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日本科学者会議琉球大学分会ニュース
2004年11月号 JSA沖縄支部・琉球大学分会事務局編集  2004.11.22発行

琉球大学全学教員人事委員会規程(11月案)
学部のほぼ全ての人事を調整・決定?!

 現在、琉球大学では「全学教員人事委員会規程(案)」(以下「規程案」という)の制定が進められ、11月の評議会に提案されるとの説明もあります。現行の規程案は6月段階の案から大幅に改訂されていますが、教員への配布や教授会での議論は、一部の部局でしか行われていません。
 本会は、6月段階の規程案について、詳細に検討したニュースを発行しました。(http://www.jsa.gr.jp/okinawa/ に所収)同案には多くの部局で批判・疑問が出されました。しかし、現行の規程案では、当時の問題が解決していないばかりか、より問題を拡大する方向に改訂されています。そこで再び、本会は、規程案の各条文について、問題点を指摘し、解決の方向を提案いたします。

琉球大学全学教員人事委員会規程(案)
 (制定理由)
 琉球大学の教員人事に関する事項のうち、具体的な教員の採用及び昇任については、全学的視点から流動的、戦略的配置を行うために、その調整機関として、全学教員人事委員会を設置し、全学教員人事委員会の組織及び運営について必要な事項を定める。 (下線は本会による、以下同)
 (設置)
第1条 国立大学法人琉球大学に、琉球大学教育研究評議会規程第4条第4号に規定する教員人事に関する事項のうち、具体的な教員採用及び昇任に関し全学的に調整を行うため、琉球大学全学教員人事委員会(以下「人事委員会」という。)を置く。

修正案 (本会による、以下同)
 (制定理由)
 琉球大学の教員人事に関して、全学的視点から流動的、戦略的配置を行うために、その調整機関として、全学教員人事委員会を設置し、全学教員人事委員会の組織及び運営について必要な事項を定める。
 (設置)
第1条 国立大学法人琉球大学に、琉球大学教育研究評議会規程第4条第4号に規定する教員人事に関する事項について、全学的な調整を協議するため、琉球大学全学教員人事委員会(以下「人事委員会」という。)を置く。

 人事に主体的に携わる権利は、予算とともに、大学・学部の自治の根幹をなすものです。各部局の人事が教授会によって行われることは、後で詳述するように研究・教育の自由と不可分の関係にあります。教授会は、単に教員選考の具体的手続きを行うだけでなく、その部局の教育・研究活動を促進する人事計画を立て、それに基づく具体的人事を行う主体です。しかも、琉球大学は、琉球列島唯一の総合大学として、この地域の学術をになう社会的使命は重く、広範な専門分野のそれぞれについて教育・研究を適切に推進し、各部局のバランスのとれた教育研究の発展を重視する必要があります。教授会は特に尊重されるべきです。
 規程案では「具体的な教員の採用及び昇任」の調整・決定を人事委員会が行う制度が盛り込まれています。これは、6月の案でもなかったものです。その調整・決定はどのようなものでしょうか。規程案とともにとりまとめられている「教員人事に関する審議機関の役割(案)」をまとめると次のようになります。

1. 評議会:中期目標・計画を達成するために必要な教員人事の基本方針、全学の教員定員、免職・降任、休職、懲戒を審議
2. 教員人事委員会:全学的教員運用定員の運用、共通教育等に必要な定員管理・教員人事の調整を行うとともに、各部局等の人事においても、定員管理・教員人事の調整を行い、助手以外のすべての人事(欠員の補充、停年等退職に伴う補充、昇任、配置換・流用に伴う補充)に関与して、人事を行う可否を決定
3. 教授会:教員の選考を行う権限のみ

 これでは、各部局等の人事権は奪われたも同然であり、「大学」としての専門の教育・研究体制は成り立ちません。人事委員会が具体的な人事の調整・決定に踏み込むことは誤りです。


 (組織)
第2条 人事委員会は、次に掲げる者をもって組織する。
 (1)理事(教育・学生担当、研究・国際交流担当及び社会連携担当)
 (2)学部長
 (3)研究科長(学部長が兼務している研究科長を除く。)
 (4)医学部附属病院長
 (5)大学教育センター長
 (6)熱帯生物圏研究センター長
 (7)遺伝子実験センター長

修正案 (1)を削除する

 人事委員会は、学長・理事などが推進する中期計画・目標の具体化を、人事面で実現するよう、「全学的視点から流動的、戦略的配置を行う」調整機関として設置されます。つまり、役員会から出される方針の具体化のために各部局等がどのような協力・調整が可能かを審議する機関です。理事が委員になると、大学の運営方針を作り、検討を求める側にいる理事が、調整する側にも入ることになります。人事委員会の設置趣旨上、理事は委員となることは不適切です。理事は、委員会の上部機関である教育研究評議会の構成員なので、評議会が委員会に検討を指示する時点で、理事の意見も当然反映されているのです。また、人事委員会において理事からの直接の説明が必要となる場合には、第5条で対応できます。


 (審議事項)
第3条 人事委員会は、次に掲げる事項について審議する。
 (1)全学的教員運用定員の運用の調整
 (2)各部局等の教員の定員の管理及び教員人事の調整に関する事項
 (3)共通教育等に必要な定員の管理及び教員人事の調整に関する事項
 (4)その他、教育研究評議会から審議を指示された事項

修正案 (2)を削除する

 国立大学法人法によれば、評議会が教員人事を審議する権限を有しますが、それは、教員人事は教育研究評議会のみが審議することを意味するものではありません。
 実際のところ、琉球大学の多数の教員の採用や昇任などの人事すべてについて、教育研究評議会や評議会から委託を受けた委員会などが直接に関与することは不可能です。すなわち、その分野の教育・研究を進めるためにどのような専門・職階の教員を必要とするのか、また、業績の優劣を判断する基準がどのようなものが適正か、人事の計画も選考も専門の研究・教育者集団であってこそ可能です。これこそ、研究・教育の自由のために学部自治が法令上保障されてきたゆえんです。これまでの各部局等の人事の進め方として、講座−学科−学部での判断を尊重して積み上げてきたのも、そこに理由があります。これに代わって、多岐にわたる学問分野の全てを評議会などの全学機関が知悉することは無理です。
 したがって、教育研究評議会は、あくまでも琉球大学における教員人事についての一般的・抽象的な基準や方針を定めるものと解されます。人事委員会は、評議会の設置する委員会ですから、評議会の方針に基づいて各部局が具体的人事を主体的に行うに当たって、必要な調整を検討する役割を果たすことが適切です。各部局等のすべての人事に直接関与しうる規定は、6月の当初案にも盛り込まれておらず、唐突であるばかりか、高等教育・研究機関たる大学の自治の原則を歪めるものです。
 ところで、(1)と(3)は従来から全学機関で行われてきたものです。(3)は、教養部の廃止後も共通教育の推進に全学が積極的に責任を負うために行ってきた措置です。今回盛り込まれた(2)の部局の人事は、それらとは全く性格の異なる問題です。
 なお、全学的に推進すべき改組・プロジェクト等で、人事面における各部局の協力体制が必要なときには、評議会が人事委員会にその検討を指示することになりますから、現行案の(4)で、人事委員会における検討が可能です。したがって、(2)の規定をおかなくても、委員会設置の所期の目的は達せられるのです。


 (議長)
第4条 人事委員会に議長を置き、理事のうち学長が指名する者をもって充てる。
2 議長は、人事委員会を主宰する。
3 議長に事故があるときは、学長があらかじめ指名する者が議長の職務を代行する。
 (意見の聴取)
第5条 人事委員会は、必要に応じ、関係職員を人事委員会に出席させ意見を聴くことができる。
 (庶務)
第6条 人事委員会の庶務は、各事務部の協力を得て、総務部人事課において処理する。
 (雑則)
第7条 この規程に定めるもののほか、人事委員会の運営に関し必要な事項は、人事委員会が別に定める。
 (改廃)
第8条 この規程の改廃は、教育研究評議会の議を経て学長が行う。

修正案 
・第4条第1項から「理事のうち」を削除する。この修正は、人事委員会の構成員から理事を除くこと(第2条第1号を削除すること)に伴うものである。
・第8条全体を削除する

 この委員会は、評議会の下に設置されるものですから、委員会規程の改廃が評議会によって行われることは当然です。この条文は、単に当然の手続きを書いているように見えますが、「改廃は…学長が行う」と敢えて規定することで、この委員会に関する権限が学長にあると解釈できてしまいます。教員人事全体の調整・決定を学長が掌握することを目的とするのでない限り、本条は削除することが適切です。

*補足*人事における教授会の権限


学校教育法第59条 大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない。

 憲法23条に保障された大学自治は、教員の人事及び研究、教育の内容、方法等についての自主決定権を中心としています。本条は、その自治を行うべき自治的管理機関としての教授会の地位を明文化したものです。(教育関係基本法規集 有斐閣新書)。
 学部は「専攻により教育研究の必要に応じ組織されるもの」(大学設置基準第3条)とされているとおり、その専攻分野の教育研究をになう主体となる組織です。各専攻分野でそれぞれの特性に応じた教育・研究が行われるよう、学部の自治が保障されることが不可欠であるとされてきました。
 このように、学部教授会が教員の人事を行う権利は、教育・研究の自由と深く結びついています。国立大学においては教員人事は教授会の議に基づき学長により行われることが教育公務員特例法に定められていました。法人化により教特法は直接適用されませんが、それは、直接、教授会が人事権を持たなくなることを意味するものではありません。法人化後も、国立大学が学校教育法に基づく存在であることはいうまでもなく、同法が定めている教授会の審議事項に、教員人事にかかわる事項が含まれることは、判例上も明らかです。
大学教員の懲戒処分は、学校教育法59条1項の「重要な事項」に含まれ、教授会の審査を経なければならないものと解するのが相当である。(神戸地決昭54・11・16)
 国立大学法人法の規定に基づき、教員人事の審議権を形式的に教育研究評議会におくとしても、学部の教員人事については主体的な権限を教授会もちつづけるよう、大学の実態に即した規程が必要です。さらに、学内民主主義のあり方として、拙速でトップダウンによる規程案の制定は行うべきではなく、琉球大学の教員人事のあり方について、全学的な議論と合意形成を進めるべきです。

学長選考では教員の投票を廃止?

 学長選考会議では、いま学長選考の方法が審議されています。議事録や教授会報告によれば、法人化後の琉球大学学長の選考に当たって、教員による投票を行わない、または、投票をしても1位となった者が必ずしも選考されない、というような制度設計が強く主張されているとされます。
 もし、教員の意思が制度上反映されないような学長の選出が行われたらどうなるでしょうか。それは第一に、学校教育法59条に反します。
学長を選任するについては、まずその候補者が学長たるの適格を有するかどうか等について、教授らをもって構成する教授会に十分審議させ、その自主的な判断の結果をできるだけ尊重すべきものであって、右のような教授会の審議をへずしてなされた理事会の学長選任の決議は、右学校教育法の法条に反するものであり、教授会の審議をへ、その結果を尊重することが、学問の自由、大学の自治にもかなうきわめて重要な事柄であることを考慮すると、右に違反する選任決議は無効であるといわなければならない。(京都地決昭48.9.21)
この判例を国立総合大学にあてはめれば、全教員による投票を行い、その結果を尊重することが、「学問の自由、大学の自治にもかなうきわめて重要な事柄」なのです。
 第二に、全教員の投票で選ばれなかった学長は、リーダーシップをとる根拠を持ち得ません。全教員参加のプロセスで選ばれた学長だからこそ、各部局や各教員は、自らに不利なものであっても、学長の大学運営に協力するのではないでしょうか。
 学長のリーダーシップを保障するために、東京大学をはじめ各国立大学は投票制度を維持するばかりか、選出方法の透明性や、大学運営の説明責任をより明確にしようとしています。琉球大学の検討方向は、そうした趨勢に逆行するものです。
 教員人事制度でも、学長選考でも、大学運営の最も重要な問題で原則を破って、学長サイドに強引に権限を集中しようとしています。これでは、リーダーシップの根拠を損ねるとともに、大学運営に紛争の種をまき、ことごとに学長方針が学部や教員、組合などと対立する、殺伐とした学園に導きかねません。このような、誰にも利益のない制度改悪はやめるべきです。 ■

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