沖縄からの報告 −安保・基地問題の矛盾の集中点から−

  亀山統一 (琉球大学、JSA沖縄支部・平和問題研究委)

1. 在沖縄米軍の概要

 在日米軍は、全国で134施設1,010km2(専用施設は89施設313km2)を使用している。このうち、沖縄県には25市町村に38施設238km2(専用施設は37施設234km2)があり、県土の1割を占める。加えて、訓練空域が20空域95千km2、訓練水域が29水域55千km2、常設されている。

 一方、138万の米軍兵力(2000.9)のうち、東アジア・太平洋10万の兵力は、日本(陸上40千)、韓国(同37千)、洋上(第7艦隊:23千)に配置されている。その他の国の駐留米軍人数は0〜数百であり、在日米軍が東アジアの安全保障に及ぼす影響の大きさが理解される。沖縄の兵力(25〜27千)は在日米軍の半数・全海外常駐兵力の1割に及び、特に海兵隊と空軍に集中して配置されている。

 海兵隊は、唯一の前進配備の部隊として第3遠征軍の司令部を沖縄に置いている。一部の部隊はハワイと岩国にあるが、事実上沖縄に1個遠征軍があるといってよい。海兵隊こそ在沖米軍の最大の特色であり、基地問題の中心でもある。

 空軍の嘉手納基地は、兵員数(空軍7千)と配備機数(74)で海外最大の基地である。航空宇宙遠征軍、アジア太平洋唯一の空中給油部隊、海外に2ヶ所しかない空中管制(AWACS)部隊、特殊作戦群、スパイ・情報部隊などの特異で強力な作戦部隊と、空軍最大の弾薬庫・弾薬部隊をはじめとする、米軍最大規模の後方支援部隊が特徴である。嘉手納の第18航空団は、作戦、任務支援、整備、工兵、医療の五群からなる。

 情報・通信、医療、輸送、補給、整備などの後方支援機能も、4軍を通じて高度に整備されており、これが太平洋の要石たる沖縄の基地の最大の特徴のひとつである。

 沖縄には、陸軍(グリーン・ベレー)、空軍(レッド・ベレー)、海兵隊(31MEU)の特殊作戦部隊が常駐している。海軍特殊部隊(シールズ)も、頻繁に沖縄で活動している。これらは、冷戦後に、より重視されてきている部隊である。

 このように、空軍、海兵隊、特殊部隊などの機動性の高い部隊群が多数・高密度で陸・水・空域を占有して活動していることが、慢性的な「基地問題」をつくり出す基本構造である。このような基地の集中を可能にしたのは、沖縄戦以降、27年間にわたって米軍の直接統治がなされたためである。住民が国家も憲法ももたないという、米軍の長期の独裁政治によってこそ、沖縄に自在に基地を維持し拡張整備することができたのである。このことは、有事法制化、改憲が必然的にもたらす方向を示すものとして、いま特に注目する必要がある。

 この基地の集中は復帰後も、冷戦体制のもとで日本政府によって維持された。いま、冷戦後の米国の対アジア・太平洋戦略の新たな拠点化が狙われている。

2. 安保再定義と沖縄基地再編の狙い

 1995年夏の海兵隊員による女子児童暴行事件は、基地撤去の巨大な運動を沖縄に呼び起こし、全国でも日米安保条約支持の世論が半数を割り込んだ。日米両政府は、その対策を最優先課題にしつつ、日米安保再定義を進めた。沖縄問題の対応のために、SACO(沖縄に関する特別行動委員会)が設けられ、1996年末に最終報告が発表された。翌97年には、日米安保の範囲を地球規模に拡大し、米国の戦争への日本の参戦を意図する新ガイドラインが発表された。

 SACO最終報告では、海兵隊施設を中心に12施設の移設・一部返還が合意された。これは、新世界戦略のもとで機動性の強化を進めるために、海兵隊航空基地と大規模軍港の新設を核として、沖縄基地の新鋭化と配置の最適化を狙ったものといえた。さらに、沖縄の負担を軽減するとして、米軍の訓練等が本土に移転・拡大され、自衛隊との共同も急速に強化された。しかも、これらに要する経費は日本の負担とされた。

 沖縄県民は名護市住民投票などでこれを拒否するが、政府・与党は、国政のすべてを安保・基地の負担とリンクさせ、基地と引き換えの利益誘導・地域振興策を公然と明言して推進するという手法を編み出した。一方で、あらゆる手段を用いて、各個撃破的に首長選挙にてこ入れして勝利し、態勢を整えた。

 ところが、保守首長が「現実的」政策として公約した、基地の使用期限、基地使用協定の締結などの新基地受け入れの条件は、実際には実現不可能であった。また、自然環境の保全の観点から日本科学者会議をはじめ、環境団体・学術団体が続々と新基地建設中止を求めるなど、予期せぬ障害が生じている。さらに、「沖縄振興策」に伴う事業として、泡瀬干潟埋立のような採算の見込みもないリゾート開発など、無法な大規模公共事業が進行し、厳しい批判を受けている。

3. SACO後の在沖米軍再編論

 2000年10月に「米国と日本−成熟したパートナーシップに向けて」(いわゆるアーミテージ報告)が発表された。同報告では、日本に集団的自衛権の行使までも迫って、より「対等」な軍事同盟関係、つまり、米国の戦争に全面参戦する体制づくりを求めた。また、米軍駐留の見直しを進め、米軍の任務遂行能力を維持しつつ基地負担を軽減するよう提言している。沖縄の基地については、過度な集中が訓練の制約ももたらしていることから、海兵隊の展開や訓練のアジア・太平洋地域への分散を求めている。その後も在沖海兵隊のグアムやオーストリアへの分散論などが繰り返し米国内で提起されてきた。

 また、ブッシュ政権の新軍事体系の核心は超ハイテク兵器体系の導入であり、軍事予算を劇的に増額して、ミサイル防衛、次世代戦闘機などの開発・生産・配備を進めている。イラク戦争においても、ハイテク兵器への傾斜は決定的であった。これは従来型の兵力や基地の再編を促すものである。

 しかし、在日米軍は、手厚い駐留軍経費と事実上の基地自由使用体制を柱とする、他国に例をみない好条件での駐留を保障されており、このような特権的地位を手放してまで米軍が自ら部隊を撤退させる理由はない。また、特に沖縄は高度な基地機能の集積を実現しており、そのための過去半世紀余の米国の努力を考えると、世界的な基地や部隊の縮小撤去が進んだとしても、沖縄の順番は最も遅いものになるだろう。近い将来に仮に在沖米軍の兵力削減が行われるとしても、それはSACOの発想をアジア・太平洋全域に拡大したもの、すなわち、部隊は沖縄基地に所属しつつアジア・太平洋各地に柔軟に展開することになろう。

 一方、沖縄基地は地政学的には重視され続けている。とくに、対北朝鮮、対中国の作戦では決定的な位置にあり、基地のフル活用に加えて、那覇空港や下地島空港など民間施設の利用までも計画の中に組み込まれている。

 国防総省の「核態勢見直し(NPR)」報告(2002.1)は、核兵器の実戦使用をかつてなく指向し、さらに、核攻撃能力の前提とすべき「即時の非常事態」としてイラク、北朝鮮、(中台の)軍事対決を挙げた。これは、在日米軍の再編方向が、アジアでの核兵器使用と不可分であることを意味している。

4. 現在の沖縄問題の核心

(1) 海兵隊航空基地の建設

 名護市辺野古への海兵隊航空基地の建設は、「沖縄問題」の核心であり続けている。それは、1995年以来の基地撤去運動の中で住民が勝ち取った普天間基地撤去の約束を裏切って、在沖米軍基地の再編強化策の目玉として推進されてきた。

 在沖海兵隊が常時臨戦態勢にある前進配置部隊であることから、作戦行動地域への部隊の移動のために飛行場と港湾を欠かすことはできない。老朽化している上に、都市の中心にあって市民の監視を受け、住民を巻き込む事故を起こせば反対運動によって米軍の駐留そのものが危うくなる普天間基地は、海兵隊の恒久的な駐留のために是非とも移設する必要があった。

 政府・沖縄県・名護市などでつくる「普天間飛行場代替施設協議会」は2002年7月に代替施設の基本計画案を決定した。同案は、名護市辺野古沖合(キャンプ・シュワブ沖)に、埋立によって約2,500×730mの土地を造成して、2,000m滑走路をもつ民間と共用の航空基地を建設して、米海兵隊に供用させるというものである。基本計画案を1997年海上基地案と比較すると、同一海域ながらリーフ上という沿岸生態系への影響の大きな位置に立地されることになり、施設面積も2倍以上に拡大され、滑走路長も700メートル長大になった。施設造成の工法も、1997年当時に政府が「環境に配慮した」として提案していた工法から、埋立工法へと変更されている。

 沖縄では、海岸からしばしば1km以上にわたって、水深の浅く波の穏やかな藻場やサンゴ礁の海域が続く。主にサンゴによってつくられたこの浅い海は、その前線で急な崖となり、このリーフの部分が最もサンゴの密度も高く、地形も複雑で、波高も高くなる。リーフの高い波高、複雑な地形、深い水深は施設やその施工工事の安全性維持にとって明らかな悪条件である。また、最も生物多様性の高いリーフ部分を失うことは、リーフ内外の生態系に重大な影響を及ぼすことが予想される。このような環境保護運動を挑発するかの計画が提起され、2003年度中の環境影響評価の方針書策定を目指して、春から事前調査が始められた。この調査は、ジュゴンの採餌海域を取り囲むように多数のボーリングを行うなど、異例の大規模なもので、ジュゴンへの影響を指摘されて現在中断しているが、防衛施設庁は間もなく再開する意向である。

 2003年度の環境省のジュゴン調査でも基地建設海域近くで個体が視認されており、この海域は沖縄本島最大の海草藻場、ジュゴンの繁殖海域であることは疑いない。さらに随伴する陸域での訓練場強化計画では、世界的に貴重な亜熱帯照葉樹林であるやんばる(山原)の森の核心部分を伐採して垂直離着陸機の着陸帯が建設されることになる。

 このように、日本政府は沖縄を代表する陸海の生態系に修復不能なダメージを与える基地建設計画を確信犯的に推進している。この計画を止めることができるかは、日本の平和運動と自然保護運動の力量が問われる問題となっている。

(2) 急激に進む軍港整備

 普天間基地移設問題が全国に知られる一方で、海兵隊出撃のもう一つの玄関口といえる港湾整備が大きく進行している。

 沖縄の軍港は、那覇軍港とホワイトビーチ(東海岸与勝半島、自衛隊と共用)が主要な施設であるが、いずれもクレーンなどの荷役設備がなく老朽化した狭い軍港であって、大型輸送船や航空母艦などは入港できない。

 那覇軍港は、隣接する那覇港湾(那覇市・浦添市)の拡張計画に伴って、北側の浦添地区に大規模な軍港として移転する計画が進められている。この国際貿易港計画自体が赤字必至の大規模公共事業として批判の対象であるが、浦添軍港は米軍最大の補給基地キャンプキンザーに隣接し、輸送艦隊や揚陸艦隊(海兵隊の兵員・ヘリを搭載する)に最適化されるばかりか、空母機動艦隊さえ接岸できることになり、海軍支援能力に乏しかった沖縄基地群の画期をなすものとなる。

 さらに、現在、海兵隊の出撃基地として佐世保などの揚陸艦隊が利用し、また、原潜の寄港地でもあるホワイトビーチは、新たに日本政府の負担で埠頭の大規模な拡張工事が行われることになった。基地機能の強化としては、これらの軍港整備は辺野古の航空基地よりもはるかに直接に、米軍と自衛隊の海外での活動の支援を強化するものとなる。沖縄が新たに海軍力の拠点となる方向に変貌しつつあることに注目する必要がある。

(3) 有事法制化と自衛隊

 周辺事態法や有事法制の制定に当たって、それらは「本土の沖縄化」をもたらすものであるとよく言われてきた。これは、住民生活に軍事が入り込み、軍民の地位が逆転する点で、まことに当を得た比喩である。しかし、沖縄もまた、こうした戦争体勢の整備によってかつてない矛盾に直面することになる。

 第一には、今後沖縄県民は初めて自衛隊の力を知ることになるということである。在沖の自衛隊部隊としては那覇空港の航空部隊がめだつものの、強力な打撃力を持った陸海空の主力部隊は常駐していない。今後、海外活動が活発化すれば、必然的に自衛隊も米軍同様に沖縄の基地群を拠点として活用するようになり、沖縄の基地の負担は飛躍的に重くなろう。

 第二には、今後、国民「保護」、米軍支援、自治体協力などの法制化を経て、自衛隊や米軍の有事・周辺事態への対処が全面的に実施されるようになれば、民間や自治体の負担は、当然ながら基地周辺において極大となる。沖縄では、輸送、補給、医療、通信、広報などの目的で、港湾・道路・空港、食品産業、水道、エネルギー、病院・保健所、学校・公民館、電話・マスコミなどの諸機関やその関係者が軍事に広範に巻き込まれることになる。沖縄基地と地域社会の規模を考えると、こうした戦争協力によって民間部門の活動は麻痺状態にもなりうるのであって、生活や生産そのものが立ちゆかない事態が想像される。

 この点でも沖縄の平和運動は全国を代表してたたかうべき立場にあるが、有事法制化に関する取り組みは遅れており、今後に私たちの真価が問われている。

(4) 地位協定問題

 多数の兵員が市民と共存する構造に加えて、同時テロ後、高度な基地防護態勢を敷きつつ戦争を続けている緊張を背景として、軍人・関係者による犯罪は後を絶たない。その中で、凶悪犯であっても起訴まで日本側が身柄の拘束もできないなど、米軍に特権を保障している理不尽な日米地位協定の抜本改定の要求は、深く浸透してきている。それは、国会や本土自治体の動向にも現れており、運用の改善で十分とする政府の姿勢が国益を損ねるものとして異様に映るまでになっている。日米地位協定のうまみは米軍が日本に駐留を続ける根拠となっていることから、その改定要求が最近急速に広がっていることは、日米安保体制の将来に大きな影響を与えるものとして注目される。

5. まとめ

 沖縄の基地問題は、国際的に孤立した米国に巻き込まれて、日本が「力の政治」を進めることに原因がある。しかし、狭義の平和・安保問題にとどまらず、沖縄の基地問題は、生態系保全、地域産業の保護育成、大規模公共事業依存からの脱却、地方自治など、日本各地の課題を代表し象徴しているといえる。ただし、地域の闘いの成果が日本や世界の情勢を変えうるところに沖縄の特殊性がある。

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