3-2. 自然環境への影響 3-2-1. サンゴ礁

 この海域のサンゴ(造礁サンゴ)は、かつて赤土公害やオニヒトデによって大被害を受けたが、調査結果によると、かなり広い範囲でサンゴの回復がみられる。今後さらに成長することで、かなりの大コロニーを形成する可能性がある(写真参照)。このことは、政府基本案のいずれの設置海域においても認められる現象であった。

 サンゴは褐虫藻とよばれる植物と共生する動物であり、海中照度の低下は、共生植物の光合成を阻害し、サンゴにとってもダメージをもたらす。したがって、いずれの工法によっても、海上基地の建設がサンゴを減少させることは明らかである。

 なお、サンゴ礁は、サンゴ自体の生物としての価値が貴重であるばかりでなく、さまざまな小型生物や魚類などの生活の場、さらには産卵や育成の場となっており、その減少はその海域の生物群集全体もしくは生態系の変質あるいは破壊をもたらす。

3-2-2. 海水の滞留

 我々の調査では、この海域の流れは、NないしNNWに向けた微弱な流れ(0.2ノット以下)であった。これは、海上基地に対しては、沖側からの流れになり、とりわけポンツーン方式では、堤防によってさえぎられ、基地周辺の海水はほとんど滞留することになりかねない。このことはすでに、神奈川県横須賀沖でのメガフロート実験によっても0.4ノット水流下で実証されている(図-2参照)。この場合は、海上基地直下の光合成の阻害による植物プランクトン及び海藻草類の死滅(これは動物界に影響する)のほかに、無酸素水塊の形成も懸念される。この無酸素水塊は時として移動し、青潮となって沿岸の生物を死滅させることがある(東京湾などによくみられる現象)。また、杭式桟橋方式の場合でも、「基本案」では4千本以上の杭を立てることになり、その周囲に渦流ができたりして、浅海域の植物等に与える影響は小さくないと考えられる。3-2-3. 藻場とジュゴン

 辺野古崎南側の浅海部には、藻場が観測された。その組成は、ボウバアマモをはじめ、カサノリ、イソスギナ等が中心となっていた。とりわけカサノリは、今日、沖縄本島の他の海域ではあまり見られなくなっている種である。総じて、この海域の藻場は、規模においても組成においても貴重性の高いものであるといえよう。

 なお、この海域にはジュゴンが生息しており、その餌場となっている可能性が強い。ジュゴンは国際保護動物、日本でも天然記念物(地域を定めず指定された動物)であり、レッド・データ・ブックにも記載されている哺乳類である。その分布は太平洋の西部と、インド洋などに限られ(大西洋には近縁種のマナティー)、沖縄はほぼ分布の北限に当たるだけに、極めて稀少な動物である。過去の発見例は、とりわけ沖縄本島の東側におおく、辺野古周辺が主生息域とも考えられる(図-3参照)。それだけに、ここにある藻場がジュゴンの餌場であるとすれば、基地建設の是非が根本から問われかねない。

3-2-4. 塩害と樹木

 現在もヤンバルの樹木をみると、しばしば塩害で変色したものが観察される。とりわけ台風で海側からの風が吹いた場合の飛沫は、内陸部に数キロにわたり塩害をもたらす。今回の基地建設は、その被害を一層増大させる可能性がある(写真-1参照)。沖縄本島の西側を通り、東海岸に強風が吹き込み、塩害をもたらす大型台風を調べると、最近では1991年9月の第19号台風、1993年9月の第13号台風、1997年8月の台風などがあり、数年に1回は襲来する。

次頁

前頁

調査報告目次

ホーム