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2004年8月1日 原水爆禁止世界大会科学者集会への予稿

沖縄基地問題の現状と日米安保体制

  亀山統一 (琉球大学、JSA沖縄支部・平和問題研究委)

1. 在沖縄米軍と核問題

1) 原子力推進艦

 ホワイトビーチ軍港では、復帰(1972)後の原子力潜水艦の入港回数が200回をこえ、しかも近年入港回数が増加している。入港する攻撃型原潜には、核ミサイルの発射能力も付与されている。また、原子炉を動力とする船では、原子炉からの放射能漏れや、原子炉事故が懸念される問題である。重い事故が起これば、沖縄本島中南部の人口密集地を被曝させかねない、軍用原子炉が出入りしているのであるが、9.11以来、ホワイトビーチへの寄港情報の公表が停止されており、一層危険な事態が続いている。

 一方、米国の航空母艦は、遠からずすべてが原子力推進化される。主力のニミッツ級空母では、2基の原子炉を備え、6千人の兵員と80以上の軍用機の部隊の活動を20年分まかなえる核燃料が、積載されている。この兵力・艦載機のレベルは、最大最強をうたう嘉手納の第18航空団に匹敵する。那覇軍港に代わって、水深が深く大きな軍港が浦添に完成した場合、空母の寄港が懸念される。アフガンやイラクでの作戦でも示された空母の兵力、艦載機の爆音や墜落の危険、放射能汚染が、いわゆる沖縄問題に付加されることになる。那覇軍港移設問題は、巨大公共事業としての国際港湾建設推進の中で、県内外で大きな反対運動も構築できないまま進行しているが、沖縄基地再編の中でも、とりわけ重大な意味を持つ事案である。

2) 核兵器

 日米両政府は1960年の日米安保条約改定のさい、「艦船の立ち入り」などでは事前協議をしないと密約したとされる。米原潜が沖縄に寄港するときなどに、核兵器を搭載してくる可能性を否定できない。2002年の核態勢見直しで、米国は「先制核攻撃戦略」を打ち出した。米国は、小型核兵器の開発を禁ずる国内規制も、昨年撤廃した。

 米国は、威力の小さい核兵器を開発して、通常兵器とのしきいを低くし、実戦に使えるようにすることが目的だとしている。使う対象は「テロ国家」などであるから、小型核兵器を実戦使用したり、使用を示唆して軍事的な圧力をかける対象となるのは、主にアジア・太平洋地域にほかならない。後述するように、日本が一層アジア・太平洋地域における米軍の中核となりつつある現在、その開発・配備は在日米軍、特に沖縄の部隊に関係の深い問題である。

 そもそも、国防総省の「核態勢見直し(NPR)」報告(2002.1)は、核兵器の実戦使用をかつてなく指向し、さらに、核攻撃能力の前提とすべき「即時の非常事態」としてイラク、北朝鮮、(中台の)軍事対決を挙げているのである。

 ところで、解禁された小型核兵器の規模でも最大5キロトンあり、これは広島原爆の1/3もの威力であるから、到底通常兵器との敷居がなくなるようなレベルではない。このことから、「通常兵器とのしきいを低くして使いやすくする」「小型」という表現自体が、兵器の規模をごまかし、人々を欺いて開発・配備を行うための策略であるとする分析もあるが、開発・配備されるのが、10キロトン程度の十分大型なものであれ、硬化型地下目標などを対象とする極小のミニニュークであれ、容認されえないことに相違なく、とくにアジアの国家・地域を対象に使用が企図されていることを黙過してはならない。

 いずれにしても、このような核兵器を、被害が小さく使いやすいだろうとする米国の発想が、国際的に孤立していることは明瞭である。来年5月のNPT再検討会議にむけて、2000年の同会議で米国も含めて合意した「核兵器廃絶の明確な約束」の実行こそが、問われているのである。

3) 劣化ウラン

 イラクや東欧で、米軍が使用した劣化ウラン弾が問題とされ、住民の発ガンの原因の一つと疑われている。

 沖縄でも、劣化ウラン弾は配備され、1995〜96年には、海兵隊機が鳥島射爆場で劣化ウラン弾を発射する事件が起った。200キログラムもの劣化ウランの多くは、今も鳥島に残されたままである。

 劣化ウランは、核燃料用のウランを取り出す過程で出る廃棄物であるが、金属ウランが鉄の2.4倍も密度が高いことから、硬度を高めた劣化ウラン合金の弾頭は、戦車の装甲を貫通する能力がずば抜けて高い。貫通中には先端が丸まらず、細長い貫徹体の形状を維持する性質があり、貫通時の摩擦熱で燃え上がり、戦車の内部を焼く。このように優秀な「徹甲焼夷弾」として、1991年の湾岸戦争以来、実戦に使われてきた。

 標的を貫通する際に微粉末となり拡散した劣化ウラン(酸化物)粒子を生物が取り込んでしまい、α線による内部被曝をうける可能性がある。体内にアルファ線源がとどまると、40μmほどの短い飛程で生体組織に4.2MeV(238U)のエネルギーが作用することから、放射線の総量は少なくても、影響が局所に集中し、発ガンにかかわる可能性がある。劣化ウランの放射能は弱く、危険は小さいとされてきたが、これは内部被曝の危険性を軽視した評価と考える。

 劣化ウランは、核燃料物質として原子力基本法・原子炉等規制法で規制され、軍事利用することができないとされている。しかし、米国原子力規制委員会の文書NUREG-1717(2001)や同委員会職員がコロラド州公衆衛生環境局に提出した文書(1999)では、A-7、F-111、C-5A、C-141、C-130、C-141、P-3C、S-3A,Bの航空機と、未詳ながらミサイル・ロケット類に劣化ウラン製のバランサーなどの部品を使用していたことが示されている。これらのうち、自衛隊はC-130、P-3Cを明らかに保有しているし、他種類の米国製誘導ミサイルも採用してきた。これらの配備に際して、原子力の平和利用の観点から劣化ウランが問題にされたことがあったのか、演者は未調査であるが注目すべき問題と考える。

 劣化ウラン弾は核兵器ではなく、巨大な破壊力を持たない。しかし、環境や人間を放射能汚染する兵器として、核兵器同様にすみやかに廃絶するべきである。

2. 安保再定義と沖縄基地再編の到達点

 1995年夏の海兵隊員による女子児童暴行事件は、基地撤去の巨大な運動を沖縄に呼び起こし、全国でも日米安保条約支持の世論が半数を割り込んだ。日米両政府は、その対策を最優先課題にしつつ、日米安保再定義を進めた。沖縄問題の対応のために、SACO(沖縄に関する特別行動委員会)が設けられ、1996年末に最終報告が発表された。翌97年には、日米安保の範囲を地球規模に拡大し、米国の戦争への日本の参戦を意図する新ガイドラインが発表された。

 SACO最終報告では、海兵隊施設を中心に12施設の移設・一部返還が合意された。これは、新世界戦略のもとで機動性の強化を進めるために、海兵隊航空基地と大規模軍港の新設を核として、沖縄基地の新鋭化と配置の最適化を狙ったものといえた。さらに、沖縄の負担を軽減するとして、米軍の訓練等が本土に移転・拡大され、自衛隊との共同も急速に強化された。これらに要する経費は日本の負担とされた。

1) 海兵隊航空基地の建設

 名護市辺野古への海兵隊航空基地の建設は、「沖縄問題」の核心であり続けている。それは、1995年以来の基地撤去運動の中で住民が勝ち取った普天間基地撤去の約束を裏切って、在沖米軍基地の再編強化策の目玉として推進されてきた。

 在沖海兵隊が常時臨戦態勢にある前進配置部隊であることから、作戦行動地域への部隊の移動のために飛行場と港湾を欠かすことはできない。老朽化している上に、都市の中心にあって市民の監視を受け、住民を巻き込む事故を起こせば反対運動によって米軍の駐留そのものが危うくなる普天間基地は、海兵隊の恒久的な駐留のために是非とも移設する必要があった。

 しかし、SACOの期限としていた5〜7年が過ぎた今も、着工さえできていない。

 政府・沖縄県・名護市などでつくる「普天間飛行場代替施設協議会」は2002年7月に代替施設の基本計画案を決定した。同案は、名護市辺野古沖合(キャンプ・シュワブ沖)に、埋立によって約2,500×730mの土地を造成して、2,000m滑走路をもつ民間と共用の航空基地を建設して、米海兵隊に供用させるというものである。

 この案に基づいて、今年4月には環境影響評価方法書が縦覧された。これに対しては、日本科学者会議や日本科学者会議沖縄支部をふくむ1000をこえる意見書が提出された。並行して、予定地の海底ボーリングや弾性波調査などの事実上の着工がなされようとしたが、今春以来地元住民を中心とする整然とした抗議行動の前に作業は着手できずにいる。

 この海上基地案は、潮風による機材の侵食など環境条件が悪いこと、2本の橋でのみ陸上基地に接続するという軍事攻撃への脆弱性といった元々の悪条件に加え、今後供用まで10数年以上を要することから、米軍にとって魅力のないものとなっている。

2) 着々と進む基地再編

 普天間基地移設問題が全国に知られる一方で、海兵隊出撃のもう一つの玄関口といえる港湾整備が大きく進行している。

 沖縄の軍港は、那覇軍港とホワイトビーチ(東海岸与勝半島、自衛隊と共用)が主要な施設であるが、いずれもクレーンなどの荷役設備がなく老朽化した狭い軍港であって、大型輸送船や航空母艦などは入港できない。しかし、ホワイトビーチの埠頭拡幅工事が進みその荷役能力は劇的に向上する。また、返還予定の那覇軍港も埠頭の改修工事が行われている。これらはSACO後の新たな事例である。

 一方、SACO事案の多くが進行している。

 那覇軍港は、隣接する那覇港湾(那覇市・浦添市)の拡張計画に伴って、北側の浦添地区に大規模な軍港として移転する計画が進められている。この国際貿易港計画自体が赤字必至の大規模公共事業として批判の対象であるが、浦添軍港は米軍最大の補給基地キャンプキンザーに隣接し、輸送艦隊や揚陸艦隊(海兵隊の兵員・ヘリを搭載する)に最適化されるばかりか、前述のように空母機動艦隊さえ接岸できることになり、沖縄基地群の画期をなすものとなる。

 また、楚辺通信所(読谷村、いわゆる象のオリ)のキャンプ・ハンセン(金武町)への移設も、工事が進んでいる。現在土地造成工事はすでに終わり、アンテナ施設が姿を現しているが、既存の施設のように、同一形状のアンテナが円上に均等に配列した形状を取っておらず、非対称形のアンテナ群になっている。このことから、平和委員会などは特定の海外施設を狙った情報収集を目的として、ミサイル防衛計画にもかかわる機能をもつのではないかと考えて分析を進めているという。このように、基地の再編強化の進行は、大方の予想を超えるものである。

3) イラクへの部隊派遣

 イラクでは、住民虐殺が起こったファルージャの駐留部隊などに、在沖海兵隊約3,000が投入されている。また、嘉手納の航空宇宙遠征軍約800もイラクに派遣されている。嘉手納の航空宇宙遠征軍はアフガンにも兵員を派遣している。

 このように、米国の2つの主要な戦争・占領に在日米軍、とくに在沖の海兵隊・空軍が参加している。アフガンに比べて、イラクでは、米軍の作戦行動への在沖部隊の寄与は大きい。また、沖縄基地群の後方支援機能が米軍の作戦を大いに支えていることに注目する必要がある。

3. 世界規模の米軍再編と在日米軍

 2000年10月に「米国と日本−成熟したパートナーシップに向けて」(いわゆるアーミテージ報告)が発表された。同報告では、日本に集団的自衛権の行使までも迫って、より「対等」な軍事同盟関係、つまり、米国の戦争に全面参戦する体制づくりを求めた。また、米軍駐留の見直しを進め、米軍の任務遂行能力を維持しつつ基地負担を軽減するよう提言している。沖縄の基地については、過度な集中が訓練の制約ももたらしていることから、海兵隊の展開や訓練のアジア・太平洋地域への分散を求めている。その後も在沖海兵隊のグアムやオーストリアへの分散論などが繰り返し米国内で提起されてきた。

 沖縄の基地負担軽減や普天間基地移設促進案については、現在、日米両政府間で議論がなされており、その方針は確定していない。しかし、キャンプハンセンの海兵隊砲兵部隊(本土5ヶ所の自衛隊基地で実弾砲撃演習を行っている)のキャンプ富士移駐案、辺野古沖の代替施設案を縮小して工期を早め、収容しきれない航空機を現存の米軍基地などに移駐する案などを、米国は提案しているものと報じられている。いずれにしても、基地や兵員の抜本的な削減案は存在しない。

 一方、陸軍第1軍団司令部の米本土からキャンプ座間への移転、グアムの第13空軍司令部の第5空軍司令部(横田)への統合などの新たな案が報じられている。在韓米軍(3.6万)の大幅削減計画が具体化しつつある中で、在日米軍は、アジア太平洋地域の中核として、兵力・機能ともに集中・強化の方向に再編されることになる。もはや、「沖縄問題」ではないというべきである。

 在日米軍は、手厚い駐留軍経費と事実上の基地自由使用体制、特権的な地位協定を柱とする、他国に例をみない好条件での駐留を保障されており、米軍が自ら部隊を撤退させる理由はない。また、特に沖縄は高度な基地機能の集積を実現しており、地政学的にも手放しがたい優位性がある。SACO後の在沖米軍再編は、部隊を沖縄基地に所属させつつアジア・太平洋各地に柔軟に展開する方向となろう。日米新同盟とSACOの関係について、演者らは沖縄に集中する基地問題が日本の「典型」であり、(その集中度が高いことと、海兵隊中心の部隊構成などの特徴を除いて)決して「特殊」ではないことを指摘してきた。SACO事案と並行して全国の米軍基地が強化され、自衛隊基地の共同使用化も進んだ。そのような基地の再編強化と、双務的な軍事同盟の担い手としての有事法制や自衛隊海外派遣体制の整備を経て、米国の軍事作戦のハブになろうとしている。それに対抗するために依拠すべきは日本国憲法であり、多国籍軍参加や9条改定に対して強く表れた国民の批判を、積極的な平和の世論へと高めていく取り組みが必要である。沖縄でも、その現れ方は複雑であるが、平和を求める世論と運動は健在である。

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