道田泰司
(琉球大学教育学部)
批判的思考(critical thinking)は,「生きる力」や「自ら考える力」に相当する概念として,近年注目を集めているように思われる。しかし批判的思考とは,誤解されやすい概念である。単なる批判や懐疑,テクニックなど,批判という語のイメージから来る誤解もある。また,批判的思考概念にはさまざまなものがあるにも関わらず,その多様性があまり知られていないために生じる誤解もある。 本稿では,批判的思考概念の多様性を紹介することでその誤解を解消するとともに,それらの多様なイメージを統一的に理解する視点を提出することを試みた。
論理主義 批判的思考についての,最も伝統的で狭い定義は「命題を正しく評価すること」(e.g., Ennis, 1962)というものである。このように,よい思考を論理評価や論理分析に還元可能と考える立場を,論理主義という(Walters, 1994)。
一般的な批判的思考 その後,批判的思考概念の被覆範囲は拡大し,1980年代以降一般に受け入れられている批判的思考概念(e.g., Ennis, 1985)は,評価が主ではあるが,それ以外の要素として,仮説の形成,暗黙の仮定の同定,別の視点・解・計画の検討という創造的な面なども含められている。
第二波 批判的思考を論理操作だけではないと積極的に考える概念研究は第二波と呼ばれる(Walters, 1994:ただし立場は1つではない)。そこでは,たとえば批判と創造性が包括的に位置づけられる。創造的思考にも批判的思考にも,生成と選択の両方が含まれており,両者の違いは,批判と創造の含まれる割合や置かれる位置,というとらえ方である(e.g., Gallo, 1987)。 あるいは,共感やケアも批判的思考の一部と考える(e.g., Wheary & Ennis, 1995)。共感とは,自分の,あるいは論理という規準による評価を批判することによって相手の視点に立つことだからである。
批判的思考を論理操作と考えることは,批判的思考を領域普遍的な技能(手続き)として捉えることであるが,批判的思考の領域固有性や態度的側面(過程)を重視する論者もいる。たとえばMcPeck(1990)では,議論の背景に考えられる仮定は無数にあり,議論分析だけではどれが妥当な仮定なのかを決定することはできないため,まず必要なのはその領域の知識であると論じている。またPaul(1995など)は,技能のみの批判的思考を「弱い意味の批判的思考」として否定し,批判的思考の対話的性質や,多重論理的な強い意味の批判的思考を強調している。
この3概念は,批判や創造などいくつかの要素からなる思考全体(図1a)における焦点の当て方の違いとして理解できるのではないだろうか。
論理主義とは,思考全体のなかの,批判や評価(収束的思考)という一要素のみに着目した見方といえる(図1b)。一般的な批判的思考では,創造なども含む思考全体が対象であるが,批判や評価を主要素とする思考に限られる(図1c)。第二波では,主要素ではなくとも,批判や評価が思考過程に重要な位置づけを占める思考すべてに焦点に当てられている(図1d)。自分の理解への批判という意味で,共感も批判的思考の現れの一つなのである。
要素レベルでの批判は領域普遍の技能となりうるが,思考全体としてみたときには,その領域に固有な技能,あるいは態度や過程としての側面が重要になる。
これらの概念はどれも,批判的思考の一側面を表してはいるが,多肢選択式のテストで測定できるのは論理主義的側面,思考を全体として包括的に捉えうるのは第二波的視点ということができよう。
