日本科学者会議琉球大学分会ニュース

2002年2月27日

 発行 日本科学者会議琉球大学分会(事務局長 屋富祖建樹)
            


大学法人化に大政策転換 民営化, 非公務員へ
大学憲章制定など主体性の発揮が不可欠

 法人化の論議の中で、国立大学の民営化、教職員の非公務員型の採用が、突如、主要な流れになっています。この方針転換は、政官業が歩調を合わせて打ち出してきたもので、国立大学の解体が小泉首相の「構造改革」の柱となろうとしています。そこには、日本の教育、研究はいかにあるべきかという視点は存在しません。人類史的な到達点として、国策からの独立を保障されてきた教育・学問の根本が、揺るがされているといっても過言ではありません。
 わが国の高等教育と基礎・応用研究をになってきた大学の未来はどうあるべきなのか、いまこそ私たち大学人が発言する責務があるというべき情勢です。以下、その具体的な問題について、情報提供します。なお、日本科学者会議の見解や活動については、ホームページhttp://www.jsa.gr.jpもぜひご閲覧下さい。

突如、民営化・非公務員が主要論点に

 文部科学省調査検討会議連絡調整委員会第5回会議(1月25日)では、非公務員化が新しい重大論点となった(http://www.hokudai.ac.jp/ bureau/socho/agency/chosa-ren.htm)。同会議では、まず職員身分の非公務員化への路線変更が打ち出された。大学の運営組織については、経営(運営協議会)と教学(評議会)の分離が基本的な立場になっている。その中で、学外者を含む「役員会」を必ず置いてその「議決を経る」のか、大学の判断で「役員会」を置きその「議決を経る」のかが論点とされている。
 昨年の国大協臨時総会などでは、経営と教学の一致という国大協の従来の方針を変更して経営と教学の分離を採用することへの慎重論が相次いだ。今回の連絡調整委員会の議論は、これを無にするものである。
 中期目標については、行政主導の独立行政法人通則法の枠組みが、事実上踏襲されている。文部科学大臣が作成主体となるか、大学に作成させた目標を大臣が認可するかが論点である

 同委員会第6回会議(2月7日)では、職員身分を非公務員型にする前提で、対応すべき問題点が議論された。雇用形態として、非常勤、短期、時間雇用職員の拡大、任期制(任期制法によらない形式も可能)などの不安定雇用の大幅な導入が可能となる。これに対応して、給与体系も多様化するが、そもそも給与の原資をどうするか議論されていない。また教職員の勤務評定の全面的な導入が企図されている。
 一方、同じ1月25日には、「構造改革と経済財政の中期展望」が閣議決定された(http:// www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2002/0125tenbou.html)。大学については、民営化・(事務組織も含めた)非公務員化を打ち出した。
「活力に富み国際競争力のある大学づくりの一環として、国立大学の再編・統合を促進する。国立大学を早期に法人化して自主性を高めるとともに民営化及び非公務員化を含め民間的発想の経営手法を導入することを目指す。大学教育に対する公的支援については、競争原理を導入するとともに、第三者評価による重点支援を通じて、世界最高水準の大学を育成する。同時に、質の高い教育研究活動のため、継続的な第三者による評価認証制度の導入、時代の変化等に対応した柔軟な大学設置等の促進、国立大学の法人化に伴う大学事務のアウトソーシングの促進などの規制改革を推進する。また、寄付金、受託研究等の扱いが公私の大学で相互に競争的になるようにすることを検討する。」
 有馬文相(当時)が公務員型の維持を前提に法人化の検討を受け容れた経緯は、完全に無視された。
これに先立って、1月22日に、経団連は規制改革に関する意見書(http://www.keidanren. or.jp/japanese/policy/2002/004.html)をまとめ、「国立大学を独立行政法人化する際は、非公務員型を導入すべきである」とし、それが産学連携のためであると明確に述べている。国がこの間、大学法人化を推進してきた動機がどこにあるのかをはっきり示すものといえる。

参考文献
独立行政法人問題千葉大学情報分析センター速報13号
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Club/9154/
参考資料入手先
独立行政法人反対首都圏ネットワーク
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/nettop.htm
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今琉球大学に何ができるか


 大学には、教育研究機関としての公共性を根拠に非常に広範に自治が認められている。それは第一に、学術研究は特定の個人・国家・産業ではなく人類社会の幸福に直接・間接に寄与ものであり、大学が分野横断的な総合性を持つ唯一の研究機関だからである。第二に、次世代への知の継承発展に不可欠な高等教育の場であるからである。
 それゆえ、大学は、教育・研究の本質的な性格ゆえに政治・経済や価値観から相対的に独立している必要があり、学問の自由とその具体化としての自治・運営の裁量権が保障されているところである。教育基本法が、「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである。」(第10条)と規定し、教育行政の範囲を「教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立」(同2項)に制限することで、教育の独立と自治の必要性を確認しているのは周知のことである。
 しかし、同時に、今こそ私たち大学人は、教育が「国民全体に対し直接に責任を負つて行われる」べきことに最大の注目を払うべきだと言えるだろう。
 私たちは今、第一に、教育研究と大学が、知の創造と継承を行うという独自の価値と役割を持ち、歴史の中で確立されてきた自治の原則を持っていることを、国民や沖縄県民に説明し、理解してもらう努力を払う必要がある。私たちの教育は、ひたすら効率的に資格試験や職場で必要な知識・技術を詰め込む専門学校の教育によって置き換えることはできない。また、私たちの研究の対象や、成果の優劣は、いかに速やかに産業への技術移転されて、雇用や利益がいかに多く生まれたかをもってのみ決まるものではない。だが、私たちが、琉球列島唯一の総合大学として、住民の方々とともに地域の問題にとりくむ研究開発を進め、地域の文化の向上に貢献し、有為な若者の育成を続けるなど、多面的な成果を上げてきたことも疑いのない事実である。近年はアジア諸国などからの多くの留学生の教育や共同研究を通じて、アジア・太平洋地域への貢献も広がっている。こうした、地域に貢献する教育研究機関としての性格は今後一層発展していくものであろう。こうした、本質的な琉球大学の存在意義をアピールし、民営化や教職員の雇用形態の不安定化こそが本学にふさわしい未来なのか、情報や意見を地域に発信していく必要があろう。
 第二に、琉球大学が、教育研究機関としての大学がいかにあるべきか、また、そうした理念をどのように実現しようとするのかについて、大学構成員の間にミニマム・スタンダードともいうべき合意を形成し、明確にしておく必要があると思われる。
 国が本来負っている教育研究の推進に必要な条件整備義務が後景に追いやられ、競争主義、効率化、トップダウン、経営の分離などが一方的に大学運営に持ち込まれた場合、理念なき大学では流れに飲まれて流される一方であり、教育研究の基盤を喪失するであろう。従来の国立大学の枠組みの維持が困難となった現状では、琉球大学が依って立つ枠組みを自ら定めることが必要である。すなわち、大学構成員の総意で琉球大学憲章をさだめ、それに立脚して大学改革の大波に当たることによって、羅針盤を失って漂流する事態を避けようというものである。

大学憲章制定に向けた各大学の動き


 教授職員会独法化部会ニュース2000年度2号(2001.3)でも紹介されたように、東京大学は「東京大学が法人格を持つとした場合に満たされるべき基本的な条件」(2001.2.評議会)を発表し、さらに2003年3月にも大学憲章を定めるべく全学的な論議を進めている。一橋大学でも、社会学部教授会が法人化を受け容れる場合の最低条件を決議している。名古屋大学はすでに「学術憲章」を定めている(http://www. nagoya-u.ac.jp/sogo/kensho.html)。さらに、大阪大学や神戸大学、千葉大学など多くの大学でも、大学憲章制定の取組みがなされてきた。
 このように、各大学がミニマムスタンダードを宣言することは、現在、決して特異なことではない。むしろ、設置基準の大綱化や法人化の流れの中で、各大学が最低限維持すべき基盤を確認するものとして、大学憲章制定はその意義を高めている。

大学憲章で何を定めるか


 大学憲章においては、高等教育・研究機関としての大学の崇高な理念と、それに根拠をもつ自治の尊重などがうたわれるのは当然である。しかし、そうした普遍的な組織原則に加えて、各大学が重視する中長期の目標が反映されてこそ、それぞれの大学が制定する意味があるものといえよう。
 法人化の流れの中では、学長のリーダーシップや、評価制度の大幅な導入が強く主張されている。琉球大学では、学長のリーダーシップとは、権限の集中・強化を意味するのか、効果的な政策立案によって学内の合意しやすい運営を進めることなのか、どちらであろうか。その判断は本学の未来を決定的に左右するとも言え、憲章制定の過程で何よりも全学で検討されるべき問題であろう。
 とくに、現状での法人化が強行されると、学長の一定の権限強化や、学外者を含む 運営協議会の設置、中期計画・中期目標による拘束などはさけられない。本学がそうした制度を、生のまま運用してトップダウン的な意思決定・運営を取るのか、それともボトムアップ的な構成員の意思尊重の仕組みを強化してバランスを取るのか、重大な岐路といえよう。
 例えば、本学の一部の部局では、教員が教授会に相当する会議に出席し、大学の情報を共有したり、意思決定に参加するという機会が保障されていないという問題がある。その効果的な解決は最終的には各部局の自治の力にまつべきものであるとはいえ、本学の理念として、全教員が教授会相当の会議に参加し、大学の自治・運営に関与するという原則を掲げることは有効であろう。
 資源配分でも、重点化を全面的に取り入れていった場合、事実上、特定の注目される分野のみしか研究教育を行うことができず、ユニバーシティーとしての「学術の総合性」を喪失しかねない。すでに、2001年度校費配分では、法文学部の法律関係の教員への校費配分額は7万円になってしまったという。2001年度については、7万円で1年間の教育研究を行うことは不可能であるので、急きょ学部で苦労して資金を手当てしたということである。こうした事態が、今後常態化してもよいのであろうか。「重点化」のあり方について、全学的な合意が必要である。
 また、本学が近年直面し続けている問題として、大学構成員の人権の尊重と、人格や研究者の独立性とを損なうハラスメントを、予防・発見・解決できる体制整備をうたうことも、極めて重要である。

もう一つの琉球大学の課題


 大学憲章の制定とともに、もう一つ本学が課題としているのが、教員組合の設立である。組合を通じて、各大学との情報の共有、大学運営への健全な批判と提言を促進することは、今のような激動の時期にこそ効果が大きい。今回の大学教職員の非公務員化については、さる2月20日に28の大学教職員組合(1次分)の連名で、これに反対する要請が、調査検討会議宛に発出されている。(次頁資料参照) 今後、組合は本学にも必須のものとなるであろう。

参考、非公務員化に反対する要請

JSA沖縄ホームへ / 国立大学の法人化に反対する決議('02.5.23 / 参考資料:琉球大学教授職員会専門委員会独法化部会ニュース 2000年度第1号 ('01.2.23)/ 参考資料:琉球大学教授職員会国立大独立行政法人化問題に関する中間報告('00.6.26)/ 国立大学の独立行政法人化に反対する決議('99.11.25)  独法化問題LINK / 大学問題フォーラム:大学評価機構の問題点('00.5.8)

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