Promoting
adolescent mental health in primary care
A review of the literature
Zoo Walker and Joy Townsend
Journal of Adolescence 21;621-634;1998
報告者:福本 利江子(臨床心理学教室)
選定理由:
思春期は、身体的には健康な時期であるが、反面、精神面は色々な問題を抱えてしまうことが多い。身体の成長が大きいが、心理面での発達ははそれに追いつけず、友人関係・親子関係・将来について等多々の悩みや、ストレスが現れてきやすい時期であると考えられる。しかしこの時期に、日本においても、思春期の心理を援助する機関が少ない状態である。最近やっと学校カウンセラーが発足し、各校に配置されはじめた段階であるが、まだまだ充分とはいえない状況てある。今回、この論文を通して、思春期における精神的健康の大切さ、また早期ケアの大切さを学び、学校保健にも役立てたいと思い、本論文を選定する事となった。
要約:
<目的>
思春期においては、15%というかなりの高率で心理的障害を抱えている人がいるが、充分なケアをこの時期におこなっていないと、成人になった後にも悪影響を及ぼすことになる。『小児期や思春期のメンタルヘルスを改善することは、将来に先人となった暁にもよい結果を及ぼす』という視点より、早期の発見と治療が思春期の人々のメンタルヘルス上の問題を改善させることが可能であるという点ではフライマリーケアが有効であるという仮説を、過去の論文ではどの程度評価されているかを調べることである。
<方法>
『adolescent health
promotion』『mental health in primary care』をキーワードとして、1990年1月から1997年2月までの期間に発表された論文をMedline,BIDS,SIGLE,Psychlit
databaseを用いて検索した。
<結果>
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思春期に行為障害を有しているものが後に精神科に入院したり、アルコールや薬物乱用を起こす傾向がたかいことが示された
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思春期に抑鬱状態が遅延すれば、女性ではトランキライザー(精神安定剤)の使用が増加し、全体では、突拍子もない行動等が増加する・思春期に重度の鬱や不安症を経験すると後に薬物を乱用する確率が2倍にあがり、やがては、自殺や、自殺未遂や自殺企図と深い関連性をもつという報告がある
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喫煙者は非喫煙者に比較して重症の鬱状態に陥りやすく、また禁煙できないものは一生涯において鬱に悩まされる可能性が、禁煙できたものよりも高いと報告されている。
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思春期には妊娠するかもしれないという可能性を過少評価する傾向にあり、パートナーとコンドームの使用や購入に関して相談することを嫌がり妊娠してしまうことが多い
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スポーツに参加しているものは思春期に鬱状態に陥ったり、危険な行為を起こす傾向が少なく、またスポーツに参加することによって、抑鬱状態の程度が改善する。しかし過度の減量やダイエットに対する関心が不健康につながることは論をたたない
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思春期にはいろいろな状況を認識する能力の発達がふや遅れがちであるということを念頭において危険な行動や健康面に影響を与える行為についてアドバイスを与えるとよい。調査結果では危険因子に対する一般的な知識レベルは高いが、これに対処する行動はそのレベルに達していないとういことが示唆されている。
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十代の喫煙者は非喫煙者に比較して事故抑制能力が有為に低く、自分の健康面や生命もなおざりにしている。米国の調査では高校生の21%は飲酒に苦難を感じており、7%が薬物使用に苦渋感をもっている。自分自身の行動を自制することができる信念を強めることが健康促進プログラムにおいては重要である。
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思春期のメンタルヘルスの促進は、思春期のクオリティライフを改善するためだけではなく、多くの面での健康を害する行為を予防するために有用である。
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初期予防はメンタルヘルス面では危険因子を軽減したり、物事に対処する能力を高めることが可能である。しかし思春期のメンタルヘルスの初期ケアにおいて、このような初期的予防策の存在は過去には報告されていない。
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初期段階において鬱状態の予防は実行可能でありまた鬱状態の症状は少なくとも成人においてはリスクの高いグループでも軽減できることが示唆される。しかしこのような介入は、若年者では行われていない。
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包括的ストレスに対する介入の目的は、社会問題を解決したり、生活上のストレスにうまく対処する能力を高めるための基盤を発達させることである。これは通常3段階で行われている。@ストレスの源を見極めること A精神上のそして身体上の結果を認識すること B物事に対処する反応を実行すること、の3段階である。
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思春期にもっともよくみられるストレス源に焦点を当てた2つの有効なプログラムが報告されている。一つでは、物事に対処する精神的な技術や自己の能力を認知することが改善され、その結果としてストレスに対する感受性が低下し、情動失禁や感情的行動に移る割合が減ったと報告されている。またもう一つでは、十代の者が社会的問題を解決する能力が改善され、誤った行動に対する自己報告件数が減少している。
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薬物乱用に対する情報やそれに抵抗する技術を提供し、個人的適応能力を高める試みを行った。その結果参加者は喫煙や飲酒、更にマリファナの乱用を起こす傾向が減った。
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親の離婚や死別といった急性のストレスに対処する手助けを目的とした介入に関する論文の集計では、米国の学校での両親が離婚した生徒に対するプログラムでは、2週間後には参加した子供たちは内向性が減り、社会性も十分にてりはじめたという結果がでている。家族との死別した子供に対するプログラムでも、鬱症状の改善と行動異常が改善している。
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両親が鬱状態におかれている子供は特に危険率が高いとされているにも関わらずこのような思春期の慢性ストレスに対処する能力を手助けずくプログラムは少ない現状である。 ある医師が、このような状況の子供への自己理解を促進する心理的教育的介入を開発したが、フォローの期間が短いために明らかな結果が得られていない。
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鬱状態のスクリーニングとして、取り急ぎ吟味が必要な場合はHEADSS(家庭では両親と話をします?,成績については?,友人関係について?,薬は使っていますか?,性行動は?,自殺について?)なる簡易式の質問が用意されている。
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若者の自殺未遂社の3分の2はDMS−Vのクライテリアに相当する重度の鬱状態のエピソードを有しているが、自殺企図をもっている者のうち実際に行動に移すものは20%以下である。
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思春期の自殺の最も重要な危険因子は以前の自殺未遂歴である。自殺による死亡者の40%以上は以前に自殺未遂を侵していた。自殺で死亡した患者は自殺の少し前に彼らの担当医を訪問する傾向があり、結果的には担当医の精神医学上の知識のさらなる向上や診察能力があがれば、いくらかの自殺は未然に防ぐことが可能であると思われる。
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スイスで開催されたGP(思春期の自殺企図を結う銑人々を理解,調査しうまく指導するという重要な役割をもつ)の国際会議ではGPによるトレーニングの介入後には鬱状態の自殺者数が統計学的に有為に減少した。鬱状態を早期に察して、適切に治療することは自殺を予防するためには必須である。
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鬱の治療は、カウンセリング,心理療法,薬物治療等からなる。思春期においては、薬剤の有効性は示唆されなかった。この薬に副作用を考えれば、新世代のセロトニン作動性の薬剤の効果を家族療法とか心理療法をも加味した形での検討が待たれる。多くの調査でのプラセボ群の高い反応率を省みれば、思春期は特別な治療法を用意しなくても、入院,ストレス源の除去,治療計画をたてること等の単純な戦略のみで鬱状態が改善する可能性をひめた時期であろう。
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思春期の心的患者に精神科医の処方/臨床心理者による認知行動療法/ソーシャルワーカーによるカウンセリングや症例調査/GPによるルーチンの治療をおこなってみると、心理療法をのぞく全ての治療群で鬱は改善した。特にソーシャルワーカーによるカウンセリング群では患者からの評価が高かった。又慢性の不安症や鬱を対象としたビデオや教科書からなる自習タイプの治療キットの有効性が報告されている。
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思春期に対するプライマリーケアは、その研修を受ける思春期の年代の特徴にうまくマッチする必要がある。環境因子ではなく、個々の行動変化にのみ捕らわれているプログラムは成功する率が低い。またプライマリケアの施設を訪れる思春期の訪問者たちが施設に対してもっとも求めることは信頼性であると述べられている電話でのアドバイスが二番目に要求され、紙面出の情報はそれに続く。
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思春期の時期から彼らの健康問題に介入すればまた生活様式の一部として確率する以前に健康を損なうような不利益な行為の発生や将来への継続を阻止できる可能性がある。
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学校を卒業した青年達の大半がヘルスサービスとは連絡を取っていることを報告している。例えば未婚の親や、学校を卒業しても就業についてない者たちにとって、フライマリヘルスサービスは個人的なアドバイスや健康に関する教育をうけるにはうってつけの環境であるとされている。
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思春期には明らかな身体上の異常をきたして診察室へくるものの、心の問題は隠れて見えないことが多いようである。GPたちは容易に若者から健康上の問題をひきだせるようなコミュニケーション技術を磨く必要がある。
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もっとも援助を必要としている者たちが最もそれを探そうとしないということがある。プライマリケアでの健康チェックに出席していないものをひろいだし彼らが診察室に訪れたときは、十分に吟味し、あるいはおとずれないときには、彼らに健康チェックの必要性を説明できる体制を整えなければならない。
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<結論>
思春期にはかなりの高率にメンタルヘルス上の問題を経験しており、健康を損ねるような行動や将来の人生に悪影響を与える問題と密接に関連している。学校行事内での潜在的なプログラムは存在するが、実際にはプライマリケアにおける、十代に対する初期的予防プログラムの報告例はない。思春期におげくメンタルヘルス上の問題の治療法に関しては、更に研究が必要である。成人においては、心理学的な或いは、問題解決療法が有効であった。これに反して思春期にはプラセボでの反応がかなり高く、問題点を認識したり、討論したりする過程自体が治療法の一環になる可能性が示唆された。プライマリケアは思春期のメンタルヘルス上の問題を未然に防ぎ、また生じた場合は、詳細を明らかにする役割が重要である。
意見及び学校保健への寄与について:
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この論文を通して、思春期には心理的な問題を抱えている率が非常に高く、思春期におけるプライマリケアの大切さを再認識することができた。
また常に保健指導時に感じていたことであるが、知識のみでなく、価値観の変容をすることにより、自主的な健康実践をおこなうことができるのではないかと考えていた。
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そして、この論文の中では、思春期のメンタルな部分での健康を維持することが、強いては身体面での健康を守ることができることや又、自分自身の行動を自制することができる信念を強めることが健康促進上大切であることが書かれてある。
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思春期において、鬱状態を経験することにより、薬物乱用や、喫煙との関連があることやまた性に対するとらえ方をみてみても、思春期における、メンタルヘルスの大切さはと同時に、やはり、薬物乱用防止や喫煙予防或いは性教育の大切さを再認識させられた。
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この時期の心理面の健康は将来の心身の健康に繋がり、そして、薬物乱用や、喫煙等にも関わりが深いことを考慮する必要があると考えられる。
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保健室においては、心的ストレスや悩み事のある生徒との関わりはあるが、またまだ十分であるとはいえない状態である。学校カウンセラーの一校一人の常勤配置の必要性が感じられる。又ストレス対処法や社会問題に対する解決法等のスキルや、セルフヘルプ等のスキルを子供たちに伝えて、症状を有する生徒のみでなく、より健康になるための一般生徒達への心理的アプローチが大切であないかと今回の論文を通して感じた。
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思春期においては、鬱における治療としては、プラセボ効果が高く、ストレスの除去やカウンセリングの効果が高いことが分かったので、これからの保健室での相談活動にも、この結果を取り入れていきたいと考えている。学校は、思春期の生徒たちのメンタルヘルスを把握しやすく、プライマリケアを行ないやすい場であるといえる。しかし現実には、それらのプログラムはまだまだ開発されてなく、ほとんど対応できていない状態である。生徒たちのカウンセリング及びコミュニケーションスキル教育の必要性を感じ学校保健においてもこれから力を入れて実施していきたいと考えている。
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