尾崎 米厚 簑輪 真澄 鈴木 健二 和田 清
(日本公衆衛生雑誌 1999;46(10):883‐893)
飲酒をしての交通事故が未成年者でもおこっていること、自分自身も未成年で飲酒を経験したことがあったこと、また沖縄の特徴などもでてるのかと思い、本調査に興味を持ち、選定した。【先行研究レビュー】
・ 飲酒行動が低年齢で開始されるほどアルコールによる健康障害、交通事故や非行など様々な問 題は大きいといわれている1)。【要約】
・ アメリカ合衆国をはじめとして欧米諸国では、あるものは青少年の健康問題を含めた生活全般に関する調査で、またあるものは薬物使用に関する調査の一部として国家的な規模で未成年者の飲酒行動が調査されている2)。
・ 全国を代表するような青少年の飲酒行動についての調査はいまだに行なわれておらず、いくつかの地域や学校を対象とした調査が散見されるくらいである3−5)。
・ 出生コホート研究によりアメリカ合衆国の青少年の飲酒経験の低年齢化が明らかにされている21)。
全国の中・高校生の飲酒実態およびその関連要因が明らかになり、未成年者の飲酒対策 に応用できるような基礎資料を得る。<方法>
調査デザインは断面標本調査であった。調査は全国の中学校および高等学校(全日制の 私立・公立高校)を対象とした。1995年全国学校総覧に登録されている中学校11274校、 高等学校5501校のうち中学校122校(抽出割合1.1%)、高等学校109校(抽出割合2.0%) を抽出して調査を行なった。調査時期は1996年12月〜1997年1月末であった。<結果>
・ 抽出方法:層別1段クラスター抽出。地域ブロックごとの抽出の偏りを防ぐため、層別抽出は地域ブロックを層とした。中学校は12層、高等学校は6層の層をつくって抽出した。抽出された学校の生徒全員を調査対象とした。したがって、学校を1つのクラスターと考えた抽出法を採用した。抽出標本数は、1990年に行なった中・高生の喫煙行動に関する全国調査6)で得られた学校別喫煙率の分散と調査回答率を利用して算出した。決定した抽出数を、地域ブロック別の生徒数にしたがって、わりふって地域ブロック別の抽出数を決定した。各地域ブロックにおける調査対象校の抽出は各校の生徒数にしたがって行なった。これは確率比例抽出といい、生徒数の大きい学校ほど抽出確率が高くなる抽出方法である。
・ 調査内容:調査内容は、過去に我が国や諸外国で行なわれた未成年者の飲酒行動に関する調査内容を参考にして決定した。飲酒頻度、初めての飲酒年齢については、アメリカ合衆国などの諸外国の調査と比較できるよう同一の基準を設けた。飲酒行動の関連要因として飲酒に関連のある疾病と出来事についての知識、飲酒は体に悪いと思うかどうか、未成年の飲酒禁止に対する意見、学校で飲酒と健康について教わった経験の有無、家族で未成年の飲酒について話したことがあるかどうか、家族や友人の飲酒状況、親とのコミュニケーションの量、親に飲酒を勧められたかどうか、親に酒を飲んでるところを見つかったことがあるかどうか、朝食の摂取頻度、ジュース・炭酸飲料・コーヒーまたは紅茶の摂取頻度、クラブ活動への参加状況、学校が楽しいかどうか、将来の希望進路、喫煙状況を尋ねた。
・ 調査手順:調査は各教室内で実施され、調査票の配布、回収は担任が行なった。生徒は自記式無記名の調査票を記入直後、糊付き封筒に調査票を封入した。
・ 集計解析:集計はSAS for Windows version 6.12(SAS Institute Inc. USA)で行なった。飲酒率など調査した項目の相対度数は、本調査の抽出方法にしたがって算出した。
・ 調査票回収状況:中学校は80校より回答があった(学校回答率65.6%)。地域ブロック別にみると回答率にばらつきがみられ、東北、北陸、四国で高く、近畿、北海道で低かった。高等学校は73校から回答があった(学校回答率67.0%;中学高校をあわせた学校回答率66.2%)。地域ブロック別にみると中学のような回答率のばらつきは認められなかった。調査票は117325通回収され、総合回答率は中学で64.1%、高校で62.5%、合計で63.0%であった。115814通を解析対象とした。
・ 飲酒状況:飲まないと回答したものの割合が男女とも学年とともに減少した。月1〜2回飲酒、週末ごとの飲酒および週数回の飲酒をするものの割合は男女とも学年に伴って増加した。週1回以上飲酒するものの割合は男子では中学1年で4.4%であったが、高校3年では16.8%にも上っていた。女子では、中学1年で3.1%であったのが高校3年では7.0%に上昇した。いずれも中学3年と高校1年の値の間に飲酒率の飛躍が認められた。男子は女子に比べ飲酒率が高い傾向にあった(表1)。月飲酒率(この30日に1日でも飲酒したものの割合)も、男子では学年があがるにつれ上昇する傾向にあった。女子では月飲酒者率が学年があがってむしろ減少する場合も認められた(表2)。
・ 飲酒機会:冠婚葬祭が高く、次いで家族と一緒のときが高かった。これは学年が低いときから経験率が高く学年があがってもさほど上昇しないが、「コンパなどで」、「居酒屋などで友達と」、「誰かの部屋で仲間と」飲んだとするものの割合は学年があがるにつれ急激に上昇した。飲酒機会別経験率の男女差は小さかった(表3)。
・ 飲酒量:学年があがるにつれ少量の飲酒をするものの割合が減少し、多量の飲酒をするものの割合が増加した(表4)。
・ 初めての飲酒年齢、初めて仲間と飲酒した年齢:初めての飲酒年齢をみると、12歳以下で経験しているものの割合が高かった。またおよそ2割は8歳以下で経験していた。仲間と初めて飲んだ年齢を累積経験率として表現すると、累積経験率が上昇するのが13−14歳と15−16歳の間であること、男女差がさほど認められないこと、現在学年が低いほど、同じ年齢での経験率が上昇して見えることがあきらかになった(表5)。
・ よく飲む酒の種類:中学1年男子の58%がビールを飲んでおり、その割合は学年があがるにつれ上昇し高校3年男子では77.5%であった。男子では果物味の甘い酒を飲むものがどの学年でも飲酒者の5割前後は認められた。また、強い酒を飲むものは男子では学年とともに増加し、高校3年では飲酒者の約2割に認められた。女子ではどの学年でも飲酒者の6〜7割以上のものが果物味の甘い酒を飲んでいた(表6)。
・ 酒の入手経路:中学1年では男女とも家にある酒を飲むものが多かった。その割合は学年があがってもほとんど増加しなかった。飲酒者数を分母にすると高校3年男子の飲酒者の6割強がコンビニエンスストアで酒を買っており、約4割が居酒屋などで飲んでることが明らかになった。これらは女子でもほとんど同様の割合であった(表7)。
・ 酒を飲んで失敗した経験:全生徒数を分母とすると、酒を飲んで失敗した経験は「吐いた」、「記憶が消えた」、「親にしかられた」の順に多かった。いずれも学年があがるにつれ割合が上昇した(表8)。「親にしかられた」者の割合は飲酒頻度が高くてもさほど高くないが、「けんか」および「警察沙汰」は飲酒頻度が最も高いグループできわめて高かった。
<考察>
・ 本調査はわが国では初めて中高生の飲酒行動に焦点を当てた全国調査であり、全国を代表するようなサンプリング方法を採用し、回答率もアメリカ合衆国の全国調査とほぼ同じレベルであった2,8,9)。過去のわが国における調査よりは中高生の飲酒実態に近いものであり、国際比較にも用いることができると考える。【研究の長所、短所】
・ 本調査の飲酒率は今までわが国で報告さてされている未成年飲酒に関する調査結果に比べると比較的低いほうに入る。月飲酒率は、1989年の調査4)に比べ、本調査の結果は中学男女1,2年で本調査の結果のほうが高く、その他の学年では本調査の結果の方が低かった。週1回以上の飲酒率は、主に高校生での調査結果しかなく、男子では先行研究より本結果の方がやや低く、女子では先行研究の中位の結果であった3,5,10−16)。本研究での飲酒率が比較的少なかったのは、今までの調査では抽出が任意に行なわれており、生徒の飲酒が問題になっている学校を調査対象するなどして標本が偏っていたことによるものと考えられる。また、月飲酒率の比較において、低学年での飲酒率が増加していることが示唆される。
・ 飲酒率は欧米の結果と比較すると決して低くはなく、アメリカ合衆国の調査結果とほぼ同レベルであることがわかった。わが国の週1回以上飲むものの割合はヨーロッパ諸国の週飲酒率の低い国のレベル18)相当である。月飲酒率はアメリカ合衆国での調査結果の中でも最も高い月飲酒率を示しているCDCのYouth Risk Behavior Survey2,8,9)と比較すると、男女とも本調査の結果の方が低かったが、学年があがるにつれ差が縮まる傾向があった。飲酒経験率は男女とも本調査結果の方がアメリカ合衆国での結果より高かった。わが国の中高生の飲酒率は、欧米と比較しても中位に位置し、学年があがるにつれ欧米の飲酒率との差も小さくなる傾向にあるといえる。
・ 本調査では累積飲酒経験率で見た場合、現在学年が低いほど同じ年齢での経験率が高い現象が認められたが、学年があがるほど思い出しのバイアスにより現在年齢に近い経験年齢を答える傾向にあることによる見かけ上の飲酒経験年齢の低年齢化であるといえる。したがって、わが国における飲酒経験の低年齢化を確かめるためには、今後このような全国調査を定期的に実施する必要がある。 ・ わが国の中高生の飲酒経験は冠婚葬祭での経験率が高く23)、しかも経験する人は中学生に入るまでにほぼ経験してしまっていたが、これがわが国の中高生の経験率が欧米より高い理由ではないかと考えられる。
・ 調査時の飲酒量が多いものほど飲酒開始年齢が低いことも明らかになり、問題飲酒の予防には仲間との飲酒を早くから経験しないことが重要と考えられた。
・ わが国の女子における甘い酒の流行は、抵抗なく飲酒を始めるのに一役買っている可能性があり、今後女子の飲酒がさらに広まる恐れがあるといえる。
・ 酒の入手経路は未成年者の喫煙者のタバコの主要な入手経路が自動販売機であったことと対照的で6)、かなりのものが対面販売の場で手に入れられてるし、未成年者が酒場で飲んでることも明らかとなった。これは酒を売る側の大人がもっと未成年飲酒に関心を持つ必要性を示唆している。 ・ わが国では未成年飲酒がかなり広まっていることが明らかになり、より低年齢からの飲酒防止教育の重要性が示唆される。この未成年飲酒を親などの周囲の大人や店や酒場の従業員が見逃してしまっていることが示唆され、大人たちへの未成年飲酒への関心の喚起も重要な課題であるといえる。
・ わが国の初めての全国的調査であった。【学校保健への寄与、私見】
・ 調査方法が細かく記載されており、イメージしやすいものとなっていた。
・ 飲酒行動の関連要因として飲酒に関連のある疾病と出来事についての知識、飲酒は体に悪いと思うかどうか、未成年の飲酒禁止に対する意見、学校で飲酒と健康について教わった経験の有無、家族で未成年の飲酒について話したことがあるかどうか、家族や友人の飲酒状況、親とのコミュニケーションの量、親に飲酒を勧められたかどうか、親に酒を飲んでるところを見つかったことがあるかどうか、朝食の摂取頻度、ジュース・炭酸飲料・コーヒーまたは紅茶の摂取頻度、クラブ活動への参加状況、学校が楽しいかどうか、将来の希望進路、喫煙状況を調査したことはおもしろいと思ったが、その部分の結果、考察が全くなかった。
・ 目的を達成しきれてない。
・ 結果に基づく考察が述べられてない。
未成年の飲酒について現在、大きく取り上げられてるとは感じられないが、生活習慣における飲酒の問題は重要視されているようである。今回、初の全国調査であるということで、現状報告という感じであったが、これは今後の指標として学校保健の分野でも重要なものとなってくると思いました。今後も定期的にこのような調査が行なわれれば、より問題点が浮かび上がってくるのではないかと思います。そして地域特性なども出せていければよりおもしろいものになるのではないかと思いました。研究の短所でも述べたように、飲酒行動の関連要因として飲酒に関連のある疾病と出来事についての知識、飲酒は体に悪いと思うかどうか、未成年の飲酒禁止に対する意見、学校で飲酒と健康について教わった経験の有無、家族で未成年の飲酒について話したことがあるかどうか、家族や友人の飲酒状況、親とのコミュニケーションの量、親に飲酒を勧められたかどうか、親に酒を飲んでるところを見つかったことがあるかどうか、朝食の摂取頻度、ジュース・炭酸飲料・コーヒーまたは紅茶の摂取頻度、クラブ活動への参加状況、学校が楽しいかどうか、将来の希望進路、喫煙状況などについての調査は非常に大切な部分であり、そこから健康教育、行動変容について考察されるべきではないかと思え、その部分の研究が今後進められる必要があると思いました。 「百薬の長」ともいわれるお酒についてどのように教育されていくのか難しいところでもあると感じました。