道田泰司 2006.11 教員養成課程学生の進路意識の変化 日本心理学会第70回大会, 1200.(九州大学)

教員養成課程学生の進路意識の変化

道田泰司

目 的

 教員養成学部(課程)は目的養成の学部(課程)であり,学生が教員を目指していることを前提に教育がなされている。しかし実際には,意思決定が遅れている学生は少なからず存在する(若松, 2004など)。

 では教員養成課程に入学する学生は,進路をどのように考え,決定し,あるいは変更するのであろうか。本研究では,1年から4年まで年1回インタビューすることで,進路意識の変化の様相を捉えることを目的とした。

方 法

被調査者 ある大学の教育学部学校教育教員養成課程の同一専修に同一年度に入学し,卒業した学生6名。

手続き 年に1回,この1年間がどんな1年間だったか,大学,友人関係,その他印象的な出来事,また将来の志望について,個別に聞き取り調査を行った。2年末〜3年始めに行った調査では,上記の聞き取りに加えて,自我同一性尺度も行い,各項目に回答するに際して念頭に置いたことをたずねた。4年末には,大学生活全体について聞き取りを行った。調査時間はいずれも1時間前後であった。

結 果

 大学入学時点で,進路の選択肢として学校教員のみを挙げていた学生は2名であった。3名は学校教員と他の職業の両方を選択肢として挙げていた。1名は他の職業のみを選択肢として挙げていた。以下,選択肢が複数か単数かで分け,事例ごとに志望の変化を検討した。

入学時,複数の選択肢があった学生

(事例1)この学生は,1年時には教員以外にも選択肢を挙げていたが,それだけではなく,2年末には「教員は一応昔からなりたくて,でもなんか他にあるんじゃないという感じ」で,「たまに本屋行って職業一覧とか見る。見ても分からない」と述べている。第二の選択肢は,参考書を開いてみたり,人の話を聞く中で消えていった。最終的には教員志望なのだが,それは「がらっと変えるのは勇気がいるかなあと。がらっと変えるほどの出会いがなかった」中で,「他のが消えた」ための選択であった。

(事例2)この学生は2年末には第二の選択肢が消えていた。それについては,2年前期には「院に行くぞと思っていたけど,ちょっと迷い」と述べており,2年末には,「なんでだろう。徐々に消えてたからわかんないけど。教育研究とかの授業で,やっぱ,子どもの立場で考えたとかで,現場というのに,行きたいと考えたのかな」と述べている。 (事例3)この学生は4年時まで迷いが持続した学生だが,2年末には,「自分で経験してみて,あってる,違うというのを感じるタイプ。経験するまでは実感が持てない」と述べている。しかし3年時の教育実習が終わったあとも,「やればやるほどわけがわからなくなる。いろんな経験をすればするほど刺激を受けて」(4年前期)と,その時点では実習経験が決定的な要因とはならなかったとを述べている。しかし4年末には「優先順位をつけると教員」となっており,その決定に影響を与えたのは「教育実習。実際にやってみたというのが」と述べている。

入学時,選択肢がひとつであった学生

(事例4)この学生は,4年間,他の進路を考えることなく,ずっと一つの志望を持っていた。ただし,4年時にいくつかの問題で悩むことになり,「人生でこんなに悩んだ年はない」と述べている。それは,それまでやっていた勉強法が「ちょっとやり方が間違っていたかと思ってやめ」たほか,同一進路内での選択に関する悩みが複数あった。そのときの決定は,「消去法的な感じもある」が,「基本的には自分で考えて考えた結果」出した結論であり,多くの場合,「他の人に相談したりしない」と述べている。

(事例5)この学生も一貫して一つの志望を持っていたが,しかし「1年のときは,教育学部にいても違うやりたいことが見つかるんじゃないかと思っていた」とも述べている。しかし,「ボランティアをして,現場をみれた」など,「いろいろな現場体験」をし,志望が明確になっていく。4年時,採用試験前に,「別の校種のほうがあっているのではないかと、1ヶ月ぐらいかけて真剣に調べた」ものの,最終的には当初の志望のままであった。

(事例6)この学生は「小学校のころから教員になりたいなというのはあった」のだが,「高校,大学になって,本当にできるのかな,本当に好きなのかな,と迷い中」と2年前期に述べており,別の校種や,教員以外の選択肢(3年前期)も話題としてあがってきている。教育実習後も,「教育実習が終わって、小学校の先生になれるのかということをずっと考えて、自信がなくなっていた」と述べている。もっとも「教育実習を終えてしばらくした時に、やっぱりいい仕事だなと。学習ボランティアやチューターボランティアもやっていたので、現場の先生と会って、客観的に見るといい仕事だなと感じて、小学校の先生になろうと決めて、採用試験の勉強を始めた」と述べている。進路決定に影響を与えたものとして最終的に語られたものは,「教育実習」と教育関係のアルバイトであった。

考 察

 本研究は6名という少数ではあるが,いくつかのことが示唆されるように思われる。

 まず,教員養成課程に入学した学生でも,学校教員以外の選択肢を念頭においている学生が少なからず存在することである。大学入学時点で基本的に学校教員を進路として考えている学生の中にも,大学4年間の中で迷ったり他の選択肢を考える学生もいる。すなわち進路決定は,未決定→決定の一方向ではないのでる。あるいは,最終的に何らかの決定を行ったとしても,それが消極的なものである場合も存在する。教員養成教育は,こういう学生の存在をも念頭において行われるべきではないだろうか。

 進路決定に影響を与えるものとしては頻出するのは,広い意味での現場経験である。しかしその影響は単純ではない。教育実習は現場経験の最たるものであるが,実習終了後,すぐに志望が明確になるわけではなく,悩みを増加させる場合もある。これは,実習その他の現場体験を自分なりに振り返り,消化し,自分の中に位置づける時間が必要だということなのかもしれない。ここにも,大学教育が支援できる余地があるであろう。