A
Replication Study of Reducing the Risk, a Theory-Based
Sexuality Curriculum for
Adolescents
Betty M. Hubbard, Mark
L.Giese, Jacquie Rainey
Journal of School Health ;
August 68,6;243-247;1998
報告者:桐山雅子(成人看護学教室)
選定理由:
思春期における性教育について、アメリカではどのように発達し、現在、どのように行われているのか興味を持っていたので選定してみた。
先行研究レビュー:
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アメリカにおける性教育プログラムは、思春期の妊娠・STDの率を減らすため、ここ20年間で発展した。
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Reducing the Risk は、理論に基づいた性教育カリキュラムで、中等学校(14〜18歳)対象で16レッスンから成り、ETR
Associates によって開発・試験・校正が管理されている。
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Reducing the Risk カリキュラムの効果では、性交開始の遅延・避妊法使用の増加・親子の会話の増加などが報告されている。
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学校における性教育を、ほとんどのアメリカ人(80〜90%)が支援し続けており、その支援状況は、1970年(65%)から1991年(87%)と増加している。
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多くのアメリカ人は、学校教育における性教育は早期から始められ、妊娠・STD防止のための避妊法についての説明も含めるべきであると考えている。
要約:
<目的>
性教育カリキュラムにおいて、中等学校(9〜12
grade)の生徒の知識・行動に影響を与えると示されている「Reducing the Risk
」プログラムが、他の地域(アーカンソー州)においても同様の結果が得られるかどうか明らかにする。
<対象>
アーカンソー州において、5つの学校区の中等学校(9〜12
grade)に通う生徒。
<方法>
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Reducing the Risk カリキュラムを受けた5つの学校区の生徒(介入群)と、受けなかった他の5つの学校区の生徒(対象群)に分け、それぞれの群に受講前・受講後(18ヶ月後)アンケート調査を実施。
→ 先行調査(Kirby D. Reducing
the Risk ;Fam Plann Perspect.1991)の方法に従う。
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5つの学校区の生徒(介入・対象群)は、条件(地理的・人種・平均収入)を同じにした。
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アンケートは無記名・自発的参加とし、1993年度のYRBS(Youth
Risk Behavior Survey)から22項目(基本属性・思春期の行動傾向など)、独自に6項目(宗教の宗派と参加状況、親とのコミュニケーションに関するもの)を加えた計28項目から成る。
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統計処理は、z検定(百分率の差の検定)を行った。
<結果>
事前調査での有効回答数532人(介入群267人、対照群265人)。その後、事前・事後調査の両方で有効回答が得られたのは、212人(介入群106人、対照群106人)と、漸減率58%となった。(Table
1 参照)
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性交開始について
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事前調査時の性交経験者は、212人中85人(41%)で、それぞれ介入群35人(35%)、対照群50人(47%)で有意な差は認めず(p>.05)。事前調査時、残る125人(介入群69人、対照群56人)を性交未経験者とし、事後調査をみると、介入群19人(27.5%)、対照群24人(42.9%)が「性交経験有り」になった。(Table
2 参照)
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STD/HIV、妊娠防止について
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事前調査時、性交未経験者125人(介入群69人、対照群56人)について分析。事後調査で、「性交経験有り」となり、防止策をとった者は43人で、介入群19人中17人(89%)、対照群24人中11人(46%)と介入群において、有意に高い傾向を示した(p<.05)。(Table
3 参照)
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親とのコミュニケーションについて
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事前調査時、性について親と会話の無かった者のみ分析。「バースコントロールについて」と「STD/HIVの防止について」の2項目において、介入群は対照群に比べ親とコミュニケーションをとるようになった者が有意に高くなっていた(p<.05)。(Table
4 参照)
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<考察>
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今回の調査で、「Reducing the Risk
」プログラムが、他の地域(アーカンソー州)においても重要な影響を及ぼすことが証明された。
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Reducing the Risk が、性交開始への機会を減らすという今回の結果や先行調査から、性交開始を遅らせることが妊娠・性病防止に最も効果的であることが示唆された。
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介入群で、調査期間中「性体験あり」になった者と僅かだがプロテクトしない性経験者で、コンドーム・効果的な避妊の使用者が増加したことは、このカリキュラムにおいて、プロテクトしない性交の危険性を伝えることが妊娠・STD/HIV感染の防止につながるのではないか。
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介入群において、バースコントロール・STD/HIVの防止の2項目で親子の会話が増えたことはReducing
the Risk が、十代の若者とその親との間で、性について話す場を生じさせるきっかけになる事が示唆された。
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今回の結果より、対照群の生徒にもルーチンでこの性教育カリキュラムを学校区別にうけさせることが必要であり、伝統的で禁欲のみのものに比べ、避妊の説明・スキル形成のための行動を生じさせるのに、より効果的であると思われる。
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サンプリングにおいて、介入群と対照群間での大きな差は認められないが、無作為抽出による生徒・クラス・小集団でないため、評価が必要。
本研究の長所・短所:
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基本属性の項目で、学年や性別以外に皮膚色・宗派・宗教活動の参加状況が含まれており、日本と違って多民族国家アメリカならではだと感じた。
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今回の調査はアーカンソー州で行われているが、地域特性(性初体験年齢・思春期の妊娠・性病罹患率・性教育カリキュラム状況など)がどういう状況なのか、紹介してほしかった。
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サンプルの数が少ないので、大きな枠組みでの比較しかできていないが、性差・年齢差・州内での地域差など、具体的な特徴が出ると良いのではないか。
学校保健への寄与:
性教育が「眠る子を目覚めさせる」との見解がある中で、今回のReducing
the Risk カリキュラムの効果(性交開始の遅延・避妊法活用の増加・親子のコミュニケーション増加)は、興味深い。アメリカのみでなく、性教育に消極的な日本においても同様の効果が得られれば、十代の妊娠・STD/HIV感染・性初体験の低年齢化の防止につながるのではないか。
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