読書と日々の記録2008.11上

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■読書記録:  12日『「旭山動物園」革命』 6日『頭の使い方がわかる本』
■日々記録:  12日【授業】うつへの認知療法 6日プチ繁忙期

■『「旭山動物園」革命―夢を実現した復活プロジェクト』(小菅正夫 2006 (角川oneテーマ21 ISBN: 9784047100374 \760)

2008/11/12(水)
〜現場主義的アクションリサーチによる革命〜

 旭山動物園の園長さんの書いた本。旭山動物園について私はこれまで,聞きかじり程度の知識しかなかったのだが,確かに革命的動物園ではあるのだけれど,「行動展示」をするためにはそれなりの施設・設備が必要なわけで,やっぱりお金があったからできたんじゃないの?的なイメージを持っていた。しかしそうではない(それだけではない)ことが本書でよくわかった。というか,私の大好きな「現場主義的アクションリサーチ」的な話だったのである。

 具体的にいうと,動物園に予算が回ってこない,入園者は減る,という冬の時代があった。そこでどうにかしようと考える中で,動物と入園者の距離感を縮めようと,飼育係が自分の担当動物について説明する「ワンポイントアドバイス」を始めた。結果的にそれは,一般の人が動物のどこに興味を示し,どこに興味を示さないか,という「市場調査」となった。それをもとに,夜行性動物の夜の生態を見せる「夜の動物園」,動物の寝室などを見せる企画,サマースクールなどの新しい企画が生まれた。そうやって,動物縁側が入園者と直接触れ合える機会を得ることで,さらに「こんな施設にしたらもっと動物の特徴を知ってもらえるのに」などのアイデアが飼育係から出始めた。そこで,「当時の菅野浩園長から,「いまはお金がないかもしれないが,みんなで話し合って,施設のアイデアを出してみたらどうだ」という助言もあって,それ以来,飼育係が夜な夜な集まっては,「理想の動物園」について,話し合いを始めた」(p.43)のだそうである。

 それからしばらくして,テーマパーク建設を公約に掲げていた市長が,バブル崩壊で思うように資金が調達できず,旭山動物園の改修を持ちかけた,ということのようである。こうやって流れを見てみると,不遇の時期があったことも含め,すべてがいまにつながっているのである。もちろんそれと同時に,動物を愛しており,不遇でも何とかしようと考えるスタッフがいたことは大きいのだと思うが。

 上の話は,入園者の観点から考えたということだが,それだけではない。施設を作るに当たっては,「動物の気持ちや生態」がかなり考えられている。オランウータンの空中運動場も,ペンギンの散歩も,ホッキョクグマのダイビングもそのようである。あるいは,旭山動物園では動物の繁殖もけっこう成功しているようなのだが,それも,その動物の野生の巣穴に学ぶ,なんていうところから成功は得られている。

 こういうのを読むと,解は現場にあるんだなあと思う。実は本書を読むまではそういうことは全く知らなかっただけに,本書はそういう意味で非常に面白かったし,感動もした。

【授業】うつへの認知療法

2008/11/12(水)

 先週金曜日に行なった共通教育科目「人間関係論」はちょっと面白かったので,久々に授業記録をしておく。

 この授業は登録者100名強の心理学概論科目なのだが,昨年から,授業冒頭にテーマ(問い)を与え,それを小グループで考えてもらってから私が講義をしている。「考えさせて教える授業」と自分では呼んでいる。ただし4回は,当日ブリーフレポート(BRD)方式でやっている。私の講義の後で,BRD(ミニテストと私は呼んでいる)を20分ちょっとで書いてもらう方式だ(字数は500字程度か)。というか,BRDをうまく書いてもらうために,まずはその日の内容の要点をうまく捕まえられる必要があると思い,「考えさせて教える授業」を始めたのだ。今学期はこれまでに「考えて教える授業」を2回やった。で,今学期最初のBRD方式をやった(いきなり20分でレポートを書くなんて難しいが,その難しさを体験してもらい,今後の学習に活かしてもらおうという魂胆でこの時期にBRDを書かせたのだ。

 今回の授業のテーマは「うつへの認知療法」である。この日の学生への問いは「うつへの認知療法(認知的技法)について,教科書の記述を補足せよ」とした。教科書では認知療法は1ページで説明されており,初めて読む人にはコンパクトすぎてわかりにくい。それで「補足説明」を求めたわけだ。なおこの問いをBRD(ミニテスト)の問いとして出すのは,かなりうまいやり方だと自分では思っている。というのは,教科書を丸写ししたのでは何の補足にもならないから,それを禁じ手とできるのだ(残念なことに,このタイプの問いを他の授業回では思いついていないのだが)。

 授業としては,最初に問いを出し,5分間一人で教科書を読んで考えてもらった。「補足説明」をしてもらうからには,できればわかりにくいところ(補足説明すべきところ)がはっきりしていたほうがいい。そこで昨年,ここの授業をやったときは,質問を挙手で求めたのだが,ほとんど出なかった。しょうがないのであらかじめ用意した講義を行なったのだが,これはあまり面白くなかった。そこで今年は,学生を10名指名して,疑問がある人は前に出てきて板書してね,隣近所と話し合って,あなたが代表して誰かの疑問を書いてもいいよ,といってみた(学生には通し番号を与えているので,末尾が0の人,という形で指名した)。まったく期待はしていなかったのだが,10人全員が板書しに来てくれた。おかげで学生がどのあたりでひっかかりやすいのかがわかったし,それが何箇所かに集中していることがわかった。おかげで,学生の質問に触れながら,認知療法のポイント(セリグマン流のABCとか悲観主義−楽観主義とか)を講義することができた。

 今年一つ失敗だったのは,板書されたのが教科書のどのあたりの記述かがわかりにくかったこと。学生に確かめ,1段落目の疑問から順に説明していった。次回にこれをやるときには,何行目かを明記してもらうようにしなければ。

 なお疑問といっても,ほとんどの学生は教科書の記述を抜き書きしただけだった。それだけでは,どこがどのようにわかりにくいかがわからないので,とりあえず一番知りたい箇所にアンダーラインを引いてもらった。抜書きとアンダーラインで事足りるということは,学生の疑問は単語レベルの疑問だということである(「固定的なスキーマ」とか「歪んだ認知」とか)。しかし授業最後に書かせた感想に,ある学生はこう書いてくれた。「分からない用語(スキーマ・ラベリング)がたくさん出てきて,はじめは難しそうだと思ったが,深く学習してみると,用語よりも概念のほうが考えがいがあった。有意義だった。」 そうそう,大事なのは,一つ一つの言葉の理解じゃなくて,用語同士のつながりなどを通して概念全体を理解することなんだよね。いいところに気づいてくれたもんだ,と思った。そういうことへの気づきにつながるのであれば,「補足説明を要求して質問を板書(最後はBRD)」という授業をまたどこかで仕組んでみるかな。

■『頭の使い方がわかる本―問題点をどう発見し、どう解決するか』(J.ブランスフォード&B.スタイン 1984/1990 HBJ出版局 ISBN: 9784833730594 \1,400)

2008/11/06(木)

 前々から読みたかったのだが,絶版でなかなか手に入らなかった。それが最近ふと見てみると,アマゾンのマーケットプレイスで,割とリズナブルな値段で出ていたので,ようやく読むことができた。

 本書のことは,よく本や論文で引用されるので,おおよそのことはわかる。要は,問題解決ステップとしてのIDEAL法(理想的な問題解決)について書かれているのである。これらはそれぞれ,問題の発見(Identifying),定義(Defining),解の探索(Exploring),実行(Acting),評価(Looking)の頭文字である。この流れはごく一般的な問題解決の流れなのでよくわかるのだが,しかし,たとえば「問題の発見」と「問題の定義」はどう違うのかわからなかったし,筆者がこれを用いてどのように問題解決を語っているのかがわからなかった。特に後者については,「理想的でない」問題解決においても,基本的にはこの流れで進むと思うのである(問題がそれなりに発見・定義され,解を探索し,実行し,評価する)。という具合に疑問をたくさん感じていたのだが,それらが本書を読むことで解消された。

 まず筆者らの考える理想的な問題解決者とは,「自分の問題解決の過程に注意を払い,どんな失敗でもそこから学ぶことで,自分の問題解決能力を向上させることに不断の努力をする人」(p.2)のことのようである。つまり上記のIDEALとは,問題解決の過程の各要素に注意を払うためのもの,ということのようだ。

 それから,問題の発見と定義についてだが,筆者らは問題の発見を,「実際には非常に重要」なのに「問題解決の講義や書物の多くが見過ごしていたこと」だという(p.19)。それに対して問題の定義は,問題の中のどの部分を解決対象とみなすか,というような意味のようである。なるほど,違いはわかった。そして,問題解決の本や授業が問題発見を見過ごしてきたのは,それまで問題解決が,心理学の実験や数学の問題解決のように,明確な問題の存在を前提に進めてきたからだろう。しかしこの点が日常の問題解決において重要なのは,筆者らが指摘するとおり。私がいうのもナニだが,筆者はなかなか鋭いようである。

 筆者らはナカナカだな,と思うところは他にもあって,たとえば「問題を解く時には,IDEALのサイクルが何度も繰り返されるのが普通」(p.40)とか,「IDEALによるアプローチ法は,前提を疑問視し,新しい方法で問題を定義することの大切さを思い出させてくれる」(p.46)などとある。特に後者に関しては,「知的批評精神が問題解決能力を高める」という章が独立に設けられており,そこでは,「有能な問題解決者は聞いたり読んだりしたことを鵜呑みにしない」(p.153)とか,「批判に必要なプロセスはIDEALの観点と一致しています」(p.124)などと論じられている。特にこの章は,批判的思考の紹介になっており,それが問題解決の中に位置するものとして論じられているのである。

 ということで本書は私には,疑問の答は得られたし,批判的思考も論じられていたので,非常に満足度の高いものだった。もっとも本書の中ほどでは,記憶や文章理解についても「問題解決」と関連付けながら論じられており,その部分に関しては,ちょっとムリヤリっぽいというか,認知心理学の教科書っぽかったので,イマイチだったのだけれど。

プチ繁忙期

2008/11/06(木)

 なんだか最近,妙に忙しい。

 今週はじめに,一つ仕事が終わったのでひと段落かなあと思っていたのに,まったく違っていた。

 この忙しさ,来週になったらおちつくのか,再来週以降になるのかはちょっとわからないのだが,しばらくは諦めて,コマネズミのように(?)仕事をするしかないのかな,と思っている。


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