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日本科学者会議琉球大学分会ニュース

2004年6月号 JSA沖縄支部・琉球大学分会事務局編集  2004.6.28発行

琉球大学全学教員人事委員会規程(案)が検討中。あなたはご存じですか?

 現在、琉球大学では「全学教員人事委員会規程(案)」(以下「規程案」という)の制定が進められています。

 規程案は、多くの学部では教員に配布もされていません。本会が集計した限り、教授会で議題として審議された学部もありません。このように、多くの教員は規程案の存在そのものを知らない現状にあります。

 規程案では、理事3名と部局長クラスの委員からなる「全学教員人事委員会」を設置し、

(1)本学の中期目標・中期計画を達成するために必要な教員配置に関する事項

(2)各部局等の教員の補充にかんする基本方針

(3)その他,本学の教員人事に関する重要事項

を審議することになっています。

 人事に主体的に携わる権利は、予算とともに、大学・学部の自治の根幹をなすものです。琉球大学は、琉球列島唯一の総合大学であることから、この地域の学術をになう社会的使命は重く、広範な専門分野のそれぞれについて、教育・研究を適切に推進していくことが期待されています。小数の特定分野に特化するのではなく、各部局のバランスのとれた教育研究の発展を重視し、特に教授会の重要性に配慮した教員人事制度を採る必要があります。

 この規程案が制定された場合、どうなるでしょうか。

人事は教育研究評議会が専管する?

国立大学法人法第21条 3 教育研究評議会は、次に掲げる事項について審議する。

 (一〜三 略)

 四 職員のうち、専ら研究又は教育に従事する者の人事に関する事項

 (以下略)

 国立大学法人法では、国立大学に教育研究評議会を設置することとし、その審議事項の一つとして教員人事をあげています。

 このことから、評議会が教員人事を審議する権限を持つことは、疑問の余地のないことです。しかし、そのことは、教員人事にかかわる事項が「もっぱら教育研究評議会のみによって審議される」ことを意味するものではありません。

 実際のところ、琉球大学の多数の教員の採用や昇任などの人事すべてについて、教育研究評議会が直接に実施することは不可能でしょう。教育・研究を進めるためにどのような専門・職階の教員を必要とするのか、また、業績の優劣を判断する基準がどのようなものであるのか、多岐にわたる学問分野のそれぞれについて評議会が知悉することは無理です。これまでの人事の進め方として、講座−学科−学部での判断を尊重して積み上げてきたのも、そこに理由があります。

 したがって、教育研究評議会は、あくまでも琉球大学における教員人事についての一般的・抽象的な基準や方針を定めるものと解されます。それでは、教授会がもつ人事に関する権限の範囲はどのようなものでしょうか? 

 「法人化後の運営組織等について」(2/27案)では、「国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議」最終報告(平成14年3月)にもとづいて、教授会の審議事項について、『人事事項は基本的に除かれ、「教育研究」の事項に限定することを示唆している』『教員人事については、全学の将来構想の方針に則り、教育研究評議会で審議の上、教員選考については各学部教授会にゆだねること等を検討することが望ましい』とまとめられています。

 ここで根拠とされた「調査検討会議最終報告」は国立大学法人法制定の1年以上も前に出されたもので、最終的に法に定められた国立大学法人の制度設計も、国会審議の過程での政府委員の具体的説明も、上記とは異なっていることは、琉球大学教授職員会ニュース99号でも指摘されているとおりです。

 それでは、法令上、教授会は具体的選考手続きのみしかできないのでしょうか?

教授会の権限は?

学校教育法第59条 大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない。

 学校教育法には、「重要な事項を審議するため」、教授会を置くことが定められています。

 そもそも、学部は「専攻により教育研究の必要に応じ組織されるもの」(大学設置基準第3条)とされているとおり、その専攻分野の教育研究をになう主体となる組織です。また、そこそも教員人事をはじめとする大学自治が、教育・研究の自由を保障する制度として尊重されてきたことも周知のことです。このことから、各専攻分野においてそれぞれの特性に応じた教育・研究が行われるために、学部の自治が保障されることが不可欠であるとされてきました。

 このように、学部教授会が教員の人事を行う権利は、教育・研究の自由と深く結びついています。国立大学においては教員人事は教授会の議に基づき学長により行われることが教育公務員特例法に定められていました。法人化により同法は廃止されましたが、そのことは、直接、教授会が人事権を持たなくなることを意味するものではありません。

 法人化後も、国立大学が学校教育法に基づく存在であることはいうまでもなく、同法が定めている教授会の審議事項に、教員人事にかかわる事項が含まれることは、判例上も明らかであるからです。

大学教員の懲戒処分は、学校教育法59条1項の「重要な事項」に含まれ、教授会の審査を経なければならないものと解するのが相当である。(神戸地決昭54・11・16)

 さらに、教授会が引き続き尊重されることは、国立大学法人法の審議過程からも明らかです。参議院文教科学委員会は、国立大学法人法案の採決の際に、附帯決議をあげました。決議項目の中には、特に教授会について下記のように明記されています。

国立大学法人法案に対する附帯決議

(2003/7/8 参議院文教科学委員会)

政府及び関係者は、国立大学等の法人化が、我が国の高等教育の在り方に与える影響の大きさにかんがみ、本法の施行に当たっては、次の事項について特段の配慮をすべきである。

2、国立大学法人の運営に当たっては、学長、役員会、経営協議会、教育研究評議会等がそれぞれの役割・機能を十分に果たすとともに、全学的な検討事項については、各組織での議論を踏まえた合意形成に努めること。また、教授会の役割の重要性に十分配慮すること。

(1,3〜23は略)

 さらに国会審議の中でも次のような質疑がなされました。

「教授会の役割はこれまでと変わりがない、役割や権限は変わりがないと。そして、きちっと(学校教育法)五十九条の規定により置かれて、余りこの法案の中に教授会というのは触れられていないんですよね。ほぼこれまでと変わりがないというふうに今答弁されたと理解していいですか。

○政府参考人(遠藤純一郎君) そのとおりでございます。」

 別の与党委員の質問にも、教授会の自治の精神が弱くなることはないと政府は答弁しています。

 以上みてきたとおり、 教員人事について学部教授会が主体的に審議するこれまでの制度にかえて、教育研究評議会・全学教員人事委員会の下で、教授会は実務的な選考のみ行うよう制限する必要は全くありません。そのような限定は、学校教育法にいう、教育研究の「重要な事項」の核であり、教授会自治の根拠とされる教員人事のあり方を歪めるものと懸念されます。

教授会と教育研究評議会の調整が必要

 法令上、教授会と教育研究評議会にはそれぞれ教員人事に関する権限があり、琉球大学では、それぞれの任務範囲をどのように設定するのか、十分に教授会でも議論して決定する必要があります。

 いま、教育研究評議会と学部教授会の任務範囲について全学的な議論も合意もないままに、規程案が一人歩きしています。そのため、人事委員会が審議して教育研究評議会で定めることのできる「教員配置」「基本方針」「重要事項」の範囲が限定されません。従って、このままでは、全教員の配置について一元的に教育研究評議会が決定する事態さえ起こりえます。たとえば、「本学の中期目標・中期計画を達成するために改組を実現する必要があり、新設○×学科への教員配置を確保するため、全部局の定年退職者の後任人事は原則ストップし、そのうち人事委員会の必要と判断したものについては学部に選考手続きを行わせる」などとという「基本方針」をつくれない制限は、目下ありません。

 何よりも避けなくてはならないのは、人事や改組に国立大学法人法や独立行政法人の枠組みを硬直的に適用し、教育研究現場を軽視した運用がなされることによって、教育研究が混乱に陥るような事態です。

 法人化された今も、大学である限り、学科・コース・講座を単位とした教育のあり方は変わりません。例えば、免許や資格の取得に要する科目や教員配置なども学科や学部のレベルでなくては点検できません。教員人事を学部が主体的に進められなければ、カリキュラムを維持する保障を失います。研究の推進にしても、多岐にわたる専門分野のそれぞれで、推進すべき具体的な学問分野とはなにか、バランスのとれた望ましい研究者配置はどのようなものか、判断できるのは教授会にほかなりません。

 規程案では、委員の構成は3名の理事を除けば各部局長ですから、部局の自治を損ねるような決定は容易にはなされないとも思われます。しかし、トップダウン的運営が進む現状では、教育研究評議会の審議機能が形骸化されれば、事実上、役員会の方針の追認機関となってしまうおそれもあるのです。全学教員人事委員会が適切に機能するためにも、教育研究評議会が、教育研究を維持発展させる立場から、大学運営について名実ともに審議し、その決定を学長が尊重することが必要です。

 国立大学法人法の規定に基づき、教員人事の審議権を形式的に教育研究評議会におくとしても、「学部の教員人事については学部教授会の議に基づき教育研究評議会が審議する」など、第一次提案権を教授会が持つよう定めるべきです。さらに、「各部局等の教員の補充」などに全学の機関が関与するのは極めて例外的な場合に強く限定し、各部局の教員人事は従来通り教授会が進めるべきです。教授職員会ニュース99号でも指摘されているように、「大学全体の将来構想に基づく人事上必要な事項は、別途特別規定として制約的に設ければ事足りる」ものです。さもないと、中期目標・計画のために研究・教育の継続性が損なわれるという制度設計になってしまいます。

 いずれにしても、拙速でトップダウンによる規程案の制定は行うべきではなく、琉球大学の教員人事のあり方について、全学的な議論と合意形成を進めるべきです。 ■

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