4. 政府文書「海上ヘリポート基本案について」に対する見解
4-2. 各論

1) サンゴの問題では、この海域のサンゴ礁はかつて赤土やオニヒトデの害で、ほとんどが壊滅状態となったが、いまそれが回復しつつあることをわれわれの調査で確認している。政府は「貴重性の高い巨大コロニーの形成等は確認されなかった」としているが、今後、大コロニーを形成する可能性もある。少なくとも2〜3年の連続観測がなければ、将来に向けた評価はできない。

2) 海草では、政府の調査でもリュウキュウアマモやリュウキュウスガモが藻場を形成していることが確認されたとしている。 われわれの調査で確認したボウバアマモを含め、これらは国際保護動物であるジュゴンの主な餌となる海草である。政府の調査では「遊泳中のジュゴン1頭を目視した」としており、当然のこととして、その藻場がジュゴンの餌場になっているかどうかを調べ、餌場となっていれば、それを保護しなければならない。しかしそのことには一切触れておらず、自然保護の視点がまったく欠けている。

3) 政府案では藻場に被害があるときは他へ移植することを考えるというが、われわれの調査ではかなり広範囲に繁茂しており、巨大コロニーである。全てを移植することなどは生物学的にも不可能であるとともに、この水域の生態系にとってもゆゆしい問題である。ここにも、生態系に対する配慮が全く見受けられない。

4) 魚介類の餌になるなど、生物生産の基礎ともなる植物プランクトンの光合成が阻害されることによる影響が少ないとしているが、いずれの工法によっても水中照度が減少することは明らかで、光合成も低下するのは当然である。「海水の循環によりプランクトンの流出入が生じる」から大丈夫であるといっているが、われわれの調査では、基地建設予定海域の流れは微弱であり、プランクトンの流出入はあまり期待できない。特に、ポンツーン方式に関する水流の停滞に関しては、神奈川県横須賀沖での実験例もあり、それすら無視した結論づけは”我田引水”と言わざるを得ない。

5) 海上基地からの油漏れは、台風や地震時に事故が起こりやすい。そのような時には、デッキのふちに排水溝が作ってあっても役には立たないであろう。海上に油が流出する危険は、政府が示した対策では解消されておらず、海洋汚染やそれによるマングローブ林の影響もありうる。

6) 政府案では、波しぶきによる塩害も少ないとしている。しかし現実に波しぶきが風で運ばれることによる樹木の塩害は、内陸数キロにも及ぶ。沖側につくられるポンツーン方式でも、防波堤に当たった波は台風時などにはぼう大な量のしぶきを発生させ、陸上の塩害のもとになると考えられる。

7) 海上基地の安全対策として、台風、波浪、地震、津波について言及しているが、そのほとんどの場合、沖縄本島周辺に限って、この100年以内におこったもの(100年確率)を基準にしている。しかし、琉球海溝の存在等を考えれば、これは極めて不十分と言わざるを得ない。琉球列島全体でみれば、台風では瞬間最大風速85.3m(宮古)、地震では1911年にマグニチュード8.0という、阪神・淡路大震災を上回る記録(喜界島)、津波では、1771年に波高30m以上(石垣島)で死者12,000人という記録もある。例えば政府が示したチリ地震津波でさえ、3〜4メートルであり、この基準で海上基地の安全が保障されるとは言えない。

8) 騒音問題では沖合い基地だからほとんど被害はないとしているが、音は風向きによって大きく変わること、また基地上の音だけでなく、飛行ルートや訓練場の多くが陸地の上空であったという普天間の実態からみて、騒音問題が解決したとは言えない。また、人家や学校の上は避けて飛ぶというが、いま問題の「有事」の際にはとても保障されるとは思えない。

9) 政府案には海上基地を利用する機種について、ヘリコプター以外の記載がない。普天間では戦闘機も輸送機も離着陸している。海上基地の滑走路は、強度さえあれば、開発中の垂直離着陸機V-22オスプレイ、戦闘攻撃機FA-18ホーネット、大型輸送機C-17AグローブマスターIIIも利用できる。これらは、ヘリコプターよりも大きな音を出す機種であり、騒音の心配なしとすることはできないはずである。

10) 漁業被害の問題では、基本的に金銭補償で片づけようとしている。しかし漁業は一般住民の食生活を支える役目をはたしており、沖縄県民全体に関わる重大問題として考える必要がある。

11) 政府案は、普天間基地との比較をおこない、面積が5分の1になることを朗報としているが、安全性からみると逆のことが考えられる。政府案では普天間基地の規模と機能をほとんど全て辺野古に移すといっているが、面積だけを5分の1にして、機能や規模をそのままにするということは、狭い場所でこれまでと同じことをするということであり、それだけ事故が多いと考えねばならない。

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科学者会議沖縄支部