普天間基地の名護市への移設に関する公開質問(2000年2月14日)と沖縄県知事からの回答(2000年6月19日)

注)青字部分は。日本科学者会議平和問題研究委員会委員・河井 智康、1997年沖縄米軍海上基地学術調査団団長・木原 正雄、日本科学者会議沖縄支部代表幹事・武居洋の3者が2000年2月14日に提出した公開質問。赤字部分は、同質問に対する稲嶺惠一沖縄県知事の6月19日付けの回答。

 昨年11月22日に沖縄県知事が意思表明し、12月27日に名護市長が受け入れを表明した米軍普天間基地の名護市辺野古沿岸域への移設については、その後の様々な情報を含め、極めて不透明な部分を含んだままで移設が既定事実のごとく進行しているように思われます。しかしその過程では数々の疑問を残しており、多くの人々の理解を困難にしているのが実状です。
 私たちは今回の基地移設問題は、昨年12月12日に日本科学者会議が表明したように、「日本全体の平和にとっても重大な意味を持つもの」であり、「移設計画は沖縄県知事と名護市長さえ合意すればよしとする局地的問題ではない」と考えます。またさらに、1997年当時に、日本科学者会議メンバーを中心として、現地調査を実施した結果からも、本移設計画には看過できない問題を内包していると判断しています。ここに、沖縄県知事、名護市長に対して、別記の質問を公開して行う次第です。遅くとも今年度末の3月31日までに回答を下さるよう要望するものです。

質問事項
1. 経過に関する質問

(1)1997年12月の名護市民投票において住民によって否定された案(反対53.8%、賛成46.7%)とほぼ同様の地への移設を再び提案すること自体が異常である。沖縄県が示した「候補地選定にあたっての基本的考え方」の中には、移設先の住民意思の考慮が含まれていない。県はなぜ住民意思を考慮しないのか明らかにされたい。また、もともと住民意思を考慮しようとしない県の提案をなぜ名護市が受け入れるのかについて改めて明らかにされたい。

(答) 名護市長投票では、SACOの最終報告にある撤去可能な海上ヘリポートを対象にその建設の是非が問われたものと認識しております。県としては、同施設が米軍の専用飛行場として建設され、米軍が使用しなくなれば撤去され、県民の財産にならないことから、民間航空機が就航できる軍民共用空港を建設し、将来にわたって地域及び県民の財産になり得るものであることを要望し、海上ヘリポート案の見直しを国に求めてきました。
 名護市民投票の結果は承知しており、その結果を含めた総合的な観点から、移設候補地を選定したものであります。移設候補地については、地元の理解と協力を得る必要がありますので、移設候補地の選定を公表した当日に、県の考え方について名護市へ理解と協力をお願いしました。
 その後、名護市議会で移設促進決議があり、名護市長が移設受け入れを表明されました。

(2)沖縄県が示した基地移設の整備条件のうち、特に15年の期限をつけることだけには「必要」の文字が付されている。文字どおり「必要条件」として、このことが満たされなければ、その他の条件の如何にかかわらず、移設を白紙に戻すと解釈されるが、そのように確認してよいか伺いたい。名護市もそれを文字どおり「必要条件」とするのか明確にされたい。

(答) 15年の使用期限については、「移設にあたって整備すべき条件」として日本政府に強く申し入れています。
 これを受けて国は、平成11年12月28日の閣議決定で、「沖縄県知事及び名護市長から要請がなされていることを重く受け止め、これを米国政府との話し合いの中で取り上げるとともに、国際情勢の変化に対応して、本代替施設を含め、在沖縄米軍の兵力構成等の軍事態勢につき、米国政府と協議していくこととする」方針を示しております。
 その後の日米の防衛首脳会談や外相会談において取り上げられるなど、政府において同問題についての取り組みが行われていますので、今後とも、政府においてさまざまな検討がなされ、一定の結果が出されるものと考えています。基地の提供責任は政府にあることから、県としては、県の要望に対して応えられるよう、今後とも政府に対し求めていきます。

(3)1997年の政府提案では、基地の規模・工法を含め、A・Bの2案が提示された。そのことが現地住民の賛否の判断に役立ったと考える。しかるに今回の県の提案にはそれに類する提示がまったく行われていない。県は、その理由を明らかにされたい。また、規模・工法も不明のまま受け入れたことについて、名護市の考え方を伺いたい。

(答) 米軍施設・区域の提供は国の所管事項であることから、代替施設の具体的な建設場所、工法等については、地元の意向を最大限に反映させ、最終的に国が決定すべきものと考えております。今後、国において、環境調査を含め、必要な各種の調査が行われるものと考えております。
 国においては、平成11年12月28日の閣議決定で、代替施設については、普天問飛行場移設に伴う機能及び民間飛行場としての機能の双方の確保を図る中で、安全性や自然環境に配慮した最小限の規模とすること、環境影響評価を実施するとともに、その影響を最小限に止めるための適切な方策を講じること、必要に応じて、新たな代替環境の積極的醸成に努めることとし、そのために必要な研究機関等の設置に努めることを決定しております。

(4)今回の計画は、普天間基地の名護市への移設によって米軍基地の整理・縮小につながるとしているが、実態は、MV-22オスプレイという最新型輸送機の配備など、基地の機能強化ではないかと言われている。このような「機能強化」が行われても基地の「整理・縮小」の概念に反しないと考えるのかどうか、県の見解を明らかにされたい。

(答) 普天間飛行場の移設候補地についての県の考え方は、既存の米軍施設・区域内に移設するものであり、また、施設の規模においても縮小されることから、沖縄の米軍施設・区域の面積を確実に縮小でき、基地の整理・縮小を着実に進めることができるものと孝えております。


2. 自然環境への影響に関する質問

(1)沖縄県が指定した「自然保護区域」への基地建設を提案あるいは受け入れを表明することについて、県及び市の基本的な考え方を明らかにされたい。

(答)「自然環境の保全に関する指針」は、本県における望ましい環境を実現するため、県土の良好な自然環境の保護と節度ある利用について、事業を実施する際には、それぞれの立場で配慮していく性格のものであります。
 平成10年2月に「自然環境の保全に関する指針」沖縄島編が策定され、その中で沿岸域は4段階に区分されています。ランクIに区分された箇所は119箇所、ランクIIが74箇所、ランクIIIが35箇所、ランクIVが10箇所となっており、当該海域は、ランクIに区分されています。
 県としては、本指針の趣旨も踏まえ、県の考え方を国に提示した際に、自然環境への影響を極力少なくすることを申し入れたところであり、引き続き、申し入れていきます。

(2)我々の調査によっても、建設予定水域付近はジュゴンの餌場となること、サンゴの回復中の群落があること、生物相の豊かなマングローブ林が存在することなどが明らかになっている。これらの自然環境への影響を極力少なくすると、県は整備条件の中で述べているが、その具体的方法について明らかにされたい。また、市も同様趣旨の「基本条件」を示しているので、具体的方法を示されたい。
 ちなみに、1997年の政府見解では、貴重な生物がいればそれらを他の水域に移すことを提案したが、これは自然生態系の保全についてまったく無理解な発想である。

(3)県の提案及び市の基本条件では、環境に関して今後必要な調査を行うようであるが、なぜ事前評価(環境アセスメント)による移設の可否判断を行わないのか、その理由を明らかにされたい。もしも、1997年の政府による調査をもってそれに替えようとするのならば、すでにわれわれの調査により反対見解が出されている(沖縄県知事、名護市長宛提出済み)ので、それに対する県及び市の具体的見解を示されたい。

(答) (2),(3)は関連しますので、まとめてお答えいたします。
 具体的な建設場所や工法等については、地元の意向を最大隈に反映させ、国が最終的に決定すべきものと考えております。今後、国において、環境影響評価を含め、必要な各種の調査が行われるものであります。
 そのため、県は、代替施設の建設については、「必要な調査を行い、地域住民の生活に十分配慮するとともに自然環境への影響を極力少なくすること」を国に対し強く申し入れたところです。
 国においては、平成11年12月28日の閣議決定で、代替施設については、普天間飛行場移設に伴う機能及び民間飛行場としての機能の双方の確保を図る中で、安全性や自然環境に配慮した最小限の規模とすること、環境影響評価を実施するとともに、その影響を最小限に止めるための適切な方策を講じること、必要に応じて、新たな代替環境の積極的醸成に努めることとし、そのために必要な研究機関等の設置に努めることを決定しております。


3. 住民生活への影響に関する質問

(1)現在でも辺野古周辺では多数の米軍が配置されているが、さらに2,500人に及ぶ米軍が移動してくることにより、住民数(辺野古区は約1,500人)と米軍人数のバランスが大きく変化する。このことは、住民生活に様々な影響を及ぼし、事故や犯罪が増えるであろうことも、他の事例から見て想像に難くない。そのような状況に住民をまきこむことは、地方自治法第2条3項(一)に示される「住民及び滞在者の安全・健康及び福祉を保持すること」という地方自治の基本原則を危うくするものと考える。また、本年4月施行の新地方自治法第1条-2に示される「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的に実施する役割を広く担うものとする」との基本原則にも合致しないと考える。これについての県及び市の見解を示されたい。

(答) 米軍基地に起因する環境問題や事件・事故については、県民の生活と安全を守る立場から、事故の再発防止、安全管理の徹底、原因究明を求めるなど、あらゆる機会を通じて、日米両政府に対し強く申し入れております。
 普天間飛行場の代替施設について、県の考え方を国に提示した際に、「移設にあたって整備すべき条件」の一つとして、「代替施設の建設については、必要な調査を行い、地域住民の生活に十分配慮するとともに自然環境への影響を極力少なくすること」を国に申し入れており、また、名護市長の受け入れ表明においても、住民生活に著しい影響を及ぼさないこと、それを保証するものとして日本政府と名護市が使用協定を締結することを要請されております。
 国においては、地域の安全対策及び代替施設から発生する諸問題の対策を講じるため、(1)飛行ルート、(2)飛行時間の設定、(3)騒音対策、(4)航空機の夜間飛行及び夜間飛行訓練、廃弾処理等、名護市における既存施設・区域の使用に関する対策、(5)その他環境問題、(6)代替施設内への地方公共団体の立入りにつき、地方公共団体の意見が反映したものとなるよう、政府関係当局と名護市との問で代替施設の使用に関する協定を締結することが平成11年12月28日に閣議決定されております。
 さらに、代替施設の建設及びその後の運用段階においても、適切な協議機関を設置し、地域の住民生活に著しい影響を及ぼさないように取り組むこととし、その中で代替施設の使用協定及び環境問題について、定期的なフォローアップを行うなど、実施体制の確立を図ることが明らかにされております。

(2)普天間基地移設の一つの大きな理由が騒音問題にあった。辺野古沿岸域では、その点が緩和されるというが、普天間基地にはなかった大型機の配備、あるいは配備機種の変更や機数の拡大などがあれば、その保証はない。また、米軍は訓練を海上で行うようにとの宜野湾市の要請を常に拒否して、市街地上空での訓練を行ってきたことは周知の事実である。このことからも、基地の移設受け入れの判断は上記地方自治法の原則に合致しないと考える。県及び市の見解を示されたい。

(答) 航空機の騒音は、固定真機の場合、滑走路延長線上に騒音の影響する範囲が出現します。「キャンプ・シュワブ水域内名護市辺野古沿岸域」では、固定翼機の離発着時において、最も騒音の影響が大きいとされる滑走路への進入等を海上に設定することが可能であります。また、回転翼機の場合は、新たに設定される飛行ルートにより騒音の影響する範囲が定まります。当該地域では、回転翼機の離発着時における飛行ルートを海側に設定することが可能であること、また、訓練ルートを海側に設定することにより、移設先及び周辺地域への騒音の影響を軽減できるものと考えています。
 騒音の問題を含め、地域の安全対策及び代替施設から発生する諸問題については、地方公共団体の意見が反映したものとなるよう、政府関係当局と名護市との間で代替施設の使用に関する協定を締結し、対策等を講じることが平成11年12月28日に閣議決定されております。

(3)県は、基地移設にあたっての整備条件の第一に、「移設先及び周辺地域の振興」を要求している。1997年に海上基地との交換で経済振興を行うことが政府から示されたのに対して、日本中の世論は、両者をリンクさせるべきではなく、沖縄振興は独立して政府が行うべきであるとした。今回は地方自治体の側から交換条件として要求しているが、このことは、住民の安全を金で売り渡す行為という、あまりにも卑屈な姿勢であるとともに、今後に悪しき前例を残すことになると懸念される、この点に関しての県の見解を明らかにされたい。

(答) 北部地域の振興については、第3次沖縄振興開発計画をはじめ、北部地方拠点都市地域基本計画等に基づく各種施策の推進により、その振興を図ってきたところでありますが、地域の活性化や自立的発展への展望を開くまでには至っておりません。
 県土の均衡ある発展を図る上で北部地域の振興は重要であると考えております。
 普天間飛行場移設先及び周辺地域の振興策は、普天間飛行場代替施設の建設に伴う新たな負担と、同地域が果たすわが国の平和と安全への貢献に応えるため最大限の配慮が必要であることから、国に対し特段の措置を要望したものであります。
 国においては、県の移設候補地の選定や名護市の受け入れ表明を受け、昨年の12月28日、新たな法制度の整備を含め、移設先及び周辺地域の振興・発展、駐留軍跡地利用の促進等に向けて全力で取り組むことが閣議決定され、去る2月10日には、「北部振興協議会」、「移設先及び周辺地域振興協議会」を設置し、具体的な作業が開始されております。

以上

移設容認を強く批判する('99.11.22)  公開質問状('00.2.14)

回答についての見解('00.7.10)  サミット開催にあたっての声明('00.7.19)

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