もどる

2004.6.10 沖縄タイムス(朝刊23面:環境) 親子のための30分環境講座 掲載稿

*教育・研究目的以外での転用をおことわりします。商業出版物等に引用する場合は沖縄タイムス社の了解を得て下さい。

 基地と放射能 事故あれば深刻な被害

原子力推進艦
 ホワイトビーチ軍港では、復帰後の原子力潜水艦の入港回数が二〇〇回をこえました。
 原子炉を動力とする船では、原子炉から少しづつ放射能漏れが起こります。原子炉に事故が発生すれば、多量の放射性物質が放出されるおそれもあります。
 重い事故が起これば、沖縄本島中南部の人口密集地を被曝させかねない、軍用原子炉が出入りしているのです。しかも、ホワイトビーチへの寄港情報の公表が停止されているのは、一層危険なことです。
 一方、米国の航空母艦は、遠からず、すべてが原子力空母になる計画です。主力のニミッツ級空母では、二基の原子炉を備え、六千人の兵員と八〇以上の軍用機の部隊の活動を二〇年分まかなえる核燃料が、積載されています。
 那覇軍港に代わって、水深が深く大きな軍港が浦添に完成した場合でも、空母は寄港しないのでしょうか。空母の兵力、艦載機の爆音や墜落の危険に加えて、放射能汚染について十分に考える必要があります。

核兵器
 日米両政府は一九六〇年の日米安保条約改定のさい、「艦船の立ち入り」などでは事前協議をしないと密約したとされます。米原潜が沖縄に寄港するときなどに、核兵器を搭載してくる可能性を否定できません。
 二〇〇二年の核態勢見直しで、米国は「先制核攻撃戦略」を打ち出しました。米国は、小型核兵器の開発を禁ずる国内規制も、昨年撤廃しました。
 米国は、威力の小さい核兵器を開発して、通常兵器とのしきいを低くし、実戦に使えるようにすることが目的です。使う対象は「テロ国家」などですから、小型核兵器が使われる可能性が高いのはアジア・太平洋地域です。その開発・配備は在日米軍、特に沖縄の部隊に関係の深いことなのです。
 ところで、小型核兵器とは最大五キロトンで、広島原爆の三分の一もの威力のものです。そんな兵器を、被害が小さく使いやすいだろうとする米国の発想は、国際的に孤立しています。来年五月のNPT再検討会議にむけて、二〇〇〇年の同会議で米国も含めて合意した「核兵器廃絶の明確な約束」の実行こそが、問われているのです。

劣化ウラン
 イラクや東欧で、米軍が使用した劣化ウラン弾が問題となっています。住民の発ガンの原因の一つと疑われているのです。
 沖縄でも、劣化ウラン弾は配備され、一九九五〜六年には、海兵隊機が鳥島射爆場で劣化ウラン弾を発射する事件が起こりました。二〇〇キログラムもの劣化ウランの多くは、今も鳥島に残されたままです。
 劣化ウランは、核燃料用のウランを取り出す過程で出るゴミです。金属ウランが鉄の二・四倍も密度が高いことに目をつけたのが、劣化ウラン弾です。重い上に、硬度を高めた劣化ウラン合金の弾頭は、戦車の装甲を貫通する能力がずば抜けて高い。しかも、貫通時に摩擦熱で燃え上がり、戦車の内部を焼きます。このように優秀な「徹甲焼夷弾」として、一九九一年の湾岸戦争以来、実戦に使われています。
 劣化ウランは、標的を貫通するときに微粉末になり、拡散します。それを生物が取り込んでしまうと、体内でアルファ線という種類の放射線を出します。劣化ウラン弾が使われた戦場の住民はホコリや水、食物に混じって劣化ウランを取り込み、内部被曝する可能性があるのです。
 アルファ線は、空気中では四五ミリしか飛ばず、体外からの被曝の危険は小さいです。しかし、体内にアルファ線源がとどまると、百分の四ミリほどの狭い範囲の身体の組織に集中して、放射線の影響を及ぼし続けます。内部被曝では、放射線の総量は少なくても、影響が局所に集中し、発ガンにかかわる可能性があるのです。
 劣化ウランの放射能は弱く、危険は小さいとされてきました。これは、内部被曝の危険性を軽視した、米国などが中心にまとめた放射線防護基準による評価です。内部被曝・少量の被曝軽視の考え方は、厚生労働省の原爆症認定にも影響し、広島・長崎の被爆者に未認定患者が続出する現状を招いています。
 劣化ウラン弾は核兵器ではなく、巨大な破壊力を持ちません。しかし、環境や人間を放射能汚染する兵器ですから、核兵器同様にすみやかに廃絶するべきです。

 核兵器も劣化ウラン弾も原子力艦船も、どれをとっても、沖縄の基地問題のなかで、放射能の問題はとても身近で、切実な問題なのです。

亀山 統一
日本科学者会議沖縄支部事務局長・琉球大学農学部助手・森林保護学

もどる