31日短評5冊 24日『英語ベストセラー本の研究』 18日『動機づけ研究の最前線』 | |
| 31日県外家族旅行 24日大学教育研究フォーラム |
一応冊数はあるものの,内容は今ひとつな感じ。今月後半になるにつれて,なんだか忙しくなったからなあ。
今月よかったのは...うーんどれだろう。これ,というものはないのだが,強いてあげるなら,『英語ベストセラー本の研究』かなあ。強いてあげるならだけど。
先日,1年ぶり2度目の県外家族旅行に行った。
といっても妻子が私の学会出張についてきたのだ。日中,私は学会へ。妻子は観光に行った。この時期の京都は,めちゃめちゃ人が多かった。バスもそうだったし,観光地もそうだったらしい。家族と夕方落ち合って,京都タワーに登ったり,東山花灯路を見たり。
帰る日は,関空に行きがてら,奈良にも寄ることができた。京都も奈良も,ここ数年仕事で毎年来ているので,なんだか自分の庭を紹介するみたいでちょっとうれしかったり。
ちなみにこの降水確率が50%とか90%とかだったのに,一度もかさを開かずに済んだ(しかも帰沖の日,沖縄でも雷がなったり,けっこう天気が荒れたようだったが,それにもあわなかった)。そういえば昨年の家族旅行でも,初日に雨に濡れた以外は,降りそうで降らなかった。家族の誰かが晴れ女なのか?
タイトルどおりの本。研究対象としているのは,戦後60年の英語のベストセラーで,1940年代から10年ごとに,当時の英語ベストセラー本を2〜5冊取り上げて,その本がなぜ多くの人に読まれたのかについて考察している。
私が見たことある本としては,『試験にでる英単語』(1960年代),『英文解釈教室』(1970年代),『起きてから寝るまで』シリーズ(1980年代),『DUO』(1990年代),『英会話・ぜったい・音読』(ここの6冊目),『「超」英語法』(いずれも2000年代)がある。
筆者は英語関連のベストセラー本を生み出しているライターなので,紹介も的確な感じだし,それを読むことで,英語学習法の中核を確認することができ,なかなか悪くない。次に読む英語本を探す参考にもなるし。
本書の最後で筆者は,これらの研究から見えてきた「究極の英語学習法」として,「音読+英語で考える」(p.218)という方法を提唱している。詳細は本書では紹介されていないのが残念なのだが。
昨年に引き続き,今年も参加してきた。2日間だが,たくさんの人が,よりよい大学教育や,大学教育の改善(FD)について発表し議論しているのは興味深い。
非常に興味深かったのは,飯吉氏の特別講演。途中ちょっと意識を失っていたのだが,私が聞いた最初と最後だけでも,示唆的なことをおっしゃっていた。それらをメモ的に書いておく(すべて講演そのままではなく,私のメモを元に再構成したものである)。
「苦しいFDは自動車教習と一緒」だとおっしゃっていた。うまい比ゆだ。やらなければいけないからやる,という苦しさだろう。それは慶応の鹿毛先生が言っている「作業」になっている,という部分があるかもしれないと思った。
「No pain, no gainではなく,more fun, more gain」ともおっしゃっていた。これはあらゆる改善活動に言えることだろう(たとば小中学校の校内研究など)。苦しいけど得ることがあるよ,ではなく,楽しくて熱中している間にたくさんのものを得た,というのが本来の姿だろう。そのためには「集合知」を上手く使うのがいいんだ,という話を,おそらく私が気絶していた中間部分でおっしゃっていたのだろうと思う。
「supply pushからdemand pullへ」。たとえばこれまでの商品販売は「売り手」が「これを買いなさい」とプッシュしていた。CMにしても新商品開発にしても。しかしネット時代となり,消費者の選択範囲が広がると,そうではなく,「買い手」が「ほしいもの」を検索して手に入れることが可能になる。すると,いくら売り手がいいと思っていても売れるとは限らないし,欲しいと思うものでなければ,いくら安くしても売れない。大学教育も同じで,もっと受け手側の需要を元に,受け手の声を元にやるべきではないか(という話だったのだろうか。これ以上のメモがないので分からないのだけれど)。
最後に,オバマ大統領の演説「一つの声が町を変える。町が変われば国が変わる。国が変われば世界を変えることもできる。みんなで世界を変えよう」を,「一つの教室が変われば...」と変えて(たぶん)引用し,講演を終えていた。実に示唆的な講演だった。
動機づけ研究ってなんだか分かりにくい。教科書的な,外発−内発はまあ分かるにしても,それ以外にも動機づけに関する理論や研究はたくさんあり,それらの関係が非常に分かりにくい(ちなみにこれまでに読んできた動機づけ関連の本は,『「わかる」ということの意味』,『学ぶ意欲の心理学』,『人を伸ばす力』,『学ぶ意欲を育てる』,『学ぶ意欲とスキルを育てる』,『子どもの姿に学ぶ教師』,『フロー体験』,『学ぶ意欲を育てる人間関係づくり』(ここの1冊目),『やる気はどこから来るのか』(ここの4冊目),というところか)。
しかし本書の第一章と第二章で,動機づけ関連の諸研究の位置づけを知ることができた。動機づけ理論は,認知,情動,欲求という要素のどれを重視するかによって3つに大別できるというのである(p.3)。認知とは見通しや期待であり,たとえば「自己効力」理論は認知論的アプローチの一つである。それは簡単にいうと,「成功する見込みがあると思えばやる」(p.7)というように,「信念」が動機づけを規定するという考え方である。
いっぽう,チクセントミハイのフロー理論(『フロー体験』)は,フローという情動体験を核にしているので情動論的アプローチである。それは簡単にいうと,「フローを求め続けることでわれわれの学習や発達が促進される」(p.16)という考え方である。
デシの自己決定理論(『人を伸ばす力』)は,有能さへの欲求,関係への欲求,自律性への欲求という欲求に焦点を当てている欲求論的アプローチであり,「これらの欲求が同時に満たされるような条件のもとで人は意欲的になりパーソナリティが統合的に発達する」(p.23)と考える。なるほど,こういうふうに位置づけると,いろいろな動機づけ理論の関係が分かりやすい。
もう一つ,本書で改めて知ったこととして,動機づけには,他者との関係が大きく関係しているということである。それに対する表現はさまざまで,関係欲求(重要な他者との関係によって充足される欲求: p.22),関係性(他者とのつながりをもっているときにウェルビーイングや自己のまとまりがもっともよく経験される:p.42),社会的目標(愛着や関係性への欲求のような一般的基本的欲求が満たされれば,その欲求を満たすような目標や価値を適用する: p.99),関係づくり(すべての学習者と教師が互いに尊敬し,結びついていると感じることができる学習文脈を形成する: p.139),という具合である。現職の先生の話を聞いても,非常に学習意欲の低い子どもが,先生と関係ができることで学習意欲が高まっていく,という話がよくある。それってどう考えたらいいんだろう,と思っていたところに,本書では「他者との関係」が随所に出てきていたので,なるほどやはりそういうことか,と思うのと同時に,もう少しここのところをきちんと理解しないといけないな,と思った。
なお本書では,「動機づけ研究の最前線」を提示する一方で,「あえて伝統的な動機づけ研究のトピックの多くを,省いた」(p.i)ということなのでその点に関しては,伝統的な研究についてきちんと論じている本(宮本・奈須編『達成動機の理論と展開』金子書房,など)を読む必要がありそうだ。