Journal of School Health 69(9):362-368,1999
【選定理由】
この研究では、捉えづらいストレスを心身症状という目に見える形で捉えようと試みていること、ストレス対処としてソーシャル・サポートという環境要因と自己効力感、自己統制力(決定統制力)という個人要因の両方から検討していることに関心を持った。
【先行研究レビュー】
各発達段階において心理的ストレスと心身の健康との間に関連が見出されており、ストレスは、個人要因、社会的要因に左右されることが分かっている。
セルフ・エフィカシー(自己効力感)がストレス反応に伴なうコーピングにとって重要であることが指摘されている。IsraelとSchurmanは、ストレスのプロセスとソーシャル・サポート、決定統制力の自覚がストレス経験を軽減することを検討した。ストレス経験に関した研究では、家族の離婚やメンバーの死などのストレスフルなライフイベントの違いに焦点を当てたものがある。生徒にとって、最も大きいストレッサーは試験や成績などの学校関連事であるとの報告もある。学校健康推進を検討したある研究では、生徒の学校での体験の質に注意を払うべきとの考察を示している。
要約:
【目的】
この研究では、心身症状のリスクと報告された学校疎外感と学校危機のレベル、自己効力感、ソーシャル・サポート、そして決定統制力との関連を検討することを目的とする。
【方法】
<対象者>
ノルウェーのWHOプロジェクト参加校の生徒。平均年齢13,14,15歳。対象とした1,022名のうち有効回答者862名(有効回答率84%、男子425名、女子437名)であった。
<質問紙>
自己回答式。児童生徒の健康行動を測定するWHOCross−NationalSurbey改訂版。心身症状、ストレス経験(学校疎外感、学校危機により呈示)、自己効力感、ソーシャル・サポート、決定統制力に関する項目。各々3−12項目の平均点により示され、高得点ほど各々の程度は低くなる。内的整合性α=.73~.90(表1)
【結果】
表2 ストレス関連要因のスピアマンの相関係数
〔多重ロジスティック回帰分析を実施。症状知覚を「ある・ない」に2分、全体及び各症状別分析を行った。〕
表3 男女による心身症状の差異
表4 ストレス関連要因別による心身症状のオッズ比(全体分析)
男女ともに、学校危機SDとすべての症状で、正の相関あり。
男子では一般的自己効力感GSEと心身症状との有意な相関なし。学校場面における自己効力感SSE↑−抑うつ・神経質が↓、不眠↑
女子では一般的自己効力感GSE↑−抑うつ・背部痛・めまいが↑、学校場面における自己効力感SSE↑−抑うつ・神経質が↓。15歳女子で、SSE↑−胃痛↑(OR=0.89,1.40,2.24;13歳、14歳、15歳)
13歳男子で、教師からのサポートSFT↑−胃痛↑(OR=0.37,1.21,0.74;13歳、14歳、15歳)
女子で、教師からのサポートSFT↑−胃痛・背部痛・不眠が↓、神経質↑
男子で、生徒からのサポートSFP↑−頭痛・短気・不眠・胃痛・抑うつが↓。13歳男子で、SFTと頭痛のリスクが最も関連。女子で、SFT↑−短気・不眠・抑うつが↓
ソーシャル・サポート(SFT,SFP)、自己効力感(GSE,SSE)、決定統制力が心身症状に及ぼす影響は、学校疎外感SAと学校危機SDの程度によって異なっていた。
【考察】
学校危機SDの方が学校疎外感SAよりも心身症状のリスク増加に影響。
女子において、教師からのサポートSFTは心身症状のリスク軽減に機能。また、SFTが神経質のリスクを強化しており、これは、対人関係だけでなく、教育が生徒へ及ぼす効果への期待を反映していると考えられる。
Compasは、自身に対してポジティブな感情を抱くことは学生の精神的健康にポジティブな影響を及ぼすことを報告。それと対照的に本研究では、女子において高い一般的自己効力感GSEは背部痛、めまい、抑うつのリスクを増加。これは、高GSE者は、結果への直接原因帰属を自身へ向ける傾向にあり、高いGSEは個人のパーソナリティというよりもむしろストレッサーとして働くと考えられる。また、女子で胃痛のリスクと決定統制力DCに負の相関がみられ、これは、大部分の生徒がクラスで自己統制力(決定統制力)を越えるほどの課題を強いられていることを示唆するといえる。
学校場面における自己効力感SSEの方が一般的自己効力感GSEよりも心身症状リスクと高い相関。この発見は、BanduraのSelf-Efficacy概念、一般的及び特定場面での自己効力感の区別の推奨を支持するものといえる。もっと広くいえば、より一般的な測定がより具体的ともいえる行動の予測を弱めてしまいがちになるのではないかと考えられる。
【結論】
今回の結果は、生徒の生活や健康改善に影響を及ぼす学校環境、生徒の学校課題の捉え方というような潜在的なものに焦点を当てた。教師は、自分たちがになっている環境、すなわち教師と生徒、生徒どうしの関係の重要性に気づく必要がある。生徒は学習活動に意味を見出し、到達への学習過程において活動的な参加者となることをめざすことでストレス経験を軽減し、健康を高めることができる。
【研究の長所・短所】
長所
@子どもの健康にとって重要な学校環境に焦点を絞って調査している。A自己効力感を一般的なものと学校場面における自己効力感に分けて捉えようとしている。B個人的要因と環境要因の双方からストレス関連要因を検討している。(ソーシャル・サポートは本人によって自覚されたものだが、環境要因と考えていいのか?)
短所
@対象校をWHOプロジェクト参加校に限っているので一般性が疑われる。A心身症状の判断は身体症状の場合も考えられ、判断が難しい。
【学校保健への寄与】
本研究では、生徒のストレス経験を軽減するためには、教師と生徒、生徒同士の対人関係、学校での課題遂行などの質の見直し、重要視することの必要性が主張されている。本研究で示されたことは、生徒を取り巻く環境の理解への手助けとなり、教師側の生徒への対応の在り方を示唆するものとなっている。
【私見】
女子において、高い一般的自己効力感が心身症状のリスクを強化させることについて、高い一般的自己効力感を抱く者は、結果の直接の原因帰属を自分自身へ向ける、という考察や、教師のサポートが神経症リスクの強化に関与しており、教師からのサポートが教師の生徒への期待を含んでいるのではないかという説明に興味を持った。それらの関係を明確にさせるような研究が求められるのではないだろうか。