もどる

2004.6.10 沖縄タイムス(朝刊27面:環境) 親子のための30分環境講座 掲載稿

*教育・研究目的以外での転用をおことわりします。商業出版物等に引用する場合は沖縄タイムス社の了解を得て下さい。

 基地と化学物質 相次ぐ流出・汚染事故

頻発する環境汚染事故


 米軍による環境汚染、とくに、燃料油や廃油の流出事故はひんぱんに起こっています。九七年にキャンプ瑞慶覧からハンビータウン前の国道五八号線沿いに、猛毒のPCBが高濃度で漏れ出たのも衝撃的な事件でした。
 有毒な油脂類や汚水が民間地域をたびたび汚染しています。嘉手納基地・弾薬庫の場合は、汚染物質が比謝川に流入し、上水道の取水に影響を与えることもあります。土壌や水に入った化学物質は、長期的には地下水をも汚染するかも知れません。県民の命と健康に直結していることが実感されます。
 大気中に現れる汚染物質としては、航空機や軍用車両の排気ガスや、嘉手納基地の航空機洗機場から、煤煙・油脂・洗剤などの混ざった霧が飛散する被害などが知られています。九七年には、キャンプキンザーで化学物質の倉庫が火災を起こし、猛毒の塩素ガスなどが発生した例もあります。
 これらのケースは、被害が目に見えたり測定可能なので、発見しやすいと言えます。

氷山の一角? 土壌・地下水汚染


 一方、基地内の土壌汚染や地下水汚染では、新聞報道や県の統計をみると、事件が発覚するのにいくつかのパターンがあることに気付きます。
 ひとつは、二〇〇二年の北谷町でのドラム缶投棄事件、九九年の嘉手納弾薬庫地区返還跡地での重金属の検出、九六年の恩納通信所返還跡地でのPCB、カドミウム、水銀、鉛、砒素等による汚染事故など、基地返還後に初めて汚染が見つかる例です。
 第二には、九六年に、キャンプキンザーで民間の建設作業員が掘削作業中に、刺激性のガスが発生した例のように、県民を巻き込んで被害が顕在化した場合です。特にひどい例は、七〇年代の嘉手納基地でのPCB投棄事件でしょう。基地内の露地に穴を掘り、日本復帰後も、日本人作業員に素手でPCBを含む油類を多量に捨てさせていたことが、マスコミの精力的な取材で明るみに出ました。
 それ以外は米軍の発表に頼るしかありません。軍事秘密の壁が、事実の把握と迅速な対策をはばんでいます。

事故以外にも危険はある

 環境汚染は事件・事故の際にだけ起こるわけではなく、軍隊の日常活動での兵器や装備の配備・使用そのものが問題となりえます。
 例えば、劣化ウランは徹甲弾以外にも用途があり、軍用機(C一四一など)や、誘導ミサイルなどの部品としても使われていたのです。日常的な危険があり、軍用機が墜落すれば、ウランによる放射能・重金属汚染が起こりえたのです。
 実弾演習場では不発弾や火災が問題となっていますが、このことは、演習場・射爆撃場に、弾薬などの異物が日々蓄積していることを意味します。
 毒物でなくとも環境に害をなす可能性もあります。名護市辺野古や宜野座村潟原で演習をしている海兵隊の水陸両用強襲車は、キャタピラにゴムのクッションを噛ませています。演習中にゴムがはずれ、ジュゴンの泳ぐ辺野古の海に多量のゴム塊が漂着します。環境への影響が懸念されます。やんばるの森の中の訓練場には、プラスチック資材や模擬弾など様々な物資が捨ててあり、やはり生態系への影響が心配されます。

排出者責任の原則を

 沖縄のような島は環境負荷に耐えられる容量が小さいのです。汚染源から逃げる先も、汚染物質を捨てる場もなく、汚染物質は、自然環境・生活環境を永年にわたり傷つけます。回復には重いコストがかかる上、完全にはもとに戻せないのが普通です。
 放出された物質は、土壌や川・海に拡散して低濃度になったとしても、生物の体に取り込まれて蓄積し(生物濃縮)、食物を通じて人体に摂取されるおそれもあります。また、観光や健康、長寿などが売りものの沖縄の地域産業にとって、軍事基地の化学汚染は、実害や風評被害を生み出す懸念材料です。
 しかし、日本政府は地位協定の改定に踏み出そうとしません。辺野古の海上基地建設についての環境アセスメント方法書でも、化学物質汚染による環境影響については、一言も触れていません。基地存続の立場でも、環境への影響を軽視してよいわけがありません。環境汚染は、排出者責任の原則にたって、米軍の責任と負担で除染し、今後の発生を予防するよう、早急に取り決めるべきであると考えます。


亀山 統一
日本科学者会議沖縄支部事務局長・琉球大学農学部助手・森林保護学

もどる