であったため、性別及び学年による比較は信頼性がない。
男性及び女性の初めての性行為の平均年齢の調査結果は、先行研究とほぼ一致していた。この性交開始の性別による相違がないのは、高校生から得た女性に比べ、男性がより早いというデータに対比する。
過去から現在までのコンドーム使用は、4学年を横切ってほぼ一定であった。しかし、女性間では、1年生から4年生までで、コンドーム使用の漸増があった。この結果は、これら生徒が、教育されたまた、影響された歴史的枠組みにより最も良く説明されるであろう。調査の時点で4年生であった者たちは、1980年後半から1990年前半の頃に高校生であった。この時期はちょうどメディアまた学校を基盤として、特に異性愛者の接触に焦点を当てたHIV感染の危険性についてつよく唱えられていた。一方、調査時に1年生であった者たちはそのおよそ3年後ころから性行動を開始することになるが、その時は、安全な性の促進が確立されていたが、それは既に目新しくも議論するものでもなかった。
前にも述べたように、コンドーム使用は1年生から4年生までほぼ一定であるが、経口避妊薬(OCP)の使用は、初めてまたはかつての性交時での使用より現在が、1年生より4年生で使用する率が高い。この経口避妊薬使用の増加にもかかわらず、比較的一定なコンドーム使用は、効果的妊娠予防に関して、時間の経過により学年の関心が強まることを示唆する。
調査で、妊娠予防のためにだけを理由とした28%は、下級生に比べ、上級生に多かったこと、また、一定したコンドーム使用と増加していた経口避妊薬使用といった行動は、より年上の学生が、より安定した1対1の付き合いになり、性行為感染症の危険性を除去するという事実により説明されるであろう。
避妊、疾患の感染予防についての責任の所在に関する調べでは、上級生の女子で相手より自分自身を頼りとし、上級生男子では、相手を頼りとしていた。この主に異性愛者のサンプルはもちろん相補的である。おそらくこれらの結果は、学年をおうに従い、女性によって提供される避妊法である経口避妊薬へのきりかえを指摘しているであろう。
より若い女性ほど、彼女らのパートナーのmonogamy宣言(1対1の付き合いであること)を信頼していたが、大学の結論により、1年生から4年生まで男女とも信頼の程度は増加し、収束していた。この相手を1対1の相手であるとみなす信頼は、HIV検査のpaucityを、また4年にわたって妊娠防止が強調されることの説明になるであろう。
本研究により、4年間の大学生活を通して存在するであろう行動理解及び意思決定の違いを含めて、学生への性交、避妊、疾病予防そしてHIV感染の問題点について言及する必要性を強調する。
[研究の長所・短所]
・調査の41項目におよぶ内容、結果が明瞭でない。
・なぜ、誤った避妊法を行なうのか、もしくはなぜ避妊しないのか、などといったその行動の理由、原因についても回答を得るとよかったのではないか。(感染予防についても同様)
・1対1の関係の信頼による行動変容、歴史的背景による考察はおもしろかった。
[学校保健への寄与および私見]
近年、性行為の低年齢化、性の氾濫などが問題となっている。本研究では、1994年から1995年在学中の大学生を対象としており、また、研究のフィールドも他国であるため、そのままデータとして用いるのは難しいかもしれないが、学年や対象の年代、時代背景を考慮に入れた性教育について、考えていくべきであろうことが示唆されていた。
久野らの報告によると、性の氾濫などといった行動の背景には、都市化や受験戦争の激化、硝子化などに伴いアイデンティティの確立が不安定になることがあげられるのではないかとあった。このように、早期性教育の必要性が唱えられているなか、今後、それら行動の背景、動機などをふまえた教育が必要とされるのではないだろうか。