中学生の精神的健康とライフスタイルの地域特性について
―因子分析を用いた検討―
佐藤昭三、竹内一夫
学校保健学研究 38 ; 1996 ; 48-58
発表者:大島知恵(学校保健学教室)
発表日:平成11年5月27日
選定理由:
近年、学校の現場では不登校やいじめをはじめ犯罪にいたるまで様々な問題が起こっており、これらの原因の多くは心の問題である。最近の子ども達は、勉強や友人関係等学校生活を送る中で色々なストレスに囲まれていると言われている。しかし、実際の学校で児童生徒の精神的健康を客観的なデータで把握しているところは少ない様に思われる。そこで、これらを測定するための尺度作成の手順を学び、私が将来学校の現場で活用できる様になるためにこの論文を選定した。
先行研究レビュー:
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児童生徒の疲労自覚症状の訴える率や、自覚的うつ状態とライフスタイルには関連が大きく、児童生徒は様々なストレスを感じている。
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普通の生活をしていると思われる中学生徒とって、親、友人、及び教師との関係や成績ならびに将来などが中学生とのストレス源として大きな意味を持っていた。
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これまでの研究は必ずしも学校別、地域別に具体的、個別的な問題点を把握し、対策につなげることを目的としてなされたものではなかった。
要約:
<目的>
特定の学校や地域における中学生の精神的な健康特性が、標準集団の中でどのように偏っているかについて、因子分析を経て尺度を構成し、検討する。
<対象>
農村部(365人)、小都市部(400人)、中都市部(166人)、大都市部(356人)の計1287人
<方法>家庭及び学校生活と健康についての59項目の質問からなる多肢選択、無記名、自記式の質問紙を実施。
1.因子分析と尺度の構成…Yes Response RateとTotal Yes
Responseを検討し、尺度の構成に不適当と考えられる質問項目と回答者を除去し、分析にはバリマックス回転を用い、分析を繰り返し明確な因子構造を求めて仮の尺度を作成。
<結果>
1.因子分析に使用する質問項目と対象者の選択
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Yes Response Rateが20%以下の項目は除外した。
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Total Yes Response基準を59問中の5未満とし、48人は除外した。(対象者1239人)
2.因子分析と解釈、尺度の構成
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固有値が1以上の因子は9個あった。
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因子負荷量の絶対値が0.3未満の項目を除いた。
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抽出する因子数を3〜12までに変化させて、因子分析を繰り返したところ5個の因子が抽出された。
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抽出された因子は、A尺度「心身の不調感」、B尺度「部活動過剰」、C尺度「友達重視」、D尺度「勉強の悩み」、E尺度「学校嫌い」と解釈された。
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5つの尺度は20項目を必要とした。
3.尺度の信頼性の検証
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クロンバックα信頼係数は、A尺度0.63、B尺度0.67、C尺度0.67、D尺度0.62、およびE尺度0.68で、最低基準の0.5を越えていた。
4.尺度間の相関と尺度間の因子分析
5.各尺度の得点分布と標準化
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各尺度の得点分布に応じて、対応するパーセンタイル値を決定した。
6.各尺度得点値の地域差
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男女とも「部活動過剰」、「勉強の悩み」は農村が、その他の地域より高かった。
7.尺度の妥当性の検討
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農村の学校は、部活動の盛んな学校が多く含まれ、農村部における「部活動過剰」「勉強の悩み」のパーセンタイル値が高かったことから、これらの尺度が示すプロフィールは地域の実情と良く一致しており内容的妥当性には問題ないことが判断された。
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全体の正判別率は、72.32%であり、これらの尺度は中学生徒の農村型、都市型の精神的健康とライフスタイルを判別する上で十分妥当性があると考えられた。
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<考察>
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新しい尺度を用いることによって、精神的健康とライフスタイルの一部を5つの軸で整理して呈示することが可能になった。すなわち、中学生徒の学校における勉強、友人関係、部活動などを背景として、学校への心理的愛着と心身のダイナミックに変化する思春期に潜在する心の内面に、より構造的に触れることができたと思われる。
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農村部の中学校では、行き過ぎた部活動が生徒の心の負担にかなり影響していることが示唆された。
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この調査票は、将来学校の地域特性の評価や、リスクグループの検出、さらには個人や集団への行動学的援助に向けて役立てることも可能であると考えられる。
意見:
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各地域間の比較をすることによりその地域の特性を把握することはできるが、各尺度得点の判定基準のようなものがないと実際の学校では活用しにくいのではないか。
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この研究で用いられた尺度は、20項目5尺度で、ライフスタイル別の精神的健康度を測定できるが、この「精神的健康」というが漠然としているため、個人に対して実施する場合は具体的な症状が把握できるような別の尺度も併用すると有用性が高まるのではないか。
学校保健への寄与:
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精神的に不安定といわれている中学生にこの調査票を用いることによって、精神的健康度を客観的に把握することができる。
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各集団の特性を多面的にまた定量的に把握することがこの調査により可能であるので、適切な対応につながる。
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この論文より、尺度を作成し検証する際の手順を学び、実際の学校現場で活用することができる。
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