以下の文書は日本科学者会議沖縄支部が発行したものではありませんが、沖縄における国立大独法化問題の取り組みとして非常に貴重な資料と思われますので、掲載します。琉球大学教授職員会(琉球大学の教官多数が加入している親睦組織)が設置した専門委員会が作成して公表したものです。


国立大独立行政法人化問題に関する中間報告

琉球大学教授職員会1999年度専門委員会 独立行政法人化問題の部
 中間報告 (2000年6月26日)

はじめに


 琉球大学教授職員会は、1999年度専門委員会に、独立行政法人化問題の部(略称:独法化部会)を設置した。独法化部会は、発足後、会合を重ねて、国立大学の独立行政法人化に関する問題について検討を加え、本年6月26日に検討の成果について、中間的なとりまとめを行った。したがって、本学教職員の皆様にたいし、ここにご報告申し上げる。

本報告の構成

1. 国立大学の独立行政法人化に関する経緯と内容

1-1. 国立大独法化案出現の経緯
1-2. 大学審答申と中央省庁改革
1-3. '99年からの急展開〜文部省の方針転換
1-4. 自民党文教部会の提案
1-5. 文部省の検討開始

2. 自民党文教部会案の検討

2-1. 自民党文教部会案のポイント

2-2. 教育研究機関たる大学に及ぼす影響
(1) 学問研究の自由と大学の自治をめぐって

(2) 教育機関たる大学

2-3. 独立行政法人化が教育・研究に与える影響
(1) 学術の基本的性格との矛盾

(2) 研究資金の重点配分による歪み
(3) 若手研究者・次世代の青年への悪影響

3. 独立行政法人化のねらい
3-1. 初等中等教育における教育改革
(1) 現在進行中の教育改革の背景・経緯

(2) 公立の小・中学校で進行中の「通学区域制度の弾力化」政策の検討
(3) 「通学区域制度の弾力化」政策を支える教育制度の登場


1. 国立大学の独立行政法人化に関する経緯と内容

1-1. 国立大独法化案出現の経緯


 国立大学の独法化は行財政改革の一環として、中央省庁等の再編と不可分の関係で登場した。
 1997年1月に橋本内閣が「6大改革」を提起し、その1つとして教育改革を急きょ組み込んだ。このころから、大学改革を含む教育改革は行財政改革と一体化してとらえられるようになった。同年には、教員養成系大学・学部の学生定員5000人削減計画や「大学教員等の任期に関する法律」が成立している。
 行政改革会議は、文部省のヒアリングで国立大学の民営化、地方移管を要請したが、文部省はこれに反対し、学長のリーダーシップの強化や学外者の意見聴取等を提案した。行革会議は提案を一度見送ったが、再浮上させ、国立大学の民営化、地方移管、エージェンシー化について審議を決定した。
 10月に行政改革会議水野事務局長が東大、京大の独法化案を提示したが、東大、京大総長は独法化に反対する見解を出し、町村文部大臣も国立大学の独法化に明確に反対した。国大協常任理事会も「国立大学の独立行政法人化はふさわしくない」との見解を表明した。行革会議も、国立大学の独法化は「現時点では早急に結論を急ぐべきではない」との取りまとめを行った。
 11月の国大協第101回総会は「国立大学の独立行政法人化反対の声明」を発した。12月の行革会議の最終報告では、「国立大学の独立行政法人化は、大学改革方策の一つの選択肢になり得る可能性を有しているが、これについては、大学の自主性を尊重しつつ、研究・教育の質的向上を図るという長期的視野に立った検討を行うべきである」としている。同報告は、同時に、公務員10%削減を提起した。

1-2. 大学審答申と中央省庁改革


 1997年10月31日に町村文相は大学審議会に「21世紀の大学像と今後の改革方策について」諮問した。大学審議会は1998年10月に答申を発表し、学長の権限強化、教授会・評議会の審議機関化、学外者の意見反映の場の設置、第三者評価機関の創設など、現行設置形態において独法化機能を担いうることをねらった提起を行った。
 1998年6月に中央省庁等改革基本法が制定された。そこでは国立大学の独法化には触れられていない。11月の「中央省庁等改革に関わる大綱事務局原案」では、「省庁改革の開始される平成13年から10年間で公務員の10分の1の定員削減を行うための新たな計画を策定する」とし、「独立行政法人化への移行により20%削減」すると提示した。
 1999年になると、自民党と自由党の連立合意で、公務員数を10年間に25%削減することとした。1月に「中央省庁等改革大綱」が確定し、内閣府における総合科学技術会議の設置や独立行政法人の規定も含まれる。4月に国の行政組織等の減量、効率化等に関する基本計画を閣議決定、「国立大学の独立行政法人化については、大学の自主性を尊重しつつ、大学改革の一環として検討し、平成15年までに結論を得る」とした。

1-3. '99年の急展開〜文部省の方針転換


 1999年6月には、独立行政法人通則法、各省庁設置法等からなる中央省庁等改革関連法案が衆議院本会議で可決した。国立大学の独法化問題もこのころから急展開を始める。経済戦略会議は「経済戦略会議提言に関する政府の検討結果について」を発表し、「民営化へのステップとしての独立行政法人の結論が平成15年というのも遅すぎる」とし、とりあえず独法化の促進を要請した。国大協第一常置委員会でも検討に入る。有馬文部大臣もそれまでの国立大学の独法化反対の姿勢を豹変し、文部省として検討の方向に転じる。
 7月には独立行政法人通則法が成立した。8月には国大協第一常置委員会の意見書を国立大学長宛に配布するも、9月の国大協臨時総会で、国大協としては独立行政法人化に基本的に反対の態度を確認した。9月20日、文部省は国立大学長・大学共同利用機関長会議で「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」を一方的に表明、独法化を特例措置を盛り込むことで容認する方向を提示した。
 文部省は、国立大学の独法化を「大学改革の一環」として、その意義を強調し始めた。1999年11月の国立大学長懇談会で、独法化の意義として次の3点を提示している。@欧米諸国の大学と同様に、独立した法人格を持つことにより、自らの権限と責任において大学運営に当たることが可能となる。A組織編成、教職員配置、給与決定、予算執行等の面で、国による諸規制が緩和され、各大学の自主性・自律性が拡大する。B教育研究や教職員配置等大学運営全般にわたり、より自由な制度設計が可能となり、大学の個性化の進展、さらに競争的環境の創出が期待される。
 国立大学の独法化が致命的な欠陥を含んでいることが明らかなので、大学関係者からの反対や批判の動きが大きくなっていった。

1-4. 自民党文教部会の提案

 2000年3月23日、自民党文教部会・文教制度調査会教育改革実施本部高等教育研究グループ(いわゆる麻生委員会)は「提言 これからの国立大学の在り方について(案)」をとりまとめた。この提言案は修正されて、「自民党文教部会・文教制度調査会」の提言として、5月9日に発表された。提言の骨子は次の通りである。
【方向と方針】
 同提言では、「国家戦略としての「高等教育政策」について論ずる」との認識にたって独法化が提起された。21世紀の我が国の大学が目指すべき「3つの方向」と、それを実現するための高等教育政策の「3つの方針」がだされた。すなわち、国際競争力強化、個性化・多様化の推進、教育機能の重視の方向で、競争的環境の整備、規制緩和推進、公的投資の重点的拡充を提起した。
【国立大の運営の見直し】
 第1に「護送船団方式からの脱却」を挙げ、大学運営の結果によっては、選別と淘汰も避けられないとする。第2に「責任ある運営体制の確立」として、学長のリーダーシップを発揮しうる権限と体制の確立を求めている。第3に「学長選考の見直し」として、「国立大学の社会的責任を明確にし、社会との連携の下に適任者を選ぶとの考え方に立って、学長選考のための学外の関係者及び学内の代表者(評議員)からなる推薦委員会を設けた上で、これに「タックス・ペイヤー」たる者を参加させるなど、選考方法の適正化を図るべきである。」としている。第4に「教授会の運営の見直し」を行い、「現状の教授会中心の運営の在り方を抜本的に改めるべきである」としている。第5に「社会に開かれた運営の実現」として、第三者評価機関による評価、活動実態の積極的公表、社会の意見を恒常的に運営に採り入れる取り組みが必要としている。第6は、「任期制の積極的な導入」を競争的環境の整備の一環として行うことを求めている。第7に「大学の運営に配慮した規制の緩和」として、「予算執行、給与決定、組織編成などの国の諸規制をできるだけ緩和し、運営の自由度を高め、学長の権限を拡大すべき」としている。
【国立大の組織編成の見直し】
 「様々なタイプの国立大学の併存」「学部の規模の見直し」「大学院の一層の重点化」「国立大学間の再編統合の推進」の4点を提言している。
【国立大の独法化についての方針】
 まず、「国立大学を、護送船団方式から脱却させ、より競争的な環境に置くため」に法人格を与えることの意義は大きいとする。さらに、「国立大学を法人化した後も、国は、…国策としての学術研究や高等教育の在り方を踏まえ、各大学の運営や組織編成に相当の関わりを持つ必要がある。この点、独立行政法人制度は、目標・計画の設定や定期的な業績評価といった仕組みを通じて国の意思を法人運営に反映させうる法人制度」であることから、独立行政法人制度の仕組みを活用するとしている。「大学の特性に配慮」しつつ、「通則法の基本的な枠組みを踏まえ」た独法化をするのが骨子であり、基本組織(評議会、教授会、運営諮問会議)、目標・計画、評価、学長人事、名称の5点については、通則法との間で一定の調整を行う調整法(又は特例法)といった形で、法律上明確に規定すべきとしている。
 以上をふまえて、政府が2001年度中に具体的な法人像を整理し、できるだけ早期に「国立大学法人」に移行させることを求めている。
 なお、独法化は国立大学にとどまらず、大学共同利用機関や公立大学についても同様の方向性を示している。
 「高等教育・学術研究への公的投資の拡充」については、競争的経費を拡充するとともに基盤的経費を十分に確保するとしつつも、各大学の教育研究の実態にたいする評価結果に基づいて資源配分を行うこととされており、スクラップ・アンド・ビルドが基本である。

1-5. 文部省の検討開始

 自民党文教部会の提言を受けて、文部省は、5月26日の国立大学長・大学共同利用機関長会議で、独法化への検討にはいることを表明した。「今後の国立大学等の在り方に関する懇談会」の下に調査検討会議を開催し、2001年度中には、調査検討会議としてとりまとめを行うとしている。
 6月14日の国大協第106回総会は、次の4点を全会一致で確認した。@通則法を国立大学にそのまま適用することに強く反対する姿勢を今後も堅持、A「設置形態検討特別委員会」を国大協会内部に新たに設置、B国大協として、文部省に設置される調査検討会議に積極的に参加、C「学術文化基本計画」策定を課題とする議論の場の要求。
 翌15日の定例国立大学長会議では、同日高等教育局長に就任した工藤智規氏が、国立大学に「強すぎる教授会」「研究偏重主義」「悪平等」の3つの悪癖があると批判し、冗談めきつつも「学位を出さない大学院には予算を出さないぐらいのことは必要かもしれない」とまで述べた。


参考資料:he-forum, reform MLの各記事。細井克彦(2000)国立大学の独立行政法人化問題の現段階. 大学問題フォーラム16. JSA.

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