JSAおきなわホーム 基地問題のページ 

普天間飛行場代替施設建設事業に係る

環境影響評価方法書に対する意見

日本科学者会議沖縄支部

 普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価方法書(以下、「方法書」という。)について、環境影響評価法第8条の規定に基づき、環境の保全の見地から下記のとおり意見を提出する。

1. 意見

 方法書に示された本事業の計画は、外洋に接するリーフ上に埋立によって飛行場を建設するという類例のない特異なものである。さらに、建設海域は沖縄島屈指の海草藻場を擁し、北限のジュゴンの生息域の中心を占めているという点でも、同じく類例のない特異な事業である。

 外洋に接するリーフ上に埋立によって飛行場を建設することは、施設の建設時・運用時の安全性・安定性においても、自然環境の保全上も、この上なく不利な条件である。また、広大な藻場・ジュゴンの生息域に大規模施設を建設することは、代償措置によって影響の緩和を図ることができない、生態系への決定的な打撃を及ぼすことが予測される。すなわち、この計画の立地は、沖縄島北部の米海兵隊基地・訓練場の中心に位置するキャンプシュワブ水域に建設することを唯一の判断基準として選定されたものとしか考えられない。

 しかし、方法書には、普天間基地代替施設を全く建設しないこと(いわゆるゼロ案)も含めた複数案が一切提示されておいない。そのため、なぜこの場所にこのような施設を建設するのか、また今後アセスメントの結果によって、どのような案が最善なのか、判断することができない。

 また、方法書は、軍民飛行場の建設計画でありながら、軍民いずれについても、運航する航空機の機種・回数・時間・経路、誘導・管制・通信・貯油・整備等の施設、軍事施設・民間空港施設・航空産業施設・連絡橋、軍事訓練の内容など、もっとも基本的な施設の情報について具体的な記述を一切欠いている。さらに建設の方法についても埋め立て土砂の調達、資材の運搬・保管、施設の建設方法など基本的な情報の記述を欠いている。

 運航機種や飛行経路・回数の予測が示されていないこととも関連して、自然環境等の主要な調査対象地域が名護市・宜野座村に局限されている上、調査範囲内の自然環境の現状把握や調査項目の設定でも重大な手落ちが山積している。さらに、台風・地震・津波などの災害時の施設の安全性や環境影響、あるいは事件・事故の際の周辺環境への影響も、全く検討されていない。軍民空港や誘致企業の操業に伴う、上水の水源、汚水処理、廃棄物等にいたっては、どこまでが調査対象であるのかさえ定かでない。

 さらに、建設予定域周辺の生態系保護をいかにはかるかというという視点が全く欠けている。例えば、海の生態系の基盤となっているサンゴや藻場についても、その把握は面積と被度、固有種の有無に偏重し、辺野古一帯が沖縄島最大規模の藻場であり、ジュゴンの生息の中心でもあるという、高度の生態学的意義を有する場としての特異性を黙殺しているのである。

 最も驚くべきは、調査結果に基づいて環境影響についていかに評価し、事業の実施に反映させていくのか、その方法や基準が全く具体的に述べられていないことである。調査結果の評価は、環境影響評価の核心であり、これが具体化されていなければ、巨額の国費と膨大な時間・要員を擁して行われる調査の結果が、事業に的確に反映されないのである。

 一方、方法書の縦覧手続きにも重大な問題がある。その縦覧場所は沖縄県内8ヶ所に限られ、コピーを取ることにも制約が科せられたことなどから、市民、専門家が広く情報に接することはできなかった。

 また、環境影響評価の手続と並行して、防衛施設庁は、現地技術調査として海上基地建設予定海域で63ヶ所のボーリング調査を実施しようとしている。このような大規模な調査は、辺野古海域の底質や水質に重大な変化をもたらし、サンゴ礁や藻場の生態系に大きな影響を及ぼすことが予測されるものである。しかも、ボーリング調査によって辺野古海域の現状が変更されてしまえば、今後のアセスメント手続きによって、施設建設が辺野古海域の原生態系に及ぼす影響について正確な予測・評価を行うことは原理的に不可能となる。しかも、防衛施設庁は、専門家の意見を十分にふまえず、また住民に対して直接に説明会を行うこともなく、調査を強行的に開始し、結果的に市民の強い批判と抗議行動を招いている。

 

 そもそも、計画されている施設は完成後、米軍に共用されるものであるから、米軍に対して環境影響評価に必要な情報の提供などを求めるとともに、完成後の米軍の使用が環境影響評価において提示されたものから逸脱しないことが法的に担保されていることが必要である。その上で、日本政府は、第2回世界自然保護会議勧告の趣旨に則り、米政府の協力のもとで、NEPA(米国国家環境保護法)レベルの環境影響評価を実施すべきである。

 

 以上のように、方法書には重大な問題点が山積し、環境影響評価法を逸脱していると言わざるを得ない。那覇防衛施設局長は、方法書の不備について抜本的に改めたものを作り直し、国内外から広く意見を集めることができるような方法で再度縦覧を行うべきである。

2. 理由

2-1. 対象事業の目的 について

・「名護市辺野古沿岸域に公有水面埋立により軍民共用飛行場を整備し、…沖縄北部地域の振興等を図ることを目的とする」とされている。本事業により沖縄北部地域が振興されるか、また、振興策として本事業よりもよいものがないか、検討されていない。北限のジュゴンの生息・繁殖の場に巨大施設を建設するような自然破壊と、軍事基地の建設とが本事業の2つの柱といえるが、これらはいずれも、沖縄県の歴史をみれば、地域の発展の阻害要因だったのであって、地域振興をもたらしたことはない。

・そもそも、1997年の海上基地案では、政府は、1500×600メートルの大きさで、杭式桟橋または浮体工法による施設の建設を提案していた。それは、普天間基地の面積を大幅に縮小するものであること、基地機能の強化ではないこと、事故の危険を軽減するものであること、自然環境に配慮した施設であること、撤去可能であること、の5項目を辺野古海域への海上基地建設に欠かせない条件としていたからであった。しかし、2002年に策定された基本計画案では、軍民共用空港として埋立案が採用され、それによって、施設の予定面積は大幅に拡大し、C17Aグローブマスターなど大型輸送機も運用可能な滑走路となり、リーフ上という最も周辺の自然環境への影響の大きくなる敏感な場所に、撤去不可能な工法で巨大な空港島を建設することとなったのである。このように、1997年案と2002年案では断絶がある。2002年案でも、'97年案と同じ辺野古海域を選定している以上、安全性や自然環境の影響について、突然無頓着になってよいはずがない。大幅に自然環境への負荷が大きくなったと考えられる現行海上基地案の環境影響について、説明責任を果たしていない。

・SACO報告後の、1997年の名護市住民投票に関する経過を全くふれていない。この住民投票は海上基地にかかわる地元市民のこれまで唯一の意思表示であり、環境への配慮や経済振興策があるとしても基地建設に反対するとした投票結果は、最大限に重視されなければならない。

・SACO報告に基づく1997年海上基地案以来、多数の学会・専門家・自然保護団体等のNGO・市民が発表してきた自然環境への影響や安全性、事業の必要性などに関する意見書、決議、見解等に全くふれていない。例えば、日本科学者会議にあっては、沖縄米軍海上基地学術調査団報告(日本科学者会議などが組織:第1回1997年、第2回2001年)、沖縄県名護市への海上航空基地建設に関する政府基本計画案についての見解(日本科学者会議平和問題研究委員会・沖縄支部:2002年11月)、名護市辺野古沖における海上基地建設事前調査についての見解(日本科学者会議沖縄支部:2003年12月)などで、たびたび問題点の指摘を行ってきたところである。ところが、これらの指摘が方法書では活かされていないばかりか、指摘がなされてきた事実さえ記述されていない。

2-2. 対象事業の内容 について

・この計画では、予定地がリーフ上とされた。リーフでは波浪は最大となり、海底の地形・地質も極めて複雑であるので、施設やその施工工事の安全性維持にとって明らかな悪条件である。また、最も生物多様性の高いリーフ部分が自然の状態を失うことは、リーフ内外の生態系に重大な影響を及ぼすことが予想される。このような類例のない悪条件の立地を選定した根拠が示されていない。

・本事業では防衛施設庁が事業主体となって、軍民共用空港をつくることとなっている。防衛施設庁が民間用空港の事業主体になれるのか、その法的根拠が示されていない。また、なぜ、国土交通省や沖縄県が民間用空港の事業主体とならないのか、国の空港整備計画との関係も不明である。これらについて関係機関とも調整して明記するべきである。

・現在、那覇空港においては拡張・滑走路増設計画が進行している。この計画が本事業と並行して実施されれば、那覇空港の離着陸可能回数は大幅に増大することになる上に、沖縄島における民間用の滑走路は現行の1本から3本になる。このような、重複した大規模公共事業が国民的な合意を得られるとは考えられない。本事業の軍民共用空港と那覇空港拡張とのどちらを推進するのか、それとも両方を建設するのか、整合性の検討は必須の課題である。

・対象事業の種類のうち「飛行場およびその施設の設置」については、下記のように、具体的な記述を欠く。

・対象事業区域は大括りに辺野古沿岸域と中城湾港新港地区が示されているのみで、そのなかで事業の行われる正確な位置が示されていない。

・航空機の種類についても、「米軍回転翼機、民航中型ジェット機等」とあるのみで、具体的な機種名、配備機数、運航回数、運航の時間帯、離着陸や飛行の経路などは一切ふれていない。これは、過去の発表資料よりも具体性に欠いている。

・使用予定の軍用機として「回転翼機」とのみ記されている。その機種・機数を欠いている。しかも、現に普天間基地では、配備されているCH-53大型ヘリコプターと一体の作戦行動をなすものとして、固定翼機KC-130が運用されている。また、P-3C対潜哨戒機や各種ジェット輸送機、戦闘攻撃機FA-18ホーネットなどが日常的に普天間基地を使用している。今後、開発中の垂直離着陸機V-22オスプレイの配備や、大型輸送機C-17AグローブマスターIIIによる補給・輸送も予測される。これら「回転翼機」以外の機種が運用されないならば、米国との取り決めなど具体的な根拠を示しつつ、そのことを明記するべきである。

・運航する民間航空機については中型ジェット機が6便とされているが、機種・回数・時間・経路、それらの季節変化について、記述がない。

・誘導・管制・通信・貯油・整備等の施設、軍事施設・民間空港施設・航空産業施設・連絡橋、飛行場および周囲での軍事訓練の内容など、本事業でつくられる飛行場関連施設およびその使用形態が一切具体的に示されていない。

・連絡橋および進入灯を建設するとあるが、これらはとくに埋め立て地の外の海上に設置されるため、埋立による影響と別個に環境影響について十分な検討をする必要がある。ところが、これらについて具体的説明が一切ない。

・軍事基地について、キャンプシュワブなどの陸上につくられる関連の施設、沖縄の他の基地への航空機の飛行経路・頻度、航空部隊の訓練の内容や頻度、移駐する兵員と装備など、本事業の周辺に及ぼす影響について、一切記述されていない。

・1997年に米国防総省が、普天間代替施設(海上施設)の運用条件・運用構想をまとめた文書「日本国における普天間海兵隊航空基地の移設のための国防総省の運用条件及び運用構想最終案」(1997年9月)では、「新たに置く必要がある」としている軍需施設は 1. 高性能爆弾用弾薬庫(HPM) 2. 戦闘機装弾場(CALA) 3. 腐食管理施設 4. 航空機の洗浄施設 5. エンジン試験室(MALS-36) 6. 燃料の貯蔵庫 7. 燃料供給パイプライン(陸軍金武湾貯蔵施設からシュワブまでの22マイル)などとされているが、この文書について論及されていない。かりにこの文書がすでに有効でなかったとしても、本事業が依拠しているSACO合意により普天間基地の機能は維持されるのであるから、同様の施設が設置されるものと考えられる。各施設について、位置や構造などの詳細を明記し、ふさわしい環境影響の調査項目を盛り込む必要がある。

・対象事業の種類のうち「公有水面の埋立て」については、下記のように、具体的な記述を欠く。

・護岸について、護岸構造は今後決定するとされ、方法書の縦覧時点で判断できないものとなっている。

・埋め立てについて、土砂は「購入材を使用」とあるのみで、どこから購入し、どのように運搬するのかなど、一切ふれていない。購入先の行う土砂採掘が環境アセスメントの対象に含まれているのかすら不明である。土砂の使用量から判断すると、日本国内で調達するならば、その採取場所が環境影響評価の対象とされなければならないし、外国から調達するならば、当事国の国内法・国際法を遵守するとともに、土砂に混じって持ち込まれる生物による事業地域周辺の生態系への影響などを検討しなければならない。

・作業ヤードを中城新港、大浦湾西岸、辺野古地先水面等に設置する可能性があるとされるが、具体的な場所、規模、用途等が不明である。海上ヤードを大浦湾中央海域に設置する可能性があるとしているが、具体的な場所、規模、用途等が不明である。

・参考資料として添付された沖縄県の「軍民共用飛行場としての民間機能の位置づけについて」は2000年作成の文書であって、航空需要等の統計や将来予測は1998年前後の資料を用いている。このように古い資料に基づいて民間空港部分の需要が説明されている。

・那覇空港に関しては、那覇空港の拡張計画が進行しているとともに、高速自動車道の延伸、国道の建設などにより北部地域等からのアクセスが大幅に改善し、今後、その利便性が大幅に増大することが予測される。このような、計画中・施工中の他の公共事業の影響を考慮せずに、北部地域の潜在的な航空需要が、そのまま本事業に取り込めるかの楽観的な予測がなされている。

・航空需要の予測では、年間の旅客や航空貨物の需要予測値はあるが、その季節変化については全くふれていない。また、航空機の着陸料や旅客・貨物ターミナルに要する経費など、コスト予測が全くなされておらず、那覇空港との比較もされていない。その結果、利用者や国民・県民の負担がどのようになるのか、明らかでない。

第3,4章について

 下記のように、調査範囲・対象とも、具体的な根拠が示されないまま極めて過小に設定されている。現地の自然環境についての把握・記述は極めて不完全である。さらに、埋立の工法、連絡橋や進入灯など飛行場関連施設の詳細、作業ヤードの位置や規模・使用形態、建材・機材の調達・保管・輸送方法、飛行場・軍事基地・民間航空産業の事業場としてのそれぞれの使途が具体的には一切記述されていないため、それに対応して的確に絞り込んだ調査となっていない。

・地質の説明として、断面図には「断層によると考えられる落ち込み」が記され、本文でも説明されているにもかかわらず、その評価がない。既往の文献(東京大学出版会「日本の活断層」1991年)では大浦湾西岸に沿って、活断層の疑いのあるリニアメントが2本示されているが、このことも記されていない。これが活断層の疑いがあるならば、それだけで本事業は不適切な立地であると判断されるべきである。

・大浦川、辺野古〜漢那、億首川、中城湾が「日本の重要湿地500」(環境省)に指定されていることが記されていない。また、辺野古沿岸域が沖縄県の「自然環境の保全に関する指針」で厳正な自然保護を図るとするランクIに指定されていることが方法書に記されているが、その下でどのように自然環境の厳正な保護と飛行場建設を両立可能なのか、また、環境アセスメントをいかに強化するのかについては、全く記述を欠いている。

・方法書では、汀間川、漢那福地川河口などのマングローブの存在が無視されている。これらのマングローブはそれ自体貴重な植物群落であるとともに、保護指定がなされている東村慶佐次、名護市大浦、金武町億首のマングローブの多様性・安定性を維持するために重要な役割を果たしていると考えられる。このことは、方法書において、東村・金武町の沿岸域の自然環境の把握をしていないこと、大浦川や辺野古川などの流域面積の記載が明らかに過小であることなどとともに、方法書の自然環境の把握の杜撰さを示す典型例である。

・方法書では、ほとんどの項目で名護市および宜野座村のみについて検討されている。しかし、海や陸上の自然環境は、市町村界で断絶しているわけではなく、むしろ、例えば、宜野座村界のすぐ先には重要な自然保護区域である億首川流域があって、その河口域は本事業の影響を強く受けうる位置にある。このように、名護市・宜野座村の外側についても検討しなければならない。さらに、航空機の離着陸経路や、物資の輸送経路を明らかにし、その周辺地域・海域の検討も行わなければならない。

・調査対象とされている場所でも、調査の項目・内容・密度ともに不十分である。例えば、海中ヤードをおく可能性があるとされる大浦湾中央海域、陸上ヤードの置かれる大浦湾西岸や中城湾港新港地区に面した泡瀬干潟、連絡橋周辺の海域や接岸部などが、重点的な環境アセスの対象とされていない。また、大浦湾奥部・東岸は調査対象として軽視されている。

・サンゴと藻場の把握が、面積と被度、固有種かどうかに偏重している。辺野古一帯が沖縄本島でも最大規模の藻場であり、ジュゴンの生息の中心でもあるという高度の生態学的意義を有する地である特異性を全く無視している。サンゴについては、一時的に死滅した部分などは、潜在的な生育条件や新たな群体の着生状況が反映されず、サンゴ礁として価値の低い場所にされてしまうであろう。すなわち、白化現象やオニヒトデの食害などによって一時的に壊滅した部分であっても、その骨格は無節サンゴモ類や小動物など多様な生物の生息場所となり、環境条件がよければそこに新たなサンゴが着生するのであって、海の生態系にとって無用な場所ではない。さらに、着生後間もない若い小型のサンゴ群体について、どのように被度の評価に組み込まれるのかも全く不明である。藻場についても、海草藻類の分布は連続的ではなく、ベッド(藻が群生する褥状の場所)が断続的に連なっている。したがって、「被度」ではなく「適地面積割合」などとしなければ評価を過つことになる。このように、藻場やサンゴを短期的な被度のみで評価することは、その場所の生態的な価値の著しい過小評価を誘導するものであり、偏った手法・判断というべきである。

・海域生態系の調査の基本的手法は、海浜、干潟、藻場、珊瑚礁などに分断して、生息種の目録をつくることにとどまっている。また、調査線・点も、例えば、サンゴ・海草藻類調査に関して、連絡橋下にサンゴ・海草の測線がない、埋め立て予定地に測線が2本しかない、埋め立て地のすぐ周囲に測線がない、現地調査(スポット調査)の数と範囲が明記されていないなど、事業との関係が希薄で、絶対数も不足している。極めて多様性に富むサンゴ礁生態系を全体としてとらえ、その諸要素相互の関係を把握しながら、それぞれについて、環境と生物の相互関係に着目しつつ、上位性、典型性、特殊性の種毎に調査することが必要である。特にサンゴについては、白化現象などから回復の途上にあることを重視して、数年間の観測が必要である。

・ジュゴンについて、その行動範囲が広域に及ぶことを考えると、沖縄島東海岸の藻場全体の現状を把握する必要があり、とりわけ藻場の保全やジュゴンの行動に影響を与える、埋め立てや港湾建設など海岸施設にかかわる工事が行われていることについて、全体としての影響評価と保全対策が必要である。さらに、個体数・生息密度ともに極めて小さいことを考えると、調査そのものがジュゴンにとってストレスとならず、かつ低密度でも効果的に把握できる調査手法を取らなければならない。さらに、「生息状況」「利用状況」「海草藻場への来遊状況」など、いずれも1年間では把握できない。

・陸上の生態系については、大浦湾西岸から宜野座村の沿岸にかけての範囲しか検討していない。しかし、普天間基地所属機・飛来機は現に、北部訓練場、キャンプシュワブ、伊江島飛行場、鳥島、キャンプハンセンなど多くの基地を行き来をしている。また、本事業と関連して北部演習場(ジャングル戦闘訓練センター)への大型のヘリ着陸帯が計画されるなどの影響もある。したがって、特に北部訓練場などとの経路に当たる「やんばるの森」の固有種66種をはじめとする多様な生物種の保全は、本事業と一体の重要な課題である。少なくとも、東村・大宜味村・国頭村一帯の「やんばるの森」にも環境影響評価の調査範囲を広げるべきである。

・本事業の立地条件から、暴風、大雨、暴浪、高潮、津波、地震、雷、竜巻、塩害など、厳しい気象条件や激しい自然災害に施設が見舞われることが予測される。しかし、これらについては、台風時のリーフの波高など、断片的な記述がわずかに見られるのみである。気象・自然災害についての十分な調査や、そのような悪条件下での施設の事故(油流出など)などに伴う環境影響の予測も実施されるべきである。

・本事業について、上水の水源、汚水処理、廃棄物について、記述が抽象的である上に、民間空港部分のみについて検討するのか、誘致される航空関連産業や米軍の使用する部分についてもきちんと含めているのか明瞭でない。北部地域振興にかかわる民間産業等の操業や米軍の施設使用形態についてどのように資料を得て予測するのか記されていない。

・米軍施設部分について、飛行場としての使途にとどまらず、多数の米海兵隊部隊が移駐するのであれば、宿舎や兵器庫・整備場などの関連軍事施設の建設もあわせてアセスメントを行わなければならない。その点、全く記述がない。また、普天間基地などの運用実態に即して、航空機の墜落、油脂類の流出などの事故による環境影響も検討される必要があるが、実態の把握すらしていない。

・本事業を実施すると、辺野古漁港からリーフ外に至る既存の航路がつぶされる。そのため、代替の航路が必要となるが、辺野古海岸と施設用地の間の海域は藻場の核心部分であるうえ、リーフ付近ではサンゴの被度も高い。したがって、航路の掘削によって、海草藻場にもサンゴ礁にも重大な影響が生じることが懸念される。同様に、キャンプシュワブの辺野古側海岸では、米海兵隊の水陸両用装甲車両が頻繁に航行訓練を行い、宜野座村潟原方面などと行き来している。これらの車両の演習の方法・経路も本事業の実施によって大きく影響を受ける可能性がある。このことはやはり、海浜・藻場・サンゴ礁の状態に大きな影響を及ぼすおそれがある。ジュゴンの採餌・繁殖にも強い悪影響を与えうるこれらの問題について方法書に明記し、調査および評価を行うべきである。

・航空機の運航・施設の供用に伴う大気質では、窒素酸化物と浮遊粒子状物質だけでなく、環境基準があり、航空機や施設への車両から発生することが確実な、光化学オキシダント、一酸化炭素、二酸化硫黄、ベンゼンについても環境影響評価の項目として選定すべきである。また、大気質の現地調査を春、夏、秋、冬の各7日間連続測定としているが、二酸化窒素や浮遊粒子状物質のように環境基準の評価を年間で行う場合に現状資料が不足せぬよう、最低限1年間の連続測定が必要である。

・水環境については水の汚れと濁りだけでなく、護岸、埋立工事に伴い発生する濁りにより底質が悪化するおそれを考慮し、底質を環境影響評価の項目として選定すべきである。また、施設からの排水による温冷排水の影響を把握するため、水温も環境影響評価の項目として選定すべきである。水の汚れの調査として、化学的酸素要求量などの生活環境項目だけでなく、PCB、ダイオキシン類、鉛、六価クロムなどの健康項目も調査すべきである。過去の在日米軍基地におけるPCB・重金属汚染などの事例を収集し、環境汚染の実績のあった項目については、すべて加えるべきである。

・車両、航空機からの温室効果ガスの排出は多量にのぼると予測されることから、環境影響評価の項目として選定すべきである。

・ダイオキシン類の大気環境基準は「環境基本法に基づく環境基準」ではなく、ダイオキシン類対策特別措置法により定められている。地下水の水質汚濁に係る環境基準にはダイオキシン類が掲げてないが、ダイオキシン類対策特別措置法により地下水のダイオキシン類の環境基準が定められており、適切な調査が必要である。

・塩害の調査について、飛来塩分量の測定地が海岸近くに偏在している。暴風時には脊梁山地を卓越する強風に乗って、山腹から尾根にまで塩分が飛来することが知られているので、沿岸から西海岸の沿岸に至る範囲にほぼ等距離に測定局を設けて、風向風速と気中塩分量を1年間は連続観測するべきである。

・評価の手法の選定について全く具体的に述べられていない。各調査項目について、本事業地域の特性に即した具体的な評価方法を明記するとともに、それに基づき、調査結果をどのように事業に反映させるのか、方法書において、具体的な方針を詳述しなければならない。

・全体として、サンゴ礁・サンゴ・珊瑚、藻場・海草藻類といった術語の使い分けなど、専門用語の無理解と誤用が甚だしく、国の作成すべき環境影響評価手続きの水準に到底達していない。

・大規模なボーリング調査などの現地技術調査を環境影響評価前に強行しようとしているが、調査対象の海域を大規模に変更してから、アセスメントを実施することの整合性について全くふれられていない。事業者自身が、護岸も埋立本体も方法書に事業として明記していることを考えれば、現地技術調査は本事業の一体であることは明らかであるから、現地技術調査は中止し、改めて環境影響評価に組み込んでから実施するのでなければ、法令に反することになる。

・最後に強調すべきこととして、本事業は完成後、在日米軍に軍事基地として共用される。さらに、基地使用期限を15年とし、その後は民間空港とすることを沖縄県知事が強く要求し、施設使用態様が長期的に見通せない特徴を持っている。日米地位協定などに基づく在日米軍の特権的な基地使用の現状と、いわゆる15年期限問題が未解決である現状とは、ともに、本事業が完成後、方法書に示されたとおりに運用されるとの保障が全くないことを意味しているものであると言うほかない。このような軍事施設のあり方が肯定されているもとで、的確に環境影響を評価し、環境悪化を実効的に回避することができるとは考えられない。

以上

JSAおきなわホーム 基地問題のページ