4. 政府文書「海上ヘリポート基本案について」に対する見解

4-1. 総論

1) 前例がないほどの巨大な海上軍事基地を建設する際の事前調査としては極めて不十分な調査であり、また、我田引水的な結論づけを行っている。例えば、自然生態系にかかわる調査は、自然環境の変化が通常1年サイクルであることに合わせて年間の連続観測を行い、さらに平均的な状況を把握するのに少なくとも3年の調査が求められる。現に政府の研究機関は、その単位で調査を行っている。また、この海域で過去に長期間の調査が行われた蓄積もない。したがって、今回の政府の調査によって基地建設による自然保護の保障ができたとする科学的論拠は見当たらない。

2) 自然保護の観点が、特定の希少種の保護にのみ置かれており、サンゴ礁や藻場そのものの果たしている役割など生態系保全についてなんら評価していない。生態系の保全は、今日の環境科学の視点では常識的なことであり、政府の調査陣に果たして専門家が参加していたかどうかも疑われる。

3) 今回の「基本案」が実施されると、従来のキャンプ・シュワブ、辺野古弾薬庫(核兵器にも対応)キャンプ・ハンセン、ブルー・ビーチ訓練場に隣接して海上基地がつくられる。このことによって、県内米軍基地面積の7割、1万人を越える兵員を擁する、米海兵隊の海外での最大拠点が、沖縄本島北部地域に形成されることになる。海兵隊は「有事」の際の最前線部隊であり、現在問題になっている日米新「ガイドライン」とも関連し、日本中で最も危険な地域とならざるを得ない。しかも、この「基本案」の内容は「有事」にはあり得ない条件(飛行経路の迂回、深夜の飛行自粛など)に基づいたものにすぎない。

4) 基地への弾薬輸送、給油・給水等の条件や経路、海兵隊の居住地と通勤経路、他の基地周辺への影響の波及、安全性確保のための諸条件に対する米軍側の了解の有無など、基地建設に対する不安材料への対応が全く示されておらず、これで基地の安全が保障されたとする論拠にはならない。

5) 海上基地設置のマイナス点はすべて地域経済振興策でカバーしようとしているが、これが国民の税金から支出される以上、総額どのくらいを準備しているのか、また、基地建設費用もわが国の財政からどれだけ支出する必要があるのかを明示すべきである。また、地域経済振興策で対応しようとしているが、住民に危険を押しつけることの代替にはなり得ない。

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科学者会議沖縄支部