看護学生、新人看護婦の喫煙行動要因
大井田隆 尾崎米厚
学校保健学研究 40;332-340;1998
報告者:才田 進(衛生動物学教室)
選定理由:
医療に携わる者は一般的に喫煙行動は少ないと思われがちである。しかし、看護婦に関しては一般女性に比べ喫煙率が高いと報告されている。看護分野ではないにしても、医療分野を学ぶものの一人として看護学生、看護婦の喫煙行動に興味があり、本文献を選定した。
先行研究レビュー:
-
医師は一般成人に比べて低い喫煙率であるが、看護婦の喫煙率は、一般成人女性に比べて高い。
-
将来看護婦になる看護学生については同じ大学生・短期大学生の女子に比べ一般的に喫煙率は高い傾向にある。
-
看護学生の喫煙開始時期では看護学校入学後に始める者が多いことが明らかになっている。
要約:
<目的>
看護婦養成施設在学間で喫煙行動関連因子の影響を受けたと考えられる卒業後の新人看護婦についてはまだ調査されていなかったので本研究は卒業直後の新人看護婦と在学中の看護学生の2集団に対して、喫煙に関するアンケート調査を実施し、看護婦養成施設の在学期間における各自の喫煙行動及び喫煙行動関連要因を検討し、さらに看護婦養成施設内の喫煙防止教育の実態を明らかにすること
<対象>
首都圏内の大学附属病院6施設と地方の大学附属病院1施設及び都内の国立病院4施設11施設にその年4月に就職した23以下の看護婦(以後、新人看護婦)654件及び上記首都圏6大学の付属看護専門学校6施設のうち2施設に在籍する22歳以下の1年から3年までの女子学生371件
<方法>
-
各病院・学校の担当者を通じて、調査票の配布及び回収を行った。
-
回収法は、無記名性を確保し、誰も特定の看護婦及び看護学生の喫煙状況を把握できないようにするために、@対象者一人一人に調査票と大小2つの封筒を渡し、A記入した調査票を小さい封筒に入れ、Bそれを大きな封筒に入れて、C大きな封筒に指名を書いた後、担当者が回収した。
-
調査票の項目は@現在までの喫煙状況A周囲の者の喫煙状況B喫煙と健康(疾患)に関する知識C喫煙と女性及び看護職員に対する考えD喫煙防止教育の受講の有無E性、年齢、所属、看護資格、家庭状況、及びF自分の職業に対する考えである。また、看護学生の質問票には“学校の先生は喫煙しているか”という項目を付け加えた。なお、本研究で喫煙者の定義は“現在喫煙を毎日もしくは時々している者”に対し、継続喫煙は“6ヶ月以上継続し、かつ毎日の喫煙”とした。
-
統計処理はSPSSを用い、検定はχ2検定で行い、有意水準を5%以下とした。
<結果>
-
新人看護婦の喫煙率は33%であった。また、看護学生では学年があがるにつれて喫煙率が上昇した(1年20%から3年32%)。新人看護婦の喫煙者214名中154名が継続喫煙者であったが、継続的に吸うようになった年齢はほとんどの喫煙者が17歳から20歳の間であった。
-
喫煙行動開始の原因では“好奇心”“友人や同僚の勧め”が多かった。“友人が喫煙している(いた)”看護学生の喫煙率は“友人が喫煙していない”に比べて7.3倍も高かった。新人看護婦の友人で3.7倍、兄弟姉妹では看護学生2.2倍、新人看護婦1.9倍と両方とも統計学的に有意であった。なお、看護学生については両親とも1.7倍と新人看護婦とは違って有意であった。
-
“一人暮らし”の新人看護婦が“看護婦(学生)寮”に比べ喫煙者割合が有意に高かった。
-
看護職になってよかったと思っている新人看護婦の喫煙者割合は思っていない者に比べ有意に低く、同様に看護学生になってよかったと思っている看護学生の喫煙者割合も思っていない者に比べて低かった。また、仕事上の悩み、職場での配置換えを希望する、給料が少ないといった質問に対して大いにあるまたはハイと答えた新人看護婦では喫煙者割合がそれ以外の解答をした者と比べ有意に高かった。
-
喫煙防止教育については、喫煙する新人看護婦では“中高等学校で受講した”と答えた割合は非喫煙者に比べ有意に低かった。しかし、喫煙看護学生では看護婦養成施設で喫煙防止教育を受講している割合は非喫煙者に比べ、統計学的には有意ではないが高いという逆の結果になった。
-
専門学校の教師の喫煙状況は41%の看護学生が喫煙していると答え、56%がわからないとしていた。
-
喫煙関連疾患についての知識は喫煙群と非喫煙群に差はなかった。しかし、看護学生と新人看護婦の正解率では12疾患のうち8疾患で有意に新人看護婦の方が高かった。
TOPに戻る
<考察>
-
一般成人女性・同世代の大学・短期大学生と比べて喫煙率が高い傾向にあること、継続的になった時期が17歳、18歳以降に急増することから、看護婦養成施設の在学期間の様々な要因が喫煙開始及び継続開始に影響を及ぼしていると考えられる。
-
看護婦養成施設での在学期間における友人の喫煙動向は看護学生及び看護婦の喫煙行動に対して無視できないものと考えられる。しかし、友人の喫煙行動が本人に影響を与えているのか、本人の喫煙行動が友人に影響を与えているかは不明であるので、コホート研究のような継続した研究が必要と考える。
-
住居環境として一人暮らしに喫煙者が多かったのは、周囲からの監視によって喫煙が抑えられていると考えられる。また、別の考え方として、看護学生の住居形態と喫煙動向の関係は統計学的には差はないが、新人看護婦では喫煙者が寮や一人暮らしに有意に多い事から喫煙者が周囲の監視を嫌って一人暮らしを始める可能性もある。ただ、今回の二つの集団は別の集団であり、単純に比較検討することは出来ないので、長期のコホート研究が必要である。
-
喫煙防止教育の実施については、中高等教育の効果があるように考えられるが、看護婦養成施設では中高等教育のような傾向はみとめられないため喫煙者の中には教育を受けているのに受けていないと答えた可能性もあり得る。よって、今後、より効果的な教育を模索しなければならない問題がある。
-
喫煙関連疾患の知識所有について、喫煙と関連疾患については看護婦養成施設での教育の中で知識として持っているが喫煙防止までその知識は生かされていないものと推測される。
学校保健への寄与:
本研究で看護婦・看護学生の喫煙の実態・要因がいくらかは把握できたであろうから、これらの結果を基にしてより効果的な喫煙防止教育が行えるものと考える。
TOPに戻る