Self-Esteem and Value of Health as Determinants
of Adolescent Health Behavior
TORRES R.,LECTURER R.M.,et al
Journal of Adolescent Health,16:60-63,1995
報告者:永山 智子(学校保健学教室)
選定理由:
近年、わが国の学校における健康上の問題として、いじめ、不登校、非行、暴力、喫煙、飲酒、薬物といった様々なことが生じている。このような問題のいくつかは、子どもの現在そして将来の健康問題に深く関わっている。このような現状にある中、保健行動に影響を及ぼす要因としてどのようなものがあるかを知ることは、学校における保健教育の方法、内容を考える上で、また実施する上でも重要であると考えられ、この論文に興味がもてたため選定した。
先行研究レビュー:
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保健行動の分野における近年の研究は、個人的変数に焦点があわされた心理社会学的なアプローチが採用されている。
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Macgregor ID.,Regis D.,et al.Self-concept and dental health
behavior in adolescents.J-Clin-Periodontol,1997;24:335-339
2つの自己概念(セルフエスティーム、ヘルス・ローカス・オブ・コントロール)といくつかの歯科保健行動間の関連について調査・検討した結果、自己概念は、歯科保健行動の変容に重要な役割を演じることが示唆された。
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Abernathy TJ.,Massad L.,et al.The relationship between smoking
and self-esteem.Adolescence,1995;30:899-907
セルフエスティームが6〜8年生の思春期女子の喫煙行動における1つの要因となることを示唆しているが、男子とはどの学年においても関連がみられなかったと報告している。
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川畑徹朗:ライフスキルに基礎を置く食生活教育.健康教室, 1997;48:34-38
JKYB研究会による調査では、喫煙、食生活、運動等に関してより健康的な行動をとる子どもはセルフエスティームが高く、ストレスに積極的に対処する傾向にあることが分かっている。
要約:
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目的
思春期における個人特性と保健行動と実践間の関連を調査する。
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対象と方法
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12〜13歳(思春期初期のスペインの普通教育科目を受けている6年生)と、16〜17歳(思春期後期で、Spanish
Polyvalent Unified Bacchalaureateの1年生)の男女計100名の被験者を調査した。(表1)。
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使用した尺度は次のとおり。
Gordon Personal Profile(GPP);Self-Esteemを評価する。
Costaらによる健康価値測定尺度;健康価値を評価する。
保健行動質問紙;保健行動を評価する。
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セルフエスティームは、Gordon Personal Profile(GPP)の平均値によって評価された。これは、優勢(As)、責任(Re)、情緒的安定(Es)、および社交性(So)の4つの下位尺度からなる。この尺度の下位項目と性の比較による信頼性の評価の結果は、表2に示すとおり。
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健康価値は、Costaらの健康の異なる側面に関する5つの質問項目(身体の健康、気力と活力、体力、適正体重の管理、疾病への抵抗力)から構成される健康価値尺度の平均によって測定された。各質問項目は、「あなたにとって、〜はどの程度重要か」という形式になっており、「全然重要でない」(得点1)から、「とても重要である」(得点4)までの範囲の4つの選択肢が与えられている。
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保健行動は、Friskによって立案された類似した尺度を基にした、Rivas-Torresの保健行動質問の平均値によって評価された。これは、健康の6つの側面(栄養、個人の健康、精神的健康、薬物乱用、安全、社会的局面)を含む、31の質問よりなる。各々の項目は、個々の種類の行動の頻度について質問しており、5つの選択肢が与えられている。もし、その質問の行動が、健康にとって有益なら1点(全くない)から5点(とても頻繁にある)とし、有害であれば5点(全くない)から1点(とても頻繁にある)、健康にとって有害でも有益でもない中間であれば、1-3-5-3-1のパターンで得点する。(=得点が高いほど、健康と考えられる。)
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保健行動の各局面と保健行動の合計得点に及ぼす影響を決定するために、ステップワイズ法による回帰分析が用いられた。
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結果
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保健行動に最も寄与する要因の分散と標準化回帰係数は、表3に示すとおり。
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セルフエスティームは、精神保健行動(B=0.63、t=8.00、p<.0001)における分散の39%の割合を占め、社会的保健行動(
B=0.23、t=2.31、p<.03)における分散の5%と、保健行動の合計得点(B=0.50、t=5.70、p<.0001)における分散の25%の割合を占めた。
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健康価値は、安全行動(B=0. 37、t=3.90、p<.0002)における分散の13%と、個人の保健行動(
B=0.30、t=3.07、p<.003)における分散の9%の割合を占めた。セルフエスティームも健康価値も、薬物乱用または栄養得点に有意な影響を及ぼさなかった。
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2つの年齢集団のデータの個々の分析は、前に与えられた結果と同様な結果を生じており、表3に全ての標本を示した。
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男女別のデータの個々の分析は、どちらも同様な結果を生じた。;セルフエスティームは精神保健行動の主要な決定要因(R2=0.29、F(1,43)=17.26、B=0.53、t=4.15、p<.0002)であったのに対して、健康価値は安全行動(R2=0.16、F(1,43)=8.38、B=0.40、t=2.89、p<.006)と、個人的行動(R2=0.13、F(1,43)=6.31、B=0.36、t=2.51、p<.016)の主要な決定要因であった。
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考察
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本研究の結果は、セルフエスティームが精神保健行動(悲しみの回避、自分自身の感情のコントロール、自信の維持)の維持と、社会的側面(友達がいること、その人を心配する家族や先生がいること、尊敬する誰かがいること等)にとって有効であることを示している。
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健康価値は安全行動(医師の処方箋を守ること、シートベルトの着用、応急手当について知っていること)と、個人の保健行動(その人自身の血圧をモニタリングすること、確実に疾病の徴候について知っていること、医師または歯医者に、定期検診に行くこと)にとって、より重要であることが分かった。
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心理社会的変数のどちらも、栄養行動(栄養バランスのとれた食事の摂取、太りすぎまたはやせすぎている)または薬物使用(禁煙、禁酒、処方されてない一般的な薬の節制)における変数の合計の有意な割合を占めなかった。
本研究の長所、短所、問題点:
保健行動について、その質問の内容が健康にとって有益でも有害でもない中間的な行動であれば、5つの選択肢(全くない〜とても頻繁にある)を各々1-3-5-3-1のパターンで得点化を行うということだったが、なぜそのような得点化を行ったのかが分からなかった。
学校保健への寄与:
セルフエスティームまたは健康価値が、健康の様々な局面に影響を及ぼす行動に、影響を与えるという結果は、思春期を対象にした健康教育プログラムの立案の際に参考となると思われる。
私見:
昨年6月に発表された中央教育審議会のまとめ「21世紀を展望したわが国の教育の在り方」は、国際化・情報化など急速に変化する社会のなかで自ら学び、自ら考える力といった、個人が主体的・自律的に行動するための基本となる資質や能力を中核とする「生きる力」の育成が、これからの学校が目指すべき教育の基本であることを強調している。この「生きる力」はつまりライフスキル(対人関係スキル、意思決定や目標設定といった問題解決能力等)と解釈してよいかと考えられる。
本論文では、セルフエスティームや健康価値が、個人の保健行動の決定因となることが明らかになっているが、セルフエスティームや健康価値に注目した健康教育を考えることがライフスキルを高め、より良く問題を解決する能力を身につける「生きる力」の育成となるのではないかと考えられる。
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