琉球大学教授職員会ニュース 第101号

20049月1日 琉球大学教授職員会 (内線 2023)

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『全学人事委員会規則(案)』制定をめぐる

大学運営の問題点 その1

はじめに

  琉球大学が今年四月に法人化され、様々な「改革」が学内で進行中である。その中にあって、現在、私達の研究教育に密接に関わる教員人事について、全学的な合意形成手続を経ることなく、教育評議会の下に全学人事委員会を設置するための学則制定の動きがある。

 このような学則制定の動きについて、教授職員会の主張は次の二点に要約できる。

@ 全学人事委員会規則(案)を提案する前に、教員人事について、教育評議会と教授会との関係(権限分配)を明確にする必要がある。

A 教員人事についての学部と教育評議会との間の権限分配を明確化するためには、各学部と教育評議会との合意形成による原則・方針づくりが重要である。

  以下、この二点について解説をする。

 

T.第一の主張:全学人事委員会規則(案)を提案する前に、教員人事について、教育評議会と教授会と関係(権限分配)を明確にする必要がある。

 まず、教員人事について、教員人事権は教育評議会の独占事項ではない点を確認したい。

 国立大学法人法が今年4月に施行され、国立大学は、これまでの国の機関から法人格をもつ権利主体へと変わるなど、あれこれの制度設計上の変更を余儀なくされている。教員人事の審議事項もその一つである。具体的には、国立大学法人法21条1項は、「国立大学法人に、国立大学の教育研究に関する重要事項を審議する機関として、教育研究評議会を置く」と定めて、その3項4号で「教員人事に関する事項」を教育研究評議会の審議事項とした。この制度の変更を根拠に、もはや教員人事は最終的には教育研究評議会がもつとか、教育研究評議会の指示の下に教授会の人事権があるかのような声が、学内においても聞かれたりもするが、これは全くの誤りである。

  なるほど、確かに、教員人事に関する事項を審議する大学内の機関として教育研究評議会が設置されることを各大学に法律は義務付けている。しかし、そのような制度設計も、既存の法制度や憲法をはじめとする関係法令に抵触するものであってはならず、個別・具体的な検討が必要となる。国立大学法人法が施行されても、なおも重要な別の法律の規定として、学校教育法59条がある。同法59条は、「大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない。」と規定していて、当該重要事項に教員人事が含まれることについては、全く争いの余地はない。したがって、議論の出発点として、国立大学法人法21条と学校教育法59条をどのように調整するのか、言換えると、教育研究評議会と教授会との間の教員人事の審議をめぐる権限分配は、何を基準にして、誰が決めるのか、そこを明確にする必要がある。これは、琉球大学において、教授会は何ができ、また、教育評議会はどういった権限があり、そして、教授会と教育評議会との関係は、いかなる関係なのか、そういった包括的議論を行う過程の中で、それぞれの機関の位置づけが明確となるということである。

 

U.第二の主張:教員人事についての学部と教育評議会との間の権限分配を明確化するためには、各学部と教育評議会との合意形成による原則・方針づくりが重要である。

 大学運営の基本原則は「大学の自治の原則」である。同原則は、対外的には国からの自主性を、対内的には自律性と民主性をその内容としている。この原則から第二の主張が導かれます。つまり、教育評議会が、教員人事について、善意であったとしても、一方的に学則という形式で定めることは、学部の人事権を学部の同意を経ることなく一方的に制限するものである。繰り返すようであるが、利害関係当事者である教育研究に携わる各学部およびその構成員の意見をくみ取ることなく、教育研究評議会が、教員人事規定を定めることは、各学部の人事権を容易に侵害または制限することを意味するのである。いわんや学長がリーダーシップをかざして各学部の自律性と学内の民主性を否定するようなことがあるとすれば、それは言語道断と言うほかはない。

 今回の学則制定の作業を、比喩的に説明するため、三権分立を定める憲法を制定する場合を考えてみる。まず、立法府、行政府および裁判所の、それぞれの権限分配や役割を明確にする必要がある。その上で、他の機関の権限を侵さない範囲で、例えば、最高裁判所の下に、どういった裁判所を設けるのかを決めるのです。今回の学則改正は、それぞれの根幹となる機関の地位や権限を明確にする作業をしていないので、言ってみれば、行政府自信が勝手に行政裁判所を設けたり、裁判官の罷免権限を定めたりすることで、つまり自らの権限を拡大することで、その結果、他の機関の権限を制限してしまう、そういうことを行っている。

 したがって、議論の出発点は、はじめに、「全学人事委員会ありき」ではなくて、琉球大学における教授会や教育評議会の位置づけや関連性を明確にすること、その際の作業を、教授会と教育評議会との合意形成プロセスにおいて行うことが重要なのである。それをせずに、教員人事について、学長による、あるいは、教育評議会による一方的な学則制定を許すことは、単に一学則制定にとどまらない学部への非民主的関与を認める重要な先例をつくるものとなる。

 

おわりに

 教授職員会では、先の総会で、国立大学法人化後の琉球大学における大学運営の問題点を指摘し、学問の自由と大学の自治に基づく経営や運営を要求する決議を採択した(教授職員会ニュース第100号参照)。そこにおける問題意識の一環として、今回のニュースでは、教員人事に関わる学則案の制定をめぐる大学運営の問題点に焦点を当てた。

  また、今回のニュースでは、『全学人事委員会規則(案)』の内容について、全く言及していないが、その中身に、重大な問題がないということではない。例えば、全学人事委員会の法的地位の性格付けの曖昧性とか、審議事項の包括性などである。これらを議論することで、より本質的な問題である大学執行部の学内運営の問題点を曖昧にしてしまうことを恐れ、あえて『全学人事委員会規則(案)』の中身への言及を避けた次第である。

 最後に、今回の全学人事委員会規則(案)制定について、学内では理学部物質地球科学科物理系や地学系が系の立場から、さらには、個人としも説得力のある意見やコメントを理学部教授会に提出している(その内容は、本ニュースに掲載)。このような声を、学長や教育評議会が今後の議論に、どのように反映させるのか、あるいは、大学運営に活かしていくのか、注視していきたい。

 

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以下に,理学部物質地球科学科 地学系および物理系が,それぞれ理学部教授会に提出した全学人事委員会規程(案)に対する意見を紹介する.なお,これ以外にも,理学部では個人からも意見が教授会に提出された.提出者の同意を得てこれらの意見もあわせて掲載する.

 

 

全学人事委員会規程(案)に対するコメント(順不同)

理学部物質地球科学科地学系

 

1. 教授会の位置づけが周知されていない時点で,全学教員人事委員会の規程だけが議論されるのは腑に落ちない.

2. カリキュラムの制定など教育に第1議的な責任を有している教授会と関係が薄い全学教員人事委員会で,教員配置に関する事項,教員の補充に関する基本事項,教員人事に関する重要事項,が審議されるのは問題と思われる.

3. 人事委員会の議長は学長が指名する者ではなく,委員による互選にすべきではなかろうか

以上.

 

 

全学人事委員会規程(案)に対する意見

理学部物質地球科学科物理系

 

1. 本規程案は,琉球大学の教員人事のあり方を根本的に変更するという大変重要なものである.しかし,その重要性にもかかわらず,規程案すら知らない教員も多く,各学部における議論も全く不十分である。このような重要な規程案に対しては,全学的な議論が十分になされなければならない.

2. 琉球大学では現在まで基本的に学部教授会が教員人事を行ってきた.教員採用や昇任に対して,どのような専門分野や職階の教員が必要か、各候補者の業績の優劣をどのように判断するかなど,多くの学問分野について最も的確に判断できるのは当該学部・学科である.全学人事委員会がそのようなことを行うことは事実上不可能である.したがって,今後の教員人事も,学部・学科の判断を尊重しなければならない.

3. 各学部教授会が教員の人事権を有する根拠は次の通りである.

·    学校教育法第59条:「大学には,重要な事項を審議するため,教授会を置かなければならない.」教員の人事はその最も重要な事項の一つである.

·    国立大学法人法案に対する参議院附帯決議の2:「国立大学法人の運営に当っては,学長,役員会,経営協議会,教育研究評議会等がそれぞれの役割・機能を十分に果すとともに,全学的な検討事項については各組織での議論を踏まえた合意形成に努めること.また,教授会の役割の重要性に十分配慮すること.」教授会の役割は法人化後も変わらない.

·    琉球大学教員就業規程第4条:「…大学教員の採用及び昇任の選考は,別に定める国立大学法人琉球大学教員選考基準により当該学部教授会,…の議を経なければならない.」

·    参考:教育公務員特例法第4条第5項(法人化後不適用)「教員の採用及び昇任のための選考は,評議会の議に基き学長が定める基準により,教授会の議に基き学長が行う.」

4. 上記の理由により,法人化後も学部教授会が教員人事を行うべきである.特に,教員人事の発議権を学部教授会が持たなければならない.全学人事委員会の行う人事は、琉球大学における学長留保定員の人事に限るべきである.

5. やむを得ず各学部の定員を削減する場合は,これまでと同様,当該学部の同意を必要とするようにしなければならない.さもなければ,当該学部の教育・研究が破綻する危険性が生ずる.また,定員削減の際は,各学問分野を尊重し公平に取り扱う必要がある.

6. 以上より,全学教員人事委員会規程案の第3条は削除し,上記の主旨に合うように全面的に書き直すべきである.

以上

 

 

「人事委員会規程(案)」に対する意見

                           地学系 小賀百樹 (2004.07.08)

 

<基本的な問題点>

1.規程案は,教育課程(カリキュラム)の維持・発展に実質的に責任を持つ各学部教授会や各センター運営委員会(以下,「教授会等」と呼ぶ)の意見をくみ上げるようになっていない.

 

審議事項である学内の教員配置や補充は,全学的視点からとはいえ,直接に各学部等の教員配置に影響することが予想される(教員配置は基本的にスクラップ・アンド・ビルドであろう).教授会等が,責任を持って教育課程(カリキュラム)の維持・発展にあたれなくなる.

 

2.教育・研究分野の「専門性」を考慮すれば,単に関係職員の意見を聞くだけでなく,責任組織としての各学部や各センターの教授会等の意見をよく聞く必要がある.規程案の(組織)および(意見の聴取)の記述はその意を尽くしたものでない.

 

3.法人化1年目の過渡的な時点にあるとはいえ,すでにある諸規則・規定との整合性をとる必要がある.

(1)旧来から存在する「学校教育法」に決められた「教授会」との関係が明瞭でない.教員配置や補充の権限が2重構造になっている.

(2)本規程案の親規則である「国立大学法人法」の成立時の付帯決議においても,教授会の存在と権限は従来と変更がないことが確認されている.

(3)法人化に伴い制定された「国立大学法人琉球大学教員就業規程」において,教員人事については教授会等の議によることが定められている.本規程案は,全学的見地からの学内の教員配置や補充を審議するとはいえ,上記就業規程と競合する可能性が高い.

 

4.以上の問題点を踏まえれば,規程案について無理に結論を急ぐのではなく,学内で広く・十分審議することが大切である.以下の観点に留意し,規程案をさらに吟味していただきたい.

(1)教育課程(カリキュラム)に責任を持つ現場,各学部の意向を十分汲むこと.

トップダウンで,現場によく理解されない方針をおろしても混乱を招くだけである.

現場の士気が落ちる.学生も被害を受けるだけである.

(2)「教授会等」と規程案の「全学教員人事委員会」の役割分担を具体的に明示すること.

(3)その中で,現場,各学部からも支持される(少なくとも納得してもらえる)「全学的な見地・方針」をいかに作り出すか.風通しのいい「全学的な議論の場」を設計すべきである.(これは,本規程案に関してというより,さらに広い意味での提案である.)

 

<文案についての具体的な提案>

あくまで慎重な審議をもとめるが,敢えて規程案の文案について若干の提案を下に記す.

 

5.(組織)第2条について;

(1)原案では,学部選出の委員は学部長のみという可能性も高い.学部の意見を尊重する主旨で,各学部教授会から選出された委員を各1名加えること.

(2)センターからは(5)〜(6)に規定される委員のみである.学内には,これ以外にも幾つかのセンターがある.他センターからの委員を追加することも検討してもらいたい.少なくとも,規程案が3センターのみである理由を示してもらいたい.

 

6.(審議事項)第3条について;

学部教授会等の意見を尊重する主旨で,文案「第3条 人事委員会は,・・・・する.」に続けて「なお,各学部,センター等の教育課程の適切な継続と教育研究分野の専門性に鑑み,学部教授会等の意見を尊重し,審議にあたるものとする.」と言う文章を追加する.

 

7.(議長)第4条について;

 議事の進行においても,頭ごなしでなく学内の合意を尊重する姿勢を示すべきである.

冒頭の文章(第1項)を「人事委員会に議長を置き,議長は委員の互選により選出する.」と変更する.これに対応して(第3項)も,「議長に事故があるときは,議長があらかじめ指名する者が議長の職務を代行する.」と変更する.

 

8.(意見の聴取)第5条について;

 文案を「人事委員会は,各部局等の教員の補充に関しては,学部教授会等の意見を聴取することとする.また,必要に応じ,関係職員を人事委員会に出席させ意見を聴くことができる.」と変更する.

 

                                    以上.

 

 

※連載「就業規則等の制定にまつわる話(その2)」は紙面の都合上,次号に持ち越しました.