琉球大学教授職員会ニュース 第97号

20041月16日 琉球大学教授職員会

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『国立大学法人琉球大学職員就業規則(案)』の問題点??

全学説明会の開催を  教授会での検討を

 

 教授職員会では、さる10月30日、大学側(人事制度ワーキンググループ・人事課)が作成した「国立大学法人琉球大学職員就業規則(案)」に対する意見提出を依頼されました。「就業規則」本則と「教育職員規程」は、独立行政法人へ移行後の私たちの労働条件を規定する、きわめて重要な規則であり、賃金、採用、昇任、降任、解雇、懲戒、配置転換、教員専攻基準、任期制、教授会の権限等々に直接関わります。そして使用者は「就業規則」の作成にあたって、労働者代表の意見を聞かなくてはなりません。教授職員会は、新たな制度設計の一方の当事者という自覚からワーキンググループの作業に協力し、「意見」としてまとめることにしました。

一ヶ月余という短期間ではありましたが、他大学の例や諸資料をふまえて「職員就業規則(案)」の本則と、「教育職員規程(案)」について詳細に検討をかさねてまいりました結果、早急に論議すべき問題点が「国立大学法人琉球大学職員就業規則(案)」と「教育職員規程(案)」にはいくつもあることが明らかになりました。それらを「就業規則(案)」と「教育職員規程(案)」に対する教授職員会の「第一次意見」としてまとめ、12月12日に人事課に提出いたしました。同時に、「就業規則」に関する真摯な意見交換と全学説明会の開催を当局に要望しました。そして、全学教員に対してもこの「第一次意見」をメールで配布し、各専攻、学科、学部教授会での議論を呼びかけました。「第一次意見」は詳細にわたっていて長いため、本ニュースで「就業規則(案)」と「教育職員規程(案)」の特に重大な問題点に焦点を絞って解説します。

 

問題点1 任期制

◇ 大学教員は、教授会の議に基づき、期間を定めて雇用することができる。

  2 前項の期間が満了した場合は、教授会の議に基づき期間を更新することができる。

  3 期間を定めて雇用された大学教員は、その期間中に退職することができる。

  (「教育職員規程」第7条)

  

大学教員に任期を定めて雇用することは、「大学の教員等の任期に関する法律(任期法)」第5条(国立大学又は私立大学の教員の任期)に基づいた、極めて限定的なケースにのみ可能であり、しかも本人の同意が不可欠とされています。全教員に任期をつけるといったような無限定的な任期制導入は、法律に違反しており不可能なことは言うまでもなく、教員の権利や学問の自由を著しく侵害することにつながります。また、法文学部では、任期制の導入が教授会で否決されています。したがって、任期法に基づくことを明示し、本条第一項を次のように変更すべきです。「大学教員は、『大学の教員等の任期に関する法律』(以下、任期法という)第5条第1項の規定に基づき、期間を定めて雇用することができる。ただし期間を定めて雇用するときは、当該教授会の議に基づかなければならない。」さらに、第2項以下を繰り下げ、新しく次の第2項を加えるべきです。「2 前項において、期間を定めて大学教員を雇用するときは、任期法第4条第2項に基づき、本人の同意を得なければならない。

問題点2 勤務評定

◇ 職員の勤務成績について、評定を実施する。(「職員就業規則(案)」第12条)

◇ 大学教員の勤務成績の評定及び評定の結果に応じた措置は、教授会の議に基づき各部局等の長が行う。

  2 前項の勤務成績の評定は、教育研究評議会の議に基づき学長が定める基準により、行わなければならない。(「教育職員規程(案)」第11条)

  

勤務評定の実施は、教員の権利や学問の自由の侵害につながりかねない重大な問題をはらんでいます。しかも、勤務評定の目的・基準・手続き(不服申し立て・苦情処理を含めて)・効果に関する原則は、「就業規則(案)」に全く記載されていません。そもそも、勤務評定といった重大な制度を新設するにあたっては、教授会および評議会での決定を要するはずです。したがって、教授会および評議会での審議・了承を経ていない勤務評定に関する本条は削除すべきです。

 

問題点3 解雇

◇ 職員が次の各号の一に該当する場合には、解雇することができる。

  (3)組織の改廃等により、職員の減員が必要となった場合。

  2 前項の規定にかかわらず、教育職員の解雇については、別に定める教育職員規程による。(「就業規則(案)」第24条)

◇ (就業)規則第14条第3項及び第24条第2項の規程に基づく大学教員の降任及び解雇は、教育研究評議会の審査の結果によるものでなければ、その意に反して解雇されることはない。降任についても、また同様とする。

  5 第3項に規定するもののほか、第1項の審査に関し必要な事項は、教育研究評議会が別に定める。(「教育職員規程(案)」第4条)

 

まず、職員の減員が必要な場合の解雇、すなわち整理解雇の原則については判例法理が確立しているので、それを踏まえてより具体的に教員・職員双方の免職事由を規定すべきです。また、「就業規則(案)」第24条2項と、「教育職員規程(案)」第4条5項によれば、教員の免職事由に限定がなく、解雇の決定がすべて教育研究評議会に委ねられているかのようです。そこで、少なくとも「教育職員規程(案)」第4条5項は削除するとともに、同条第1項を「・・・大学教員は教授会及び教育研究評議会の審議の結果によるものでなければ、その意に反して解雇されることはない。降任についてもまた同様とする」と書き換えるべきです。

 

問題点4 配置換・出向

◇ 職員は業務上の必要により配置換、併任又は出向を命じ又は担当業務以外の業務を行わせることがある。

  2 前項に規定する異動を命ぜられた職員は、正当な理由がない限り拒む事ができない。(「就業規則(案)」第15条)

◇ 教育職員は、教育研究評議会の審査の結果によるものでなければ、その意に反して配置換又は出向を命ぜられることはない。(「教育職員規程(案)」第5条)

 

ここでは配転と出向についての定義がされていないので、まずその定義を示すべきです。通常出向とは、指揮命令を行う使用者が変更する点、および勤務場所等を含めた労働条件が大きく変更する点で、原則として労働者の個別同意が必要とされています。また、配転についても、教員の場合は学部などの所属機関と担当科目を特定した上で採用されているので、教員の個別同意がなければ配転できません。したがって、「就業規則(案)」第15条の第2項を次の文章に変えるべきです。「前項における教育職員の配置換及び出向に関しては、本人の同意がなければならない」。また、教授会の役割を重視し「教育職員規程(案)」第5条第1項を「教育職員は、大学教員にあっては教育研究評議会及び教授会の審査の結果、他の教育職員にあっては教育研究評議会の審査の結果、配置換又は出向を命ぜられることがある」、第2項を「前項における教育職員の配置換及び出向に関しては、本人の同意がなければならない」と変えるべきです。

 

問題点5 採用・昇任の選考に関して学部長が意見を述べる事ができる?

◇ 前項〔大学教員の採用及び昇任―引用者〕の選考について教授会が審議する場合において、当該学部の長は、本学の大学教員人事の方針を踏まえ、その選考に関し、教授会に対して意見を述べることができる。(「教育職員規程(案)」第3条第2項)

 

本条は、教授会の結論と学部長の意見が合わない場合、両者の対立や紛争の原因となる可能性があります。両者の意見が合わない場合には、学部長個人の意見ではなく、教授会の意見を優先すべきであることは言うまでもありません。さらにいえば、このように重大な事項をもし就業規則に書き込もうとするならば、教授会の了解が不可欠なことも言うまでもありません。したがって、本条第2項は削除すべきです。

 

問題点6 学長の許可なく集会・文書配布等をしてはならない?

◇ 職員は、次の事項を守らなければならない。

 (6)学長の許可なく、学内で放送・宣伝・集会又は文書画の配布・回覧・掲示その他これに準ずる行為をしてはならない。(「就業規則(案)」第33条)

 

本条は、研究・言論・表現活動、組合活動などに必要なビラ配布等に著しく厳しい制約を課すものとなっており、学問の自由、思想・信条・表現の自由が最大限重視されるべき最高学府の就業規則としてふさわしいものではありません。最高裁判決においても、ビラの配布等を施設管理権者の一律許可制のもとにおくことに合理性を認めていないと解されています。したがって、本条(6)は削除すべきです。

 

問題点7 「政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体」の結成・加入

◇ 職員が次の各号の一に該当するに至ったときは、解雇する。

(3)日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した場合。(「就業規則(案)」第23条)

 

本条(3)は公務員法のもとで課せられていた欠格事由の1つですが、労働基準法においてはこのような規定は存在しません。このような団体を「結成」、あるいは「加入」したことのみを理由として解雇した場合には、むしろ信条による差別や解雇を禁じた労働基準法第3条に抵触する可能性が強いと言えます。したがって、(3)は削除すべきです。

 

 

問題点8 教授会の権限

 

「教育職員規程(案)」では、教授会について独立した条文が存在していません。また、この「教育職員規程(案)」では、解雇、降任、配置換及び出向、懲戒などが、教授会の議に基づかなくても、教育研究評議会の議のみに基づいて行うことができるようになっているので、これらの事柄に関して教授会の議も必要であるよう書きかえられるべきです。学校教育法59条に「大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない」とあることからも、独法化後の教授会の権限に関して教授会で議論し、その内容が「教育職員規程」にはっきりと明示されるべきです。

  

問題点9 セクシュアル・ハラスメント等人権問題

◇ セクシュアル・ハラスメントの防止等に関する措置は、別に定める国立大学法人琉球大学セクシュアル・ハラスメント防止等に関する規程による。(「就業規則(案)」第35条) 

 

  大学における人権問題に関しては、セクシュアル・ハラスメントはもちろんのこと、アカデミック・ハラスメントその他の人権問題に包括的に取り組めるような規則づくりが必要です。したがって、本条および「国立大学法人琉球大学セクシュアル・ハラスメント防止等に関する規程」は、セクシュアル・ハラスメントだけでなく、その他の人権問題へも対応できるように書き直すべきでしょう。

 

学問の自由を保障するために、大学自治の根幹をなす教授会は現行法上、極めて重要な位置付けを与えられています。また、独法化後にあっても教授会を重視すべきことは、独法化法案の付帯決議において強調されています。したがって、「就業規則(案)」をはじめとする、独法化後の学内体制・規則の制定にあたっては、教授会での議論をふまえて民主的に決定していくことが必要不可欠であり、大学当局にはそうする義務があります。しかも、独法化までに残された期間はあと3ヶ月未満となり、事態は極めて急を要します。にもかかわらず、大学当局(ワーキンググループなど)の動きはあまり迅速とは言えません。

「就業規則(案)」をはじめとする、独法化後の学内運営体制を議論するための教授会の開催を緊急に要求しようではありませんか。また、この件に関する全学説明会の開催を強く要求しましょう。

 さて、法人化までの作業段取りをもう一度確認しておこう。法人化後の私たち一人ひとりに直接関わることが、4月1日までに決定されるのです。

 

* メ モ *

 就業規則とは、普通契約約款と同様の定型契約としての法的規範性をもつ、事業経営の必要上使用者が定める職場規律や労働条件についての規則類を指します。当然、労働基準法等の法令に、就業規則は従ったものでなくてはなりません。また、就業規則の作成に続いて結ばれる労働協約は、就業規則に優越します。就業規則の作成・変更時には、使用者は、労働者の過半数を組織する労働組合か、これがない場合には過半数労働者の代表者の意見を聴き、これを記載した書面を添付して行政官庁(所轄の労働基準監督署長)に届け出なければならないことになっています。

 ですから、過半数代表者をどう決めるのかということも就業規則の作成と並行して進めなくてはなりません。そして、労働協約を4月1日までに結んでおかないと、法人としての運営が滞ったり、さもなければ脱法行為を繰り返すという事態になりかねません。実は、それまでに組織運営をどうするのか、これが問題です。例えば、特に実質的な運営にかかわって部局長会議を学長に次ぐところに運用上位置づけておかないと、学長は大学の運営を適切にできないのではないかと予想されます。