中学生における薬物使用経験・未経験者の心理社会的要因
呉鶴、川田智恵子 他
学校保健研究 37;1995;210-219
発表者:永山 智子(学校保健学教室)
選定理由:
近年、少年の覚醒剤等の薬物に関係した事件が、新聞で報道されることが多くなっている。検挙された者の中には、「覚醒剤はダイエットに効く」、眠くならないので受験勉強に有利」など誤った知識が浸透しており、これが乱用を誘発している例もみられ、学校における薬物乱用防止に関する指導の必要性が強く指摘されてきている。
この問題は文部省でも取り上げられ、「家庭、地域や警察庁との連携を深めて、薬物乱用に対処したい」として、学校での薬物乱用の防止教育を小学校3年生に繰り上げて行おうとする新しい方針なども伝えられている。そこで、薬物乱用の防止教育を行うためにもその関連要因について知る必要があると感じ、興味がもてたのでこの論文を選定した。
先行研究レビュー:
これまでの薬物乱用に関する研究は、人格の問題や薬物依存・中毒あるいは予後のような臨床的側面から行われ、薬物乱用依存者として精神科病院や特殊な強制施設に入居しているものを対象とした症例報告や事例研究がほとんどである。
薬物乱用者の家族には一体感があまりない、1.争いや暴力が多い、2.家族でのしつけが厳しすぎる、3.放任家族、崩壊家族が多い、4.社会的支援の一つとしての家族の援助的関係が弱いこと等が指摘されている。また、青少年の薬物乱用の背景として、1.学校生活への不満や不適応、2.自己評価が低い、3.薬物に関する認知度が高いことなどが各々の要因に関して、部分的には明らかになってきている。
有機溶剤使用の開始時期は、中学校2年生が最も多いことが報告されているが、その時期にある一般生徒を対象とした研究はほとんどされていない。
薬物乱用は、一般的に有機溶剤から覚醒剤などのHard Drugへ移行する傾向が強い。従って、薬物開始時期にある中学生を対象とした薬物使用者の心理社会的要因を明らかにすることは、薬物乱用の防止にも重要であることが考えられる。
要約:
<目的>
心理社会的要因に関する各尺度の信頼性を検討する
検討した尺度を用いて、シンナーなどの薬物使用経験・未経験者の心理社会的要因を比較し、今後の薬物乱用予防教育への手がかりを得る
<対象と方法>
対象
東京都内の公立中学校4校の生徒964名中、有効回答の得られた894名
方法
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薬物の使用経験について、「これまでにシンナーなどの薬物を吸ったことがありますか」に、「はい」と答えたものを薬物使用経験者とした。
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心理社会的要因の測定について、家族環境とSelf-Esteemについては、すでに尺度化され日本語で標準化されたものを用いた。その他の要因については独自に質問項目を設け分析し、尺度化を行った。(いずれも、単純集計で無回答が多い項目および項目間のピアソンの相関係数の絶対値が0.2.以下の低い項目を除いた。)
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各尺度間の相関を検討し、薬物使用経験と関連要因を総体的に解釈するため、多重ロジスティック回帰分析を行った。
<結果>
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心理社会的要因の尺度化
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家族の支援、学校生活、友人関係および薬物使用の危険性について因子分析した結果は、表2〜5のとおり。
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薬物使用経験者の特徴
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薬物使用経験者率;回答者897名中、男子19人(4.1%)、女子5人(1.2%)、合計24人(2.7%)
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薬物使用関連要因の分析;各尺度間の相関係数を検討した結果、「凝集性」は「組織性」と「家族の精神的な支援度」の間で強い相関が認められたため、「凝集性」の項目は「組織性」または「家族の精神的な支援度」とかなり類似なものであると考え、「凝集性」は除いた。
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ロジスティック回帰分析を行った結果は、表8に示すとおり。
<結論>
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尺度の信頼性
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「家族の精神的な支援度」「校内・外友人との親密度」尺度の内的整合性については各々のα係数が0.85、0.82であり、十分信頼性を満たしていると考えられた。
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「規則遵守度」「先生についての不満度」「薬物使用の危険性認識度」についてのα係数は0.6台で低かったが、構成された項目数の少なさを考慮すると、ある程度信頼性を満たしていると考えられた。
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尺度の信頼性だけでなく、妥当性の検討も行う必要がある。また、信頼性の低い尺度についての項目を修正し、改定することが課題である。
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薬物使用経験者の特徴
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薬物使用経験者率
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本研究での男女の薬物使用経験率は、千葉県で行われた他の研究の調査結果と比べ、大きな差がなかったので、薬物使用経験者・未経験者の比較をするのに妥当と判断した。
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薬物使用経験に関する心理社会的要因と薬物乱用の予防のあり方
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家族環境は「葛藤性」が有意な正の関連、「管理性」と「家族の精神的な支援度」が有意な負の関連を示した。このことより、薬物使用経験者の方が家族内でのコミュニケーションに問題があり、家族内の絆が弱いことが考えられた。また、薬物使用経験者の校外友人関係の親密度が強く見られたことから、家族と校外の友人関係が薬物乱用の重要な関連要因であると考えられる。
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学校生活と薬物使用経験の関連が認められなかったのは、他の変数の影響をコントロールしながら分析したため、また、研究対象が一般生徒であるため、薬物乱用まで至らない時点では学校生活にあまり差が見られないと考えられた。
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「薬物使用の危険性認知度」は、有意な負の関連がみられ、先行研究の結果と逆であった。これは、本研究の対象者は必ずしも全員が乱用に至っておらず、他の乱用者からの情報が少ないと見られるのに対し、先行研究が薬物乱用者を対象としたため仲間同士の情報交換によって、薬物の害についてよく認知することができ差が生じたと推測された。
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以上のことから、薬物乱用に至る前に薬物に対する正しい認識を高め、仲間から誘われても断れる教育の実施、家族の問題を改善する介入、さらに家族から見放された場合に彼らを受け入れる学校環境作りや好ましい友人関係作りについて考慮する必要があると考えられた。
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意見:
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この研究の特徴は、家族環境、学校生活、校内・外の友人関係、本人の価値観に関する関連要因を一斉に投入し、性・学年をコントロールしながら、薬物使用開始時期にある一般生徒の薬物使用経験の関連要因を総体的に把握していることと述べられている。水澤1)は、薬物乱用に至る動機として、1.仲間に勧められ断りにくい、2.興味本位、3.退屈、暇だから、4.家が面白くない、5.ストレス解消のため等をあげている。しかし、調査内容にはストレスに関する項目が含まれておらず、関連要因を相対的に把握しているといえるか疑問である。
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後ろ向き研究であるため、影響要因についての因果関係が明らかにできない点で限界がある。
学校保健への寄与:
薬物乱用の背景に家族間の問題、友人関係、薬物の害に対する認識の低さがあることが分かった。
薬物乱用の予防のためには、早い時期に薬物についての危険性を教育する必要がある。
薬物乱用の指導において、薬物の害や影響を教えると同時に、コミュニケーションスキルやセルフエスティームを高める指導を取りいれていくことが重要である。
<文献>
1)水澤都加佐:わが国における薬物教育の現状と問題点,保健の科学,39(12),828-831,1997
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