第2回沖縄米軍海上基地学術調査報告
JSA平和問題研究委員会

2002年14回JSA総合学術集会要旨

はじめに
 2001年3月に、政府(防衛庁)は沖縄米軍海上基地(名護市辺野古沖)に関して、「1997年の滑走路長1,500m規模から2,600mに拡張・3工法8種類に具体化・軍民共用」などを骨子とする新構想を発表、提案した。これについて、1997年の第1回沖縄米軍海上基地学術調査団の2次にわたる調査の成果を踏まえ、新たに第2回学術調査団(以下、調査団という)が組織され、2001年9月に海上及び陸上調査を実施した。調査団は、これらの結果に基づいて、住民生活の安全や自然環境の保全等にとっての問題点を指摘した。
調査項目
 調査団は、2001年8月までに政府発表の諸文書(基地の工法、環境影響など)について、第1回学術調査結果及び他の諸知見をふまえて、デスクワークとして検討を加え、一定の見解概要を作成した。さらに、9月4〜7日に現地調査(海上陸上:藻場、サンゴ、プランクトン及び陸上調査:聞き取りなど)、とりわけ海洋の自然環境について調査を行い、第1回調査を補い、政府の提案について検討した。これらを総合し、調査団の見解をまとめ発表した。
調査結果と政府提案の問題点
1)藻場 全体として、海草藻類の繁茂状態は良好であった。政府報告書にあるような、1997年と2000年との海草藻類分布量の単純比較は、季節変化を考慮しておらず、無理がある、また、政府は、藻に影響あれば他へ移植するとしているが、これは極めて困難な作業と思われる。
2)サンゴ リーフの外側ではサンゴの白化が多く見られ、1997年より状態は悪かった。1998年の白化現象以降に着生した新生サンゴも、2001年白化している。リーフの沖(基地計画域の最東部付近)には一定の群落があった。死んだサンゴにトコブシやウニの子どもなど多数の生物が付着していた。このことは、サンゴの死は直接に生態系の崩壊をもたらすのではなく、動物のすみかとなるなど、サンゴは死んでも生態系に重要な役割を果たしていることを意味する。基地建設は、サンゴ礁の破壊、土砂流出、暗転、汚染物質の漏出などによって、それらの傾向に拍車をかける可能性が強い。また、白化したサンゴ礁は回復可能であるが、基地建設はそれを否定する。サンゴ礁(ある場所のサンゴの群集全体)の人為的な移動を政府は対策に挙げているが、極めて困難である。
3)プランクトン 亜熱帯海域の通例に漏れず、プランクトンは量的には多くはなかったが、かいあし類、毛顎類、多毛類、その他諸動物の卵・幼生などが、いずれの測点の試料でも観察され、水産資源の多様性を保障していることが窺われた。政府資料ではプランクトンについてなんら報告されていない。海洋の生産性そのものへの無関心さが問われる。
4)ジュゴン 今回調査では、藻場調査線上にジュゴンの摂食跡などは見いだされず、調査船上からも個体は視認されなかったが。調査した藻場の主たる構成種であるボウバアマモはジュゴンの餌草であり、ジュゴンの生息好適地であることに疑問の余地はない。政府資料では、ジュゴンの保護には藻場さえ保障されればよいとの発想が窺われる。しかし、ジュゴンの生息・繁殖にとっては、 (1)昼間の休息、(2)夜間の摂餌、(3)両者をつなぐ回廊、の全ての環境の保障も必要である。ジュゴンの生活圏を考えると、生息域として辺野古海域の規模は必要最小限である。ところが、政府資料のどの工法も上記3条件の1〜2つを必然的に破壊する。
5)流れのシミュレーション 政府資料では、潮流と波浪が基地建設でどのように変化するかをシミュレーションによって推測しているが、潮流と波浪を切り離して、別々に取り扱っている。現実には、両者は不可分に結合して沿岸の環境に作用しており、下記のような問題点が生まれている。例えば埋立工法の場合、潮流は基地のない場合とほぼ同様で、海水交換は阻害されず藻場への影響はないとしている。一方、波浪は基地建設で小さくなり、静穏化によって藻場の砂地を安定化させるとしている。しかし、海水交換は、現実には波浪によっても行われており、波浪が少なくなれば、その分それは弱くなるはずである。また、政府指摘のように海水交換が現状と変わらないのであれば、波浪の変化によらず、砂地の安定化を予測するのは矛盾である。政府は、基地(埋立法)建設によりシールズ数が小さくなり藻場へのプラス効果があると述べている。しかし、辺野古では、現在の条件が藻にとって好適であるからこそ繁茂しているのであって、基地建設で藻にとってより良い条件が導かれるとの根拠はない。一般には自然条件下での生物の生息には、本来の自然状態が最適の環境と考えるのが常識である。
6)埋立による地盤沈下 現在、関西国際空港の地盤沈下が、当初の予想をはるかに越え、しかも不均等沈下を起こしており、大問題となっている。政府案では、辺野古沖のリーフを埋め立てる計画であり、関西国際空港よりさらに複雑な海底地形上に建設することになる。
7)基地機能の拡大の免除 政府調査では例えばヘリの発着回数や機種、またそれらの運用形態を、普天間基地と同様と仮定して、騒音影響などについて推定している。しかし、すでに垂直離着陸機V-22オスプレイや大型輸送機の飛来も言われており、それらの点をあいまいにした政府資料は、正しい提案になっていない。住民の安全を考えるなら、当然、新たな基地の軍事的機能の拡大・強化について、明確な見解を表明して、それに即した予測を示すべきである。
8)民間共用 新基地構想において、一定の面積を民間用にキープしているが、想定発着回数は米軍237回/日にたいし、民間は6回/日である。事実上、米軍専用基地にほかならず、機能的には既存の普天間基地の強化となる。経済効果としても一日数便の航空機の運航がやんばる地域の経済発展のカナメとなることなど、およそ期待できない。
9)軍用機の飛行条件 日米安保地位協定上、米軍機の民間地域上空の飛行には制限がなく、新基地建設で騒音や事故の危険が小さくなる保証はない。本調査期間中にも、例えば、9月6日午後1時30分に普天間基地所属と思われるCH-46ヘリが名護市役所上空を低空で飛行し、ホバリングしたことが目撃された。基地建設でこうしたケースが増えることは容易に想定される。
10) その他、自然災害の100年確率、断層、サンゴ・藻・ジュゴン以外の生物相への無関心などについて指摘した。
結論
 政府の調査項目・調査方法・調査結果の判断は科学的でなく、このまま名護市辺野古沖合に基地を建設すれば、自然環境の保全あるいは住民生活環境全般にわたって、多大の被害を及ぼす可能性が大きい。また、今日の政治情勢から見ても、この基地建設には大きな危惧を感ぜざるを得ない。さらに、1997年の名護市住民投票結果をふまえるならば、たとえ民間と共用の飛行場としても、前回案よりも大型の基地建設を提案することは、環境保全の姿勢を欠くとともに、民主主義のルールにも反するものである。
 政府資料をつぶさに検討するに、防衛庁が前面に立って環境影響評価を行っており、これは住民感情に照らして極めて奇異である。またこのことが、当該海域の生態系に無関心な結論を導く原因になっているといえよう。政府が、科学的批判や市民の判断に堪えうる包括的な環境アセスメントを、基地建設を前提とすることなしに実施するよう、強く要望する。
補足 調査団は、2001年9月に上記のような報告を発表したが、政府は代替施設協議会で沖縄県・名護市に、2002年7月、リーフ上に2500×730m規模の埋立工法による基地建設案を発表した。本調査団の指摘は全く考慮されず、年内にも建設に向けて環境アセスを開始するとしている。これら最新の計画の問題点についても検討・発表する予定である。

第2回 沖縄米軍海上基地学術調査 報告('01.9)


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