2-4. ジュゴンについて
2-4-1 藻場現地調査における観察結果


 今回の藻場現地調査では、調査線上にジュゴンの摂食跡などは見いだされなかった。他の調査船上からもジュゴンの個体は視認されなかった。調査した藻場の主たる構成種であるボウバアマモはジュゴンの餌草であり、ジュゴンの生息好適地であることに疑問の余地はない。

2-4-2 政府資料へのコメント

1) 日周移動の保障
政府資料では、ジュゴンの保護には藻場さえ保障されればよいとの発想が窺われる。しかし、ジュゴンの生息・繁殖にとっては、藻場の保全だけでなく、(1)昼間の休息、(2)夜間の摂餌、(3)両者をつなぐ回廊、の全ての環境の保障が必要である。ジュゴンの生活圏は、通常10キロ以内とされるが、時には100キロも移動することもあり、生息域として辺野古海域の規模は必要最小限である。ところが、政府資料のどの工法も上記3条件の1〜2つを必然的に破壊する。

2) ジュゴンを保護する理由

 (1) 沖縄はジュゴンの北限であり、その個体群の保護に国際的責任を負っている。(1955年に天然記念物に指定)。

 (2) 沖縄のジュゴンは現在50頭未満と考えられ、日本哺乳類学会も1997年に絶滅危惧種に指定した。政府調査でも6頭のみの観察である。

 (3) 琉球列島に隣接する台湾では、1930年代にはジュゴンが見られたが、戦後は見られない(1933年に天然記念物に指定)。
以上のように、沖縄のジュゴンは生態的にデリケートな動物と考えるべきである。

3) ジュゴンの食み跡が少ないことについて
政府調査ではジュゴンの個体数に比べて食み跡が少ないとしているが、調査において、見落とし、場所などの違いは当然ある。ジュゴンネットワークの調査においても、いくつもの食み跡を確認している。したがって、調査の期間、頻度、範囲などの限られた政府調査の結果は、直接には、何かの判断材料とはならない。

2-5. 流れのシミュレーションについて
2-5-1 政府調査の欠点


 政府資料では、潮流と波浪が基地建設でどのように変化するかをシミュレーションによって推測している。しかし、残念なことに、潮流と波浪を切り離して、別々に取り扱っている。現実には、潮流と波浪の両者は不可分に結合して、沿岸の環境に作用しており、下記のような問題点が生まれている。

2-5-2 政府資料へのコメント

1) 都合のよい解釈を採用して、互いに矛盾する結論
例えば埋立工法の場合、潮流については基地のない場合とほぼ同様で、海水交換は阻害されず藻場への影響はないとしている。一方、波浪については基地建設で小さくなり、静穏化によって藻場の砂地を安定化させるとしている。しかし、海水交換は、現実には波浪によっても行われトおり、波浪が少なくなれば、その分それは弱くなるはずである。また、政府指摘のように海水交換が現状と変わらないのであれば、波浪の変化によらず、砂地の安定化を予測するのは矛盾である。

2) 砂地の安定化と藻の繁殖について
政府は、基地(埋立法)建設によりシールズ数*が小さくなり藻場へのプラス効果があると述べている。しかし、辺野古では、現在の条件が藻にとって好適であるからこそ繁茂しているのであって、基地建設で藻にとってより良い条件が導かれるとの根拠はない。一般には自然条件下での生物の生息には、本来の自然状態が最適の環境と考えるのが常識である。
*シールズ数とは、砂の移動状態を示すパラメータで、小さい方が砂の移動が少ない。


調査団の構成 /調査目的 調査日程 調査報告 I.調査全体の構想 /II. 調査の方法及び結果  2-1. 藻場について  /2-2. サンゴについて

(前ページ)2-3. プランクトンについて

(次ページ)2-6. 各工法の安全性について 2-7. 各工法の環境への影響について 2-8. 基地機能拡大と住民の被害について 2-9. その他の重要事項 III. 結論

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