琉球大学の留学生の社会・心理的ストレスと不適応に対する評価(調査)
Maxine Randall 他
Psychiatry and Clinical Neurosciences
52;289-298;1998
報告者:李 連煕(臨床心理学教室)
選定理由:
現在、日本には海外から多くの留学生が来ている。もちろん、沖縄にも今は、外国人の姿が珍しくもないように増えている。それに従って、留学生の適応に関する研究は増えている。本論文は琉球大学の現状を明らかにするものだと思ったため、今後の研究に参 考にしたいと思い、選定した。
先行研究レビュー:
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現在、外国人留学生の適応に関する予防と早期治療に関する研究はなされていない。特に日本での留学生に関する本格的な研究はつい最近である。
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本研究は留学生の文化的な面でもずいぶん多様性を持っているため、一般化する統計的な分析より、臨床人類学的な立場で研究を進めた。
要約:
<研究目的>
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琉球大学の留学生が直面している問題についての幅広い調査をすることと、学業過程での個人の主なストレッサーとストレスレベルをはっきりすることにする。
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現状の把握をし、早期的な予防対策を模索することが目的である。
<研究方法>
1.自己報告、自己評価法、アンケート(筆者が4年間相談した内容に基づいたもの)
言語は英語、格項目に易しい日本語とスペイン語で上付きをした。
2.カテゴリー(質問領域)
言語、日常生活、学習(学習目的の達成に関する満足度、人間関係の難しさ等)、人間関係の難しさ(学習以外の)、私生活、健康、琉大に入った動機、日本人に対する印象、フェースシート
3.自己評価法のLikert-type尺度を使用
4.健康評価のため、GHQの英語版30項目を使用
5.1994年2月に調査、29カ国の134人
<結果>
表1.出身地域(アジア地域73.1%、中国以外のアジア地域39.5%,中国。台湾33.6%)
性別 (男性 56.7%、女性 40.3%)
年令 (18-29才 72.4%)
表2.身体的な健康状態が沖縄に来て悪くなった(p≦0.05)
表3.沖縄に来てからの精神的な問題について
時々落ち込むときがあると答えた人が39.6%
問題を相談するときは友達をが39.6%
表4.本国では誰と相談したかについては
表5.地域・時期別のGHQ得点
表6.来沖して6ヶ月になった時のストレスレベルに関する自己報告
学習領域では学習目的を果たせないが57.5%
大学での人間関係が27.6%
個人的・社会的・日常生活の問題の領域では
家族・友達・職場での寂しいが47..8%
社会生活が少ないが41.1%
日本での目標が達成できなくて帰国さた場合、
言語の領域では
社会で学習をするとき、言語能力が不足していると思うが36.1%
表7.学習目的に関するストレス原因について
言葉の問題あるが55.2%
研究室・図書館での参考資料が少ないが34.3%
日本人の研究方法になれないが32.1%
指導教官・アドバイザーの指導が不足しているが26.9%
長期間の研究と休日が少ないため、長期的な疲労に悩むが26.1%
表8.大学での人間関係に関する項目
指導教官・アドバイザーとの関係について
私の学業の能力を認めてくれないが14.9%
私の研究に指導教官が感心がないが13.8%
日本の文化に従わないと避難されるが12.7%
日本人学生との関係について
私の文化の価値を尊重してくらないが12.7%
日本の文化に従わないと避難されるが11.9%
外国人学生との関係について
私の文化の価値を尊重してくれないが9.7%
他の人に私の悪口を言うが7.5%
図1.60%の学生が時間がたつにつれ、ストレスはだんだん減るが、時間が経過するにつれ、だんだん減
少するが、ストレスレベルは高い方である。
図2.時期によるストレスの変化とストレス領域緊張・不安領域とうつ・絶望領域が多くを示す。
図3、4.地域と時期別のストレスの変化
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<考察>
1.各地域の留学生のストレス原因の特性
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中国・台湾の留学生は時間が経るにつれ少しずつ減少するが、相変わらず高いストレスレベルを持っている。問題は解決されていないままだと思われる。
←中国の留学生は相談事があったら家族や親戚に相談するか我慢するように思われる。実際にカウンセラーの所にはあまり来談しない
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中国以外のアジア地域の留学生は来日して1ヶ月になるとき、不安と心配の領域で一番ストレスレベルが高いが、時間か経つにつれ大幅に下がっていた。←多分この地域の留学生は漢字が理解できない文化圏が多いため、最初来日したときは、大変混乱に陥ると思われる。が、時間が経過するにつれて語学が上達し、ストレスもだんだん減少すると思われる。
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南米の留学生は時間が立つにつれて少しずつストレスレベルが高まっている。←留学生の大部分が日系2,3世で自信のアイデンティティの問題を抱えている。日本に来る前の期待と来てからのギャップが大きいことと、日本にいる親戚たちの対応などのため、戸惑いを感じていると思われる。
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アフリカ・中近東、北米・ヨーロッパの場合、時間が経るにつれ不満と緊張のストレスレベルが高まる。←人種や民族のための差別があるのではないかと思われる。
2.分野ごとのストレスの原因
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言語の問題
学習の面で一番大きいストレス源になっている。
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人間関係の問題
指導教授の指導不足、日本人学生の関心の不足、留学生の文化に関する関心と理解があまりない。
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留学生の個人的な問題についてのサポートが適切ではないことが指摘されている。
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留学生の来日した動機とも関係がある。
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個人・社会・日常生活で一番ストレスレベルが高かったのは家族・友達・職場から離れたため感じる寂しさと社会活動があまりできないことを指摘している。←ソーシャル・サポートが増えたら良くなると思われる。
3.予防戦略とサポートのための方策
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いつも会っている人たち(指導教官・研究室の日本人学生など)からのサポートが大事だと思われる。日本では家族のようなサポートは受けることはできないため、その代わり、一番近くにいる人たちのサポートが重要視される。
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留学生は自国文化と日本の文化の差をもっと理解する訓練が必要で、日本人も外国人の文化についての理解を深める必要がある。
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留学生の問題が深刻になる前に早期発見し、対処することが必要である。
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専門カウンセラーと医療機関との協力が必要である。予防戦略としていろいろなプログラムの開発が必要である。
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身体的なサポートだけではなく心理的なサポートも大事である。
本研究の長所と寄与について:
本研究は統計的な方法を通して一般化はされていないが、幅広く留学生のストレス源を調査している。著者の4年間のカウンセリングの経験に基づいて作った項目を中心にして調査をしているので信頼できると思われる。
留学生をサポートするにはいろいろな観点から適切なサポートが必要である。この研究を参考に留学生がサポートを受けたときの満足感と日本人が留学生をサポートしたときの状況を調べたい。サポートをする側と受ける側の状況を調べ、比較し、適切なサポートや交流のためにはどうすればいいのかの方法などを考えてみたい。
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