韓国における高校生のストレス反応の性差、学校差、学年差
---ストレス反応尺度の構成とその適応---
林 姫辰、衛踏 隆
学校保健学研究40;1998;397-410
発表者:李連煕(臨床心理学教室)
発表日:平成11年6月24日
選定理由:
韓国の高校生は受験戦争とも言われるくらいの教育熱の高い社会で学習しているため、当然ストレスは高いと思われる。そのストレスの要因と反応を知るのは大変興味深くて、その対策方も知りたいものである。私自身、受験戦 争を経験した一人として今の高校生と比較してみたい素朴な気持ちもあったため、この論文を選定した。
研究背景:
青少年期は自我意識が形成されるので、情緒的に不安定になる。その上、進学競争、授業の高度化等の学業ストレスも多くなり、現在、青少年の非行は増えている。韓国の青少年は教育熱の高い社会で学業ストレスをかなり感じていると思われる。今こそ韓国では健康教育が必要とされ、健康状態を評価する尺度は必要である。
研究目的:
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健康教育の第1段階としてストレス反応をあげ、評価尺度を構成する。
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対象者の実態を把握し、特性によるストレス反応の差を検討する。
研究方法:
<予備調査 >
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自由記述:高校生1,201人(男子581,女子620)→1,196件(回収率99.6%)
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過去のストレスに関する研究を参考に93項目の調査表を作成
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身体的・精神的健康状態を4段階で評定
平均値、標準偏差、反応率、相関、因子分析(斜交因子回転法)
寄与率(主軸法)、α係数(Cronbach)、3元配置の分散分析(ANOVA)
パーセンタイル順位、T得点の算出
<研究対象>
ソウル市内の男子進学校、就職校(528人)、女子進学校、就職校(663人)合計1,191人(1,188人、回収率
99.7%)、有効回答が1,041人
<研究時期> 1995年10月〜11月
<研究結果>
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ストレス反応尺度の構成
1、ストレス反応尺度の構成←表1参照
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93項目の中、女子の生理不順、生理痛の二つの項目を除いた91項目から21因子を得る(←OBLIMIN回転、寄与率63.9%)
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生理不順、生理痛の2項目を一つの尺度にする。
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上の22の下位尺度は65項目からなる。
2、ストレス反応の尺度と下位尺度←図2参照
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「月経」以外の21下位尺度の因子分析の結果、精神的・身体的反応、抵抗力の低下の3つの因子が得られた。(固有値1.0以上、全因子の寄与率52.0%)
3ストレス反応の個人評価表の作成←図3参照
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パーセンタイル順位、T得点を用意
←尺度得点と総合得点の評価のための基準値
←教育現場で生徒が自分のプロフィールを書けるような用紙
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ストレス反応の性差、学校差、学年差
1、全体的にストレス反応は女子>男子、進学校>就職校の傾向
2、具体的に女子進学校>女子就職校>男子進学校>男子就職校の順に大きい。
3、精神的反応:性、学校、学年(←総合作用に有意差はなかった。)
身体的反応:頭髪ー学校、学年間/性、学年間
目 ー性、学校間/学校、学年間 (←有意差がある)
疲労ー学校、学年間
抵抗力の低下:鼻、のど、風邪の症状ー性、学校間
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<考察>
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ストレス反応尺度について
1、先行研究
嶋田ら:PSRSから24項目を選び、小学生用にした。(α=.71〜.83)
岡安ら:PSRSから45項目を選び、中学生用にした。(α=.84〜.90)
河野ら:KMI項目から45項目を選び、中学生用にした。
新 名:従来のストレス反応尺度は研究者がストレスの項目を選ぶため、尺度に妥当性がないと主張している。(α=.65〜.93)
2、上に述べたようにストレスに関する研究は進んでいるが、高校生のための固有の尺度はない。その点を考え、今回の調査 をしたのである。
3、高校生に自分のストレスを自由記述してもらい、研究者の関与をなるべく防いで「集中困難」という固有の尺度が得ら れた。そして、従来使われているCMIに多く似ている尺度が得られたのは心強い。
4、この尺度はストレスの長期的な影響である身体的な反応も評価できた。(←PSRSはストレスの身体的な反応の評価まで はしていない)
5、2次因子分析を通して精神的反応、身体的反応、抵抗力の低下の3因子が得られた。(←2次因子分析を適応した例: 青木らのTHI,健康調査、影山THI、女子高校生)
6、各尺度ごとにパーセンタイル順位、T得点による個人評価基準表の作成
←学生自身が自分のストレス状態に気付き、ストレスに関する健康教育の教材として利用できる。
ストレス反応の性差、学校差、学年差について
1、ストレス反応が高いのは女性>男性
←高倉ら、岡安ら、嶋田と同じ結果
理由:佐藤ら ― 男女の差があるため
荒木 ― 女性は不安の表現が大きいため
岡安ら ― 女性の方が不安反応、抑うつ、無気感、身体的反応が大きいため
2、鼻、のどの症状が多いのは男性>女性
←影山のTHIの調査の呼吸器の得点が高かったのと一致している。
3、ストレス反応が高いのは進学校>就職校
←受験ストレスの影響
but韓国:男女区別なく、進学校>就職校
沖縄:女性だけ有意に高かった、職業校>進学校
∴受験ストレスが原因かどうかははっきり言えない。
4、ストレス反応の学年差
精神的反応、抵抗力の低下:2年生が高かった(短期的影響)
身体的反応:3年生が高かった(長期的反応)
←調査期間が10月〜11月だったため
←岡安ら、嶋田、Lee et alの上級生が下級生よりストレス反応が高かったのと一致
←高倉らの抑うつ症状の研究では学年の差はなかった。
←影山のTHI調査は7月に行ったため、学年の差はなかった。
5、韓国の学生の共通反応:頭髪、睡眠障害、月経、アレルギー、かぜ症状
特に生きがいの喪失は得点が高い。
←健康教育が必要
本研究の長所と今後の課題:
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パーセンタイル順位、T得点による評価基準表を作成し、個人が評価できるようにしたこと
←受験戦争を経験している高校生がどういうふうにストレス評価表を活用していくかは疑問である。高校生の心身の健康のために学校側をはじめ、社会全体が健康問題に対する意識を高め、実践的に取り組むべきである。
教育の現場でストレス解消方等を教育したらいいと思う。
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高校生の固有の尺度の作成の試みは良いが、信頼性が低い。(α=.41〜.90)
←項目が少なかったかも知れないので、再検討が必要だと思う。
今後はソウル市内の高校だけではなく地方の高校も対象にし、研究して欲しい。
←韓国の場合、ソウルと他地域の差はかなりあり、きっと地域の差が出て来ると思う。
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本研究が高校生のストレスに焦点を当てたのは大変良いと思うが、研究だけではなく、教育機関などに真剣に健康問題を訴え、高校生が心身とも健康に高校時代を過ごすことが出きるような環境づくりに励んで欲しい。
学校保健への寄与:
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本研究の高校生に対するストレスの研究を通して高校生のストレスの反応が分かったため、そのストレス反応に対する対処方の研究が出きる。
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高校生自身が自分のストレスを計って見ることによって自分自身のストレス反応の程度が分かると思う。それによって自分自身のストレスを把握し、対処していくことができると思う。
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本研究を参考に、より正確に高校生のストレス反応が分かる尺度の作成が期待される。
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本研究を通して韓国の進学高校の健康保健に対する問題点を研究し、改善していけるように呼びかけることが出きる。
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