1.思春期における抑うつ症状と心理社会的要因との関連
思春期集団の抑うつ症状と心理社会的要因との関連性を明らかにすることを目的として、沖縄全域の中学生・高校生を対象に疫学的調査を実施し、(1)中学生の抑うつ症状と心理社会的要因との関連性、(2)中学生における抑うつ症状の性差に関連する心理社会的要因、(3)高校生の抑うつ症状出現・持続と心理社会的要因との関連性、(4)高校生の生活ストレッサーの表出パターンと抑うつ症状との関連性について検討した。また予備研究として、(5)思春期用日常生活ストレッサー尺度を試作した。結論として、思春期にとって生活ストレッサーは抑うつ増強要因に、セルフエスティーム、ソーシャルサポート、健康習慣、内的統制感は抑うつ軽減要因になり得ること、また、これらの関連性は一過性の抑うつ症状にも持続した抑うつ症状にも同様にみられることが示唆された。さらに、抑うつ増強要因の中では友達関係ストレッサーが、抑うつ軽減要因の中ではセルフエスティームが最も強く抑うつ症状に関連していたことや、これらの要因の性差によって抑うつ症状の性差が説明できることが示された。したがって、思春期、特に女子の抑うつ症状の軽減を図る場合、友達関係ストレッサーの緩和とセルフエスティームの向上が必要不可欠な構成要素になるだろう。今後は、学校における抑うつ軽減プログラムの確立と実践、および厳密な手続きを経た介入評価研究による十分な証拠の蓄積が課題となる。(今年は文部省科研費「思春期集団における抑うつ症状と心理社会的要因との関連」の補助の最終年度になる。)
2.青少年の健康に関わる危険行動と関連要因について
米国ではCDCのYouth Risk Behavior Surveillanceにより青少年の健康に関わる危険行動を全国規模でモニターし防止のために努力しているが、本邦ではこのようなモニタリングシステムはまだ構築されていない。本研究では青少年におけるこれらの危険行動、すなわち喫煙、アルコール・薬物使用、傷害に関連する行動、危険な性行動、不健康な食行動、運動不足の実態や関連要因を検討した。その結果、高校生の危険行動の頻度は米国に比較して低く、人口統計学的変数により差異が見られること、各行動に特異的な関連要因、および共通する関連要因があることを明らかにした。今後は思春期の危険行動に集積(accumulation)が起こるかどうかについて検討する。
2.小学生高学年における薬物乱用防止教育の介入効果
わが国の青少年の薬物乱用は、有機溶剤だけでなく覚せい剤や大麻などの薬物乱用に著しい増加がみられ、極めて憂慮する状況になってきている。学校は児童生徒に計画的、系統的に薬物乱用防止教育を行うことができる最適の場であることから、学校における薬物乱用防止教育の積極的な取り組みが指摘されるところである。本研究では小学校高学年を対象に、知識提供型の伝統的防止プログラム、日本学校保健会提供プログラム、社会的影響プログラム、個人的スキルプログラムを各々3時間実施し、介入効果を評価した。対照群と比較するといずれのプログラムにも知識、態度の変容に顕著な効果がみられた。また、日本学校保健会提供プログラムはself-esteemの向上に効果を示した。しかし、誘いを断るスキル、実際の薬物使用には変化がみられなかった。今後はプログラムの改良および介入効果の証拠のさらなる蓄積が課題となる。
4.青少年の体組成と生活習慣、自覚症状との関連
体脂肪率や骨密度には運動や食生活が大きく影響することがよく知られている。また、成人では体脂肪率とよく相関するBMIと死亡率の関係がJ字型を示すことが指摘されている。本研究では児童生徒の体脂肪率や骨密度と生活習慣の関連を検討するために、沖縄県島尻校区の3小学校の児童を対象に調査を行った。その結果、児童の体脂肪率と定性的および定量的に測定した身体活動量との間に関連性が示された。
原著
G99001: 高倉実, 崎原盛造, 新屋信雄, 平良一彦 (1999) 思春期における日常生活ストレッサーの表出パターンと抑うつ症状との関連. 学校保健研究 41 107-116.
G99002: 與古田孝夫, 石津宏, 秋坂真史, 名嘉幸一, 高倉実, 宇座美代子, 長濱直樹, 勝綾子 (1999) 大学生の自殺に関する意識と死生観との関連についての検討. 民族衛生 65 81-91.
報告
H99001: 高倉実 (1999) 九州体育・スポーツ学会第5専門分科会シンポジウム「思春期の子供たちは、今」. 九州体育・スポーツ学会第48回大会号26.
H99002: Takakura M, Sakihara S (1999) Psychosocial correlates of depressive symptoms among Japanese high school students. 32nd General Session of the Asia-Pacific Academic Consortium for Public Health. Abstract. 42.
H99003: Sakihara S, Yu J, Takakura M (1999) Development of social support scale for elderly in Okinawa, Japan. 6th Asia/Oceania Regional Congress of Gerontology
H99004: 上原康代, 高倉実 (1999) 小学5年生における薬物乱用防止教育の効果:事前・事後調査の比較. 日本健康教育学会誌 7 (Suppl) 184-185.
H99005: 高倉実, 新屋信雄, 崎原盛造 (1999) 中学生における抑うつ症状と心理社会的要因との関連. 学校保健研究 41 (Suppl) 644-645.
H99006: 上原康代, 高倉実 (1999) 小学5年生における薬物乱用防止教育の効果:事前・事後・フォローアップ調査の比較. 学校保健研究 41 (Suppl) 674-675.
H99007: 永山智子, 高倉実 (1999) 高校生のHealth risk behaviorとその関連要因. 学校保健研究 41 (Suppl) 700-701.
その他
M99001: 高倉実 (1999) 薬物乱用防止教育の考え方、進め方. 学校経営CS研レポート 41 4-6.