道田泰司　2005.09　大学の授業における学生の質問行動と準備状態　日本心理学会第69回大会発表論文集, 1274.（慶応大学）

大学の授業における学生の質問行動と準備状態

道田泰司

Key Words: 大学教育，質問行動，大学生

目　的

　本研究の目的は，大学授業時の学生の質問経験を明らかにすることで，大学授業改善の基礎データを得ることである。大学生の質問行動に関しては無藤・久保・大嶋（心評, 1980）や祐宗（武庫川女子大学教育研究所, 1995-2002）があるが，これらは「学生が授業のとき質問しない傾向にあるのはなぜか」と，無質問行動を前提としてその理由を明らかにしようとした研究である。しかし日常の観察からは，大学生が質問するかどうかや質問しない理由は，授業によってかなり異なるようにみえる。

　生田・丸野・中野（日心, 2000）は，小学生の話し合い活動認識を検討する際に，発言するかどうかという「行動」に加えて，発言を思いつくかどうかという「準備状態」も考慮している。この観点は大学生の質問行動を知る上でも有用と思われるが，大学生対象にこの観点から調査されたのは生田・丸野・加藤(教心, 2001)などで選択式質問紙で行われているのみである。そこで本研究では，自由記述を用い，また半期に受講した授業を対象として，大学の授業に対する大学生の質問経験を検討することとした。

方　法

被調査者　筆者が開講する共通教育科目「人間関係論」(2004年後期)に登録し，初回講義に出席した者90名。１年次62名，２年次19名，３年次８名，４年次１名であった。所属学部は，法文学部33名，教育学部12名，理学部14名，医学部２名，工学部21名，農学部８名であった。

手続き　調査対象科目を「今年度前期に受けた講義（前期にあまり講義をとらなかった人は昨年度の講義）」とし，以下の内容の質問紙を集団で実施した。①先生に質問をした講義があるか，②質問（聞きたいこと，疑問点など）は思いついたけれども質問しなかった講義があるか，③半期の講義中まったく質問を思いつきもしなかった講義があるか。それぞれ，ある・ないの２件法で問い，なぜ，どのようにその行動を行った（行わなかった）かを，自由に記述してもらった。

結果と考察

量的な結果　表１は質問項目①～③に対する回答を，回答パターンごとに集計したものである。まず質問項目ごとの合計を見ると，多くの者は質問をしていたり（72%），質問しなくても質問を考えている(68%)授業がある。

　次に回答パターンを見ると，ありえない回答である(1)を除くすべてのパターンが見られるが，中でも多いのは(7)〔行動するかどうかは別にして質問は思いつく〕であり，質問は思いついても授業によって質問したりしなかったりしている学生が少なくないことがわかる。また，複数の項目に○がついているもの〔(4)(6)(7)(8)〕が55.6％あることからも，学生は授業によって質問行動や準備状態が異なっているといえる。

質問の出る授業　質問項目①の回答の中には，科目名（あるいはそれに類すること）が全部で63個書かれていた。書かれていたのは共通教育科目，専門科目，教職科目と多岐に渡っていたが，種別として最も多かったのは語学の授業であり，23個(37%)見られた。語学の授業で質問が出やすい理由としては，比較的少人数(40人以下)であることと，スキル習得を目的としている（目的が明確である）ことが考えられる。この点は今後詳しくに検討すべきであろう。

思いついていても質問しない理由　質問項目②で理由として挙がっていた記述をKJ法を用いて分類した結果，以下の大グループが見出された（カッコ内は下位カテゴリー）。

　(a)先生以外で解決（友達が聞きやすい，友達に分かる質問，自分で勉強），(b)聞くタイミング（タイミングがわからない，質問の時間がない，進むのが速くついていくので精一杯），(c)言いづらい（人数が多い，恥ずかしい，みんなは分かっている，質問できる雰囲気じゃない，質問がまとまっていない，他の人に悪い，他の人がその質問をすると思った），(d)重要度が低い（大した質問ではない，まあいいかと思った，授業に対する興味が薄い），(e)教員の問題（聞いてもちゃんと答えてくれなかった，遠い存在で話しかけづらい，冷たい先生で答えてくれそうにない，先生が嫌い，「話している」感じの講義ではない）。

質問を思いつかない理由　質問項目③についても，同じようにKJ法によりグループ化を行った。

　(f)わからない（何をやっているのかまったくわからない，基礎知識不足で理解できなかった），(g)興味がわかない（興味がない，おもしろくなかった，積極的でなかった，毎回同じ内容だった），(h)疑問がない（理解できた，既に高校で習った，覚えればいい，話を聞いてノートしていただけ，質問が思い浮かぶほど深く学ばなかった），(i)教員の態度（一方的に話す，話し方がダラダラして授業がイヤになった）。

　質問項目②と③に対する回答で共通しているのは，「興味」と「教員の問題」である。この２点は，学生がより良く学ぶための基礎部分といえよう。

　質問項目②で共通点以外にあがっているもの(a, b, c)は，たとえば質問書方式（田中, 1999）のような方法を用いることでカバーできる部分である。一方，質問項目③における非共通部分(f, h)は，このような方法でカバーするのは難しい部分であり，他の対処法が必要であろう。

　質問項目③で興味深いのは，理解できないから質問がない(f)というものと，理解できたから質問がない(h)という正反対の理由が述べられている点である。ここには，学生が持つ質問観や学習観（道田, 琉大紀要, 2004）が表れていると考えられる。疑問を出すことを通して，より能動的に，より深く学ぶことが可能になるためには，学生の持つ学習観にもアプローチする必要があるであろう。

(MICHITA, Yasushi)

大学の授業における学生の質問行動と準備状態

道田泰司

Key Words: 大学教育，質問行動，大学生

目 的

方 法

結果と考察

目　的

方　法