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米国の世界戦略と日米軍事同盟 −沖縄からの分析−

亀山 統一(JSA平和問題研究委員・琉球大学)

「冷戦後」の米国の世界戦略を反映して,「21世紀に向けての同盟」をうたった日米安保共同宣言(1996),「安全保障面での地域的な及び地球的規模の諸活動を促進」「(米国は)核抑止力を保持するとともに,アジア太平洋地域における前方展開兵力を維持」とうたう新ガイドライン(1997)が発表された。その具体化のため日本国内では,(1)米軍・自衛隊の部隊・基地の再編強化,(2)在日米軍基地の自由使用の保障,(3)「有事」の社会体制の整備が課題となった。

1. 米軍・自衛隊の部隊・基地の再編強化

日米両政府は,1995年に噴出した基地反対の大きな運動にこたえるかたちで,沖縄に関する特別行動委員会(SACO)を設置し,1996年末の最終報告で,海兵隊施設を中心に12施設の移設・一部返還を合意した。さらに,沖縄の負担を軽減するとして,米軍の訓練等が本土に移転・拡大し,自衛隊との共同も急速に強化した。これらに要する経費は日本が負担した。

 普天間基地については,市民投票で否定された当初計画の規模を大きく上回る2000m滑走路を持つ「軍民共用」の航空基地を埋立てによって建設する計画が進行している。当初の完工予定であった7年を過ぎた2004年になって,政府は予定地の海底ボーリングや弾性波調査などの事実上の着工強行にこぎ着けたが,工期は15年とも言われている上,厳しい反対に直面している。

 一方,那覇軍港の浦添移設は,軍港建設と一体になった「国際貿易港湾」建設として進行している。未着工の軍港部分は,現行計画では原子力空母も着岸可能な規模であり,大軍港を持たない在沖米軍の画期をなす施設となる。また,既存の軍港では,那覇軍港とホワイト・ビーチがともにSACO後に日本の負担で改修・強化されており,港湾の重視は顕著である。

 また,楚辺通信所(読谷村,いわゆる象のオリ)のキャンプ・ハンセン(金武町)への移設も,工事が進んでいる。新施設は,非対称形のアンテナ群になっていることから,特定の海外施設を狙った情報収集を目的とし,ミサイル防衛計画にもかかわる機能をもつ疑いがある。北部訓練場やブルービーチ上陸訓練場などでは,訓練場の統合・集約化,飛躍的強化が図られた。

SACOは,沖縄米軍基地の大幅な再編強化策だとして強い反対運動にあっているが,並行して,岩国基地の沖合展開をはじめ全国の米軍基地も強化され,自衛隊基地の共同使用化も劇的に進んだ。

2. 世界規模の米軍再編と在日米軍・自衛隊

 2000年に「米国と日本−成熟したパートナーシップに向けて」が発表された。同報告は日本に集団的自衛権の行使さえも迫って,より対等な軍事同盟関係,則ち米国の戦争に全面参戦する体制づくりを求めた。また,米軍駐留の見直しを進め,米軍の任務遂行能力を維持しつつ基地負担を軽減するよう提言している。沖縄の基地については,過度な集中の解消のため,海兵隊の展開や訓練のアジア・太平洋地域への分散を求めている。

現在までに,在沖海兵隊の訓練や一部部隊について,下地島空港などの離島,キャンプ富士など本土基地,グアムやオーストラリアに分散する案が提起されてきた。また,2008年までに在韓米軍兵力を3分の2に削減することとリンクした陸軍第1軍団司令部(ワシントン州)のキャンプ座間移転,嘉手納・横田の自衛隊共同利用化とリンクしたグアムの第13空軍司令部と第5空軍司令部(横田)の統合・嘉手納の航空部隊変更,厚木基地の岩国への統合などが提起されている。

これらの特徴は,基地や兵員の抜本的な削減は行わず,日本の財政負担で在日米軍をより自由・柔軟に国内,アジア太平洋各地に配置することである。在日米軍は,手厚い駐留軍経費と事実上の基地自由使用,特権的な地位協定を柱とする,他国に例をみない好条件での駐留を保障され,米軍が自ら部隊を撤退させる理由はない。既存基地は高度な機能の集積を実現しており,アジア太平洋に唯一残された強力な同盟国の基地群であることからも,重要度は高まっている。

 一方,自衛隊は,海外行動,米軍任務の代行,共同訓練・基地共同利用による米軍との一体化など,急激に「双務的な同盟関係」を担う軍隊へのステップを進めている。さらに,ミサイル防衛の共同開発・配備のため,武器輸出3原則の改定や民間企業を巻き込んだ戦争動員が進行している。それらは,周辺事態法(1999),船舶臨検法(2000),対テロ特措法(2002),有事法制・イラク特措法(2003),国民保護法(2004),2005年通常国会への教育基本法改定案・国民投票法案上程という一連の法整備と表裏の関係にある。

3. イラク戦争から新新ガイドラインへ

 イラクへ,在沖海兵隊や嘉手納の航空宇宙遠征軍が投入されている。嘉手納の航空宇宙遠征軍はアフガンにも兵員を派遣している。米国の2つの主要な戦争・占領に在日米軍が参加し,在日米軍基地の後方支援機能も作戦を大いに支えている。一方,これらの戦争を通じて,自衛隊はついに作戦艦への給油という戦争行為に参加し,戦地に派遣されて多国籍軍下にはいった。

8月13日,米海兵隊のCH53D大型輸送ヘリコプターが普天間基地南隣の沖縄国際大学(宜野湾市)に墜落炎上した。墜落機は空中で外的要因なしに機体尾部を脱落させ,制御不能となって墜落したものである。墜落直後,米軍は道路・大学・私有地等を封鎖して,現場一帯を制圧,機体残骸を撤収し,日本側に現場検証をさせなかった。

この異様な墜落の原因は,米軍の報告書によれば,イラクへの部隊派遣日程に間に合わせるために過密な業務態勢が敷かれたことにあり,整備兵は3日連続で17時間労働し,重要な伝達事項も文書に記録しないなど,安全管理体制が崩壊していた。事件9日後には,原因も未解明のまま同型機が沖縄島を縦断飛行して強襲揚陸艦に着艦し,沖縄の第31海兵遠征団とイラクに派遣された。忘れられがちだが,日本は戦時下にある。

 政府は米軍の行為を容認し,全米軍機の飛行停止や地位協定改定を求めなかったばかりか,むしろ,事件を奇貨として辺野古への基地建設加速を打ち出した。この事件は,国内における米軍の自由な行動を保障・支援する日本政府の「決意」と到達点のほどを示したものといえる。

 ところで,米国の「核態勢見直し(NPR)」報告(2002)は「先制核攻撃戦略」を打ち出して核兵器の実戦使用をかつてなく指向した。小型核兵器の開発を禁ずる国内規制も2003年に撤廃した。米国は,威力の小さい核兵器により,通常兵器とのしきいを低くし,実戦に使えるようにすることが目的としている。NPRでは核攻撃能力の前提とすべき「即時の非常事態」としてイラク,北朝鮮,中台の軍事対決を挙げているように,小型核兵器を使用したり,使用を示唆して軍事圧力をかける対象は,主にアジア太平洋地域であり,その開発・配備は在日米軍に関係の深い問題である。

このように,新ガイドラインは早くもその目標を相当達成しつつあり,新段階に入った日米軍事同盟は,現在,ふさわしい新新ガイドラインを結ぼうとしている。それに対抗するために依拠すべきは日本国憲法であり,多国籍軍参加や9条改定に対して強く表れた国民の批判を,積極的な平和の世論へと高めていく取組みが必要である。沖縄でも,平和を求める世論と運動は健在であり,ヘリ墜落事件に抗議して3万人が沖国大に集まった市民大会や,海上基地建設に8割以上が反対するという世論調査結果などに現れている。

軍事強化の急激な流れは,福祉や教育部門の切り捨てなどの間接的な矛盾だけでなく,直接に市民の強力な抵抗を引き出す要因を抱えており,従って,安全保障や憲法をめぐる国会の議席分布などにもかかわらず,平和運動が勝利を収める可能性は決して小さくない。

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