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「SACO・新ガイドライン下での沖縄の基地問題と環境」
亀山統一(JSA沖縄支部)

I. 沖縄の基地問題の歴史と現在の情勢

1. 在沖縄米軍基地の特徴
 沖縄の米軍基地の起源は、太平洋戦争中の日本軍の基地建設にある。米軍は、沖縄戦において日本軍基地を占領・拡張して使用するとともに、新規の基地建設を進めた。戦後もこれらの基地は返還されなかった。さらに、1950年代には沖縄を「反共の防波堤」とする政策のもとで新たな基地再編強化をすすめた。1972年の復帰によって、沖縄は日本国憲法と日米安保条約が適用されたが、米軍基地の自由使用の実態は維持された。
 そのため、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争に、沖縄は不可靴の役割を果たすなど、世界への出撃基地としての役割が半世紀にわたり続いている。また、基地建設の経緯から、在沖米軍基地は、民有地を多く含む、人口密集地に多く位置する、極端に基地の数と面積が多く、その機能も総合的で侵略性が高い、などの特異な特徴をもっている。とくに、海兵隊師団の駐留と嘉手納の空軍部隊の存在は、在沖米軍の性格を決定づけている。

2. 新ガイドラインと在沖米軍
 1990年代には「冷戦後」の米軍の役割として、グローバルに展開する多国籍企業の安定した活動を世界で保障することが中心におかれた。当面、自国を唯一の超大国と考える米国にとって、想定される敵は「懸念国家」やテロリスト集団であることから、国内外の世論をできるだけ刺激せず、緊急に世界のどこにも展開できて、少数で攻撃を完遂できる臨戦即応部隊が重視されることになる。このような部隊には、機動性の高い空軍力や、海兵遠征団などが相当し、陸軍にも高機動性の新旅団編成の動きがある。
 したがって、沖縄の空軍と海兵隊は、冷戦構造下とは任務の性格を変更しつつも、21世紀に向けて引き続きもっとも重視される部隊となる。新ガイドライン体制下で、沖縄基地が注目されるのは当然のことであった。

3. SACO最終報告の意図
 1995年夏の、海兵隊員による小学生への暴行事件を契機に、沖縄県民は積年の基地問題に対して大規模な行動を起こし、それは、国内外に反響を呼んで、日米安保体制への支持が大きく低下した。この時期には、日米新同盟宣言発表、新ガイドライン締結がなされたが、日米両政府は、グローバルかつ双務的な世界規模の軍事同盟関係へと安保体制を大きく変革しつつ、こうした「逆風」に対応することが迫られた。SACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)は、このような情勢の産物であった。
 SACOにおいては、普天間基地の県内移設など11の沖縄基地の再編や、訓練の移転等が合意された。これによって、在沖米軍の陸上基地面積が2割縮小されるなど、沖縄県民の負担を軽減するものとされた。しかし、その実態は、面積を縮小しつつ、老朽化した既存基地施設を新鋭設備にかえて最適配置しなおし、機能の強化を図るものと分析される。特に普天間基地の移設計画はその典型とされ、1997年の名護市住民投票によって基地建設を拒否された。これには、日本科学者会議などから組織された沖縄米軍海上基地学術調査団の活動も大きく貢献した。SACOの基地再編計画は、未だ多くが実行されずにあるが、訓練の移転計画については、155mm榴弾砲実弾演習やパラシュート降下訓練の移転が進んでおり、従来よりも量的・質的強化が実現していることが証明されている。

4. 基地再編をめぐる現在の情勢
 普天間代替基地をめぐっては、海上基地の事例を教訓として、政府は、地元要求に基づき、また、巨額の「振興策」と引き換えにすることで、建設反対からの世論の打開をはかろうとしている。国と関係自治体による協議会がこれまで3回実施された。日米間での実務者レベルの協議の再開されたが、詳細な検討は米国の新政権成立後に先送りされた。
 このことをめぐっては、沖縄県知事、名護市長の15年使用期限の要求が日米両政府に受け入れられないでいることが重大な矛盾点とされている。また、米国の対日安保政策の元当事者が、次々に在沖米軍やその訓練の分散・移転を提言していることをうけて、米国のアジア・太平洋戦略における沖縄の重要度が低下していると見る論調も広がっている。
 しかし、15年期限以外に沖縄県知事、名護市長が基地建設を拒否する理由は乏しく、期限問題に何らかの妥協がはかられるならば、知事と市長はその推進者となるであろう。また、沖縄を中心に在日米軍の分散をはかれとの提言の真意も、日本の軍事拠点や配属部隊は基本的に維持しつつ、訓練などでアジア太平洋諸国の活用をよりはかることにあると考えられる。いわばSACOにおいて検討された部隊の最適配置と本土への訓練の分散による質的強化策を、アジア・太平洋規模で検討しようとするものである。このように、世論と運動を反映して、安保政策は刻々と変動しつつも、アジア・太平洋地域を特に重視し、米軍の効果的なプレゼンスを維持しようとする政策の基本は貫かれており、その際の沖縄の重要度も低下していない。

5. 沖縄問題における争点
 SACOに提示された基地再編の事案を受け入れるか否かの判断には、「新ガイドラインによって大きく変容しようとしている日米軍事同盟体制を、21世紀に長期にわたって存続させることが、本当に適切な選択なのか」という根本問題を避けて通ることができない。また、基地強化の代償として大量の公共事業の投下が計画されていることを考えると、公共事業に依存した経済構造、地域計画の是非そのものが問われることになる。もちろんその中では、自然環境の保全や人間らしい暮らしと、軍事優先の既存のあり方との二者択一が、重要なポイントである。基地とそれに付随する「振興策」への依存を積極的に選択するかどうかを県民に問うている「沖縄問題」は、その意味で日本社会の抱える所緒問題の縮図と見ることができる。
 基地問題については、7月15日に開催された、度重なる米軍による事件事故への抗議集会に8千人が、7月20日の嘉手納基地包囲行動には27,100人が参加したことに示されるように、また、最近の世論調査の結果からも示されるように、米軍基地の縮小撤去の県民世論は大きく強い。

II. 米軍基地と安全保障政策による環境破壊


1. 在沖米軍のもたらしている環境破壊
 在沖米軍は、事件事故や日常的な活動によって、下記に例示するような多様な環境破壊をもたらしている。
1)基地施設内外の化学物質・放射能汚染
・PCB、重金属(水銀、カドミウム、鉛、劣化ウランなど)、石油類などによる土壌、水系の汚染
・粉塵、排気ガスによる大気汚染
・化学兵器、危険物の漏出
・原子力推進艦船からの放射能漏れ、劣化ウラン弾の環境への放出
2)演習による自然環境の物理的破壊
・砲弾の発射、不発弾の発火による訓練場の森林・原野火災
・上陸訓練のさいの水陸両用車両などによる海浜、サンゴ礁の破壊
・森林を伐採してのジャングル戦闘訓練施設の建設
・裸出した表土の侵食と、赤土の流入による河川・海洋汚濁
・空砲の薬莢や実弾、不発弾の放置による環境汚染。不発弾の放置による火災・爆発の危険
・演習場外での訓練による農地等の踏み荒らしや軍用品の投棄、廃棄物の不法投棄
3)日常的な活動による環境への負荷・破壊
・水・エネルギー資源の浪費、水源地での訓練の実施
・廃棄物処理の負担
・施設や取り付け道路等の建設
・生物の持ち込みによる生態系への影響や動植物への病虫害発生
・基地内外の森林病虫害防除などでの連携の困難
・基地や訓練による爆音や光害などによる野生生物の生息、人間の居住環境への影響
・航空機の墜落、人荷の落下

2. 米軍基地建設のもたらす環境破壊
 SACO事案による基地新設問題は、各地で環境破壊都の関わりで批判がなされている。
 たとえば、名護市辺野古への海兵隊航空基地建設は、サンゴ礁と藻場(海草類)の破壊が必至であり、ジュゴンやウミガメの生息、繁殖への障害も指摘されている。北部訓練場へのヘリパッドの建設は「やんばるの森」といわれる貴重な亜熱帯降雨林の核心部分の大面積の伐採を伴うことから、多くの学会等も反対を表明している。キャンプハンセンの再編や、ブルービーチ上陸訓練場の強化も周辺の生態系への影響が強く懸念される。
 これらSACO事案は、基地の県内移設問題として、基地機能の強化や基地被害の激化の面からも反対の世論と運動が高まっているが、それ以上に、自然環境への負荷が世界的な関心を生んでいる。
 一方、政府は沖縄の米軍基地の再編強化を推進するために、地域振興策と称する公共事業を大規模に実施しようとしている。これらの公共事業の多くは、沖縄本島北部において行われる。辺野古の航空基地に付随する軍民空港・臨空型産業の整備、高速自動車道や高規格道路の整備・延伸など、大規模な開発の伴うプロジェクトも多い。
 地域の産業・生活基盤の整備は、本来、安全保障政策の推進などを無関係に、国と地方自治体の責任で行われなければならないものである。しかし、今問題になっている地域振興策は、基地建設の「代償」として、地域と時間を限って集中的に投下されることが至上命題となっているため、本当に必要かつ効果的な事業なのか、また、事業を行った場合の自然環境へのインパクトがどうなるのかは、十分に検討されていない。
SACOに基づく基地建設は、日本政府がおこなって、完成した施設を在日米軍に提供するものであるから、財政支出も事業の主体も日本に責任がある。その意味で、沖縄の基地新設問題(総額2兆円とも言われる)は大規模公共事業問題の一典型でもある。さらに、そうした基地建設に加えて「振興策」が実施されようとしているのである。私たちは、平和の問題として沖縄問題をとらえるとともに、持続的な社会を構築する上での最大の障害とも言うべき、公共事業と大企業をどうするのかという課題の一環としてもとらえる必要がある。


 本稿の一部は、日本科学者会議第13回総合学術研究集会(2000.12.大阪)での講演予稿を改編したものである。


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