う蝕発生状況と学校保険活動との関連性に関する調査研究

土肥陽一 末高武彦

(学校保健研究41;1999;45-56)


報告者:竹田恵 (小児保健学教室)
<選定理由>

 私の所属は小児保健学研究科であり、学部生のころの卒業研究では乳幼児健診会場でアンケート調査を実施した。その会場で乳幼児の歯科検診と歯磨き指導も行われていた。日ごろから乳幼児のう蝕に関心があり、今回学校保健管理特論を機会に、現在の小学生の歯科教育について関心を持った為選定した。

<先行研究レビュー>

<要約>

目的

学校保健活動が口腔状況に及ぼす影響について検討すること 

対象と方法

・ 調査期間:1990年度から1996年度までの7年間

表1.学校保健活動の活動項目
1.学校保健安全計画 2.保健指導の年間計画 3.学校保健委員会 4.教職員の保健委員会 5.児童の保健委員会 6.歯の保健指導計画 7.学級活動における歯の保健指導 8.歯科保健の教材・教具の整備 9.歯科医又は歯科衛生士による指導 10.良い歯の児童を表彰 11.歯周疾患の予防指導 12.養護教諭などによる歯の保健指導 13.歯磨きカレンダーで継続指導 14.歯の衛生週間の主な活動 15.給食後の歯磨き 16.歯ブラシの点検と指導 17.歯垢染色剤による評価と指導 18.臨時歯科健診 19.治療勧告 20.学年(学級)の集計表の作成・活用 21.休職への配慮 22.歯に関する保護者の公演 23.保健だより等による歯の広報 24.市町村教委・役場などとの協議会 25.PTA歯科保健活動
 *学校別保健活動の実施状況については25の活動項目それぞれについて、7年間のうち5年以上実施している学校を実施校とした。治療勧告は年4期以上実施している学校を実施校とした。
DF者発生率;洗口校・・・41%以下を少ない群(64校)、56%以上を多い群(65校)

      非洗口校・・・56%以下を少ない群(86校)、64%以上を多い群(94校)

DFT発生量;洗口校・・・1.1本以下を少ない群(64校)、1.7本以上を多い群(64校)

      非洗口校・・・1.8本以下を少ない群(78校)、2.5本以上を多い群(85校)

*学校保健活動25項目についての実施の比較はX2検定を行った。
*DF者発生率とDFT発生量は外的基準に、学校保健活動を説明変数として数量化二類による多変量解析を行った

結果

  1. 学校を単位とした各学年におけるDF者率の平均値、DFTの平均値は、洗口校とへ洗口校とではいずれも非洗口校で多く、両者ともに優位な差が認められた。
  2. 洗口校におけるDF者発生率平均は48%、DFT発生量平均値は1.45本であり非洗口校におけるDF者発生率平均値は60%、DFT発生量平均値は2.20本であり、両者とも優位な差が認められた。
  3. 学校保健活動は、実施率80%以上の項目が25項目のうち40%程度見られるが、50%未満の項目も30%前後見られる。洗口校と非洗口校とで実施率を比較すると、7項目(教職員の保健委員会、歯の保健指導計画、歯磨きカレンダーで指導、給食後の歯磨き、歯ブラシの点検と指導、保護者の公演講習会、役場等との協議会)で有意な差が認められた。
  4. DF者発生率、DFT発生量を少ない群と多い群とに群別して、学校保健活動の実施率を比較した結果、発生量が少ない群で実施率が高くX2検定により有意な差が認められた項目は、実施率が90%以上の項目を除く19項目のうち、学校保健委員会、職員の保健委員会、歯の保健指導計画、良い歯の児童の表彰、歯磨きカレンダーでの指導、臨時歯科健診、治療勧告、給食への配慮の8項目である。また、発生量が少ない群で実施率が高く、数量化二類を用いた解析の結果レンジの大きさから、前期8項目のうち治療勧告を除く7項目と保護者の公演講習会の実施が寄与している。
  5. 以上から、小学生のう蝕の抑制には、学校内では保健委員を組織し、歯の保健指導計画を立て、全校でまた保護者とも連携を取り児童の歯科保健行動を助長する活動を実施すること、また、臨時歯科健診を実施することが重要である。
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考察

  1. う蝕の状況について

  2. 本研究の結果と先の本調査資料の一部である干場らの研究を比較すると、う蝕所有者率、1人平均う蝕数ともに高学年になるに従い本研究において小さな値を示しており、その差が大きくなっている。6年生のう蝕所有者率は洗口校では本研究61%に対して干場ら67%、非洗口校では本研究76%に対して干場ら80%であり、6年生の1人平均う蝕数は、洗口校では本研究1.64本に対して干場ら2.05本である。この違いは、干場らは断面調査(1990〜94年度の結果の平均)であり本研究では追跡調査であるため調査対象年度が異なっている。小学生のう蝕は近年減少傾向を示しており、本研究と干場らの結果との違いは調査対象年度の違いと考えられる。
  3. う蝕の発生量について

  4. 学校歯科保健活動の盛んな岩手県平泉の小学校でDFTは、1年生(1984年)から6年生(1989年)の間に1.88本、通常の活動を行っている宮城県本吉町の小学校では3.94本新たに発生している。また、同時期の新潟県全小学校のDF者発生率は60.2%、DFT発生量は2.58本となる。本調査結果と比較すると近年のう蝕減少傾向が伺える。
    洗口校と非洗口校のDFT発生量は、前者1.45本、後者2.20本であり両者間では優位な差が認められた。干場らは1人平均う蝕数からう蝕抑制率を31と算出したが、今回の追跡調査の結果からは34%と算出された。
  5. う蝕発生量と学校保健活動との関連性につい

  6. う蝕の発生は家庭を中心とする生活環境に影響するところが多いが、他の一面では地域や学校を通じた影響も考えられこの方面の検討も重要である。
    フッ化物がう蝕の抑制に効果があることはすでに多くの報告で述べられている。しかし、新潟県においても洗口校の割合は学校規模により異なり、小規模校では61%を占めるが大規模校では14%とわずかである。小規模校は町村部に多いことから、う蝕の抑制対策としてフッ化物を用いる際には、地域や学校規模の特性をも考慮すると良い。
    学校保健委員会は設置を義務付けてはいないが、文部省ではその設置を推奨している。学校保健委員会あるいはこれに代わる教職員の保健委員会は、学校保健活動を実施するにあたり核となる機関であり、ここでの歯の保健指導計画の策定は歯科保健活動全般に影響する。今回の結果もこの点が反映されたものと考えられる
    小学生個人を対象とする具合的な保健活動では、う蝕の抑制に良い歯の児童の表彰、歯磨きカレンダーでの指導が寄与しており、これらはう蝕抑制行動への励みになったと考えられる。また給食への配慮、保護者の公演講習会において、う蝕抑制に寄与している。今日では8020運動を通じて良く噛んで食生活を営む重要性が、また、「生活習慣病」の名称を冠して日常生活習慣の改善が求められており、学校歯科保健活動も日常生活と結びつけ地域と連携していく必要がある。1995年には文部省から「小学校歯の保健指導の手引き」が出され、新たに問題解決型の保健指導が推奨され家庭やPTAとの協力が求められている。
    以上のことから、小学生のう蝕抑制には、フッ化物を応用するとともに学校保健活動として、まず保健委員会を組織し、学校安全保健計画の中に歯に関する保健指導計画を立てて、教職員と保護者が一体となって児童の歯科保健行動を助長する活動を実施し、また、定期健康診断に加えて臨時歯科健診を実施することが重要であると考察された。 


<研究の長所・短所>

5年間の追跡研究で小学1年から6年生までのう蝕状況が明らかにされて、先行研究との比較も分かりやすく、考察もしっかりなされていた。

<学校保健への寄与>

定期健康診断で最も罹患率の高いう蝕について5年間にわたる追跡調査されており、新潟県における小学生のう蝕状況をほぼ正確に表していると考えられる。又、う蝕を減少させる為に有意な関連のあった学校歯科保健活動項目が明らかになり、今後の学校歯科保健の効果的な運営基準が明確になった。これは新潟県のみならず全国的な学校歯科保健活動においても活用できると思われる。

<私見>

 私が小学生時、フッ化物洗口は学校で行われていなかった。そして今まで未だ経験したことがない。論文中にもあったのだが、全国的に見ると洗口校はかなり少ないとのことだ。フッ素がう蝕を予防することは様様な研究結果からも明らかであるにもかかわらず、学校保健で浸透していないのは何故か、興味がある。本文中にあるように、「小学生のう蝕抑制には、フッ化物を応用するとともに学校保健活動として、まず保健委員会を組織し、学校安全保健計画の中に歯に関する保健指導計画を立てて、教職員と保護者が一体となって児童の歯科保健行動を助長する活動を実施し、また、定期健康診断に加えて臨時歯科健診を実施することが重要である」と言及されており、この効果的な学校歯科保健活動が積極的に採り入れられたらと思う。

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