読書と日々の記録2007.11下

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■読書記録: 30日短評1冊 25日『目撃 アメリカ崩壊』 20日『ダムと日本』
■日々記録: 29日授業での問い 15日問いのある教育

■今月の読書生活

2007/11/30(金)

 悲しいことにというかコワいことにというか,今月は全部で6冊しか読んでいない。短評は1冊。読書記録を始めてから8年,初めてのことかも。これまでも,読む時間があまりないということはあったはずなのだが,そこでふんばって読もうという気力がない感じである。読んでいても今ひとつ深く入ってこないというか。かといって日常のほかの事柄に関しては,別に気力がないということは(そんなには)ないのだが。今月急にこうなったのではなく,4月ごろから冊数が減少傾向にはあった。どうしてこうなったのか,謎である。

 ということで来月からは,更新頻度を減らそうと思っている。そんなことをするのは2003年3月以来だ。

 なお今月良かった本は,『ワークショップ型授業が子どものやる気を引き出す』ぐらいかなあ。

『視界良好─先天性全盲の私が生活している世界』(河野泰弘 2007 北大路書房 ISBN: 9784762825620 \1,260)

 先天盲の方のエッセイ。ブログを編集者が目に留め,書籍化されたらしい(タイトルのイメージは,「五体不満足」だという話を聞いた)。視覚障害者の方の日常や見方などがわかるという点では興味深いのだが,今ひとつ突っ込んだことは分からなかった。たとえば筆者は気軽に「見える」というような言葉を使っているのだが,それがどういう意味で,どういうニュアンスで,どんな感じで使われているのかはよく分からなかった(最初のうちは,筆者は完全な盲ではないのかな?なんて思いながら読んだ)。そういう点はちょっと残念であったが,まあそれでも,さらりと読めて面白い本ではあった。

授業での問い

2007/11/29(木)

 今日,一つ授業が終わった。半期の授業を2人で分担している授業だ。これから,木曜日の午前中が丸々空くと思うと,シアワセである(というか,今期,異様に忙しかったのが,少し落ち着くという程度か)。

 それにしてもこの授業は,異様にうまく行った授業だった(当社比)。私が話をするのは前半45分のみで,それも,何かの「題材」を通して「問い」を提示し,グループで話し合ってもらい,発表,質問などを経て私が5分程度解説する,という進め方だったので,適切な題材と問いさえ見つかれば,授業準備はほぼできたも同然だった。

 もっとも,これに近いことはほかの授業でもやっている。ではなぜこの授業がうまくいった(と感じられる)のか。一つ考えられるのは,問いがうまく設定できたことかなと思っている。正解が一つではない,かといって何でもアリではない,という問い。伝えたい概念を念頭において題材を選んだので,ある程度そのことについては理解してもらえた。しかし正解が一つではないので,皆が出してくる意見を楽しみ,私自身も学ぶことができた。という感じだろうか。

 ではどうすればそういう問いが設定できるのか。何回かは「提案型授業」的な問いがよかったようなのだが,それだけでもなさそうである。ではそれ以外のものは何型と言えるのか,それらに共通するポイントはあるのか。そのあたりは今のところ,明確な考えは持ち合わせてない。これからおいおい考えていくしかないか。

『目撃 アメリカ崩壊』(青木冨貴子 2001 文春新書 ISBN: 416660225X \680)

2007/11/25(日)

 9.11当時、世界貿易センターの近くに住んでいたジャーナリストである筆者によるルポ。2001年11月に出されている本で、当時の情報や、ニューヨークに住むアメリカ人が何を感じ、考えていたかを速報的に知るにはいいが、その分、深さは感じられなかった。というか、「アメリカ崩壊」を感じさせるような内容とまではいかなかった(住民にとってはそういう思いは強いのだろうが)。エッセイ的というか。大きな衝撃だったことや、右往左往していたことは分かるのだが。

 本書のなかで一つフームと思ったのは、空港の手荷物検査員の問題。「どの空港の手荷物検査も実にいい加減なものだった。荷物の中身を調べるのは、各航空会社が依頼した民間会社に雇われた係員である。彼らには最低賃金に近い一時間五ドルぐらいの給料しか支払われず、新任係員はメタル・ディテクターなどの機械の操作をビデオで見るなど、たった十二時間の訓練だけで仕事につくという有様」(p.179-180)とある。市場万能主義の弊害か、と思った。たとえばこういうところを掘り下げてくれると、とても興味深いものになるのだろう(そう思わせるようなネタは本書のなかに多数みられたのだが)。

■『ダムと日本』(天野礼子 2001 岩波新書 ISBN: 9784004307167 \700)

2007/11/20(火)

 日本のダム事情について知りたくて買ってみた。筆者は「長良川河口堰建設に反対する会」事務局長などを務める,環境保全側の人間である。本書の中盤以降は,ダムの問題というよりもむしろ,ダム運動に関わってきた筆者の来歴的な話が多く,イマイチだったのだが,それでもダムについていくつかのことがわかった。

 それは大きく言うならば,「ダムは問題」ということと「ダムは不必要」ということのようである。ダムが問題なのは,一つは自然破壊をするからである。ダムの自然破壊というとダム建設による森林伐採などの問題だと思っていたが,本書にはそれはあまり書かれていなかった。むしろ,日本が雨が多く地形が急なので,水だけでなく砂もたまることが問題のようである(堆砂問題)。たまった砂は流れないのでヘドロと化す。そのまま放置すればダムはいずれ埋もれてしまう。かといってそれを下流に流せば,そのヘドロによって下流の川なり海が汚れてしまうのである。もう一つのダムの問題は,「政・官・財癒着腐敗」の問題のようである(が,この点は今回の私の興味の範囲外なのでナナメ読みした)。

 一方,「ダムは不必要」に関しては,本書では,主に「治水」目的にダムは必要ない(むしろ洪水を引き起こすこともある)ということのようだった。一方の「利水」に関しても,「昭和四八年にはオイルショックが起こって,もう日本では大量の水がいらなくなりました」(p.12)と書かれている。ただしこちらに関しては,この記述ぐらいで,それ以上の詳しいことは本書には見当たらなかった。たとえば沖縄県で言うならば,この事情は当てはまらないのかもしれないのかな,と本書を読む限りでは思った。ということで,多少の不満はあるものの,本書で少しはダム問題について知ることができた。

問いのある教育

2007/11/15(木)

 最近,「問いのある教育」というタイトルの紀要論文を書いた。

 どこで見つけられたのか,関東の小学校の先生からメールをいただいた。同じようなことを考えている方のようだった。

 その方も,問いのある教育の実践をされており,その報告書を先日,おくってくれた。非常に興味深いものだった。

 私の知るかぎり,子どもの問いを中心にすえて行われる国語の授業には,元宮城教育大学の武田忠先生のものや,筑波大学附属小学校の桂先生のものなどがあるが,どれも,教材文を読ませ,問いを作らせ,その問いの答を考えるという形で授業は進められる。

 しかしこの先生のものは少し違っていた。最初に提示するのが,教材文の「要約」なのだ。子どもたちはそれを読んで疑問をつくり,出た疑問を分類し,それから教材文を読ませる,という形で実践をされていた。

 なるほどこれはうまい方法だなあと思う。要約ということは全てが書かれていないわけで,それだけ疑問は出しやすいだろうし,自分の(あるいはクラスメートの)疑問に対する答が書いてないかを探しながら教材文を読むことになるので,それがすなわち読む視点になるし,読みたいという気持ち(動機づけ)も高まるだろう。中には,本文を読むことでますます疑問が出てくる,なんていう子もいるそうである。

 こういうやり方,大学の授業でもどこかで使えないかなあ。


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