読書と日々の記録2008.8下

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■読書記録: 31日短評4冊 30日『年金大崩壊 完全版』 24日『散るぞ悲しき』 18日『自己コントロールの檻』
■日々記録: 30日教育実習 24日恐竜展 18日免許更新講習の準備

■今月の読書生活

2008/08/31(日)

 夏休みに入ったせいか,今月はやや冊数が戻った。といっても9冊なのだが。

 今月良かった本は『散るぞ悲しき』。その他の本も部分的には得るものがあったかな。

『学ぶ意欲を育てる人間関係づくり―動機づけの教育心理学』(中谷素之編著 2007 金子書房 ISBN: 9784760834105 \2,400)

 学校における動機づけについて,人間関係に焦点を当てて論じた本。いくつか知らなかったことを知ることができたという点ではまあまあか。たとえば,内発的動機付けと外発的動機づけが,「自律性」という観点で統合的に論じられているとか,自律性を支援するための教師の行動としては「生徒の話を聞く」「生徒がしたがっていることについて質問をする」「生徒の質問に答える」「生徒の視点に立つ」などがある(p.46)とか,教室に多声的な参加構造(≒対話の場)を作ることで意欲が引き出される(p.85),なんて話である。ただし本書は,概論書と専門書のあいだ的な性格の本で,読んでいてすごく面白い,という感じではなかったのだが。

『なぜイノシシは増え、コウノトリは減ったのか』(平田剛士 2007 平凡社新書 ISBN: 9784582853650 \740)

 なぜイノシシは増え、コウノトリは減ったのかというと,それは一言でいうと人間のせいのようである。しかし本書は,なぜイノシシは増え、コウノトリは減ったのかを論じているというよりも,「どのようにして減った動物を増やし,増えすぎた動物を減らそうとしているのか」について,人々や自治体などの努力を,成功例も失敗例も交えながら紹介しているルポルタージュである。文体はなんだか新聞のコラムっぽくて,読みやすいといえば読みやすいけど,わりとずっとそんな調子なので,私としてはあまり引き込まれて読む感じではなかった。

『理科大好き!の子どもを育てる─心理学・脳科学者からの提言』(無藤隆編著 2008 北大路書房 ISBN: 9784762825903 \2,100)

 心理学者が中心になって書いた理科教育に関する本。「理科の授業で提供される情報が子どもの側のすでにもっている知識群に取り込まれ,知識のネットワークにつながり,その後の子どもが出会うさまざまな事態に対して適用されて初めて,知識は生きたものとなる」(p.1)という指摘が第一章冒頭になされているが,これは理科だけに限らない,子どもだけに限らない重要な指摘である。心理学者が中心なので,数値データがいくつも出てくるが,そういうのよりも私は,インタビューの話や実践の話が興味深かった。

『子どもと生きる教師の一日』(家本芳郎 1984 高文研 ISBN: 9784874980316 \1,100)

 とあるブログで薦められていたので買ってみた。私には今一つだった。一つには,中学校教師のことを中心に書かれているからだろう。あとは,教育心理学の授業で,あるいはゼミ生に紹介できそうな部分がなかった,ということもある。「教師の一日を追ってみた」という内容で,新任教師などにとってはいいのかもしれないが。

■『年金大崩壊 完全版』(岩瀬達哉 2007 講談社文庫 ISBN: 9784062759106 \590)

2008/08/30(土)

 講談社ノンフィクション賞受賞作に大幅改訂を加えたもの。

 年金問題というと記録ミスの問題かと思っていたが,そうではなく(それだけではなく),本来温存すべき年金(厚生年金)の掛け金を使ってさまざまな赤字事業が行われ,それによって年金官僚が天下り先を確保している,というようなことを論じている。その「あの手この手」ぶりは空恐ろしくなる。そういう意味で本書は,年金版『日本国の研究』という感じか。

 本書でちょっと面白かったのは,諸外国の制度との比較の部分で,イギリスでは,「公共サービスというものをより民間サービスの発想に近づける機会も増やして」(p.305)おり,たとえば年金徴収コストは日本の12分の1だという。今まで市場主義的改革の問題点を指摘するものばかり読んできたので,その利点がこのような形で現れる場合もあるんだなあ,とわかった。あと重要なのは,いかに情報公開をしてガラス張りの制度をつくるか,ということのようである。

教育実習

2008/08/30(土)

 今週は,附属小学校で教育実習生の授業を3つ見てきた。

 見たのは,授業者も学年も教科も違うし,何回目の授業かもそれぞれ違う。だから当たり前ではあるのだが,それぞれ,違いの感じられる授業だった。

 当たっているかどうかは分からないのだが,その違いの大きな元になっているものに,教育観というか授業観の違いがあるように感じた。そしてそれが元となって,授業の成否を分けているような気がした。

 となると,よりより教育実習になるためには,実習前に,学生が自分が持っている教育観に気づき,場合によってはそれが修正される機会があるとよさそうである。具体的にどうするのか,どこまでそれが可能か,逆にそうすることの弊害はないのか,などについてはさておき。

■『散るぞ悲しき─硫黄島総指揮官・栗林忠道』(梯久美子 2005 新潮社 ISBN: 978-4104774012 \1,500)

2008/08/24(日)

 第二次世界大戦時,激戦地であった硫黄島で総指揮官であった人についてのノンフィクション。大宅壮一ノンフィクション賞受賞作である。あまり期待せずに買ってみたのだが,非常に面白かった。

 それは栗林氏が「合理主義者」であったからである。きわめて合理的な戦い方を考え,周到に準備したがゆえに,米軍が「5日でおちる」と考えていた硫黄島を36日間に渡って戦い続けることができた。しかもそれは戦争末期,十分な資材も質の高い兵士もいないなかで行われたのである。それができたのは硫黄島着任後,島の隅々まで自分の目で見て回り,最も効果的な戦術を考えた結果なのである。

 栗林氏が取った戦術は,日本軍の伝統的な作戦である「水際作戦」とは正反対のものであった。水際作戦は米軍の物量攻撃や優秀な海兵隊の前では効果を発揮していなかった。それでも当時の日本軍は水際作戦に固執していたのである(おかげで栗林氏の戦術は相当な反対にあっている)。

 合理的に考える栗林氏と,非合理な考えに固執する日本軍(大本営)。その違いは,自分の目で見,柔軟に考える人間とそうでない人間の違いのようにみえた。そういう意味で本書は,『大本営参謀の情報戦記』に通じるものがある。合理的に考えているはずの人間の意見が簡単には通らず辛酸をなめることがあるという点でも。

恐竜展

2008/08/24(日)

 先日,子どもたちと,県立博物館で開かれている恐竜展を見に行った。

 思ったよりもデカい恐竜が,思ったよりもたくさんあって,けっこう楽しめた。出口近くでは,「恐竜発掘体験」コーナーなんてのがあったりして。砂の下に隠れている恐竜の骨を,ハケではいて発掘する,という体験である。

 そういえばこれを書きながらふと思い出したのだが,私が確か小学校5年生ぐらいのときに,地元(熊本)のデパートで恐竜展が行われた。そのときは,恐竜が熊本に来たのが初めてだったせいか,あるいはほかに娯楽らしい娯楽がない時代だったからなのか,はたまた主催者の宣伝が上手だったからかは分からないが,デパートの最上階で行われた恐竜展を見るのに,入場者の列が1階まで続いていた。

 それに比べて今回は,朝一番に行ったせいか,駐車場には楽勝で車を止めることができたし,そんなに人は多くなかったしで,ゆっくり楽しめた(終わって外に出ると,けっこう人がウジャウジャしていたが)。

■『自己コントロールの檻―感情マネジメント社会の現実』(森真一 2000 講談社選書メチエ ISBN: 9784062581776 \1,680)

2008/08/18(月)

 現代社会は「心理主義化」していると筆者は考えており,その意味を,知識社会学的に分析することで明らかにしようとした本。心理主義化とは,「心理学や精神医学の知識や技法が多くの人々に受け入れられることによって,社会から個人の内面へと人々の関心が移行する傾向,社会的現象を社会からではなく個々人の性格や内面から理解しようとする傾向,および,「共感」や相手の「きもち」あるいは「自己実現」を重要視する傾向」(p.9)のことである。本書は私にとっては,方向性としては面白いかもと思うものの,十分に満足のいくものではなかった。

 私自身,日ごろから違和感を感じていることとして,「何かの問題に対処する方法を心理学的に助言するときは,何でも理性的に(あるいは意識的に,メタ認知的に)コントロールすることが中心となる」ことがある。そういう興味で本書を買ってみたわけだが,本書で中心的に対象とされている心理学的知識・技法は「感情の知性」(EQ)であり,私が気になっている部分にまでは分析・議論が及んでいなかった。それが十分に満足できなかった第一点である。

 また,本書で取り上げられているEQの扱われ方が,果たして一般的で多くの人に受けいられているかどうかがよく見えない点も残念だった(一部の極端な議論のみが扱われている可能性もあるので)。また,冒頭の引用部分には「社会から個人の内面へと人々の関心が移行する傾向」とあるが,本当に「移行」しているのか(以前はそうではなかったが今はそうである)はよくわからなかった。というのは,本書で中心に扱われているような問題は基本的に「個人差」の問題であり(そういう人と創でない人がいる),個人差の問題は基本的に,「社会からではなく個々人の性格や内面から理解しようとする」しかないと思うのである。つまり,本書とEQ本とでは,焦点を当てるレベルが違うのではないだろうか(本書:マクロ,EQ本:ミクロな個人差)。社会に焦点を当てることで見える/説明できるのは,全体的傾向であり,「なぜこういう人とそうでない人がいるのか」という個人差は説明できないので,「個々人の性格や内面」に焦点を当てる限り,その分析は社会的なものではなく個人レベルのものにならざるを得ないだろう。

免許更新講習の準備

2008/08/18(月)

 最近,ちょっと時間があるので,9月に行う予定の教員免許更新講習の準備をしている。

 講習のテーマは「学ぶ意欲の心理学」とした。私自身の専門とは直接関係ないのだが,学部生も大学院生も現職の先生も,教育心理学で扱うテーマの中では興味を持っている人が多いようなので選んでみた。

 考えてみたら,いつもは90分1回こっきりで扱うテーマなのだが,今回はこれを,360分(最終課題執筆時間を除いても270分ぐらい)は使えるので,グループワークを入れたり,普段の授業では扱わないトピックを紹介できる。

 それに加えて,それらを自分なりのストーリーに組み立てて紹介できるので,いろいろとアイディアが沸いたり,複数のテーマの関連性が見えたり,いつも以上に突っ込んで勉強できたりするので,なかなか準備も楽しい感じである(今のところは)。


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