道田泰司 2007.09 話し合いによる質問作成の過程 日本教育心理学会第49回総会論文集, page.(文教大学)

話し合いによる質問作成の過程

道田泰司
(琉球大学教育学部)

 講義において,受け取る側が疑問をもつことでより能動的に、より深く学び考えることが可能になると思われる。しかし実際には,大学の講義で活発に質問が出されることは多いとはいえない。

 道田(2007, 日心)は,講義中にグループで質問を話し合って発表し質疑応答をする時間を設けるという実践を行っている。質問を話し合わせる目的は,受講生からの疑問を講義内容に反映させたいことに加えて,小さな疑問は自分たちで解消してほしいこと,一人で問いが出なくても他者の問いに触れたり皆で考えることで問いのないところに問いを見出す経験をしてほしいことの3点である。授業者がみるかぎり,多くのグループで活発に意見交換が行われ,結果的に内容理解を深めるのに有効な質問が出されている。しかし,そこで何がどのように話し合われどのようにして質問が決定されているのかや,そこでの話し合いが受講生にとって学びの時間となっているかは明確ではない。そこで本研究では,質問作成のための話し合いの発話記録をもとに,質問作成の様相を知ることを目的とした。

方 法

授業と受講生 栄養教諭免許取得のための認定講習「教育心理学」を対象とした(4日間の集中講義)。受講生は学校栄養士24名,過半数が20代であった。4人グループ6つを編成して授業を行った(授業の概要は道田(2007)を参照のこと)。

手続き 授業前半に,発表グループが指定された教科書範囲をコンセプトマップにまとめて発表し,残りのグループが話し合って1つずつ質問を出した。1コマにつき1グループの話し合いの様子を授業者がビデオカメラに収め,分析の対象とした。話し合いにかかった時間は,およそ5分〜20分であった。

結果と考察

質問の決まり方 発話記録を一覧表にし,問いと応答の対応関係をみたところ,質問が決まるまでの過程には少なくとも2つパターンがあるようであった。一つは、誰かが最初のほうで出した問いと同じ疑問を基底に持つ意見が他のメンバーからもさまざまに出され,最終的にそれが質問事項になるというパターンである(主題と変奏型)。もう一つは,いくつかの問いが出され,そのうちのいくつかはその場で他のメンバーに答えられ,答が出なかった問いのうちのどれかが,影響力のあるメンバーの言葉(「もうこれにしようか」など)により決定に至るというパターンである。発話内容をみるかぎり,後者の方がメンバーの学びになっているようにであった。

質問を考える中での学び 話し合いの中には,学んでいるようにみえるものとそうとはいえないものがあった。前者にあたるものとしては,自分たちの経験や常識を思い起こしてそれと発表内容とを照らし合わせるような発話と,メンバーが出した問いに対して自分たちなりに推測して答を出している(出そうとしている)ものがあった。後者にあたるものとしては,基本的概念の理解が不十分であったり不適切なために,誤解をしたまま話が進んでいたり不適切な推測や根拠のない憶測になっているものと,質問したいことをどう表現するか言葉の吟味をしているものがあった。

質問作成の難しさ 多くのグループで話し合い中に,質問を作ることの難しさを語る発話や様子が見られた。【質問のなさ】A班では「特に質問はないんですけど」「こういう段階があるっていうのはもう分かった」「何か質問を考えないといけないから,そこに着目したら何か質問が生まれるかなって思って」と,質問がないこと(どちらかというと無理やり質問を作ったこと)が語られていた。【質問への気づき】B班とC班では,授業者からみれば質問になりそうな話題がいくつも出ているのに,それが質問になると気づいていないのか,質問しようという話にならないものがいくつもあった(C班の話し合い中,ある受講生の発言に対して授業者が「それも一つの質問になるよね」と言ったところ,メンバー全員から「あーなるほど」と反応が返ってきたことがある)。【質問の言語化】D班とE班では,誰かの発話をそのまま書けば質問になるのに,「なんて言えばいいのかな」「言葉が難しいね」と質問を書くことの難しさが語られていた。【質問決定】F班では,あるメンバーから「それ質問する?」という発言が2回なされたにもかかわらず,その意見が採用されず,質問決定までにそこから10分かかっていた。複数メンバーでの話し合いによって質問を決定することの難しさであろう。