琉球大学教授職員会ニュース 第96号

200312月16日 琉球大学教授職員会

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任期制適用範囲拡大の問題点!!!

医学部全教員(在職者を含む)に任期制導入か?

 

 任期制という雇用形態には、高等教育・研究機関である大学の教員に対しては多くの弊害があります。それゆえ任期制法においてもその適用範囲が特別に限定されています。ところが、医学部では、「教授及び助教授の任期制検討委員会」(教授のみで構成)において、在職者を含む全教員への任期制導入が了承され、 検討が進められています。このような任期制の導入の動きは、他学部へのなし崩し的な前例にもなりかねません。私たちは今一度医学部の「任期制」の問題を批判的に検討する必要があると考えます。

 

医学部「教授及び助教授の任期制検討委員会」の基準案についてのコメント

 

 同委員会は、医学部の全ての教員に導入を検討する必要があるとし、その基準案を11/26開催の教授会(教授のみで構成)に報告しました。

 

その基準案は、任期を、教授10年、助教授5年、講師5年、助手3年(いずれも再任を妨げない)とし、再任は評価事項、基準論文等々の審査を経て行われるというに提案でした。そして、この任期制は、新規採用者とともに全在職者に適用されるとしています。

 

しかし、

1)この任期制の内容は大学の教員等の任期に関する法律(任期制法)の趣旨をふまえていません。

 提案では医学部全体の教員に任期をつけるとしていますが、そもそも任期制法における任期制は、いわゆる選択的任期制であって、本来学部全体全教員に導入することを想定したものではありません。この点は、国立大学法人化法附帯決議においても「大学の教員等の任期に関する法律の運用に当たっては、選択的限定的任期制という法の趣旨を踏まえ、教育研究の進展に資するよう配慮するとともに、教員等の身分の保障に十分留意すること。」が決議されています。

 任期制法では、 第411)号「先端的、学際的または総合的な教育研究であることその他の当該教育研究組織で行われる教育研究の分野または方法の特性にかんがみ、多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職に就けるとき、2)助手の職で自ら研究目標を定めて研究を行うことをその職務の主たる内容とするものに就けるとき、3)大学が定め又は参画する特定の計画に基づき期間を定めて教育研究を行う職に就けるとき」、と条文で厳しく適用範囲を限定しています。様々な教育研究、診療を行っている琉球大学医学部教員の組織や職が、余すところなく上記の項目に当てはまるとはいえません。

 

2)教員の職階により3年、5年、10年の任期がついていますが、任期がつけば、住宅ローンなど長期ローンは組めませんし、これでは人生設計ができません。また、これまでとちがって育児休業もとれなくなり、子育ては大変です。特に女性には不利にはたらき、事実上女性を排除することになります。したがって、この任期制は「男女共同参画社会基本法」の精神、さらに琉大の「中期目標・中期計画」にある「男女雇用機会均等法の精神に則り、女性教員の採用を促進する」にも矛盾します。

 

3)職階によって任期が異なる理由は何でしょうか? 九州大学大学院の医学研究院、薬学研究院、工学研究院、農学研究院はいち早く全員任期制を敷いて強い批判を受けていますが、そこでさえ教授から助手まで同じ5年の任期としています。 また教授10年となっておりますが、法人化後は、民法626条の適用により任期は5年が上限となります。短い任期では、新しい研究を始めて、一定の成果を得るのは困難でしょう。これでは創造的研究の芽を摘むようなものです。

また、いま医学部が検討しているような任期制の職場に、優秀な人が集まるでしょうか? ほんとうに教育研究の活性化につながるのでしょうか?大いに疑問です。

 

4)任期が切れた後の人選はどのような手続きで行われるのでしょうか?

再任の基準は通常では特に厳しくなくても、人生には病気あり、ケガありで、何が起こるかわかりませんし、そのような不利を長期に被ったときでも、再任の基準は満たさなければなりません。また、「再任を妨げない」とされていますが、「多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織」であるからには、論理的には原則として公募となる可能性もあります。

さらに再任の基準を満たしたからと言って、再任の保障はまったくありません。任期制は「雇い止め」が原則であり、再任は可能性でしかないのです。京都大学再生医療研究所(京都大学医学部では一部の研究所にしか任期制は導入されていません)では外部評価で再任可とされながらも何の理由も示されないまま教授会で再任を拒否されています(http://poll.ac-net.org/2/)。また法人化の後、交付金が削減されれば人件費を維持できず、いくら業績を上げても、再任されない可能性さえあります。

 

)医学部では、予算執行など、教育研究に必要な権限、裁量権が教授に集中しています。このような制度の下で、助教授、講師、助手の任期を著しく短いものにすることは、助教授、講師、助手の学問研究の自由と、それを担保するそれぞれの職階の身分保障が著しく危うくすることにつながります。例えば、現在裁判中のアカデミックハラスメントのように、研究費の使用が妨げられるなど、さまざまな嫌がらせを受けたときは、被害者である助教授、助手は再任基準を満たすことさえ困難でしょう。 そもそも、任期制は独立した教育研究者を対象に考えられた制度なのです。

 

6)任期制法では採用、昇進、配置転換の時にしか任期を付けることができないことになっています。だから、当然現職の任期の付いてない人に自動的に任期を付けることはできないはずです。さらに「期間の定めのない雇用」から「期間の定めのある雇用」へと言った重大な労働条件の変更は本人の同意がない限りできません。全教員の任期制には全教員の同意が必要であり、全員の半強制的な同意を前提にした制度の導入の議論を教授のみからなる委員会で進め、医学部の構成員である助教授、講師、助手の意見も聞かぬまま、教授のみからなる教授会が決定することができるのでしょうか?

 

7)法人化に移行するときに任期の付いてない人に任期をつけることはできません。

 現職で任期のついていない人は、任期付きの再契約などをしないかぎり、国立大学法人法 附則第4条により、これまでの職員としての身分は法人化後の新しい法人でも引き継がれます。

 任期つき雇用への変更に同意しない場合に何らかの不利益を被る可能性については、任期制法制定時の文部省の国会答弁において、『本人の同意を得て行うということが法律上明記されているわけでございます。したがって、本人の意に反しでそのような任用行為がなされるということは考えられないというように思うわけでございますし、また、それを本人が受けないというようなときに、そのことによって何らかの不利益な取り扱いがあるというようなことも、もちろんあってはならないことだというように考えております。』(975/16衆院文教委、民主党 山元議員への質問に対して)として、不利益があってはならないこととされています。

 

8)委員会では「なお,任期制は,COEを含む競争的研究資金の獲得及び運営交付金の確保のために導入する必要性がある旨意見が一致した。」 としていますが、以下の任期制法の附帯決議(注)からわかるように、任期制の導入はCOEを含む資金獲得の条件にはできないことになっています。

 

(注)任期制法の附帯決議(衆院)「一、任期制の導入によって、学問の自由及び大学の自治の尊重を担保している教員の身分保障の精神が損なわれることがないよう充分配慮するとともに、いやしくも大学に対して、任期制の導入を当該大学の教育研究条件の整備支援の条件とする等の誘導等を行わないこと。」

(参院)「一、任期制の導入によって、学問の自由及び大学の自治の尊重を担保している教員の身分保障の精神が損なわれることがないよう充分配慮するとともに、いやしくも大学に対して、任期制の導入を当該大学の教育研究支援の条件とする等の誘導や干渉は一切行わないこと。」

 もしも、任期制導入が実際にCOEを含む競争的研究資金獲得の条件であれば、問題は重大で国会決議に反する文部科学省の暴走であり、大学としては強く抗議すべきです。そのような違法状態をもたらす噂に迎合して任期制を導入することは、任期制法の趣旨に沿うものではなく、脱法的な運用とむしろ大学評価を下げかねないものと言わざるを得ません。 また、法人化後は 全員任期制であれば簡単にポストを削減できるため運営交付金の人件費を急速に削減することが可能となります、5年のCOEのために、将来の危険を買うことにもなりかねません。

 

 以上のように、今回の任期制は法的にも問題があり、さらに学問の自由及び大学の自治や全教員の身分保障とともに大学全体の今後に関わる重大な事項です。全学的な議論もないまま、一方的に議論が進行している今回の医学部の事態は、今後の琉球大学の教育研究機関としての大学運営の危うさを感じさせるものです。しかし、この異常な事態は教授会が教授のみで構成されているという医学部だけの特殊な問題と見過ごすことはできません。法人化後は学長と学長周辺の委員会(理事会、運営評議会、教育研究評議会?)が、大学全体の運営に大きな権限を持つようになり、教授会の権限が弱まる可能性があります。しかし、今回のような全教員任期制などの重大な問題が構成員の知らないあいだに、何の議論も経ないままに一方的に決まってしまうようなシステムを学問の自由が保障された最高学府で許容することは到底できないはずです。今一度、“「自由平等、寛容平和」という建学の精神を継承・発展させて、「真理の探求」、「地域・国際社会への貢献」、「平和・共生の追求」を基本理念とする”真に開かれた大学とは? それを担う私たちのあるべき姿とは? 厳しく問うてみる必要があるのではないでしょうか。

(任期制の問題はhttp://www.cc.uryukyu.ac.jp/~hougaku/public/plan/002.htmlも参考となります。)

 

?国立大学法人琉球大学職員就業規則(案)へ、意見を?

 琉球大学人事制度ワーキンググループ作成「国立大学法人琉球大学職員就業規則(案)」が、各学部に配布されています。私たち「労働者」の労働条件を定める「事業経営の必要上使用者がさだめる規則」で、2004年4月1日以降、法的に実効します。しかし、その実効性は、労働法の専門家でない、多くの職員、これまで公務員であった私たちには、具体的に理解しがたい代物でもあります。各学部各学科・教室で学習を進めることも必要でしょう。教授職員会では、同案について第一次の意見書をワーキンググループに提出しました(12月12日)。この意見書は、各学部の代議員から受け取ることができます。各学部の代議員に問い合わせてください。労働基準法の精神に則して労使協同して就業規則を作り上げていくことが今後の創造的な教育研究活動を担保する一歩です。就業規則を作るだけでは十分ではありません。非常勤職員を含めた労働者の過半数代表者を選出する方法について決定し、早速選出しなくてはなりません。労働協約も結ばなくてはなりません。このような一連の作業が4月1日までに実質的に進んでいないと、「使用者」側も大学を円滑に運営できないことになります。

 就業規則等についての学習会を教授職員会執行部としても続けています。第一次意見書は、その所産です。これまで毎週木曜日の午後六時から開いてきました。これからも定期的に開いていくことになると思います。拡大執行部会という形で開いていますが、とにかく、会員であれば誰でも参加できます。代議員に日時を確認のうえ、ご参加ください。