女子看護学生の入学時から2年間の骨密度推移と生活習慣との関係について
西田弘之 竹本康史 横山強 杉浦春雄 中神勝
(学校保健研究41:12-20,1999)
報告者:藤原 仁 (小児保健学教室)
<選定理由>
近年、富に平均寿命が延びたことで生活習慣病の罹患率が高くなっている。また、若年層の生活習慣病も問題となってきている。それらの病気のひとつに骨粗鬆症がある。これは女性の罹患率が高く、問題になっている。骨密度は20歳前後で最大となり減少していくが、その後の生活習慣と重要な関係がある。また発育期の生活習慣も重要である。そこで生活習慣病の予防に学校での健康教育が、これから重要になってくると思われる。この論文は、生活習慣病の中の骨粗鬆症について論じられているが、若年からの予防に対して何らかの示唆があるものと考え、選定した。
<先行研究>
○骨密度の推移に関する縦断的研究で、Haginoらは年間変化率は、閉経前が-0.61%であるのに対し、閉経後では-1.88%と約3倍の低下が見られたことを、Sowersらは女性の5年間の平均変化率が-5.6%であったことを報告したが、これらはいずれも中高年者を対象としており、若年女性について検討されたものはほとんどない。
○前報で筆者らは女子大学生を対象として、発育期の運動及び栄養を中心とした生活習慣のあり方が獲得最大骨量に影響を及ぼすことや、骨密度測定が骨密度の低い女性に対し意識の高揚化に寄与すること、この時期においても生活習慣のあり方によっては骨密度が変動する可能性があることを報告した。
○大学時代の生活習慣の改善が、その後の骨粗鬆症のリスクを有意に減少させたとの報告がある。
<対象と方法>
○対象
1995年に岐阜県下のA短期大学の看護学科に入学した女子学生77名のうち、計3回の骨密度測定を受診し、2回のアンケート調査事項に欠損値がなかった65名。
○方法
・骨量の測定
入学時、2年、3年進級時の4月下旬に計3回、DSC-600を用い、DEXA法により、前腕橈骨遠位1/3部位のProfile
Scanにて骨幅(cm)と、骨塩量(g/cm)を測定した。骨密度は、骨塩量/骨幅で表した。
・生活習慣及び食品摂取状況調査
2年、3年進級時の2回行い、骨粗鬆症に対する意識4項目、運動などの生活習慣9項目、食品摂取など計16項目からなる調査用紙を用いた。
○分析方法
2年間の骨密度の推移は、入学時の平均値を基準とし標準偏差の1/2により上位群、中位群、下位群の3群に分け1年間の増減率を求め、Duncanの多重比較を行った。
生活習慣の項目は入学から2年まで、2年から3年までの比較をχ2検定により行った。
生活習慣と骨密度の関係は、各年度の骨密度増減率を従属変数とし、生活習慣に関する項目を独立変数として重回帰分析を行った。
<結果>
1.骨密度の推移
1年時における骨密度の平均は、0.634±0.050g/cm2で、最高値は0.755、最低値は0.53で50歳代女性の平均を下回るものが6名(9.2%)みられた。2年時では0.619±0.041
g/cm2で1年時より2.1%減少した。低下者は45名(72.3%)であった。3年時では0.626±0.043
g/cm2と2年時に比べ1.1%増加し45名(69.2%)で増加したが、いずれも有意差はなかった。2年間では、全体で1.1%減少し、増加23名(35.4)、不変3名(4.6%)、減少39名(60.0%)であった。1年時の骨密度値によって区分した3群で見ると2年間の増減は、上位群(-2.58%)、中位群(-1.93%)は減少したが下位群では1.19%の増加であった。1年時の骨密度値と2年後の骨密度増減率との相関係数はr=-0.462(p<0.01)と骨密度が高かった者ほど低下する傾向があった。
2.骨粗鬆症に対する意識について
骨粗鬆症に関する知識が「ある方」「かなりある」と答えたものは2年時(59%)、3年時(82%)と上昇した(p<0.01)。将来の骨粗鬆症の不安が「ある方」「かなりある」と答えたものは2年時(69%)、3年時(71%)と同値であった。また、半数が骨を丈夫にしようと意識したことがあった。3群でみると2年時で下位群が丈夫にする意識が高かったが、3年時では差がなかった。
3.生活の実意について
生活が「規則正しい」とする者は、2年時では約半数、3年時では29%と滅少し、生活が不現別となっている。睡眠「6時間以下」とする者が,
2年時では23%,
3年時では31%となっていた。食生活については、朝食を「毎日とる」者は2年時で77%,
3年時で68%であるが、逆に「まったくとらない」者も約1割(2年時9%、3年時11%)いた。間食を「する方」と「しない方」の割合は両年時とも約半々であった。偏食では「ほとんどない」とする者の割合は、2年時(58%)より3年時(69%)で増加した。栄養バランスが「良好」とする者は、2年時では54%であったが、3年時では43%に滅少し,「かなり悪い」とする者が12%にみられた。
体力および日常の運動量については、体力が「ある方」とする者は、2年時(15%)、3年時(20%)ともに少なく約8割の者は体力に自信がないと答えた。体育実技授業以外の運動頻度では「ほとんどしない」とする者や、日常生活での身体活動量で「動かない方」との回答をする者は、2年時で81〜82%、3年時で86〜89%と多く、運動不足傾向がみられた。
4.骨密度の増減と生活習慣との関係について
骨密度の増減に及ほす要因を検討する目的から、骨密度増減率を従属変数とし、生活習慣および食品摂取状況など各々の項目を独立変数として重回帰分析を各年度毎に行った。有意差が認められた項目は、1年時から2年時までの1年間では、骨に対する意識では「測定値の感じかた」で負の相関が、生活習慣では「偏食の程度」で正の相関がみられた。また、食品群別摂取頻度では「卵」「牛乳・乳製品」および「コーヒー・紅茶」で正の相関が,また逆に, 「レトルト食品」で負の相関がみられた。
2年時から3年時までの1年間では、骨に対する意識では「測定値の感じかた」および「骨粗鬆症への不安」で負の相関が、「骨強化の意識」で正の相関、生活習慣では「偏食の程度」で正の相関がみられた。食品群別摂取頻度では「牛乳・乳製品」で正の相関が、逆に「果実類」および「インスタント麺」で負の相関がみられた。
5.骨密度の増減と過去および現在の運動部所属の有無との関係
中学および高校時代の運動部所属(3年以上)者は43名(66.2%)で調査期間中(2年間)の運動部所属者は16名(24.6%)であった.過去の運動部所属の有無別にみた骨密度は、「あり」の者の方が1年時で高値を示し、その後も「なし」の者よりも変動は少ない傾向がみられた。現在の運動部所属の有無別にみた骨密度は、1年時では両方とも同値であったが、2年後の骨密度の増減では、「なし」の者が1.74%減少したが、「あり」の者では0.32%の増加がみられた(p<0.05)。
6.骨密度の増減とダイエット経験との関係について
調査期間中(2年間)に、何らかの食事制限を行った者は23名(35.4%)であった。その方法の多くは減食療法であったが、ダイエット補助食品などを用いた者も若干名みられた。ダイエット経験者では、2年後の骨密度が18名(78.3%)で減少し、増加した者は5名(7.7%)であった。ダイエット経験の有無別に骨密度の増減率をみると、「なし」の者(0.43%減少)より「あり」の者(2.2%減少)の方が大きい減少率を示したが、有意差はみられなかった。
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<考察>
2年間の骨密度の推移は、1年時からの1年間では21%の減少が、2年時からの1年間では,逆に1.1%の増加がみられた。Fast
bone losers (年間3
%以上の骨量減少者)は、2年時では29名(44.6%)にみられたが、3年時では3名(4.6%)に減少した。年間3%以上の骨量増加者は、2年時では5名(7.7%)であったのが,
3年時では12名(18.5%)と増加した。これより安定していると考えられている大学学齢期における骨密度もライフスタイルの在り方によっては大きく変動する可能性が示唆された。
これを1年時の骨密度値別にみると、2年時では1年時に高値であった者ほど減少率が大きく、低値群ではわずかに増加した。高値群は測定値に慢心してしまうためか、骨密度よりダイエットなどへ関心が向けられる傾向があるのに対し、低値群では自己の骨密度が低いことを初めて知り、骨の強化を計ろうと意識したためと考えられる。しかし、3年時では、1年時の骨密度値の高低に関わらず多くの者で増加が認められた。このことは、骨粗鬆症に関する知識が「ある」との回答をした者の割合が、2年時(59%)より3年時(82%)で大きく増加したことが関与し、骨強化意識の自己評価点と2年後の骨密度増減率との相関係数がr=0.258
(p<0.05)から、1年時に高値であった者も1年後の骨密度測定によって、予想以上に減少したことから骨密度は絶えず変化するものであることを認識した結果、向上に対する意識と知識を以って骨強化のために努力をした成果と推測できる。
骨密度の変動に影響を及ほす要因をみるために重回帰分析を行い検討した、両年度で同一傾向で有意差がみられた項目は、骨への意識では「測定値の感じかた」、生活習慣では「偏食の程度」、食品摂取状況では「牛乳・乳製品」などであった。一方の年度で有意差がみられた項目は、2年時は食品摂取状況で「卵」「レトルト食品」「コーヒー・紅茶」が、3年時は生活習慣で「骨粗鬆症ヘの不安」と「骨強化の意識」、食品摂取状況では「インスタント麺」などであった。
これより、
@意識の面では、骨粗鬆症に対する不安をある程度持ち、骨強化を意識した生活をすること。
A食生活の面では、偏食をなくし卵および牛乳・乳製品の積極的摂取を心掛け、インスタント麺やレトルト食品の摂取を控えることが骨密度増加には望ましいものと考えられる。
運動頻度や身体活動量についての項目では関係が認められなかったが、2年後の増減率で現在の運動部在籍者では多くの者に増加がみられた。対象者の各運動部員は、週3回程度の活動を定期的に続けている。このことは骨密度の維持増加には運動は不可欠であることと、大学学齢期においてもある閾値以上の運動時間と強度であれば骨密度の増加が期待できることを示唆している。何らかのダイエットを経験した者は、経験しなかった者より大きな骨密度滅少がみられ、また、極端な痩身願望の戒めと、運動を中心とした健康的なダイエットを指導することが大切であると考える。
大学学齢期においてもライフスタイルの在り方によって骨密度は大きく変動し、個人差が認められた。食品摂取に関しては、バランスのとれた栄養の重要性など、これまでの指摘と同様の傾向がみられた。若年時の女性は、将来の骨粗鬆症の危険性よりもスタイルやファッションなど現実問題への関心を優先した生活になっている。いたずらに骨粗鬆症の不安をあおる必要はないが、将来を見据えた栄養、運動を中心とした健康的なライフスタイルの在り方を、この時期に十分指導することが大切であると考える。また、意識の面から、若年時における骨密度測定を1回だけではなく、適当な間隔をおき実施することが、自身の骨密度を認識するだけでなく、それによって骨に対する知識や意識の向上を惹起し積極約な骨粗鬆症の予防策に繋がると思われる。
<結論>
本研究は、女子看護学生の2年間の骨密度推移を把握するとともに、その間の食生活や運動などを中心とした生活習慣との関係について検討したものである。
結果を要約すると以下のとおりである.
1)2年間の骨密度推移は、入学後1年間で2.1%減少したが、次の1年間では1.1%の増加がみられ大学学齢期においても変動することが認められた。
2)入学時の骨密度が高い者ほど減少する者が多くみられ、逆に低かった者では僅かながら増加を示した。
3)骨を丈夫にしようと意識したことがある者の割合は、ほぼ半数の者に認められ、骨を丈夫にしようとの強い意識を持ち、また、実践した者ほど骨密度の増加が認められた。
4)骨密度の増加に影響する要因としては、骨強化の意識、身体活動量および卵、牛乳・乳製品などの摂取頻度が多いことなどがあげられた。以上のことから、大学学齢期においても生活習慣の違いによって骨密度は変動すること、また、骨密度の維持増進のためには、栄養や運動を中心とした基本的なライフスタイルの在り方を十分指導することが大切であることが示唆された。
<私見>
この論文は、データがきちんとまとめられていて読みやすいものであった。しかし、ライフスタイルと骨粗鬆症の関係は、言及が足らないのではないかと感じる部分があった。また、指導を行う必要があるとあるが具体的なことには触れていない。指導に関しては、どのような指導が適切か、今後の研究が待たれる。
骨粗鬆症に関しては、意識と知識をそれに向けることで骨量の増加が認められるということがこの研究からは言えるので、他の生活習慣病に対しても学校での健康教育が有効ではないかと考えられるので、充分示唆にとんだ論文であったと思われる。