琉球大学医学部における全教員任期制化について(見解)


 「医学部教授及び助教授の任期制検討委員会」(石田肇委員長)は、「新規採用者・在職者(全員)」を対象として、「教授10年、助教授5年、講師5年、助手3年」(それぞれ再任を妨げない)の任期制を導入する方針で審議を進めており(10月22日開催の委員会)、11月26日の医学部教授会にも報告している。
 この方針が実行されるならば、任期制法に照らしても極めて重大な諸問題を含んでいる。

1.学部の全教官への任期制導入はできない
 そもそも、大学の教員等の任期に関する法律(以下、「任期制法」という。)は、「大学の教員について任期を定めない任用を行っている現行制度を前提としたうえで、以下に述べるような個別具体的な場合(任期制法第4条1項1号〜3号)に限り、例外的に任期を定めた任用を行うことができることを明らかにしたものである」(2003年5月16日衆議院における政府答弁)。

大学の教員等の任期に関する法律
第四条  任命権者は、前条第一項の教員の任期に関する規則が定められている大学について、教育公務員特例法第十条の規定に基づきその教員を任用する場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、任期を定めることができる。
一  先端的、学際的又は総合的な教育研究であることその他の当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性にかんがみ、多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職に就けるとき。
二  助手の職で自ら研究目標を定めて研究を行うことをその職務の主たる内容とするものに就けるとき。
三  大学が定め又は参画する特定の計画に基づき期間を定めて教育研究を行う職に就けるとき。
2  任命権者は、前項の規定により任期を定めて教員を任用する場合には、当該任用される者の同意を得なければならない。

 医学部(同委員会)の議論では、第4条の一および二によると説明されているようであるが、既存の学部や学科全体が、これらの号に該当するというのは極めて無理のある解釈である。なぜならば、任期制の広範な導入は、長期的視野に立った研究・教育の維持・発展を損ないかねないとの懸念などから、条文に個別具体的な場合を明記してその導入を限定したものであるからである。医学部の全教員が任期制を導入するにふさわしい(=医学部には任期を定めない任用を行う必要のある分野・職階はない)と当該学部が判断するならば、それは、本学医学部には、長期的に維持・発展させる必要のある基幹的な研究・教育分野は存在しないと自ら宣言することを意味する。現行の学部の研究・教育・診療体制は存続に値しないと考えているのだろうか。また、沖縄県の地域社会は本学医学部・付属病院にそのような期待・評価をしていると認識しているのであろうか。理解に苦しむものである。
 次に、医学部(同委員会)は、在職者(全員)に任期を設けるとしているが、そのような措置を一律に行うことはできない。任期制の導入のためには、医学部教授会の決定後、本学評議会の議に基づき、学長が教員の任期に関する規則を定めなければならない(任期制法3条)。本学評議会や学長が、一学部全体の教員に任期を付する規則を制定するというような、任期制法の脱法行為をなすことはあり得ないものと期待する。しかも、かりに、評議会および学長がそのような規則を制定したとしても、本人の同意なしの任期つき任用はできない(同法第4条2項)のであって、医学部全教員が、自ら任期つき教員として任用され直すことに同意することを前提とした決定をなすことはできない。
 第三に、2004年4月には琉球大学は法人化されるので、任期制を導入する場合は同法第5条に基づいて、採用する教員との間で、任期付きの労働契約を結ばなければならない。現職の教員については、現状のままで法人化を迎えれば、自動的に期限の定めのない雇用契約を結んだことになることから、任期付き雇用契約を結ぶことはできない。
 以上のように、学部などの全教員を対象とした任期制の導入を行うならば、幾重にも法制度に反することになるから、本学は当然にこのような制度を実施するべきではない。

2. 各職階の任期や再任の条件に無理がある
 医学部の委員会文書では、各職階とも「再任を妨げない」としたうえで、評価事項(審査基準)と基準論文を列記している。重要なことは、評価や論文数の基準に達していれば必ず再任が保証される制度設計となっていないことである。任期つきで雇用された者は、任期が満了したとき、再任を当然の権利として主張することはできない。したがって、このままの任期・再任基準がとられれば、いかに優秀な研究・教育・診療を行っても、任期の満了後に再任される保障が全くないことになる。これは、現職の教員にあっては著しく不利益な変更であるし、新規採用の場合にも、魅力を欠き、応募をためらわせる条件であろう。
 しかも、教授10年、助教授・講師5年、助手3年という任期案には、大きな無理がある。
 助手の任期が3年では、医学部の助手は、採用されて直ちに科研費の基盤研究や若手研究に応募して、採択されたとしても、プロジェクトの期間を全うできる保障すらない。3年の任期では、複数年度にわたる研究計画を立てる余裕もないであろう。
 一方、教授の任期は10年とされているが、法人化後には、任期の長さ5年を超えて定めてはならぬという民法の規定が適用されるので、このままの規定では教授の任期は違法な状態となる。全教員を任期つきにするとしながら、若手・中堅層の任期が非常に短いのに対して、教授には現行法上許されない長い任期を設定する理由は何であろうか。
 このような制度設計では、教員の地位をめぐって紛争が百出することになろう。
 しかも、任期つき雇用では、仮に再任を重ねたとしても、住宅などの長期ローンを組んだり、出産・育児・介護のための休暇を取得するなどの日常生活において、著しい不利益がつきまとうことになる。
 このような制度の下では、研究・教育・診療の発展は期待できない。

3. 全学の教育・研究、大学運営への影響
 琉球大学は、本年9月30日に「中期目標・計画(素案)」を発表した。同案には、任期制について、中期計画案において、任期制法に則り「学部学科等の方針に合わせて任期制を促進する」と一般論が述べられているのみである。「医学部付属病院に関する目標」およびそれに対応する計画案の中にも、医学部教員の任期制化への対応は全くふれられていない。実際に、2002年に中期目標・計画の第1次案が発表されて以来、全学の討議がなされた過程で、医学部からは全教員の任期制化に類する議論は全くなされてこなかったのである。大学全体の中長期的な運営にも重大な影響を及ぼすこのような制度変更が、全学への説明責任を果たすことなく唐突に提起されるのでは、適切な大学運営・学部自治のあり方とは言えない。
 しかも、全ての在職教員の地位に重大な影響を及ぼす変更を検討しているにもかかわらず、医学部として、学部の全教官に対して、検討案の説明や意見聴取をこれまで行った事実はない。
 このように、今回の方針の審議は、意志決定に至る手続きにおいて当事者の意見聴取を欠いたり説明責任が果たされないなど、このまま決定しては琉球大学全体や医学部の研究・教育、運営態勢に禍根を残すものである。

 以上の観点から、本会は、医学部が、委員会や教授会等で民主的なプロセスによる審議を十分に行い、全教員への任期制導入という方針を白紙撤回し、今後ともこれに類した方針をとらないよう強く求めるものである。また、琉球大学評議会および学長が、万一、ある部局の求めがあったとしても、上記のような問題点について十分検討し、大学として法的倫理的に問題ないことが明らかにされない限り、学部の全てまたは多数の教員に任期を付すような規則の制定を行わないよう、求めるものである。

2003年12月1日


日本科学者会議琉球大学分会

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